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百五十一

 目を開けると、そこは見慣れた室内だった。天井についたシミ。木の香りが漂う部屋。


「夢……?」


 やけにリアリティのある夢。あの牢の中にいた人物は一体誰なのだろう? 髪は私よりも長かったから女の人なのだろうか? しかし……


 そんな夢で見た事を頭の中で纏めながら、白磁の器に腰を下ろす。モーニン。と顔を出したアレは独特な香りを放って器に盛られる。直後、挨拶もそこそこに、水の流れに乗って何処とも知れぬ場所へと旅立っていった。


「んー、何だろな……」


 日課の瞑想をしつつ頭の中で夢を整理していた。石を加工して出来ている通路。淀んで湿っていて、鉄臭い臭いが充満するその場所は、(くだん)の地下牢に似ていた。この夢には何か意味がある。そう感じられずにはいられなかった。




 祭りが終わって二日目。祭りを開催していた頃と比べると相当な人の数が減り、(さび)れた印象を受ける。人通りがめっきり減った朝の通りを、オジサマのお店目指して歩いてゆく。


 カララランッ。来客を示すドアベルが、小気味よい音を立てた。同時に、淹れたてのコーヒーの香りが鼻を擽る。開店前という事もあって、店内にはお客さんは居ない。


「お早う御座います」

「お早う御座いますお姉様」

「お早う、カナちゃん」

「…………」


 オジサマは相も変わらず無口だが、コトリ。と置いた淹れたてのコーヒーに、優しさを感じる。


「有難う御座いますオジサマ」


 ニッコリと微笑んでお礼をすると、オジサマはクルリ。と後ろを向いて、食器を磨き始めた。照れちゃってカワイイ……


「リリーカさんは明日出発だっけ?」


 豊穣祭の催事に出席をする為に実家に戻ってきた彼女。まだ学生の身分であるリリーカさんは、少し遅れて通っている学校の在る街へ戻ると言っていた。


「はい。来週から授業に出席しなくてはなりません。船の予約も取りましたし、滞り無く出発する事が出来ますわ。ただ……」


 言葉を詰まらせ、リリーカさんはシュンと俯いた。


「お姉様と離れるのが寂しいですわ」


 嬉しい事を言ってくれるじゃないか。


「お姉様をバッグに詰めてお持ち帰りする。って手も考えましたが……」


 とんでもない事を言ってくれるじゃあないか。


「またすぐに会えるわよ。冬休みには戻って来るんでしょ?」

「はい。シュラインにはお姉様と一緒に行きたいですわ」

「シュライン……?」


 聞いた事の無い単語だな。


「シュラインっていうとても神聖な場所が在って、年明けに願い事をすれば叶うって言い伝えがあるの」


 なるほど、初詣みたいなもんか……


「リリーカさんは何を願うの……?」

「それは、秘密ですわ」


 唇に人差し指を当てて片目を瞑るリリーカさんは、抱き締めたくなる程可愛かった。

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