百四十一
「二人ともどうしたの? 暗いわね」
オジサマのお店に戻るなり深いため息を吐いた私達に、ミニスカでフリルの付いたメイド服を着たおばさまが心配そうに声を掛けた。
「まさか、負けたの?!」
「いえ、お母様。お姉様のお陰で勝つ事が出来ました。ですが――」
リリーカさんが事の顛末を話して聞かせる。
「あらあらまあまあ。あのため息はソレだったのね。それにしても、カナちゃんスゴいわねぇ。そんな宝石なんて何処から手に入れてきたの?」
当然、ソコに行き着くよね。さて、どうしようか……
「も、森の中で……」
「森?! 森って死の森の事!?」
「お、お姉様、森に踏み入ったのですか!?」
あ、しまった。選択肢を間違えちゃったかな……
「は、入ったっていってもほんのちょっとだよ? 森の近くを散歩してたら光が見えたから、アレを拾ってパッとすぐに出たの」
どうだ。これで信じて貰えないかな……
「ではアレは、魔素の結晶体なのでしょうか?」
「お母さん実物を見てないから分からないけど、魔獣の核って事も考えられるわね」
ほ……良かった。どうやら信じて貰えた様だ。
「あの、核って何ですか?」
「私達で云う所の心臓みたいなモノよ」
ああ、なるほど。
「魔物の体内には必ず、核と呼ばれる部位が存在するの。外殻である肉体が活動出来ないくらい損傷すると、身体は霧散して無くなり、後には核だけが残るのよ」
ふむふむ。
「でもコレが厄介でね。核をそのまま放置しておくと、魔素を吸い上げて復活しちゃうのよ」
え……
「そ、それじゃあ、キリがないじゃ無いですか」
やっつけてもやっつけても復活しちゃうなんて、反則もいいとこ――
ソコで考えを打ち切った。倒されても倒されても復活する存在に心当たりがあったからだ。
「そう、キリがない。でもね、復活出来なくする方法があるのよ」
復活出来なくする方法!? そんなモノが……?
「それって、どんな方法なんですか?」
「さあ? ソコはおばさんも分からないわ。核の買い取りは冒険者ギルドのみで行われているから、聞いてみたら? 教えてくれるかは分からないけど」
「あ……」
冒険者ギルドと聞いて思い出した。『リンクス』の飼い主を探す依頼を出していたんだっけ。
「どうかしたのカナちゃん?」
「あー、冒険者ギルドに用があったのを思い出しただけですよ」
「冒険者ギルドにですか? お姉様」
「うん。私の部屋に獣が居たでしょう? そのコの飼い主を探す依頼を出しているのよ」
「あらまあ、今から行くなら早い方が良いわよ」
「そうですわね。私もお付き合い致しますわ。急ぎましょう」
リリーカさんに背中を押される様に、冒険者ギルドへと向かった――