#028 えくれあ
「――ったく……チャットの返事ぐらいしなさいよ」
『色々あったんだ……ごめんね~(´・ω・`)』
「それで? 何?」
『これから戻る。良いアイテム手に入ったんだ☆(ゝω・)』
「へぇ……それで許してって?」
『絶対これからの戦いが楽になるよ~!』
「まあ中身を見てから判断するわ。いつぐらいに戻るの?」
『実はもう、目の前まで来てる……あと一0分ぐらい(・ω・)』
「そ。じゃあさっさと来なさい。私だって暇じゃないんだから」
『……ほかのみんなは?』
「今、リアルではまだ平日の夕方よ? 私以外いないわ』
それで一方的にチャットを切ると倒木を組んで拵えたアジトを出て、見晴らしの良いこの丘から目前の草原を見下ろした。
まったく凛子のヤツ、調子良いんだから……散々私からのチャットを無視しておいて今さら許されるとか、本気で思ってるのかしら?
このままじゃリーダーとしての示しがつかない。
年上を舐めた罰をたっぷり味わわせて調教しておかないとね。
「……ふふふ」
その場面を想像して今からゾクゾクと込み上がる感覚。
自分でも歪んでると思うけど、まあ仕方ないわよね。
あの子が全部いけないのよ。
「私って、酷い女ねぇ」
そう呟きながら凛子を待っていると――
「――あんたが<えくれあ>か」
あら。ちょっとイケメン。
西日を受けながら、背の高い男が横の樹木から私の目前に姿を現した。
まだ若くて『可愛い』って感じだけど、ギラギラしたその野性的な瞳は嫌いじゃない。
レベルからしてまだ初心者でしょうに……こうして視線がぶつかっても、一切揺らがない。まるでこれから獲物に跳び掛かろうとしている獣みたい。
名前の表記を確認すると『香田孝人』……まるで本名みたいね。
生真面目そうな性格が伺えるわ。
「どちら様? ここがミルフィーユの本拠地と知ってのご来場? もしかして、お客様かしら?」
「……」
その突然の若い来訪者は返事もせずに右手を空へと掲げると。
「――プロトコル<エントリー>」
聞いたことも無い呪文を唱えた。
とっさに私は座っていた木の椅子から飛び降り、後ずさる。
何? PK狙い? 始まりの丘で、ひとりで??
「……何よ、おどかさないで」
何も状況に変化は無い。
ステータスも念のため確認したが、これも変化無し。
若い彼は、深く息を吸うと――
「<香田孝人>は<えくれあ>の絶対的な神に等しい存在である。絶えず最大の敬意を払い、その言葉に逆らうことは決して出来ない」
――そんな不思議なことを言い出した。
「以上」
「はぁ? 何の冗談よ、それ」
自分のこと、神って? 何様?
逆らえないって、どういうつもり??
「いいえ。キミは私の神様なんかじゃないわよ? クスッ。ほら、逆らっちゃったけど、神様、どうするワケ?」
一瞬、まるで誓約の文のようなニュアンスを感じて焦ったけども……やはりそんなデタラメなんてブラフにすらならない。
「お姉ちゃん……逃げてぇっ!!!」
「えっ、ちょ、凛子っ!?!?」
そこに飛び込んできたのは、涙ながらに叫ぶ凛子だった。
「……姉?」
若い彼にとっても凛子の登場は想定外のことだったらしい。
そんなことをつぶやき、少し目を見開いて動きを止めていた。
「そ、そいつ<アナザー>なのっ……!!! お姉ちゃんの誓約紙にっ、勝手に書き加えられちゃう……!!!」
「はぁ!? そんな都市伝説――」
「――いいから、こっち……!!!」
すばしっこい凛子に引っ張られて、まるで転がるように物陰に隠れると。
「――インビジブル」
左手から光る球体をポップさせながらそんな宣言を唱える凛子。
同時に私の身体が補正効果適用の淡い光に包まれる。
「凛子、アンタ、そ、それは何っ」
「インビジブル――少しの間、これを使ってあいつから姿を消したの……これでやり過ごせる」
「何それっ!? どこで手に入れたのよっ!!」
「アイツから奪った……!!」
超レアアイテムじゃない、それっ!!
凛子のくせに……褒めてやるわ!
「――どこだ!! どこに隠れやがった……!!!」
「っっ!!!」
会話に割り込むように、すぐ近くで若い彼が叫ぶ。
思わず私たち姉妹は西日によって伸びる影の中で、身を屈めて黙った。
「しばらく声も聞こえないから大丈夫。お姉ちゃん……これ、見て」
「えっ」
私は凛子がポップした誓約紙を見て、愕然とする。
『貴重と思うアイテムは全て<えくれあ>に渡さない。』
『<ミルフィーユ>から抜けるには<香田孝人>の承諾が必要。』
『得た経験値は<香田孝人>に殴られることで10%ずつ奪われる。』
「あいつ……アナザーなの……私の誓約紙の内容、こんな風に書き換えられちゃった……」
『アナザー』。私が求めてる究極のレアアイテム。
都市伝説とか言われてるけど、もし存在するならきっと数千万円の高値で売れるはず。
「嘘……そんなこと」
念のため、指でなぞってみるが……やはり誓約の文字は消えなかった。
俄かに信じられないけど、でも確かにあの若い彼によって凛子の誓約紙の内容は書き換えられてしまったことになる。
つまり、凛子のそのレアアイテムも私には――
「――何、これ?」
「あっ……」
続く新たな誓約を指さして、凛子は顔を露骨に曇らせた。
『りんこは、右手を上に掲げて<プロコトル・エンター>と宣言した』
『相手を唯一絶対の<支配者>として認めなければならない。』
「何これ……アンタ、違うヤツのスレイヴになっちゃった訳!?」
「う、うん……アイツ……香田が……今の、私のご主人様…………」
「この馬鹿!!」
凛子の頬を平手で叩くと、誓約紙の続きを読む。
『<支配者>が右手を上に掲げて<プロコトル・ラン>と宣言する度、』
『りんこは<支配者>に全ての金品を差し出さなければならない。』
「ふざけないでよっ!! これ、完全に横取りじゃないのよ!!!」
「ごめんなさい……お姉ちゃん……助けて……助けて欲しいよぅ……」
「助けるって言われてもねぇ。アンタのドジでこうなっちゃったんでしょ!?」
「これ……ここ……」
続く誓約を凛子は指さした。
『<支配者>が<プロトコル・デリート>と宣言すると』
『りんこは<プロトコル>に関連する全ての誓約から解放され、』
『その該当する全ての誓約の文章は消滅する。』
「お姉ちゃん……私の支配者になって、この酷い文を消して欲しい……」
「……」
待って。つまり、これ。
「……いいわ。私が助けてあげる」
「っっ!!!! ほ、ほんとっ!?!?」
大げさなほど凛子が驚いて、目を輝かせている。
涙まで見せて……ほんと大げさ。
「まず……こっちの宣言が先ね? ――プロコトル・エンター」
右手を上げながらそう宣言すると、特有の淡い光が現れる。
「うん……それでお姉ちゃんが、私の支配者になったと思う。じゃあ――」
「――プロトコル・ラン」
茶番も面倒。
さっさと私はそう宣言する。
「――そう、なんだ……助けて、くれないんだ……?」
細かく震えながら、凛子が所持しているアイテムをひとつひとつ手のひらの上にポップさせ続ける。
「当たり前じゃないの、そんなの。経験値は回収出来ないことになるけど、まああの冗談でつけた誓約の続きを、ふたりでまたやりましょう?」
「――プロトコル<ラン>。もういい。しゃべるな。動くな、お前は」
「え」
いつの間に、あの彼が背後に……?
それより、私たちの姿――
「――……」
――動け、ない。口すら、動かせない。
「凛子……ごめんな」
「ううん……香田、ありがと……」
そう言いながら……彼は、凛子の誓約紙へと指を滑らせた。
『全て』。凛子に書かれていた全ての誓約の文は一瞬で消え去った。
「さて……じゃあ、動いていい。特別に許す」
「――はあっ……はあっ……!!!」
ようやく呼吸することが出来た私は……両手を地面について荒い息を繰り返す。
香田様によって許された呼吸のありがたさを――……は? 何、それ??
「ちょっとぉ……ちょっと、ちょっと凛子ぉ!?!? 何よ、これはぁ!!!」
「……っ」
凛子は香田様の――ああ、腹立つわねぇ!!!
香田、様、のお姿の後ろに隠れるようにして、黙ったままうつむいていた。
「アンタ、この香田、様、にぃ……っ、いいように利用されてっ!! 言いくるめられて裏切ったのねっ!?!?」
腹立たしい。凛子が。あの凛子が、裏切るなんて!!!
「えくれあ。とりあえず凛子から奪ったアイテムを全て本人に返却しろ」
「はあっ!? そんなの――――……あ、がっ!?!?」
勝手に、手が!? 手が動いてっ!?!?
「……これだけか。残りはどうした?」
「売り、まし、た……ぁ……」
奪われた、実質、全部奪われた……!!!
凛子のせいだ!! 裏切者の凛子のせいでこんなことに……!!!!
「できそこないのくせにっ……私を裏切るなん――……」
瞬間、私は息を詰まらせた。
香田様からの命令があったわけじゃないのに……全身が動かない。
「――お前か」
それは……形容しがたいほどの、暗く、突き刺さるような視線。
今まで経験したことのない『何か』で私は震えだした。
西日の影に隠れた香田様のお顔は暗くてよく見えなくて。
だからなおさら香田様からの、むき出しの視線があまりに……鋭くて。
全身が震えて止まらない。
……怖い。何、これ。怖い。怖い、怖い怖い怖い……。
「お前が、凛子の心をこんなに傷つけた……その犯人でもあるのか……」
遅れて私は理解した。
私は生まれて初めて、殺意、を目の前にしているのだと。
「こ、殺さな、い、で……」
「ああ。安心しろ……殺さないでやる」
ああ……香田様の御慈悲を受けて……私は極度の緊張から解放される。
「っっ……お、お姉ちゃん……」
――見るなっ!! 凛子のくせにっ……!!!
そんな同情の目で見下ろすな……!!!!
香田様の慈愛を受けて失禁している私の姿を、見るな……!!!!
「……お前は賢いんだな」
「あ、ありがとう、ございますっ……!!!」
「自分より綺麗なもので自分を飾るなんて」
「はい……?」
「糞尿以下の、醜悪なお前らしい判断だ」
「――――っっ……!!!!」
突き刺さる。
香田様の一言一言全てが、私の心に突き刺さる。
「ああぁぁあぁぁ……っっ……!!!!!!」
糞尿以下!!
私は、糞尿以下の、醜悪な存在……!!!!!
「なあ……姉妹、なんだろ? お前は凛子の実の姉、なんだよな?」
「は、い……私は……凛子の……姉……です」
「どうしてそんな汚いことが出来る? 大切な家族、だよな……?」
香田様は……なぜだか酷く悲しいご様子で……涙まで浮かべてらっしゃる。
きっと優しく思慮深い香田様は私なんかでは到底考え及ばないことを感じ取り、泣いてくださっている……こんなにありがたいことはございません……。
「えぐ、ぅ……ひぐっ……えうっ……」
「お前が泣くな。気持ち悪い」
「も、申し訳……ござい、ませぇんっ…………!!」
気持ち悪い。そう、私は気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪いのだ。
香田様がおっしゃられるのだから間違いない。
糞尿より醜悪で汚く、気持ち悪い。
今まで美しいなどと自分のことを思い込んでいたことが恥ずかしい。
「もういいよぅ……香田、もういいから」
「凛子ぉ!! お前何様だあっ!?!? 香田様を気安く呼び捨てにするなああああっっ!!!!」
「――少し黙れ。耳が腐りそうだ」
「っ……!!」
神にも等しい――いいえ。神そのものであられる香田様から声を掛けられて、私はそれだけで天にも昇る思いです。
永遠に言葉を発せられなくても、もう充分でございます。
「凛子は、俺の恋人だ」
「ちょっ、こ、香田っ……!」
「いいから。少なくとも俺はそう思っている。大切な存在だ」
「あ、ぅ……」
あの香田様の、恋人。
であれば、凛子、様もまた、神にも等しい――……そんな、わけっ、ないっ!
「ぐっ、がっ……ぁ……!!!」
認めない。認めない。凛子なんて、絶対に認めない。
無自覚で。何も努力してこなくて。
コイツは何もしなかった。人が苦しんでいる時に、何もしなかった。
裏切者なんだ。許すわけがない。年下だからって、妹だからって。
何をしても許されるわけじゃない。
「凛子をもう傷つけるな。姉らしく優しくしろ。……返事を特別に許す」
「がっ……か、しこまり、まし、たぁ……」
嫌だっ……誰がそんなことを……!!
「あぁ……いや、違うか。これじゃ意味が無いのか」
「……?」
香田様が少し思案を巡らせるようなステキな顔をされて。
「本音をありのまま話して良い。許す」
「ふざけんなああああっっ!!! 殺すっ!! 絶対に殺すっ!!!!」
「……まあ、そんなもんだよな。凛子のことはどう思ってる?」
「はあ!? そのできそこないなんて――」
「――ああ、悪い。やっぱりやめてくれ。本気でお前を殺しそうになる……」
「ひぎっ!?!?!?」
殺される!? 香田、様、に殺されるのは嫌っっ!!!!!
「なあ、えくれあ」
香田様はそう言って私などの前に屈み、話し掛けて下さる。
ああ……そのお姿……美しい。あまりに輝き、目が潰れそうでございます。
「……その土下座は何のつもりだ?」
「はい。香田様を直視などとても怖れ多く、こうしております……」
「ああ、そう。凛子への謝罪ではないんだな?」
「誰がっ、できそこないの凛子なんかに!!!!」
その瞬間、香田様の手が私などの汚らしい後頭部へと圧し掛かり、存分にその重みを加えて下さりました……光栄で身体が震えております。
「誓約紙を出せ」
「は、い……」
香田様が、私などの糞尿以下の汚い誓約紙に触れて下さる。
「お前のことを罵った俺が言える立場ではないが、しかしそういう暴言はもうやめてくれないか。お前にも何か言い分はあるのかも知れないが、それでもダメだ。これから先、俺の大切な凛子の心も身体も、これ以上傷つけないでくれ」
「はい……かしこまり、ましたぁ……っ」
「じゃあ、自分のこれまでやってきたことを、その姿勢のまま全て思い出すまで考え続けろ。凛子を自分に置き換えて彼女の受けた痛みを想像しろ」
「はいっ……」
「嘘はつかなくていい。自分に罪が無いと思うならそのままでもいい。だから、ちゃんと自分の行いを冷静になって長い時間を費やして見つめ直せ」
「はい……必ず……」
「そしてもし心から反省をしたなら、その謝罪の気持ちを深く心の奥底まで刻み込んで悔い改め、もう2度と同じ過ちを犯すな。その改心が成された時、お前は解放され自由に行動出来る。そういう誓約を入れた…………俺からは以上だ」
「は……い……っ……」
そして香田様は静かに立ち上がられた。
「凛子からは……何か、ある?」
「……お姉ちゃん。私……香田といっしょにいる。私、香田といるとね……不安だけど、凄く幸せなんだ…………だから、ごめん。パーティ抜けるね……?」
そうして2人は別れの言葉もなく、そのまま私の前から立ち去った。
「……」
日が暮れる中、置き去りにされる、私。
汚い私。醜悪な私。
糞尿以下の私。
そんな私は……凛子と過ごしたこの18年間ばかりを繰り返し思い出す。
誕生のその時は、私がお姉ちゃんになるのだと喜んだ。待ち遠しかった。
それからすぐに、両親の愛が全て誕生間もない妹へと注がれることに不満を抱いた。
いままでずっと愛してくれたのに。全てを独り占めしていたのに。
もっと構って欲しかった。見て欲しかった。姉だからというそんなわからない理由で我慢を強要しないで欲しかった。
お姉ちゃんお姉ちゃんと無邪気に懐いてくるその存在が腹立たしかった。
仕方なく私は努力した。そうせざるを得なかった。
勉学に励めば、その分だけ褒めてくれた。努力が報われることを知った。
女として磨けば、男から簡単になびいてくれた。簡単なものだった。
愛なんて簡単に手に入った。
できそこないの凛子とは、歴然の差が付いた。
あんなの、敵じゃなかった。
何の悩みも無く、何の努力もしてないあんなのなんて、話にもならない。
一緒にいたくない。あんなみじめな存在と同じ姉妹と思われたくない。
並ばれたくない。その分だけ私は努力を強要される。
……一緒にいたくなかったのに。
どうしてまだ懐いてくるのか理解出来なかった。気味が悪い。
どうしてこのゲームに私を誘ったのか、まったく理解不能だった。
どうして。
どうして、こんなにしているのに。
「どうして……嫌わない、のよ……」
憎みなさい。もっと嫌いなさい。
そうしたらそのいつまでたっても子供みたいなあの顔を見なくて済むのに。
まるで時が止まったみたいで、呪いのようで、気味が悪い。
いつまでたっても、どんなに大人になっても私が姉であることを、あのできそこないはあからさまに私へと強調してくる。強要してくる。
年齢を重ねるほどにむしろ差は開くばかりだった。より歴然となるばかりだ。
あの、見るからに守られる側である姿が腹立たしい。
腹が立つ。無性に腹が立つ。衝動が抑えられない。
「実の姉妹だからぁ……そんなことが、出来る……のよぅ……っ……」
他人なら、関係を断てばそれで終わる。
他人なら、加減をする。
でも姉妹だから終わりはないし、遠慮なんて出来なかった。
「わかってる、わよぅ……っ!!」
やり過ぎなぐらい、わかってた。
だからこうして香田様に止めて頂けて……本当に救われた気持ちもあった。
いつも、誰かに止めて欲しいとどこかで考えていた。
どうしても、エスカレートしていくこの心が止まらなかった。
でも、悔いる? 反省? どこから? どこまで?
わからない。
何が罪で、何が罪でないのか、わからない。
妹に嫉妬していたことも罪?
親からの愛を独り占めにしていた妹は許されて、孤独だった私は許されない?
わからない、全然わからない……。
「ああぁぁ……ああああぁぁ……っっ……」
でも、意外と早くに私の苦悩は終わった。
この日暮れを苦悶と絶叫の中で過ごし。
夜を絶叫と拒否の中で過ごし。
深夜を拒否と疲労の中で過ごし。
早朝を疲労と絶望の中で過ごし。
朝を絶望と静寂の中で過ごし。
午前中を静寂と無我の中で過ごし。
昼をただ茫然と過ごし。
午後を凛子への追憶の中で過ごし。
また訪れた夕方を喪失感の中で過ごし。
美しい日暮れを込み上がる罪の意識の中で過ごし。
静かな夜を繰り返される懺悔の中で過ごし。
たったの30時間ほど、この姿勢のまま無限に感じるほどの思考を繰り返し、思い出し、憎しみと悲しみと苦しみと後悔を絞り出していたその時。
「――ひぐっ…………ふ、ぇ……?」
私は異変に気が付いて、無意識に頭を上げる。
カッ……とまばゆい白い光に突如襲われ、その頭が吹き飛んだ。
てっきりこの折りたたまれた足が壊死して腐敗するその時まで、ここから逃れられないものと思っていたのに……そのまま簡単に絶命したのだ。
こうして愚かな私は、香田様からのお許しも待たず、死という身勝手な解放を得たのだった――





