百三十九
リリーカさんの貞操を賭けた、ユーリウスとフォワールの『両家お宝対決』は、フォワールのオッサンが日本刀を持ち出してきた事で、意見が真っ二つに割れてしまった。
ユーリウスの勝ちとする、見た目美幼女マリエッタ、韓流俳優似のフレッドさんと仙人姿のマクシムお爺ちゃん。対してフォワールを勝ちとするのは、マダムマリア、太っちょミネルヴァ。そして、アルカイックルレイルさん達との、互いに譲らない不毛な議論は永遠に続くかと思われた。
ガチャリ、ギギィィ……。大広間の扉が雰囲気のある音を立てて開かれ、室内に居た全ての人が開けた人物に視線を注ぐ。その人物とは、二メートル近い背丈だがバランスの取れた肢体をしていて、筋肉質な肌はイイ感じに小麦色に焼けていた。歳は二十代後半から三十代前半といった所か。水色のドレスを着ているが、鎧姿の方が似合うと思うな……
「冠四位のメアリー=カルキノス=バラン様ですわ」
リリーカさんはコッソリと耳打ちしてくれた。
「すまんすまん、遅れちまった……って何だ? この集まりは……?」
「メアリー、丁度良い所に来たわね。この二つを見比べてみてくれる?」
「ん? これを見比べれば良いのか?」
メアリーさんは二つのお宝の間に立ち、刀にお尻を向けたり鉱物にお尻を向けたりして品定めをする。
「ふーん……」
「どう? どっちの価値が高いと思う?」
「そりゃコッチだろ?」
王女の問にそれ程間を置かずにメアリーは答えた。メアリーさんがそのお宝にポンと手を置いた瞬間、平行線と思われていた勝敗が決した。勝った方は笑みを浮かべて見つめ合い、負けた方はガクリ。とその場に膝をつく。
「世界中を旅して回ったが、こんな血の様に赤い鉱物なんざ、少なくともオレは見た事が無い。マーケットで流れていたら嫌でも目立つしな。対してこのヤパンブレードだが、こんなモン北方海沿岸の街に幾らでも売ってるゼ? まあ、値段はバカ高いけどな。故に、希少である事も含め価値が高いのはコッチの鉱物だ」
メアリーさんがそう断言した直後、リリーカさんが私の胸の中に飛び込んで来た。突然の事に驚いて床に倒れそうになったが、それはなんとか免れた。
「有難う。有難う御座いますお姉様……」
感極まって泣いているのだろう。耳元で囁くリリーカさんの声が震えていた。
「納得出来ませんっ!」
負けが確定したフォワールが声を張り上げた。
「何だオマエ。オレの結論にケチ付けるつもりか?」
メアリーさんの鋭い眼光に、フォワールは一歩身を引いた。
「こっ、このブレードは、S級鍛治職人が手掛けた最高傑作。この世に唯一の品なのですぞ?! あの様な何処にでも埋まっている代物とは違うのですっ!」
ビシリっと鉱石に向かって指差すフォワールにメアリーさんはふむ。と考え込んだ。
「まあ、確かにそうだな……」
喜びもつかの間、フォワールの物言いによって勝敗の行方に暗雲が漂い始めた――