百二十三
「わ、私が『妖艶の癒し手』に会っているって!? 何時?! 何処で!?」
「カレールー……じゃなかった。カーリィさんとルーさんと一緒に、私と初めて会ったお店でですよ」
ルリさんは視線を逸して考え事を始めた。
「いいえ、そんな人なんか何処にも居なかったわ」
断言したなオイ。
「あの時お店に居たのは、カナさんと私達。渋いオジサマとウェイトレスだけよ」
「ソレです」
「ソレってま、まさか……あのオジサンがっ!?」
「何でですかっ!」
どうしてあの素敵なオジサマにそんな二つ名が付かなきゃならないのよ……
「そうなると、あのウェイトレスか………………年は取りたく無いものね」
長考して出した答えがソレかい。
「だけど、おばさまもそれが何時紛れ込んだのかも分かっていないみたいです。十七年間倉庫に保管されていたみたいですし」
「十七年ねぇ……」
ルリさんは『契約の石』を再び指で挟んで持ち上げ、中に揺蕩っている黒い靄を眺める。
「もし、コレが『妖艶の癒し手』の持ち物だとすると、中に入っているのは中級の精霊かもしれないわね」
「中級……ですか」
「ええ、彼女が所属していたパーティーの偉業は知ってる?」
彼女の偉業……? そういえば、聞いた事あったな……
「えっと確か……『ホルロージュ』二十階層の番人を倒したとかなんとか……」
「そう。その番人ってね、二十階層にしてはかなり強かったらしくて、中級精霊の力を借りても十数名の犠牲者が出たって話よ」
街を半壊させる程の力を持つ精霊に協力して貰ってソレ?! どんだけ強いのよ……
「じゃあ、その番人を倒す為に契約した精霊の残り……?」
「その可能性はあるわね。ともかく、解放してみない事には中に何が入っているかは分からないわ」
「それは、『魔術師ギルド』ででもですか?」
「勿論。『魔術師ギルド』でも分からないでしょうね。何しろ系統が違う訳だし……」
系統……?
「それって流派みたいなモノですか……? 剣術のナントカ流みたいな?」
「まあ、近いモノね。『魔法』って言っても、『精霊魔法』に『白魔術』に『黒魔術』と、おおよそに分けると三系統あるの。それ等を一緒くたにして『魔法』って呼ばれているんだけど、中でも『精霊魔法』は契約した精霊を呼び出して行使する術だから、『魔術師ギルド』は専門外なのよ」
「そうですかぁ……」
『契約の石』は切り札にはならなさそうだ。と内心でガックリと項垂れていた――