【断章】想い
「――ほら、入れよ」
よくもまあ、ずけずけとこの無駄にパンクな男は。
最初、そんな印象だった。
まさに大胆不敵。
遅刻して締め出された自分たちふたりは校門の前で茫然としていたはずなのに……あの人は躊躇することなく門を力任せにほんの少し――身体がギリギリ入るぐらいだけこじ開けて、こっちへと手を伸ばす。
「見つかったらやべぇって……」
「バレなきゃ、無かったことと変わらない」
ワタシも手を伸ばす。
――これは入学したての桜舞い散る爽やかな頃。
まだ互いの名前も覚えていない、そんな一幕。
子供だった。
高校生にもなって……身なりばっかり整えて、プライドばかり固めたワタシの心は子供のままだった。
「マジでアイツって何考えてんだかさっぱりわかんね~よねぇ?」
「ああいうスカしたのに限って内心ムッツリとかじゃね?」
「うわっ、それキモッ!?」
「きゃははははっ」
……ハハハ。マジで恥ずかしい。
そりゃラブラブな深山も顔を真っ赤にして怒るさ。
今ならワタシも良くわかる。
だって、今、ワタシがマジで顔を真っ赤にして怒ってるんだもん。
好きなヤツをイジるとか、マジ小学生かっつーの。
真正面から告ることも出来ないワタシは歪んでて、だから言いたいことをハッキリと言ってくる深山をマジで尊敬してた。あの時までは。
「――……香田君、にっ……近づける、かなぁ……って……ぇ……」
ハ? 何それ?
近づくだけために呼びつけたわけ?
っていうか深山、香田が好き、とか?
それでワタシを利用した? 香田のこと好きなワタシに??
「週にっ……二回ぐらい……え、ぐっ…………」
……汚らしい。
何それ。キモイんですけど。
マジでそんなことするヤツいたんだ??
――って、はぁ??
ちょっと待ってよ、何それ!?
「そうじゃない。勝手な想像で誰かを汚すのが好きじゃないの」
そう偉そうにお説教してた、お前がそれかよ????
汚ぇの、お前じゃんかよ!?
利用された!!
それも香田の前で良いカッコつけるためのポーズで……。
いいように利用された!! 踏み台にされた……!!!
ワタシの気持ちも知らないで、利用されて。
もう目の前が見えなくなるほどワタシは頭にきて。
どうしても許せなくて。
……わかってる。
わかってるんだ、もう。
深山は『ワタシの気持ちを知らない』。
アイツは悪くない。
悪いのはワタシ。
一週間ろくに眠ることも出来ないぐらい、本気で反省した。
でももう手遅れ。
仕組みは出来上がっていた。
ワタシは止まれない。明かせない。
「いい加減、に、しろっ……消せっ!!!」
「死んでもいやあああっ!!!!」
「……どうして……そこまで、する……?」
言えるわけねーだろ。バーカ。





