百三十
「ここに無いとなれば、依頼を出すしかないかな……」
鑑定額三億もの超希少な獣が行方不明だというのに、その飼い主が探していない筈は無いんだけど……
「良ければその依頼、俺が格安でやってやるぜ。そうだな、一晩付き合ってくれれ……って無視!?」
脇で何やら喚いていた冒険者をスルーして、私は真っ直ぐに受付へと向かう。
「いらっしゃいませ。どの様なご用件でしょうか?」
「依頼を出したいのですが……」
「どの様な依頼でございましょう?」
「そうね。まずは、この人の討伐依頼を……」
「なっ!」
ひょこひょこと後を付いてきた冒険者を指差してやると、ビクッ。として一歩後退る。
「しつこく言い寄られて迷惑してるので、討伐をお願いしたいのです」
「畏まりました。それでは――」
「分かった! 俺が悪かったよ。ったく、可愛い顔しておっかない女だ……」
冒険者はブツクサ言いながら、床を踏み抜く勢いで立ち去ってゆく。これで一安心。
「さて、さっきのは取り消します。改めて、捜索の依頼をしたいのです」
「はい。どの様な物の捜索をされますか?」
カゴをカウンターの上において、受付嬢にその中身を見せる。ソレを公衆の面前で晒す様な愚はもう冒さない。二度も痛い目見てる訳だし。
「あら、可愛いですね」
「このコの飼い主を探して欲しいのです」
「飼い主を、ですか?」
「はい、そうです。サーカス等も回ってみましたが、何方も心当たりが無いそうなので。もしかしたら飼い主が依頼を出しているのかと思って来たのですが、そういったのは見受けられなかったので依頼を出そうと」
「なるほど、分かりました。それではこちらの書類に必要事項をお書き下さい」
言って受付嬢は、引き出しから一枚の紙を取り出してカウンターに置いた。それには、依頼者の氏名や捜し物の名前と特徴、そして達成した時の報奨金を記入する欄があった。私は名前を書いた所で羽ペンの動きを止める。
「特徴……」
ふと視線を『リンクス』へと向ける。それに気付いた『リンクス』が、にぃ。と鳴いた。どう考えても『ネコの様な獣』以外の言葉が見つからないんだけど……
「似顔絵でも問題ありませんよ」
「絵……」
受付嬢はそう言うけれど、私に絵を描かせたならば類稀なる才能を発揮する事になる。動物を描けばミミズに手足がくっ付いた様になり、人物画を描けば小さな子供が夜トイレに行けなくなる様な絵となる。つまり私は絵が下手クソなのだ。キャラ弁なんか夢のまた夢なのだ。
「よ、宜しければ私が書きましょうか?」
「本当ですか!? お願いします!」
身を乗り出しての食い気味の返答に、顔を引き攣らせながら紙と鉛筆を取り出して、サラリサラリ。と描いてゆく。出来上がったその絵は写真に写した様な出来栄えだった――