百二十六
「何でそんな事するんですか?」
「だって、正面から言っても断られるだけだもん。だから、情に訴え掛けてみたんだけど、見事に振られちゃった」
「……」
確かに少しは意思がグラついた。そして、簡単にグラつく様な意思に少なからずムカついていた。
「ゴメンね。謝るわ。だけど、これだけは覚えておいて。全部を嘘で覆うと必ずどこかに綻びが生じる。だから、何割かは本当の事を混ぜるのよ。そうすると、より真実味が出てくるわ」
確かに彼女の言う通りだ。だろうけど、やっぱり人を騙すのはちょっと……
「どうしてそんなに私を連れ出したいんですか? トイレに付き合って欲しいからですか」
「それもある」
断言すんな。
「だけど、んー。なんて言ったら良いのか。……ほっとけない?」
リリーカさんといい、彼女といい。私、そんなにほっとけないオーラ出してんの?!
「カナさんって変な雰囲気を纏っているのよ。マナでも無いし戦気でも無い。何か特殊な雰囲気。それがダダ漏れしてるの」
出てたよオーラ。しかもダダ漏れって……
「それって、見えるんですか?!」
「んーん。そういうのって人には見えないわ感じるだけ。でもそうね、感覚の鋭い種族ならひょっとして見えているかもしれないわね」
「それってどんな種族です?」
「例えばエルフとか」
エルフ……。もしかして、森の中で私を見つけられたのは、ソレが見えていたからなの……?
「あとはそうね。獣人族の中にも居るかもしれないわね」
「獣人族……?」
「そう。人と獣の感性を併せ持った種族。大抵は友好的な種族だけれど、中にはそうでもないのも居るわ。注意してね」
「分かりました注意します」
私の答えに満足した様にルリさんは微笑んで立ち上がり、右手を差し出した。
「しばらくの間会えなくなるけど、元気でね」
そうだった。豊穣祭が終われば、彼女は旅に出るんだ。私も同じく立ち上がり、差し出された手を掴んで握手を交わす。
「ルリさんもご壮健で」
「この街に立ち寄ったらまた誘いに行くわね」
ルリさんのウィンクと共に掌が離れた。
「これからサーカスに行くんでしょ? 急がないと日が暮れるわ」
「え、あ」
窓の外を見れば、空はオレンジ色に染まり掛けている。『契約の石』の事を聞くだけが、結構長話をしてしまった。床に置いていたカゴを持ち、イソイソと帰り支度を済ませる。
「そろそろ公演も終わる頃でしょうし、丁度良かったわね」
「はい。それじゃ、お元気で」
「うん。また会おうね」
ルリさんは抱いている『リンクス』の手を持って、フリフリ。と振りながら別れの挨拶を交わした…………って、おおいっ! 何シレッと連れ去ろうとしてるのよっ!