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#065a ワールドエンド

 こんにちは。中村ミコトです。

 今回よりいよいよ第六章に突入しました。


 第五章は……長かったぁ(遠い目)

 そして予定が初めて狂ってしまった章でもあります。

 お気づきのかたもいらっしゃると思いますが、本作は第四章まで、12話を一章として区切って進行して参りました。

 なんとなくアニメとかドラマとかのシーズン(期)を模してみた感じですね。

 一話のボリュームも、なんとな~くアニメの一話分ぐらいの量を意識して、それなりのオチをつけて作ってきました。

 なのに第五章はあれよあれよと続いてしまい、全16話!

 なぜこうなったし!

 ……でもまあ、想定外に話が膨らむのはキャラクターたちが生き生きと動いてくれてる証拠ですから、悪いことじゃないのかな?

 なのでこの第六章から、全12話とかの進行上の都合はあまり気にせずガンガン話を進めてしまおうかなと判断しました。

 試しで、以後は一話のボリュームを落として基本的に毎日の更新としてみようかなと思います。

 (あ。もし苦しかったら途中で更新速度を落としますけどねっ!)

 実際やってみないことには感覚も掴めませんが、まあアニメでいうAパート・Bパートみたいな感じの切り方でいけるのかな?

 サクサク読める作品を目指して頑張ってみます。


 ではお待たせしました。これより第六章『Sprite』スタートです。

 決闘大会を目指し着々と増強を進めるチーム<火竜>。

 買い出しをしていた街の路地裏で、そんな香田君の目の前に突如現れた謎の幼女の正体やいかに……?

 ちなみにざっくり先の展開の予定をお伝えしておきますと、この第六章の中で決闘大会編に突入しますよ。そう遠くはないです。


 宜しければ第七章の冒頭でまたお会いしましょう。



「――最果ての地に、ようこそなの」


 小さな両手をめいっぱいに広げ、『みー』と名乗るその子は夕日を背にしてそう誇らしげに語る。

 奇しくもそれはEOEを始めるその前日に、ジャングルジムの上で原口が示したポーズやセリフを連想させるものだった。


「最果て……」


 俺は深呼吸をして息を整えながらつぶやくと、改めて遠くに見える白い物体を見やった。

 だだっ広いこの石畳の広場の中央に、真四角のその建造物は存在している。

 ただし……見渡す限り、窓どころか入り口すら見当たらなかった。


「ねえ、みーちゃん。ここで経験値が稼げるの?」

「はい、そのとおりなの!」


 深山が質問すると、そんな即答。

 どういうギミックか不明だが、みーの言動に合わせてぴょこぴょこと大きな金色のツインテールが馬の尻尾みたいに前後上下に動いてて、それがとても愛らしい。思わず家に持って帰りたいぐらいだ。


「特訓施設、みたいな感じか?」


 真四角だからか、なんとなーく脳内ではボクシングのリングがこの建造物の中に備え付けられているような連想をしていた。


「んー。特訓……んー……まちがいじゃないけど、ちょっとちがうの。こっちこっち!」

「え。またっ!?」


 みーは俺の手を握ると、再びその白い建造物目がけて走り始めた。

 もうそろそろ……正直ギブアップ気味。

 しかし幼女より先に音を上げるというのはどうしても男のプライドとして出来ず、精一杯にカッコつけてどうにかもつれる脚を前へと無理やりに進めた。


「――……ん?」


 駆け寄ってて、途中で気が付く。


「え……もしかして」


 後ろに続く深山もどうやら気が付いたようだ。

 これだけ走ってるのに、一向に近づけない。

 いや、それは錯覚なのだけど……つまりあの白い真四角の建造物は、距離感が狂うほどに巨大だったのだ。


「よう、やくっ……着、いた」

「はーい、ぐるぐるー!」

「え」


 何がぐるぐるかと言えば、そのまま建造物の裏までぐるっと回り込む必要があるらしい。息を整える時間も与えてくれず、向こう見ずな幼女は引き続き俺の手を遠慮なしに引っ張ってくれた。


「……はぁ……く、そっ……はぁ……っ……デカ、いぞ……これっ……」


 見る限り、ほぼ正六面体なこの白い建造物の一辺はおよそ100mぐらいだろうか?

 つまり最長であと200mほど全力で走る必要がありそうだった。


「はあっ……はあっ……ぐ、ぁ……はあっ……!!」


 もうしゃべる余裕もないが、しかし建造物への興味は絶えない。

 例えば……見た感じ、素材が不明だ。

 マットで光沢はないけど、表面はつるんとしてて細かな凹凸もない。

 この世界に存在しているかは不明だが、しかし第一印象としては簡素なプラスチックみたいだと思った。


「――はーい、とうちゃーく!!」

「ぐはぁ……はあっ……は、あっ……!!」


 ……助かった。

 一辺を走り抜けたところで、みーはそう宣言して立ち止まってくれる。

 俺はたまらずその場の石畳へと尻もちをつくように座り込んだ。


「あれ……入り口?」

「うん、そうみたいね」


 後ろの未と深山のふたりは、特に息も切らさずそんな会話を平然としてる……さすが高レベル様は違うなぁ――……って、入り口?

 夕焼けの空へと息を繰り返し吐き出していた俺は、少し強引に呼吸を抑えて視線を落とす。


「あ」


 そこには、見るからに重そうな金属製の扉が三つ等間隔で横に並んでいた。

 本当に当たっているかは定かではないが、しかし色も大きさもそれぞれ違う色や反射具合で、なんとなく手前から順にアルミ、鉄、銅かな、と直感でそう思う。

 ちなみにこの座っている場所から見て、奥に行くほど扉は大きくて豪華な装飾が施されていた。

 つまり銅製が一番装飾されていることになる。

 普通、銅ってRPGの世界では安かろう・悪かろうの扱いだから、そこが一番の違和感だった。

 ちなみにこの銅製に見える一番大きな扉は高さ3mほどありそうだった。


「お好きなところからどうぞ、なの」

「え……俺?」

「ん。おにーさん」


 俺は経験値、稼ぐ必要がないんだけどなぁ……まあいいか。

 興味が勝った俺はそんなツッコミも呑み込んで、手前の磨かれたアルミのような扉の前に立った。


「……ドアノブがないけど」


 一瞬、自動ドアかもと思ったけどファンタジーな世界でそんなはずもなく。


「どすこい、するの!」

「ああ。押すのか……よっと」


 軽く体重を掛けて――


「――……う?」


 ビクともしない。

 なので改めて今度は全力で体当たりしてみる。


「っっ……!!」


 案の定というべきか。

 バイーン、とやっぱりアルミみたいな反発の音を鳴らし、俺は無残にも石畳の地面へと退けられてしまった……情けない。


「あらら。おにーさん……たいじょぶ?」

「くそっ」

「おにーさん……どんだけ弱いの……?」

「悪かったな、世界最弱だよっ」


 幼女に思いっきり同情の眼差しで見つめられてしまったぞ。


「兄さん……退いて」

「あ、ああ」


 見てられないと言わんばかりに俺の目の前に出ると。


「ん……」


 未がくいっ、と片手の指先で押すだけで磨かれた金属製のその扉はたやすく開かれてしまった。


「ささっとはいって~。すぐしまっちゃうの!」

「えっ」「あ、はい」「……はい」


 開けられなかった俺が入っちゃって良いのだろうか?

 ……たぶんこれって、いわゆる実力を試す類の扉だろうし。


 ――ギギギ……バタァン……!!


 俺たちが促されて建物の中に入ると、間もなくしてすぐに背後の金属製の扉は勝手に閉まる。

 前言撤回。

 ファンタジーな世界にも自動ドアは存在していた!


「あ……マズ……」


 とっさにホイホイと扉の中へと入ってしまったけど……ちょっと軽率だった。

 これが罠の可能性もゼロじゃない。

 だとしたら、せめて誰かひとりは外で待つべきだった。

 まあいざとなったら、緊急脱出の方法としてアンスタックがあるか……高価なアイテムだからそう安易に使いたくはないけど。


「わあっ……香田君、あれっ!」

「うん?」


 そんな人知れず反省している俺を置き去りに、興奮気味の深山が建造物の奥で大きな声を出していた。

 見れば……薄暗く縦長い廊下がそこにあり、奥へ奥へと鈍い光が次第に広がって行く。

 あれはきっと、魔法によるものだろう。

 そう直感で理解出来るほど、とても人工的で熱を帯びてない光だった。

 そして巨大な石像が光に照らし出されて、暗闇から現れる。

 きっと先に進んでいた深山はこの石像を見て声を出していたのだろう。

 なるほど。

 これは絵本とか童話が好きな深山が興奮する感じだ。


「……猫? いや、豹?」


 あるいは、リアルにはいない何かの生物か。

 頭部だけ獣で、身体は人間というキマイラな石像がそこには存在していた。そしてその傍らには――


「へぇ……ベタベタだけど盛り上がるね、これは」


 ――岩むき出しの荒々しい洞窟がそこにあった。

 ぽっかりと深淵の暗闇が下へ下へと奥に広がっている。


「もしかしてここ……モンスターが出るのか?」

「もちろんでるの!」


 両手をばんざーいして、みーが嬉しそうにそう返事する。


「とゆーかぁ……ここからしかでてこないの」

「ん? どういう意味?」

「ぜんぶのもんすたーは、この()()()からくるの」

「なるほど」


 この地の、果ての果て。

 地面のさらにその奥だから……最果て、か。

 自分の足元から続く世界の深淵の暗闇を覗き、思わず生唾を飲んだ。


「ミー。わかりました……もうそろそろ帰りましょう」

「え?」


 俺の前に立つ先頭の未が、そう口にしてきびすを返す。


「ほら、兄さん」

「あ、ああ……」


 未から俺の手を握り、引っ張る。


「かえっちゃうのー?」

「ええ。装備を整えて後日来ます……今日は場所の確認だけ」


 戦闘マニアな未にしては正直意外なほど冷静な判断だった。

 いや……こんなお荷物を連れて行っては満足な戦闘ができないし、『もったいない』という意味ではマニアらしい反応とは言えるか。


「はぁーい、じゃあ退散なの! かえりみちはあちら~!」

「あ。さっきの扉じゃないんだ?」

「ん。内側からあけられないの」


 さっき横を通った巨大なキマイラの石像の傍らに、良く見れば人間ほどの大きさの小さな石像もまた影に隠れるように存在していた。

 その小さな――やはり獣と人間との()()()()の姿をした石像の両手には、球状の宝石が大事そうに抱えられている。


「ん。そこに、たーっち」

「こう?」


 触れる、というよりその直前の、手をかざした瞬間。

 ソフトボール大の半透明なその宝石は輝いた。


「わぁ……まるで――」


 感嘆の声を上げる深山。しかし全部を述べるより前に、世界が真っ白な光に包まれた。

 たぶん深山は続けてこう言ったはずだ。『アンスタックみたい』と。

 ――なぜなら、俺自身がそう思ったから。



   ◇



「はい、ただいまーっと」


 それからほんの数分間のエフェクトを挟んで、俺たちはあの白い建造物の外にある石畳の広場へと転送された。


「ん?」


『通知:香田孝人 は体力が全快した!』

『通知:香田孝人 はステータスが回復した!』


 左下にそんな通知が表示されていた。

 なるほど。これは限界ギリギリまで頑張った冒険者に優しい、至れり尽くせりなサービスだ。

 そして理解する。

 この――たぶん地下ダンジョンは、運営側が用意した施設なのだと。

 ちょうど俺たちとすれ違うように、別の四人パーティの団体もこの広場から背後の建造物へと向かっていたところだった。


「もうちょっとここ、混雑しててもおかしくないのに」


 この巨大な石畳の広場は、訪れた冒険者たちを迎え入れるための場所で、キャパシティ的にはたぶん100以上のパーティが集まれるだろうと思う。

 いつぞやのトレーラー前のように、ここでプレイヤーたちが即興のパーティを組んだり、情報を集めたりしてもおかしくないのにな。


「ね~、おにーさんたちは『だぶる・いー・おー』ってしってる?」

「W・E・O?」

「ん。わーるど・えんど・おんらいん~!」


 念のため深山へと振り返るが……小さく首を横に振っていた。

 つまりマニュアルにも書かれていない固有名詞なことは間違いがなさそうだった。


「……いや、知らない。何かのゲーム?」

「ここのこと~」

「うん?」

「ここはね、わーるど・えんど・おんらいんの、えくすてんどー!」

「W・E・O……E」


 ピンと来た。

 『WEO』というゲームがあって、ここはそのエクステンド――拡張版。

 つまり当時のWEOEが、今のEOEの前身に当たるとみーは言っている気がした。


「……もしかしてみーは、そのWEOEの古参プレイヤー?」

「にははっ……おばちゃんなのー!」


 みーにネーム表記が無いのは、もしかしたその前身となるゲームからデータがコンバートされたからだろうか、とそう思えた。

 本人に確認しても良いのだけど、それを告げるより前に――


「昔はね……あのダンジョンしかなかったの~」


 ――そんな気になる新たな情報が与えられて、話題と意識は必然的にそっちへと向かう。


「つまりあの建物が……EOEの始まり?」


 世界の終わり(ワールドエンド)から、始まる世界(EOE)

 ふとそんな皮肉めいたことを考えた俺。


「ん。みんなずーっとあそこばっかりもぐって、飽きちゃったの!」

「なるほど」


 長くこの街に住む人たちからすれば、端まで冒険し尽くしたあのダンジョンには用事がないってことになる。つまりそれが、みーが教えてくれたこの閑散とした状況への明確な答えのようだった。


「昔はね……みんなみんな、ここに泊まって……毎日あつまって、けんかしたりおしゃべりしてたの」


 みーは、少し寂しそうに微笑みながら周囲を見回していた。

 当時の光景を思い出しているようだった。


「そうしたら、だんだんまわりにお家がいっぱいたって……くろーど、というなまえがついて……まっぷ、ひろくなってきて……みんなお外にいくようになって」

「そっか」


 EOEの歴史を感じ取る。

 ここはそもそも最初、街ですらなかったらしい。


「……だからね、みーはここで露店、してるの!」

「うん。それはすごくいいね」


 もう人通りは少ないかもしれないけど、きっとそういう問題じゃない。

 EOE黎明期から続く最古の変わらない露店。それがみーのお店なのだろう。

 上手く言葉に出来ないけど……それはすごくいい、と思った。


「――コンコン。じゃあみーちゃん、ごめんく~ださい」


 ずっと黙って聞いていた深山が、まるでそこに扉でもあるようにノックする仕草をしてからしゃがみ、みーと同じ目の高さにすると。


「お店、開いてますか? ポーション、ひとつく~ださい」

「はいっ、いらっしゃいませなの! しょうしょうおまちくださいっ」


 嬉しそうに笑顔で迎え入れるみー。

 手から茣蓙ござのような硬質のマットをポップさせると石畳の地面に敷いて、それから次々にせっせとアイテムを置き始める。


「今日はすぺしゃるでー、なの! ぜんぴん90%おふ、なの!」

「わあ、すごいっ!」


 ……なんとなく、俺はとある昔話を思い出した。


「いや、店主。そんなサービスはいらないよ?」


 俺も深山にならって、彼女の横に並んでしゃがむ。


「え……90%おふ、いらないの……?」

「ああ、いらない」


 目の前に陳列されている瓶を手にして眺めると、中に入っている不思議な虹色の液体が西日を受けてキラキラと輝いていた。


「きっとみーの作ったポーションは、このゲームへの愛情を注ぎ込んだ最高の一品なんだと思う。だから俺はちゃんとそれを適正な値段で買いたい。正しく評価したい」


 確かあれは、高級な壺を買う昔話。

 長年コツコツ貯めて買いに来た客へ、店主がお礼を込めて値引きするが、買いに来た客はこんな感じのことを言ってそれを断った。

 ――うん、まさに俺はそんな心境だった。


「なあ店主。このポーションはこっちと色が違うけど、性能違うのかい?」

「ん! そっちはすてーたす異常をかいふくするぽーしょんで、こっちがすたみなの減少をおさえるぽーしょん、んでんで、これがぁ――」


 目の前で舌足らずの幼女が一生懸命に商品の説明をしてくれるその姿は、とても微笑ましかった。


「わあっ、すごーい!」

「……うん。兄さん、これ欲しいです」


 いつの間にか未もしゃがみこんで、みーの商品を興味深そうに眺めていた。


「じゃあ、それ全部くださいな」

「ひあっ!?」


 こうして結局、所持していた1万E.(エリム)はそのほとんどを散財してしまうことになった。

 未が大量に購入した布生地に、深山の装備品に、装飾用の宝石。そして手に入れた、回復系アイテムの数々。

 決してこれらは無駄遣いとは思わないけど……でも、ウチの小さな財務大臣に後でこってりと怒られそうだった。

 残りの金額でお家、買えると良いんだけど。


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