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#053 誤解から出た真《まこと》

「――えーと……こっち、だったか?」


 昼下がりの森の中、俺たちは手を繋いで元の場所へと戻ろうとしていた――のだが、思ったより遠くに出てしまったようだった。マップにあった凛子たちの白い表示がいつの間にか消えていて、少し慌ててしまう俺だった。


「森を舐めてたなぁ」


 どこを見ても似たような風景ばかり。

 始まりの丘よりずっと樹の密集度が高くて先もあまり見通せない。

 というか、逆を言えばあっちが初心者向けに見通しの良い森だったのかもしれない。


「……深山?」


 ふと手を引いている先に居るその女の子が返事してくれないことに遅まきながら気が付いた。


「……」

「どうした?」


 あまりに浮かない顔をしている。


「ううん……幼い自分がちょっと嫌になっちゃって」

「幼いの?」

「もう少し香田君とこうしていたいなーって、そのささやかな抵抗中なの」


 ちょっと舌を出して眉を下げながら笑う深山。


「……? どういう意味?」

「うん。どうやら香田君はマップ表示の縮尺を変えられること知らないみたいだから、このまま黙ってようかな~?って」

「それ黙ってないし」

「はい。良心の呵責かしゃくさいなまれました。えへへ」


 そのコロコロと変わる表情を見て、俺は会話そっちのけで密かに達成感を得ていた。

 やっぱり以前に学んだ通り、深山には言葉より行動なんだなぁと痛感する。

 こちらが何か行動を起こせば、その分だけ打てば響く鐘のようにわかりやすくリアクションを返してくれる。

 本当にそれって素直で真っすぐで、心の構造が難しくない――いや、心の構造をシンプルにしてくれていると感じた。


「まあ……最初は強制的に、だったんだろうけど」

「?」


 自分の気持ちを正しく提示してくれる優しさってあると思う。

 例えば……それこそデートとかで『何が食べたい?』なんて質問をしたとして、きっと深山なら『今の気分はイタリアン!』とか、あるいは『今は食欲が無いです……ごめんなさい』とスパッと答えてくれるはずだ。

 それはたぶん誓約とか関係無い。

 間違っても『えー、別に何でもいいよ?』なんて絶対に答えない。

 そういう優しさって、本当に助かる。

 そしてそれはきっと無意識じゃなくて、意識して努力してシンプルであろうとしてくれているのだから、俺も正しく応えるべきなんだ。

 深山には、悩むより先に、行動。

 理由探しなんか悶々としてないで、さっさと目指すべきゴールを真っすぐに進めばいい。


「いや……ありがとう。そういう深山って好きだよ」


 そういうわけで、理由はさておきすっかり顔色が良くなっていた深山に、そう俺も思ったままの言葉をシンプルに伝えると。


「え。こ、香田君……それはちょっと唐突過ぎてわからないけど――でも嬉しいっ」


 やっぱりシンプルに喜んでくれる深山だった。

 キラキラと輝いているその瞳だけで、一日眺めても飽きそうに無いや。

 こうやって、深山のことを少しずつ理解していく。

 心の距離が縮まっていく。


「それで……マップ表示の縮尺を変更なんて出来るんだ?」

「うん。マップの上にカーソルを合わせてアクティブにして――」


 実演してくれているらしい。

 ぱちっ、と大きな右の瞳を閉じて。


「――そのまま上下にスライドさせると、最小で半径100kmまで縮めることが出来ます」

「へぇ……おお」


 実際にやってみると確かにアプリの地図表示のようにキュッと一瞬でマップの縮尺が変更になった。

 今は南の方角を向いているのだろう。

 誓約紙の裏に描かれていた島とは上下がほぼ逆さまだが、確かに舞台となっているこの島のほぼ全形が露わになっていた。

 これは情報として興味深い。つまりこの島がざっと南北250km、東西100km程度の大きさということも予想出来る。

 ……正確なことはわからないが、九州より一回り小さいぐらいのスケール感だろうか?

 もろちん東西がもっと細いから、面積的には九州の25%とかになってしまうのだろうけど。


「ただしデフォルト設定の、最大に拡大されている半径500mの範囲内しか詳細情報は出ません。その範囲外ではフレンドとパーティに登録されている相手のみが表示されます」


 さすがマニュアル読破しただけはある深山が、端的に説明してくれる。


「って、あれ? 最小まで広げても何も表示されないけど……」


 岡崎や未はさておき、同一パーティの凛子が表示されないのはおかしい。


「……うん。だって香田君……パーティから外れてるから」

「あー」


 完全にうっかりしていた。

 アクイヌスとの争いの時、あざむくために俺はパーティから意図して外してもらったのだった。


「そっか。それじゃ深山、凛子の位置ってどっちの方向?」

「……こっち、です」


 深山は指さす。今来た俺たちの背後を。


「へ? もしかして俺たち逆方向に歩いてた!?」

「…………はい。だから、ごめんなさい」


 顔を少し赤くしてうつむく深山。


「もうちょっとだけ……香田君とふたりきりで居たくて」


 もじもじと身体をゆすって、いじらしく上目遣いにこっちを見てる。

 うん……それ――


「――すごく可愛い」

「か、かわっ……!?」


 これだけ連呼しても全然飽きそうに無い様子で――


「――その反応も可愛いなぁ」

「ま、待って……お、おかしく、なりそうっ」


 今にも沸騰しそうな真っ赤な顔で、繋いでる俺の手をぎゅっ……と握りしめて、空いてる右手をバタバタと振り回してる。

 ほんと、打てば良く響く。


「こ、香田君っ……おかしい、それおかしいわよっ……わたし、わざと黙ってて……怒られてもおかしくない、のにぃ」

「うーん……」


 ちょっと考えて。


「怒らないのは、俺も深山ともうちょっと一緒に居たいのが本音だからじゃない?」

「そ、そんな他人事みたいに……っ」


 言葉だけだと非難してるみたいに聞こえるけど、顔は嬉しそうに口元を歪ませて、大きな瞳を潤ませていた。


「でも結構な時間が経ってると思うから、そろそろ本当に戻ろうか?」


 深山と仮想現実のこのゲーム世界の中で、さらに仮想のゲームみたいなことを興じてしまったわけだが……さて。どれぐらいの時間が経過したのだろう?

 太陽の高さを見る限り、二~三時間ぐらいかなと思うけど。


「……はいっ。じゃあ、こっちです」


 そのまま振り返る形で、今度は凛子をパーティ登録しているウチのリーダーの深山が先頭になって俺の手を引いてくれた。

 ああ、そっか。

 そういや、深山がパーティのリーダーなんだよな?

 なら、今ここで俺をパーティに入れてもらえたら、別にそれで――


「――……」


 繋いで引っ張られている自分の手を眺める。

 ……まあ、もうちょっとだけこうして居ようかな。うん。


「あと、香田君」

「ん?」

「これ……お返ししておきます」

「――あ、そっか。ずっと預かってくれてありがとう」

「……ううん」

「?」


 妙に申し訳なさそうな顔をしてるけど……まあいいか。

 たぶん深山も先ほどの『パーティから外れてるから』で思い出したのだろう。

 原口やアクイヌスをそれぞれあざむくため、あらかじめ預かってもらっていたアイテム類一式をまとめて深山から受け取った。


「深山。凛子とは距離的に、どれぐらい離れてるの?」


 さっそくKANAさんから頂いた黒いコートをアイテム欄からポップさせて羽織ることにする。

 これで多少は防御力が上がるし、何よりカッコ良い。


「えっと……真っすぐ行けばたぶん1キロも無いと思います」

「そっか。すぐに着いちゃうな」

「そ……そういう困らせること、言わないで」

「ああ、ごめん」


 ぎゅっ、と俺を捕まえているその手の握りが強まる。


「…………」

「……」


 微妙に気まずい雰囲気もあって、自然と黙ってしまう俺たちだった。


「そういや姉さ――KANAさんと、何してたの?」

「え」


 特に大した意味も無い、ただ沈黙を破るためだけの雑談をしてみた……つもりだったけど。


「…………暇つぶしのゲーム、とか……ちょっとお話、とか」

「へぇ」

「……っ……」


 それであっさり終わってしまった。

 先頭を歩く深山はこっちを向いてくれないから瞳が見えないもので、いまいちその気持ちを察することが出来ないや。


「もしかして俺の姉さんだって、KANAさん自分で言ってた?」

「う、うん……」


 妙に口が重い。

 気になるけど、俺は安易に質問を続けられない。

 質問したら全部正直に答えてくれる――いや、答えなきゃいけなくなる深山の立場を軽視したくない。

 例えば、神奈枝姉(KANA)さん相手に同性にしか出来ないようなプライベートな相談とかしていたら……と想像してしまう。

 『口が重い』ということは、それを警戒している現れだ。何か俺に話したくないことがあると考えたほうが自然である。


「そっか」


 だから俺は、それでその会話を終わらせた。

 次の話題を大急ぎで考え、用意する。

 そうだな……せっかくだから、深山へのフォローの意味も含めて。


「――しかし、魔法唱える直前に光る、かぁ……やっかいだな」


 こう、俺のクリアすべき現実的な問題を話題としてみることにした。


「やっかい?」


 その表現に少しの違和感を覚えたのだろう。

 深山が首を傾げてその単語を確認してきた。


「そう、少しやっかいなんだ。前回、深山と創った例の四門は――」

四門オールアラウンド円陣ゲート・イン・ザ・火竜サークルドラゴンです……っ」

「お、おう。四門オールアラウンド円陣ゲート・イン・ザ・火竜サークルドラゴン、は……いうなれば重たいハンマーみたいな魔法だと考えている。大きくふりかぶって、ズドーン!って一撃で倒すイメージ」

「うん……」


 少し思い出したのだろう。

 まだちょっと引きずってる様子だった。


「動けなかったり弱っている一体の敵にはこれ以上なく有効だけど……例えば素早い敵が複数バラバラに居たらどうだろう? 門番(四方の炎)で取り囲むことも難しいよね?」

「あ……うん」

「だから今度は重たい一撃でなくていいから……避けることが困難な、予備動作の少ない速い攻撃を複数同時に打ち出すような魔法を創りたいなって、ずっと考えてた。例えば指をパチン、と鳴らすだけで飛び出す魔法とか」


 さっきのハンマーの比喩で言うなら、こっちはチクチクと素早く細かく攻撃を繰り返す、刺突用の片手剣レイピアって感じだろうか?


「……」

「うん? 深山? 遠慮なく思ったことは言って?」


 深山が反対意見を述べたいのだと直感する。


「え……あ、はい……その…………ううん。こんなのわたしの勝手だから」

「深山」

「は、はいっ」


 多くは語らなくていい。

 頭の良い深山なら、そんな遠慮は俺には逆効果だってすぐに気が付く。


「わ、わたし…………呪文、詠唱したい……!」


 能動的に甘えるのが下手な深山が、それでも精一杯に自分の我を出してくれた。


「そっか。うん、そうだったね。ちなみにそれは、カッコ良いから?」

「……うん。長い呪文を唱えるの……憧れてたの。でもそれだけじゃなくて」

「?」

「指を鳴らすだけだと、ただの作業になっちゃいそうで……怖いなって」

「あー」


 効率ばっかり考えている俺はまたしてもうっかりしてしまった。

 そうだ。深山が楽しく無ければ何の意味も無い。

 自分で立てた誓いなのに……情けない……。


「ごめんなさい……こんなの、勝手な幻想を抱いているわたしの――」

「――いや、そのポリシーは大切だろう。俺が間違ってた。ごめん」

「ううん、ううんっ」


 一生懸命に否定してくれているところ悪いけど、それはスルーして自分の考えをまとめさせてもらう。


「訂正する。深山が唱える魔法な以上、深山の望む魔法を創りたい。深山が唱えてて楽しい魔法を贈りたい」

「…………嬉しい、です」


 真っすぐに俺を見詰めてくれる深山の視線は揺るぎない。

 遠慮するばかりじゃなくて、ちゃんと俺の気持ちを受け止めてくれた。


「深山はプロレスラーなんだなぁ」

「え、ええええっ!?」


 すっごい不本意そうだ。

 確かに恋する乙女に当てはめるには少々暑苦しいイメージだけども。


「自分だけじゃなくて、絶えず周囲から自分がどう見えているかを考えてるよね。さらにはきっと、相手のことも考える」

「……そうなの?」


 どうやら無自覚みたいだ。


「うん、きっとそう。意識してないだろうから不本意に聞こえるかもしれないけど、その言葉からは『せっかくなら派手で楽しく正々堂々でありたい』みたいな気質を感じるよ」


 例えばほぼ深山の趣味リクエストだけで創った四門オールアラウンド円陣ゲート・イン・ザ・火竜サークルドラゴンには、本人の希望によってあえて弱点を設けてある。

 具体的には、『慈悲』の名を付けた西の門番であるあの炎にだけ誘導性が無いのだ。

 西というのはつまり、左側。

 人間のとっさの反応で左側に逃げるその本能に則って、そっち側に逃げた『怖がってる』人にはちゃんと活路が用意されている。

 なぜわざわざそんなことを?と当時の俺は内心そう思ってたけど……たぶんそれは本能的に、『ハメ』が卑怯だという気持ちが深山の中にあるのだろうと思う。


「そ、そうなの……?」

「うん、俺にはそう見える」


 あるいは一見すると無敵と思える必殺技にも攻略されてしまう弱点がある、という部分に物語性ドラマを感じているのかもしれない。

 完璧なものは、確かにつまらない。

 もしそうなら……これって物語を考える絵本作家の卵らしい、損得感情や自分自身の存在をも突き放した、ある種の美的感覚だと思う。

 ――ちなみにこれ。ハメられるならハメ殺せば良い、みたいなガチ勢なすみなんかと対極の考え方だろうな。

 もし耳にしたら『ユルい』、『ヌルい』と侮蔑の瞳で全否定されそうだ。

 ほんとにこのふたり、やっぱり相性最悪な気がする。


「きっとそんな深山の求める先には、第三者から観て演出の効いた派手なショーみたいに映る世界があるんじゃないかなって思うよ。MMOとして俺もそういうのは嫌いじゃない」


 実際に俺も、四門オールアラウンド円陣ゲート・イン・ザ・火竜サークルドラゴンを深山が放つ時、確かにワクワクした。興奮した。

 炎使い志望の『エメンタール』として憧れた。

 ああ……そうか。

 つまりこんなにも魅了されてしまっている俺はもう、深山の世界のファンなのかもしれない。


「それが……その。プロレスラー……?」


 その一点については、すっごい嫌そうな顔してる。


「ぷっ……じゃあ『アイドル志向』でどう?」

「は、はいっ!」


 それはOKらしい。じゃあ前言撤回しよう。

 アイドルのように自分を使って表現し、人を喜ばす気持ちがナチュラルに備わっている女の子……それがこの、深山玲佳なんだと思う。

 なるほど、なるほど。

 美として完成され過ぎるとモデルみたいに冷たい感じになってしまう。

 どこかユルくて愛嬌あるぐらいのほうがアイドルだ。

 その深山の独特なバランス感覚は、ほどほど良い感じのさじ加減を心得ているなと感心してしまった。


「じゃあ問題は無いな」

「?」

「どうせ呪文を唱えて派手にいくなら不意を突く方向じゃないわけだし、魔法を放つ直前に『媒体に取り出す』工程で勝手に光ってしまうことは、もはや『やっかい』と言うほど大きな問題じゃないってこと」

「あ……はい!」

「さてさて。ではどうしようか……?」


 呪文を唱えて、派手にいくとして。

 それでどうやって素早い複数の敵に当てようか?


「……」


 今回はとにかく、条件や注文が多くて難しい。

 素早くて、多段攻撃で、しかし呪文を唱える形で、派手で、深山が楽しいと思える魔法……か。

 贅沢を言えばチーム戦ならゴチャゴチャな乱戦が予想されるから、術者である深山が安全なほうが良い。

 それを、更新による修正によって抑えられてしまった魔力量の中で実現しなければならない。

 ――……ん~。ダメだ。まったく見えて来ない。

 完成型どころか、取っ掛かりすらまともに思い浮かばない。

 モヤモヤと長いこと抱いてるのは、深山を取り囲むように発射されるホーミングレーザー、みたいなイメージだけ。


「…………っ……!」

「ん? 何?」


 深く思案を巡らせていると、痛いほどの熱いまなざしが届けられていた。


「ううんっ……ううんっ……!」


 一瞬わけがわからなかった。

 ……ああ。そういや深山って、悩んでる俺マニアだったっけ?

 ならば今って、よっぽど深山好みの苦悩に満ちた顔でもしていたのだろうな。


「なあ深山。眺めてるだけじゃなくて……戻るまでで良いから、いっしょに悩んでくれるか?」

「えっ。あ、ご、ごめんなさい! それでどんな内容ですかっ!?」


 いつの間にか立ち止まっていたことに気が付いたのか、深山が再び北の方角へと俺を引いて歩き始めながら、チラチラとこちらを何度も振り向いてそう質問して来る。


「さっきの話の続き。今度は素早い複数の敵にも避けることが困難な軽い魔法を創りたい」

「はい」

「今回最大のボトルネックは、魔力の最大容量なんだ。『媒体に取り出す』という工程が増えて……つまり、『媒体の容量』が一度に使える深山の全魔法コストってことになってしまった」

「それは……どれぐらい落ちるんですか?」

「深山の知っている通り1600以上あったものが、たぶん対策をしても現状では40とかそれぐらいまで落ちることになる」

「……もう四門オールアラウンド円陣ゲート・イン・ザ・火竜サークルドラゴンは……使えないの?」


 そんな泣きそうな顔しないでくれ。

 また立ち止まって抱きしめたくなってしまう。


「いや、威力は落ちるけどたぶん大丈夫。門番(四方の炎)の召喚ひとつひとつを別の魔法として組み立て直せば、単純計算で160相当の威力は出せる理屈になる。()()の1/10程度の威力なら、むしろ常識的で使いやすいものになると思うよ」

「良かった……!」


 心から安堵したような顔を見せてくれた。


「じゃあ話を戻そうか。もちろん深山自身の魔力容量自体は変わらず1600だから、40程度の魔法を最大で40回は撃てることになる。つまり細かい魔法を連射、というのが現実的というか、唯一の手だと思う」

「あの……その40という魔力を使った魔法の威力ってそんなに弱いの?」

「どう使うか、によると思う。四門オールアラウンド円陣ゲート・イン・ザ・火竜サークルドラゴンの場合は四方からの超圧縮によって強烈な威力を生み出せたけど、それをやろうとすると時間が掛かる上に範囲全部が無差別に吹き飛ばされるから――」

「――だ、だめっ!!」

「そうなるよね。とてもチーム戦向きじゃない。深山ひとりで相手チーム全員と戦うなら一応アリだけど……その場合、唱えている間に深山が狙われないわけがない。たぶん門番(四方の炎)を呼ぶ前に深山がやられてしまう」

「うん…………だから新しい魔法を創るのね?」

「そこで悩んでるのが、40の配分。これはただの経験則で正確には実証してないけど、たぶん威力が高い分だけ移動の魔力コストも比例で高くなる」


 さっそく込み入った話を始めてしまったが、大丈夫かな?


「まあ大きな炎を動かすにはそれ相応の魔力コストが必要なのは必然だよな。……つまり威力5に対する移動5と、威力20に対する移動20は結果として同じ移動速度になりそうなんだ。ここまでは大丈夫?」

「……はい」


 心配したけど、問題なさそうだ。深山はむしろ集中して俺の話に耳を傾けているようだ。


「ちなみに以前創った『エムフレイムバレット』は威力3に対して移動2の魔力コスト比率だった。3:2であの速度だ」

「つまり……威力26で、移動14だと大体あの速度で撃てるのね?」


 さすが深山。瞬時に合計40の内訳を算出してくれた。


「単純な炎ならね」

「あっ」

「そう。『エムフレイムバレット』は圧縮からの解放で攻撃力が飛躍的に増した。その時の圧縮の魔力コスト比率は5。つまり威力3:移動2:圧縮5だから、40の場合――」


 小さく手を上げて『計算は任せて』とジェスチャーを送ってくれる深山。


「――威力12:移動8:圧縮20。こうして改めて並べると圧縮の魔力コストって、高いね……」

「深山。歩いて、歩いて」

「あっ、ごめんなさいっ」


 考え込んで立ち止まる深山を促し、歩を進めさせる。

 どうせこれは今すぐにどうこうという問題じゃないんだ。

 そもそも沈黙を崩すための雑談に近いのだし、極論を言えば深山とこの問題を共有出来れば、別に今すぐの答えは出なくてもいい。


「……ねえ香田君。その『圧縮』の魔力コストを『威力』に充てられないの?」

「簡単に言うと、貫通性能が落ちてたぶん効率悪くなると思う」

「貫通性能……炎なのに?」


 おっと。まったく簡単になってなかったか……失敗した。

 ゲームに不慣れな深山には『貫通』がいまいちピンと来ないみたいだ。


「改めて説明すると、現実と違ってゲームには大雑把な『防御力』による補正という概念がある。まあ、全身が透明な殻で包まれているイメージかな。例えば相手の防御力が10だとすると、こっちの攻撃力の内、10がその透明な殻によって相殺される……と言えば想像することが出来る?」

「はい」

「だから――今回の40という数字を、仮にそのまま攻撃力と持続時間に見立てて話をしてみようか。10の攻撃が4秒続くのと、40の攻撃が1秒続くのではどういう結果の差になると思う?」

「あ……0と30!」

「そう。全然違うだろ? まあ実際はそこまで単純じゃないみたいだけど、理屈としてはそんな感じ。守られているその殻を『貫通』しないと意味が無い。だから一瞬でもいいから、爆発的に攻撃力を高めるべきなんだ」

「はいっ、良くわかりました。香田先生!」


 まださっきの先生と生徒の仮想ゲームを少し引っ張る深山。

 思わず口元が少し緩んでしまった。


「ぷっ……じゃあ話を戻そうか。便宜上『威力』と称しているけど、これは実際のところ『炎を発生させる燃料の量』に近い。だから『圧縮』分の魔力コストも燃料にして炎の大きさや温度、そして持続する時間などに割り振ることでトータルの威力を底上げは出来るけど……どこまで行っても炎は炎で、炸裂して瞬間的に攻撃力の跳ね上がる『爆弾』のようにはならない――だから効率が悪いんだ」

「ねえ、香田君」

「うん?」

「やっぱり香田君って、教師が向いてると思う……すごくわかりやすい」

「いやいや。言い寄ってくる生徒に簡単に負けちゃうから、止めておくよ」

「も、もうっ……真剣なのにっ」


 ぷーっ、と頬を膨らませて怒ってるけど、たぶんそれはテレ隠しなので気にしないことにする。それより。


「なあ、深山」

「はい」


 俺の真剣な顔を見て、瞬時に集中してくれた。


「例えばこのエムフレイムバレットって、あのKANAさんに当たると思う?」

「え」


 実際にイメージしてくれているのか、少し沈黙する深山。


「…………難しいと思う」

「だよなぁ」


 俺は、未の剣先を軽々と余裕の表情でかわしている、あの身軽な姿を思い浮かべていた。たぶん深山も同様だろう。


「なので威力はさておき……とにかく移動の魔力コストを増やすか、あるいは『誘導』(ホーミング)って概念を追加するかしないとダメだと判断した。未の台詞じゃないけど、当たらなければ意味が無い」

「うん……でも正直、三倍の速度でも当たるのかわからないと思うの」


 正確な数値はさておき、『エムフレイムバレット』はおよそ50km程度のゆっくりとした移動速度だった。

 それの三倍で、時速150km……か。

 それでも未の狂撃乱舞(バーサーカーモード)が発動した、あの至近距離からの剣先の速度ほどにもたぶん及ばない。

 まして深山の魔法は遠距離から放つのだ。確かに当たる望みは薄いだろう。


「うーん。じゃあ四倍ぐらいで試しに考えてみるか」

「移動8の四倍で32? ――ううん。それだと40で収まらないから、3:2:5の比率から見直す必要があるわよね……つまり67%の四倍で……圧縮は威力の167%だから……んー……綺麗に整わないわねぇ……」


 しばし、ぶつぶつと独り言を口にしながら暗算をする深山。


「――移動の値を優先させると、威力7:移動20:圧縮13……?」

「いつもありがとう。そっか、移動だけで半分も魔力コストを使うことになるのか」


 いや、それよりも導かれた答えには違う大きな問題が内包されている。


「威力7か……つまり総魔力(コスト)が10だった『エムフレイムバレット』の、二倍余りの攻撃力ってことになるのかな」


 倒木の幹が破裂した、あの威力を思い出してか――


「――それだとダメなの?」


 深山が不思議そうに首を傾げていた。


「まあレベル1の俺ぐらいにはそれで充分にダメージあるだろうな。下手すれば一発で致死量のダメージになるだろうけど」


 ふと今度は、全身をヨロイで固めた剛拳王の姿を思い浮かべた。


「……レベル250とかの立派な装備をしている人に、それは通用するかなぁ?」

「あっ……ううぅ」


 そう、たぶん与えられてもかすり傷程度。

 そんなの笑いながら無視して突っ込んでくるに違いない。

 あるいは神奈枝姉(KANA)さん辺りならもっと強力な魔法で相殺どころか一方的に消し飛ばされる可能性すらありそうに思った。


「香田君……その『誘導』(ホーミング)って、費用対効果としてどうなんですか?」


 貫通性能が通じなくても、費用対効果って単語は出て来るしっかり者の深山。


「うーん。正直あまり効率は良くないだろうな。そこまでそっちの実験はしてないけど、門番(四方の炎)で試した限りでも誘導するための判別式ルーチンを持たせるためには、相当な移動の魔力コストが必要だった。ただの直進とはわけが違うからね」

「あの……じゃあわたしが魔法を放った後に『操作』したらどうですか? その場合は魔力コストって特には必要無いと思うの」

「えっ」


 柔らかい。

 良い意味でゲームに慣れてない深山の発想は柔らかくて、いつも斬新なアイディアを提供してくれるなぁ。

 やっぱり魔法構築のパートナーとして深山は外せないや。


「あ、あのっ、そんなこと出来ないのかもしれないのに、ごめんなさいっ。これ、ただの思い付きで――」

「いや。たぶん可能だと思うよ……さすが深山、って感心していただけ。魔法を撃った後に操作するとか、その発想はまったく無かったなぁ」

「えへへ」


 本当に俺は感心した。

 なので少し心苦しいけど……言葉を続ける。


「そのアイディア、敵が単体ならすごくアリかも」

「……ひとりに限るの?」

「うん。だって深山。例えば6人相手に、同時に6個の高速で移動している魔法を操作出来る?」

「あ…………はい。難しい、です。じゃあダメかなぁ……」


 おっとっと。

 必要以上に深山をしょぼんとさせてしまった。


「いやいや。もしかしたら『操作』は現実的じゃないかもしれないけど、でも柔軟なアイディアを出してくれてすげぇ嬉しいよ。また思いついたらぜひ聞かせて欲しい」

「はい!」


 気を取り直して力強くうなずいてくれた。


「……そうだ、深山。ついでだし誓約紙を見せてくれる? とりあえず『エムフレイムバレット』とかの、既存の創作魔法シルバーマジックだけでも撃てるように修正しておこうと思う」

「あ、はい」


 言われてすぐに立ち止まり、ゆっくり目を閉じて操作モードへと入る深山。

 まずは魔力の消費量の調整と……あと、『媒体に取り出す』という工程の辺りを追記する感じで内容に手を入れたら、簡単に成立するだろうか?

 ……またあの日みたいに散々、深山と検証を繰り返したりして?


「なあ、深山」

「はい?」

「楽しいな、こういう試行錯誤って」

「――う、うんっ!」


 操作モードを中断してまでパチッと目を開き、大輪の花のようににっこりと微笑んでくれる深山だった。


「いつも相談に乗ってくれてありがとう」

「ううんううんっ! わたしもお手伝い出来るの、嬉しいし……それに」

「それに?」

「……香田君が悩んでる姿、隣で眺められて……それも嬉しいの」

「ははは。ありがとう。良かったらこれからも隣の特等席で、好きなだけ眺めててくれ」

「もうっ。そんなこと言うなら、一生隣で眺めちゃいますからね!」

「うん? それはもしかして、プロポーズ?」

「え!? ち、ちがっ……!!!」

「ははははっ、ごめんごめん」


 危ない危ない。

 今、まんざら冗談でも無かったぞ、俺。


「……っ」


 うーん……麻痺というか、馴染んで来てしまってる、のかなぁ?

 凛子も深山も『それで良い』と言ってくれているし、それを崩すことが果たして幸せなことかも怪しいし――だからこうして奇妙な三人の関係性は続いているけど……ずっと俺の倫理観や道徳心が、未の『だらしない』という辛辣な指摘と同程度には抵抗していたのもまた事実。

 しかし……だ。

 『それはおかしい』って俺の中でいつも指摘してくるはずの、()()()()が今回ばかりはなぜか顔を出して来なかった。

 むしろ深山からプロポーズされちゃった!と、どこか喜んでいる俺。


「ご、ごめん、なさいっ……変なこと言ってっ……!!」

「ああ、いや。俺のほうこそ」


 ふと見れば、深山がもうほとんど泣きそうなぐらい追い込まれてて、顔から湯気でも噴き出そうなほど真っ赤だった。

 ……そういやさっき、俺からキスしたばっかりだったもんな。

 すごく意識してくれているみたいだ。

 そのいっぱいいっぱいな可愛い表情を見てると、不思議とそれに反比例して俺の心は落ち着きを取り戻していく――おっと。


「深山、可愛い」

「か、かわっ、い、ま、待ってっ、今、はぁ……っ……!!!」

「あ。ごめん」


 可愛いと心から思った時は告げようと決めていたもんで、つい深山の状態を考えず口にしてしまっていた。

 ……とりあえず大変そうな深山の気を紛らわすためにも、やるべきことを先にやっておこうか。


「じゃあ……ほら、深山。出して?」

「え」

「え、じゃないだろ? だから、深山のを見せて欲しい。手を入れてみたい」


 すっかりうわの空になってる深山へと、誓約紙を催促した。


「え……あっ、は、は、はい……!!」


 なかなか動揺が止まらない様子で、瞳をうるうるとさせながら頬をこれ以上無いほど紅潮させ、もじもじと――


「――…………っ……」


 ――自分のスカートの裾をゆっくりと持ち上げる深山。


「ど、ど、どどうぞっ……」

「へ?」

「えっ?」


 しばし見つめ合う俺たち。


「……深山……?」

「あの……手……入れて、くれないの……?」

「え。あっ!?」

「香田君……見せて欲しいって……あの…………何かわたし――」

「――っと……!」


 慌てて俺は誤魔化すように深山を抱きしめた。


「あっ、こ、香田くぅんっ……」


 ぎゅっ、と深山からもしがみついてくれる。

 ……参った。

 これ、完全に誤解させちゃった。

 なんかショック与えちゃいそうで、とっさに慌てて抱きしめたけど――


「――……嬉しいっ……嬉しい、のっ……」


 ぎゅううぅ……って、切なさと愛しさを俺に伝えてくる深山の様子を見ると、もう何も言えなくなってしまった。


「ずっと……ずっと、我慢……して、てぇ…………嫌、なのかなぁ……ってぇ……わたし、魅力、無いのかなぁ……ってぇ……」


 そのまま俺の胸の中で崩れるように泣き出してしまう深山。

 まるで限界まで膨らんでいた風船が、破裂したみたいだった。


「――……ごめん、深山……不安にさせてごめんね」


 安心させるように、深山をもっともっと抱きしめる。

 能動的に甘えるのが下手な深山に、あんな誓約書いちゃって……苦しませてしまっていたことに今まで考えが回らない愚かな俺は、心から謝るしか無かった。


「う、ううん……えぐっ……嬉しい、の……っ……」


 自覚したばっかりだけど。

 でも、似た者同士である能動的に甘えるのが苦手な俺も、勇気を出す。

 これは『可愛い』と伝えるのと、本質は何も変わらない。

 前後の流れや関係性を重んじたい。

 その意味合いに敏感な深山に、勘違いされたくない。

 言われたから仕方なくやった、みたいに受け取られてしまうのは不本意だ。

 違う。

 これは彼女の心を癒すためじゃない。同情や哀れみじゃない。

 まして求められたから、なんかじゃない。

 そんな建前に逃げた受動的な理由じゃなくて。


「――深山」

「や、ぁん……っ……」


 唇を重ね、深山の細い腰に手を伸ばす。

 そしてそのまま深山の身体を背面にある樹の幹へと乱暴に押し付ける。


「その甘い声……すごくドキドキする。どうしても異性として、深山のことを強く意識してしまう」


 少し前にしていた質問の答えを、今さらだけど耳元で伝えた。


「え、香田く――……ん、んんっ……」


 もういいや。

 語るのもまどろっこしい。

 自分に正直になる。

 それが深山のためにもなると、信じる。


「んっ……んぁ……」


 何かを語りたそうな、その瑞々しくて形の良い唇をそのまま強引に封じていると……深山からも、深く深く俺を求めてくれた。


 そして俺は、『愛しい』という言葉ではなくて。

 『愛しい』という言葉を伝えたい俺が居ることを、能動的な行動で体現する。


『不潔』


 妹の声が脳裏で再生される。

 それはもしかしたら機能していない倫理観や道徳心のかわりだろうか?


『ずいぶんと、だらしないことしてるんですね……』


 ……たしかにその通りだと思う。

 ふたりの女の子を同時に愛しいと思うなんて、だらしない。

 たくさん悩んで悩んで、ようやくそういう自分を認められた。


『好意を抱いてくれる相手なら誰でも良いんですか?』


 ――でも、それは違う。

 絶対に違う。

 誰でも、じゃない。

 だってほら。

 どんなに綺麗でも。魅力的でも。

 お前には応えてないだろ?

 ……いつも傷つけてばかりで、ごめんな。


『気持ち悪い……本当に気持ち悪い』


 ああ、もうそれでいい。

 好きに罵ってくれ。

 俺もそう思うよ。

 でも。

 それでも……深山を救いたい。

 凛子を癒したい。

 それは、俺を求めてくれたからじゃない。


 俺じゃなきゃ、俺が、嫌なんだ――



   ◇



「――……う゛う゛ぅ…………はぁ…………ぐ、はぁ……っ……」

「香田君っ……ごめっ、ごめんなさいっっ……!!」


 悶絶して地面に突っ伏している俺の横で、深山がわんわん泣いてる。

 軽く意識を失いかけていたが、それで蘇った。

 ああ、もう……情けない。

 そういや深山にこの醜態を晒すのは初めてだったか。


「だ、だからっ……いいってっ……深山、気に、しないでっ……」


 精一杯にカッコつけて、泣いてる深山の涙を震える指先で拭う。


「で、でもぉ……ふえぇぇぇ……っっ……!!!!」

「ははは、ははっ……だから、俺が好きで、やったこと、だからっ……」


 腸閉塞とかこんな感じなんだろうか?

 あるいは胆石が詰まったりする感じか……?

 ああもう、吐きたいけど吐けない、でも何でもいいや。

 出せ出せと脳が命令してくるのに、それが果たせないのだ。

 そりゃそうだ。

 そんなの、身体がパニックになる。

 たぶん身体の部位としてそもそも存在していないだろうモノに対して脳が指令を出し続けるものだから、まるで内臓の機能不全みたいな状態になってて、堪らない苦痛と悪寒が延々と長時間に渡って全身へと広がっていた。

 そして同時にまるで痙攣みたいな震えと脂汗がエモーショナル・エフェクトとしてドバドバ出て来てて、そっちもそっちで非常に気持ち悪い。


「――う゛、あぁ……っっ……」


 余りの悪寒にまた混濁し、防衛本能で軽く意識が飛ぶ。

 そして苦痛で蘇る。

 何度体験しても全然慣れない。

 というか興奮が自己新記録にでもなったのか、苦痛も過去最高だ。

 とにかく、どういう姿勢でも楽にならない。

 いつまで経っても終わりそうにない。

 糞がっ……無性に腹が立つ。何これ。地獄かよ!


「まったく……誰だよ、こんな規制方法……考えたヤツ、はぁ……!!」


 性欲減退とかのほうがどれだけマシか!

 ――……あ、いや。そうでも無いのか。これ。


「えぐっ……香田、くぅんっ……ごめ……な、さいっ……!!! こんな、こんな酷いことになるなんてぇ……ひっく……知らなくてぇ……っ……」

「く、ははっ……違う、違うっ……深山、それは違うっ」

「ふぇ……?」


 せっかくなので、フル活用してやろう。


「こ、これだけつらい思いをするってわかってても……それでも、どうしても、深山に触りたかったってことだろっ? なっ? ここ、喜ぶところだからっ……!!」

「――っっ……!!!」


 そうだ。

 性欲減退しててその気が無いのに触るほうが、きっと深山を悲しませることになるのだから……単に後から俺が気持ち悪くなるだけの、こっちのほうが遥かにマシだった。

 むしろこうして体現してみせるという踏み絵のような、その利用価値があった。

 ……ほんとにつらくて……もう二度と御免だと心からそう思うけど。


「また……深山、触らせて、くれ、よなっ……?」

「は、はいっ…………!!」


 これ以上無く、精一杯のキメ台詞を吐いて――


「きゃ、きゃあああああっ、香田君っ!?!?」


 ――これ以上無くカッコ悪く気絶した俺だった。



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