百十四
「どうしたの? リリーカ」
王女が彼女に声を掛けるも、リリーカさんは身動ぎもせずに佇んでいた。
「まさか、何かの呪いが……?」
「呪い!?」
「ええ、魔導具には何かしらのトラップが仕掛けられている物もあるわ。とにかく、状態を確認しないと」
これは大事だと、慌てて駆け出した私達に、リリーカさんは満面の笑みで振り向く。
「お姉様っ。これ、私が小さい時に描いたモノですっ。懐かしいですわ……」
思いっきり脱線してただけじゃん。
「結局何も無かったね……」
残りの二箱を漁り終え、王女が散らかした荷物を片付ける。価値がありそうなモノといえば、王女が投げ捨てていた『契約の石』と折れた杖の先端に付いていた宝冠。それと、何かしらの魔力が込められた短剣だけだった。
魔力が込められた武具。というのも価値が高いらしいが、それだけではあの散財のフォワールに勝てる見込みは薄いだろうと言う話。
「取り敢えず、宝冠と短剣を鑑定に掛けましょう。『契約の石』はオジサンに聞かないと分からないでしょうね」
王女の言葉に私とリリーカさんは揃って頷き、半ば肩を落として倉庫を後にした。
「お帰りなさいませ。如何でした?」
階段を上がると安定のアルカイックスマイルが私達を迎えてくれた。しかし、実りが悪かった私達には、何笑っとんじゃい。という感情しか出て来ない。
「如何も何も、それでも冠七位なの? ってくらいロクなモノが無かったわよ」
「それはお疲れ様で御座いました」
「それで、この短剣と宝冠を鑑定して頂戴。後は『契約の石』なんだけど……確か無理だったよね?」
「ええ、『契約の石』は鑑定機では測定不可能で御座います」
「んじゃあ、やっぱりオジサンに聞くしか無いみたいね。あーあ疲れちゃった。ルレイル、お茶貰える?」
「はい。既にご用意しておりますので、迎賓室へご案内致します」
「さっすがルレイル、気が利くぅ」
先行くルレイルさんの後を、スキップしながら付いていく王女様。私とリリーカさんはため息交じりでその後を追った。
「「「五百万!?」」」
女子三人の声が見事までにハモる。
「ええ、そうです。二つ合わせても五百ですね」
「ちょっとルレイル。もっと盛りなさいよ」
盛っちゃダメだろう。
「そうは言われましても、鑑定機に細工する事は出来ませんので」
「あーあ。これじゃ絶望的ね。良い案だと思ったのになぁ……。やっぱり戦うしかないのかな?」
王女の目配せに、私の身体がビクリ。と反射的に動く。いや、だから。戦闘なんか出来ないですって。
「でもなぁ。もう果たし状送っちゃったし……」
「「……へ?」」
王女の言葉に、私とリリーカさんの目が点になった。