百十八
「カナ=アユザワ様ですね。少々お待ち下さい」
通商ギルド『アルカイック』のニューフェイスの受付嬢が、ニッコリ。と微笑んで奥へと引っ込んで行った。
豊穣祭も残り二日だというのにもかかわらず、今日もギルドのエントランスは大勢の人で賑わっている。頭にターバンを巻いた商人達や肌が真っ黒に焼けた船乗りが列に並び、あるいは片隅に設けられた軽食屋さんでエール酒を飲み交わしている。相変わらずだなぁ……
「お待たせしましたアユザワ様。どうぞこちらへ」
受付嬢の案内で奥の応接室へと通される。その応接室の前では、アルカイックスマイルを満開にしたルレイルさんが、既に立っていた。
「こんにちは、アユザワさん。今日はどの様なご用件でしょうか?」
「コレの換金をお願いしたくて」
「そうですか。では、中へどうぞ。ターニャさん、お茶は結構ですので仕事に戻って下さい」
ターニャと呼ばれた受付嬢は、分かりました。と応えて来た道を戻って行った。
「お人払い有難う御座います」
「いえいえ。過去の経緯を考えれば当然でしょう」
ルレイルさんは応接室のドアを開け、手の平で中を指し示して誘う。ソファーに腰掛けた私は、カゴの中から鉱物を取り出そうとしてその手を止めた。
「どうされました?」
棚から持ち出した鑑定機をテーブルにゴトリ。と、置きながらルレイルさんは言った。
「この獣が寝入ってて……」
鉱物を隠す為に入れておいた布の上で、ネコの様な獣はスヤスヤ。と寝息を立てて寝ていた。
「このこ? ホウ。これは実に珍しい生き物ですね」
「知っているのですか?!」
「ええ、『リンクス』と呼ばれるヤマネコの一種でして、西方大陸の険しい山等に棲んでいるそうです」
ネコの様な獣。という表現はあながち間違いでは無かったか。それにしても、ヤマネコねぇ……こっちの世界にも居るんだね。
「……もしかして、今回の鑑定はコレですか?」
「え……? あ、いえ違いますよ。この獣はこの後サーカス一座に行って――」
「売るんですね?」
「売りませんっ!」
どうしてこう、欲しがったり買いたがったりするんだ……
「でしたら何故、お連れになっているのですか?」
「この獣の飼い主を探しているんです」
この獣が来た経緯を話して聞かせると、ルレイルさんはなるほど。と頷いた。
「それでサーカス一座。ですか」
「ええ。世界中を旅している彼等なら、誰かペットにしていても不思議じゃ無いと思って」
「それは無理だと思いますよ」
「……え? 無理?」
「はい。『ワルドキャット』という獣をご存知ですか?」
「え? ええ、確か富豪のオバさんが連れていた……」
「今は小さくても、大人になればアレより大きくなります。なので、ペットとしては不向きですね」
「な……」
なんだってぇぇっ!?