表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/235

百二十七

「全く、油断も隙もないわね……」


 渋るルリさんから『リンクス』を奪い返し、暮れゆく陽の光を浴びながら、足は一路サーカス一座の公演地へと向いていた。


 十五日間続いた豊穣祭も残り二日。それだけの間、よくもまあ騒ぎ通したものだ。コッチの世界の人達のタフさに驚きを隠せない。私なら三日目でダウンしているだろうな……




 サーカス一座がある広場は閑散としていた。歓声が時折聞こえてくる事から、本日最後の公演があの天幕の中で行われているらしい。


「いらっしゃいませ。本日の公演は、現在行われているもので最後となります。明日最終日は、朝九時より行いますので、またのお越しをお待ち申し上げております」


 良く通る温もりのある声で、チケット売り場の受付嬢が言う。


「あ、いえ。チケットを買いに来たんじゃなくて、ちょっとお聞きしたい事があるのですが……」

「あ、はい。どの様なご用件でしょう?」

「こちらの団員さんで――」


 カゴの中でウトウトしている『リンクス』を、ごめんね。と呟いてカウンターの上に乗せる。


「このコを飼っている方っていらっしゃいませんか?」

「こちらの獣さんですか……? 少々お待ち下さい」


 そう言い残し、受付嬢は奥へと引っ込んで行った――




 公演を見ていた観客達が、天幕から吐き出され始めた頃、ようやく戻って来た受付嬢に、団員達が寝泊まりしている馬車の一つへと案内された。


「団長が参りますのでもう少々お待ち下さい」


 ペコリ。とお辞儀をして、受付嬢はドアを閉める。サーカス団の、それも団長の部屋に入るのはもちろん初めてだ。


 ほんの少し視線を動かすだけでも、様々なモノが視界に入る。色々な表情をした『ピエロの仮面』。マジックショーでよく見る、『箱に剣を刺すヤツ』のミニチュア。『ステッキの柄から先に花が咲いているモノ』。そして、何故か半裸の団長像。


「なんか、サーカスというよりマジックショーの楽屋だよね……これなんかモロそうだし……」


 樽の上に置かれた『箱に剣を刺すヤツ』をヒョイ。と持ち上げる。


「勝手な事をされても困りますな」

「え? うわっ!」


 間近で聞こえた声。落とした視線と見上げる視線とがかち合い、驚いて思わず後退った。


 床に置いてあった樽がゆっくりと持ち上がり、そしてその両脇からは腕が生えてゆく。ジャキン、ジャキン。とした音が聞こえてきそうな勢いで手足が生えると、最後に頭が樽から飛び出して、正に樽団長の完成である。超合金のオモチャみたいだ……


「何て所から現れるんですかっ!?」

「サーカス団の団長たる者、普通に登場しては沽券に関わりますからな」


 心臓に悪いからソコは普通に登場しようよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ