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#074a 邪魔

 ――……ズ、ズズズ……。


 濃い目の熱いコーヒーを啜りながら、しばし窓から差し込む陽ざしを浴びて目を細める俺。

 目覚めてからもう30分は経過するのに、一向に眠気が取れない。

 ぼんやりとPCの画面を眺めながら、カチ、カチ……とマウスを断続的にクリックして操作している。


「ふあぁ~……うぅ……腰……痛っ……」


 結局ベッドで眠れなかった俺は意識が飛ぶまでここで作業していた。

 そして目覚めてからもずっと椅子の上。

 アームレストに肘を立てて頬杖をつき、コツコツとネット上に転がっているEOE関連の攻略方法やらスラングやら、マニュアルに記載されていないような情報を調べる作業を再開していた。


「ふぅーん……」


 それなりの細かな収穫はあったものの、正直、期待していたほどの大きな発見は現在のところ得られてない。

 そのひとつの原因は、SS(スクリーンショット)が撮れないことにありそう。

 つまり証拠がないからどんな情報も妄想や噂と見分けが困難なのだ。

 なので積極的な情報交換がどうしても行われない。

 特にトップランカーの有名人には嫉妬や羨望により尾ひれがつきまくり、かなり現実と乖離している傾向が強い印象だ。

 例えば深山(ミャア)はメンヘラ殺人鬼でレベル偽装のチートにより運営から目をつけられておりBAN(強制追放)秒読み状態。俺はそのチート技術の開発者でスレイヴになっている深山の弱みを握り、経験値を一方的に吸い取っているだけの自己顕示欲が強い中身は中年のエロオヤジ――らしい。

 もはや何を信じて良いのやら。


「……まあ、やれることはやっておかないと……」


 ゴシップもいいところだが、しかしネットでの情報収集もまたログアウトしている今でしかできないことのひとつ。引き続き頑張ろう。


「特にKANAさんは酷いなぁ」


 まああの人らしく、基本的にはそこまでネガティブな尾ひれはない。

 強いて言えば『あのおっぱい鷲掴みしてぇ』とかのセクハラや『言われるほど大して美人じゃないよね』みたいな中傷の類ばかり。


「ふぁ……あの人が美人でなきゃ……TVに映ってる女性の八割以上は美人じゃないと断言できそうだがなぁ」


 人望が厚く、実力もある。もはやそういう部分でしか攻撃することができないのだろう。まったく馬鹿馬鹿しい。


「EOEの初代大統領……ねぇ」


 あと、やたら政治を持ち出す輩も多かった。

 半分はKANAさんを祭り上げようとしている勢力で、残り半分はEOEに統治や支配者はいらないというアナーキーな勢力。

 ……いや、そうやって徒党を組んで世論を造ろうとしている段階で、言ってることとやってることがバラバラな気がするぞ。それこそ小さな(まつりごと)だろ。


「実力が……知りたい、ぞ、と」


 もう何連続だったかは忘れたが相当な期間、ランク一位に君臨し続けているKANAさんは当然ながら最大の敵と考えて良いだろう。

 だから当然こうして重点的に調べている。

 もちろん彼女よりレベルが高いプレイヤーもそれなりに居るだろう。

 例えば単純な戦闘力で言うなら剛拳王のほうが上かもしれない。


「いや。たぶんそういうことじゃない……」


 本当に武力で勝るなら、PK上等なEOEというゲームであれば何とでも一位を阻止する方法はあるはずだ。例えば一ヵ月間ずっと付きまとって活動を妨害するだけで簡単に蹴落とせるだろう。しかし現実的にそれができていない。

 だからたぶんKANAさんは人心掌握術だけじゃなくて、実際の戦闘においてもレベル差を埋められるほどの卓越した技術や完成度の高い戦術……あるいは俺のような特殊な手段などがあると考えるべき。

 特に所有しているユニークアイテムは大きなキーポイントだ。

 博物館に飾られるような『レジェンダリィ』クラスのアイテムをいくつも所有しているぐらいのことは覚悟しておかなきゃいけないだろう。

 何せ幻のアイテムと言われている『アナザー』すら所有しているのだから。

 ぜひ、そこらへんの情報が欲しい。

 せめてその片鱗でも掴めたら……と思っているのだが。


「うーん」


 ……いまいち情報が仕入れられない。

 どうやら雷撃の名手らしい。それはもう愚痴として山ほど見かけた。

 通り過ぎただけで丸焦げになったとか、そんな感じ。

 あと具体的な数字は不明だがとにかくID番号があり得ないほど若く、現存する最古の初期プレイヤーらしい。

 いや。ネームプレートが表示されている以上、みーより古参ってことはたぶんないと思うけどな。つまりここは眉唾ということだ。

 他には……。

 普段は基本、自由気ままにソロでプレイしており、神出鬼没。

 最近は西サーバーから東サーバーに拠点を移したらしい。

 彼女を神として崇めている宗教じみたフォロワーたちが居るらしい。

 あとは移動が脅威的に速く、攻撃を当てることが困難……とかか。

 どれもすでに知っていたり、やたら抽象的だったりとイマイチなものばかり。

 ……個人的には、KANAさんがあの神奈枝姉さんであるその客観的な確証も何か欲しいところだった。


鳴神(なるかみ)、か」


 KANAさんに与えられた沢山ある通り名のひとつを口にする。

 『鳴門(なると)神奈枝(かなえ)』という現実の名前をそこから連想することは容易に出来るが……あくまで推測の域を出ない。


「ダメだ……ノイズが多過ぎる」


 すでに数十億円稼いでるだの、運営へと枕営業しているだの、EOEの世界を救っただの、むしろEOEを裏から操作しているだの、異世界から転生してきたチートヒロインだの、エイリアンだの、もう酷い。

 強いて言えば身体能力に長けていることから、元オリンピック選手説とかそういう類の話がやたら目立ったぐらいだろうか。

 さっきのエイリアン説なんかもつまりは過剰な評価によるものだろう。

 どちらにしても主観というノイズがあまりに入り過ぎて、とてもじゃないがアテにならない。

 これなら思い切って本人へと率直に質問したほうがまだ具体的で有効な情報が仕入れられそうな気がした。

 先日向こうもコンタクトを取ってきたのだから、こっちから連絡しても文句は言われないだろう。


「そういや空……飛んでたなぁ」


 連想する形で、KANAさんが深山とふたりきりで会っていたあの時のことを思い出していた。

 正確には跳躍なのかもしれないが、あれだけの高度に到達できるならそれはもはや『飛行』と表現しても決して過言ではないだろう。

 KANAさんは得意とする雷撃から察するに、たぶん光属性の人。

 それに対してあの跳躍はおそらく風属性。

 ここからは単なる推測だが、たぶん一定のレベル以上で他の属性も同時に獲得することが可能なのだろう。

 便宜上、仮に『副属性』とでも名付けておこうか。


「飛ぶ……か。岡崎にもあんなことが可能なんだろうか?」


 もし空なんか飛べたら戦術的に非常に有利だ。

 一体どういう原理が働いているのだろう?

 身体の下に持ち上げる風を吹かせる……とか?


「……まずは空を飛べる呪文があるかを調べるべきかな」


 KANAさんについてのめぼしい情報がこれ以上は見当たりそうになく、必然的にそんな枝葉へと検索の方向が変わる。

 こうして俺の午前中は寝不足による倦怠感(けんたいかん)の中、ネット上での検索だけであっさりと消費された。



   ◇



「ん~……」


 昼。キッチンで母さんが用意してくれたチンジャオロースを口に運びながら、溜まりに溜まっていたメッセージにざっと目を通していた。

 そのほとんどがクラスの高井たちが集う『§2A放課後会§』からのもの。互いの夏休みにあったことなんかを各人思い思いに述べている。

 ……ぶっちゃけ、それ自体に大した意味もないのだろう。

 このコミュニティーを存続させるため、風化しないよう無理なほど積極的に情報を発信しているだけに見えた。

 つまりこの文字の羅列の向こうには各人の違う思惑が見て取れる。

 アイツと友達になりたいとか、あの子と親密になりたいとか、尊敬されたいとか、あるいはこのグループから弾かれたくないとか……まあそういう感じだろう。


「……わからん」


 それらの行為自体というより、このコミュニティーにそこまでの価値があるとは正直とても思えなくてのその感想だった。

 ……EOEを始めたばかりの当時を色々思い出す。

 深山の誓約のことで鈴木に詰め寄った時、久保に後頭部から殴られてログアウトさせられて。

 教室で岡崎を問い詰めたらアイツが泣き出して……それで心配して集まってきたメンバーによってこの『§2A放課後会§』なんていう謎のグループが発足となった。

 俺みたいにクラスのみんなと繋がりが希薄な人間ならその価値も理解できるが……つまりコイツらって全員、元々仲が良いわけだろ?

 こんなごった煮みたいな大勢のコミュニティーの中で無理に話さなくても、気の合う仲間や気になる相手だけで輪を作り直して話せばいいのに。


「カラオケ、ねぇ」


 ようやく今朝のメッセージまで追いついた。

 どうやら今日、カラオケに行こうと男子側から女子側へとアプローチを掛けているみたいだ。

 しかし女子は女子でこの日に買い物の約束をしていたみたいで『それが終わってもし時間が余ったらいいけど~』ぐらいの扱い。軽くあしらわれているみたいだ。

 それでもめげずに『じゃあ夕方にしようか』なんて折衝する涙ぐましい男子側。まあ頑張れ。


「……」


 ……カラオケか。

 個人的にはあまり好きじゃないけど、でも深山とやったあの仮想カラオケはすごく面白かった。本当に良い思い出。

 ずーっと歌ってたなぁ……深山、本当に歌うのが大好きみたいだ。

 まあ、あれだけ上手かったらそりゃ楽しいだろう。


「うーむ……しかし、どうしたもんか」


 実はわざわざこんな退屈な数百にも及ぶメッセージ群を読んでいるのもそれなりに意味がある。

 目的はただひとつ。

 アイツ……鈴木麻美の連絡先の取得だ。

 深山に『質問には正直に答えなければならない』というような誓約を入れた、その犯人。

 未から告白を強要された経験のある今だからこそ強く思うのだが……なんとしてもあの惨い呪縛から、深山を救い出してあげたい。

 そのためには根気強くコンタクトを取らなければ何も始まらない。

 この前直接会った時に本人から連絡先を聞き出せたなら良かったんだけど、とてもそんなことを言い出せる雰囲気じゃなかった。

 ……というか『これでお別れだな』と向こうから絶縁を切り出すぐらいなのだから、聞いてもたぶん教えてくれなかっただろう。


「まあ、向こうは連絡先を教えることに何のメリットもないしな……」


 だからといって仲介役だった岡崎から聞き出すのも、やはり無理。

 これは以前、岡崎本人からはっきりと断られてしまっている。

 もうちょっと言えば、岡崎にとって鈴木という人間が特別なんだと知った今となっては、もう板挟みになるようなことを無理にさせたくないというのが本音だった。

 やはり以後は俺から直接、鈴木に連絡がしたい。


「鈴木の友人が誰かわかれば……やりようもあるんだけどなぁ」


 クラスの人間関係に(うと)い俺がわかるはずもない。

 取っ掛かりが欲しい。

 だからこれが、さほど価値を感じないこのコミュニティーから俺が脱退しない真の理由。

 各人それぞれが抱いているという思惑の、そのひとつってわけだ。


「んで、具体的にどうする」


 ずっとこの輪の中で黙っていた俺が、いきなり『鈴木の連絡先、誰か知ってる?』なんて露骨な質問するのはなかなか難しい。

 だから、もしかしたら一学期が終わるまで長期で登校してこなかった鈴木のことを心配して『皆で遊びに誘わないか?』みたいな流れでもないかな?とそんな淡い期待を抱いていたわけだ。

 元々は当時、教室で泣いていた岡崎を心配して集まってきたグループなわけだし、間接的に鈴木と接点のあるメンバーも多いはずなのだが……。

 結論から言うと、一切そんな空気はなかった。

 それは夏休みという一種のお祭り状態の中でそんな重苦しい優等生みたいなこと言い出す行為自体がナンセンスと思っているのか、それとも鈴木という存在自体が軽視されてて、もはや誰の頭の片隅にも存在していないのか。

 ……まあ、どっちにしてもそんな甘い展開は一切どこにもなかった。


「個人的に誰かとやり取りして聞き出すほうが良いんだろうか?」


 それはそれで色々とハードルがある。

 まず当たり前だが、誰ともそんな個人的な相談ができる親密な関係を築けてない。

 というか皆からメッセージが飛んできても散々無視するように流していた俺なんだし、今さら虫が良すぎだろう。

 もうひとつ。

 俺がまるで鈴木に気があるかのように誤解されてしまう点だ。

 ……それはそれで非常にメンドクサイ。可能であれば回避したい。

 まあもし他に手段がないというなら、もはや鈴木のことが気になっている……気があると勘違いされてしまうのも致し方ない。そう勘違いされても断腸の思いで受け入れようと思う。

 ……しかし、だ。

 『俺の好きな人』が凛子であることをここの会の全員から認識されている中でのその認識となると、さすがに批判の的となりそうなわけだ。

 凛子が教室に飛び込んで来て俺を連れ出したのは……確か、まだほんの10日ほど前の出来事なのである。

 いやほんとに濃密な10日間だなぁ――って、もうそれはいいか。

 とりあえずまわりから見れば、『舌の根の乾かぬうちに違う女の連絡先とか、何を言ってるんだコイツは?』ってことになる。

 うーん……いかんともしがたい。


「やっぱりダメ元で深山に聞いておけば良かったのかなぁ……?」


 深山なら鈴木の連絡先を把握しているはずだ。

 だってEOEに誘う上で待ち合わせしていたはずで、連絡先の交換ぐらいはたぶんやっているのだろうから。


「……いや、ないない」


 俺なんか自分の親の携帯番号すらおぼえてないぐらいだ。

 まして、そこまで親しいわけでもない友人の電話番号やIDなんて覚えているはずもない。

 携帯(スマホ)を手にすることができない今の深山にその質問をしても単に困らせるだけだろう。

 ――というか、鈴木のことを話題にすれば無駄に深山の心を憂鬱な気分にさせてしまうだけになりそうだった。

 俺は正直、あまりここらへんを話題にしたくない。

 あれだけ真っすぐで芯の強い深山が、あんなに取り乱したのは後にも先にもあの一件だけ。

 俺を間違って殺してしまった時でさえ、粛々と頭を下げて謝罪していたそんな深山が泣き叫びながら背中を見せて逃げ出すなんて……普段の彼女の様子を知っている者としてはとても信じられないぐらいだった。

 心の傷はきっと深い。だから、そっとしてあげたい。


「ん?」


 ――ピコン。


 悶々と考え込んでいると、まさに今、メッセージが届いてきた。

 見れば……男子の高井からだ。

 深山のことが好きなサッカー部の副部長。クラスの人気者。

 正直それぐらいの情報しか知らない。


『高井>なあみんな、ちょっといいかい?』


 もちろん俺個人宛ではなく、『§2A放課後会§』全員に向けてのグループチャット内でのメッセージ。


『高井>ひとり、この2A放課後会に入りたいって子がいるんだけど』

『しぇり>えー、なになに?』

『田中>ウチのクラス?』


 2A放課後会という名称なのに2A以外の生徒の可能性を真っ先に考慮するこの田中という人間は地味にすごいな。俺にはない引き出しだ。

 ……ちなみにこの田中という人間が誰なのか、さっぱりわからない。


『高井>うん。久保さんだよ。いいかな?』


「……っ……!!」


 そうだ。高井に関しての情報は、もうひとつあった。

 思い出したくもないが……深山が今こうして苦しんでいるその元凶。

 まさに邪悪なる魔物の化身。もはや人間とは認識していない『久保』と呼ばれるあの最悪な生物に好かれているという事実があった。

 ……アイツのことを考えるだけで反吐が出そうだ。


『田中>いいんじゃない? 同じ2Aだし』

『しぇり>おーけー』

『高井>ありがとう。じゃあ呼ぶね』


 久保が、深山の誓約を解除する可能性についてはもう諦めている。

 あの心の腐った狂人が素直に応じるわけがない。

 俺が困っている様子を見せれば、むしろ喜ばせるだけだろう。

 そもそもアイツはもう自分のキャラクターを削除している。だから深山に課せたあの『ログアウトできない』という最悪な誓約の文を消すことは、もう物理的に不可能なのだ。

 ――ああ、気分が悪い。嫌だ。殺意すら込み上がってくる。

 アイツのメッセージなんて見たらせっかく食べているこのチンジャオロースをリバースしてしまいそうだ。

 俺はメッセージアプリを閉じようと画面に手を掛ける。しかし。


『久保敦子>みなさんこんにちは~! よろしくお願いします♪』


「…………何それ」


 らしくない元気ハツラツなメッセージが目に入って、手が止まった。

 『ドン引き』って言葉はまさにこのためにある気がした。

 今、俺の隣に凛子や深山が居なくて本当に良かったと思う。

 俺に抱いてくれていた恋心なんて、きっと一瞬で吹き飛んでしまう。

 ……正直、それぐらいの酷い顔をしている自覚があった。


『しぇり>よろー』

『田中>よろしく』


 いっそ俺もにこやかな顔文字なんか交えて『よろしく(^w^)』とか入れてやろうかと思ったぐらいだ。

 それでアイツの顔が歪むなら喜んでやりたいが、もし尻尾を振って擦り寄ってきたと勘違いされたなら、むしろ俺が憤怒してしまいそう。

 自重……自重、と。


『高井>今日、カラオケやるんだってね?』

『高井>親睦会ってことで久保さん入れて、みんなでやらないかい?』


 俺は――


『香田>行く』


 ――ほとんど無意識に……衝動的に短くそう入力して送信していた。


『しぇり>あこうだ!』

『るん>うっそ!!』

『佐藤>お前まだいたのかよwwww』

『美紀>香田様――っっ★☆』

『阿部ぽよ>レアキャラとつぜんキター』

『美紀>行く! あたしも行く!』

『ちぃ>はーい私も参加ー!』

『岡安>ちょっ、買い物どしたーっ?』

『美紀>ごめーんっ♪』

『しぇり>楽しそーだしわたしも行こうかなぁ?』

『岡安>ああもうはいはい! 行く! 私も行きます!!』

『田中>マジか、香田様々じゃんかよ!?』

『佐藤>コウダつえぇ』

『美紀>香田様ーっ、美紀でーすっ♪♪♪』

『阿部ぽよ>……俺も今日から寡黙キャラやってみっかw』

『るん>え。そういう流れ?』

『佐藤>※ただし(ry』

『岡安>ねえ高井~。この人数で入れるオケあんのぉ?』

『高井>ははっ、参ったね。二部屋にわかれようか?』

『しぇり>えーっ!? それ盛り上がらないじゃん!!』


 誰だよお前たち。

 洪水のように一気に押し寄せる文字の数々に圧倒されてしまうばかり。

 まったく全然これっぽっちも個々を認識できない。

 せめてあだ名はやめてくれ。

 すさんで余裕のない今の俺の心では、とても処理できる情報量じゃない。

 もう一度言う……誰だよ、お前たち。


『久保敦子>ああ香田くん居たんだ? おひさしぶり!』


「……」


 そういや久保なら、鈴木の連絡先を知ってるかもしれないな。

 何せ深山と同じくパーティとして行動を共にした関係だ。

 待ち合わせ用としてIDを交換したぐらいのことは普通にありそうだ。

 脅迫でも何でもして強引に――


『香田>お久しぶり』


 ――いや。そんな建前なんて虚しいだけか。止めよう。

 どうせコイツは、何も教えてくれるはずがない。

 やるだけ無駄。

 だから、そうじゃない。

 決してそんな立派な目的なんかじゃない。


『香田>みんなと会えるの今から楽しみにしてるよ』


 俺はちょっとばかり魔がさしただけだった。

 こうやってグループ初登場だった彼女の注目を奪い取るのもその一環。


「ほんと……楽しみだ」


 この邪悪なる魔物に、出来うる最大限の嫌がらせをしてやろう。



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