#083a 這い寄る偽影《ぎえい》
「ではさっそく行ってみましょう……! 記念すべき第一回公式決闘大会の本戦、第一試合をこれより開始したいと思いまーすっ!!」
司会者のその宣言と共に、開始を告げる盛大なファンファーレが青空に響き渡る。飛び散る擬似的な紙吹雪と足元から届く地鳴りのような歓声。
こうして決闘大会は始まった。
「さて……どうなることやら」
自分なりのバランス感覚でやれることをそれなりの期間やって来た。
その集大成が今日これから試されるわけだ。
「そういうわけで皆さま、誓約紙の裏面をご覧くださーい!」
「裏面?」
えりりんからのそのアナウンスの通りに誓約紙の中から……そうだな。念のため『誓約紙f』を取り出した。
『f』とナンバリングされたこれは、最後の1ページだけを切り取ったもの。
この単体だけで見れば無記入状態の何の変哲もないただの誓約紙で――つまり簡単に言えばダミー用ってわけだ。
ちなみに『a』が辞典のような束で記述用。
『b』~『e』がそれぞれ柱用となっている。
「……あれ」
ポップさせた誓約紙fを手にすると裏返して眺め、そして思わず声が漏れた。
普段は島の抽象的な地図が描かれているその裏面に、こんな感じでトーナメント表が現れていたのだ。
【6】などと括られているのはおそらく直近のランキングだろう。
その表記の隣りに俺たちのチーム名『火竜』が書かれているから間違い無い。
対して<8>などと括られているのは予選の順位かなと推察することができた。
ならば①と書かれているのが――
「ご覧の通りまずは予選第2位、チーム『らばうと』の皆さんこちらにどうぞ~!」
――やはり試合のナンバリングか。
司会者のえりりんさんが示した右の手のひらの先。舞台となる六角形フィールドの端に、数秒の間があってから5人のむさ苦しい男たちの姿が突如として現れた。
「主力メンバー1名がログインしてこないという想定外のトラブルに見舞われながらも予選2位にて通過はお見事の一言! 圧倒的な近接での制圧力が記憶に新しいですっ。ではさっそくチーム紹介と共に今回の意気込みを聞いてみましょうか!」
「ちわッス! チーム『らばうと』のリーダー、『とらもの』ッス! オレらのチームはリアルの部活が元で、それから――」
「インタビューするのかよ……」
正直なところそういうのが苦手だから軽く舌を巻いたが、しかし事前に知ることができて良かった。突然マイクを向けられたらいつぞやみたいに軽くパニックになっていたことだろう。
「あの、香田君」
「ん?」
頭の奥に直接響くようなインタビュー音声が中継されているそんな中、たぶん俺にしか聞こえないような微かな声が隣りから届いてきた。
くい、くいっと俺のシャツを小さく引っ張りながら深山が呼んでいた。
「どうしたの」
「こんなこと言っちゃうと、怒られてしまうかも知れないけど。でも……香田君。ここまで本当にありがとう」
「ありがとう、ってまだ何も――」
隣りで微笑む深山が俺の唇に指をあてて言葉を遮り、小さく首を左右に振った。
「香田君がわたしのために色々なものを犠牲にして、努力してくれたことのお礼を言いたいの。まだ早いってわかってる。わかってるけど……伝えたいの」
「……どういたしまして」
お礼を言うのは優勝してから、とかそういう言葉を全部呑み込んで。
「深山のおかげでここまで楽しかったよ」
「うん……わたしも毎日が楽しいの」
「それは良かった」
結局、それが聞きたかった。
それこそが俺の究極の目的。こんな世界に閉じ込められてしまった深山に日々の幸せと喜びを与えたい。ただそれだけ。
きっと深山もそのことはよくよくわかってるはず。だからこそ今、俺にとって一番大切なその言葉をこうして伝えてくれているのだと思う。
つまるところ、『優勝しなくてもいいから』って深山は俺にそう伝えてくれている気がする。
もし負けてもすでに充分だからって。
あるいはもう願いは叶ってるよって。
たぶんそう伝えてくれている。
「ありがとう」
「もうっ……今はわたしがお礼を言ってるの!」
「うん」
ぷくっと膨れてみせる、どこかあどけない表情の深山。
思わず可愛くてその膨らんでいるほおを指先でつついてしまった。
「それ、可愛い」
「っ……!」
見る見る間にそのほおが紅色に染まる。
ちょっとした何気ないやり取りだけど、心が充実していく。月並みだけど幸せな瞬間ってヤツを実感した。
「頑張らないとな」
「はいっ」
深山の意図はさておき、むしろ俺はより一層勝利したいと心の底からそう思った。
『今で充分』って言われて天邪鬼な心の作用が働いたのもあるだろうが、何より深山を助けるための挑戦だというその初心が蘇ってきた感じだ。
現状ですでに深山がハッピーだというのなら、もし忌まわしい誓約から解放されて自由にリアルへと戻れるようになったら……果たしてどんなに喜んでくれるのだろう?
もっともっと深山に感謝されたい。喜んでもらいたい。
だから俺は、さらにモチベーションを高めていた。
「――ありがとうございました。以上、チーム『らばうと』の皆さんでした~!」
正直さほど興味も無かったから仕方ないが、いつの間にかインタビューが終わっていた。
いかんいかん。情報収集しないと。
「続きまして対するは……ランキング第10位、チーム『スミス』の皆さんです。こちらにどうぞ~!」
舞台の真ん中で、今度は左手を差し出す司会役のえりりんさん。
……そういやランキング10位って誰だっけ?
「さて、行ってくるとすっか」
「ん?」
振り返ると手足の長さが特徴的な細身の――たしか『ジャック』という名前の男がそうボヤきながら大げさに首の辺りをガリガリと掻いていた。
「……」
いつの間にそこまで近づかれていたのだろう?
少なくとも誓約紙fを取り出すため軽く周辺を見回した時には、決してあの特徴的な姿は存在してなかった。
「おーい、お前ら。行くぞぉ!」
同じこの平台の上でたむろっていた数人の集団へと振り返ってそう声を掛けると。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるワ」
面倒そうに再び首をガリガリ掻きながら軽く周囲に手を振り、姿を瞬時に消す。
同時にワッ……と足下の席から歓声が響いてきた。
振り返って確認すると案の定、先ほどまで俺たちの背後に立っていた細身のあの男が六角形の舞台に立っていた。
さっきのは彼の登場への歓声なのだろう……やや不気味な風貌だが、かなり人気はあるようだ。
「南口より登場は<這い寄る偽影>のジャックさんを擁するチーム『スミス』の皆さんです! ぜひチームの紹介と共に意気込みをお聞かせください!」
「ねぇよ、んなもん」
ドッと観客席から笑いが届く。
「まあまあそう言わず!」
「エリちゃんさぁ、オレのこと本当にわかってんの?」
「ええ、それはもう! ランキング常連のジャックさんですから!」
「ちげーよ、聞いてんのは性格とかについてだ」
「いつもそんな感じで飄々としてらっしゃいますねぇ」
「じゃあオレの過去最高ランクは?」
「えーと……半年前の3位でしたっけ?」
「正解。エリちゃん、やるじゃん?」
「はい、プロですから!」
「じゃあそういうことで紹介おしまい。そんなオレがリーダーのチームってことで!」
「はいっ?」
「いいからさっさと始めようぜ?」
「あのぉ、せめて意気込みは――」
「――待ち切れねぇって言ってんのォ!!」
「ひゃっ、で、ではそういう意気込みということでっ、第一試合です! 開始5秒前……4……3……2……1――」
司会のカウントダウンに合わせて周囲の観客も声を揃えて叫ぶ。そして。
「――デュエル・スタート……!!」
ビーッという機械音が響き渡り、本戦第一試合の決闘がいよいよ始まった。
「え。あれ……っ!?」
まず本能的な直感として、ゾッとした。
遅れて理屈が追いついてくる。
『俺たちの最初の試合がジャックたちのチームでなくて良かった』と心底そう思った。
「あれぇ? コーダァ~。この試合って5対5だっけぇ?」
「ううん……違うわ。岡崎さん」
その岡崎からの質問に答えたのは、顔面を蒼白にしている深山だった。
「だって……居ないじゃん?」
「そうだな。居ないな」
「はへっ?」
ようやく岡崎も遅ればせながら状況が呑み込めたらしい。
そう。さっきまで司会に食い掛かるように叫んでいた異様に手足の長い男――ランキング第10位のジャックは、その全身黒づくめの姿を一瞬で消し去ったのだ。
そこから察することのできる事実は恐らく3つある。
まず、『その効果はたぶんユニークアイテムである』ということ。
特に呪文らしきものは一切唱えてなかった。
今もこうして臨場感たっぷりに両耳から互いのチームの掛け声が聞こえることから察するに、眼下で舞台に立っている全プレイヤーの音声はすべて中継として観戦者の俺たちの耳へと余すことなく届けられる仕組みのようだ。
なので何か特殊な裏技的なものでも無い限りは『唱えてなかった』と断言できる。
付け加えるなら、その姿を消すことのできるジャックのユニークアイテムというのは使用者本人――あるいはもしかしたら指定した対象者ひとり、だけに効果の対象が絞られることまでは推察することができる。
何故ならアイテムには大きく分けて2種類あることが、今までのEOE内での経験として把握できているから。
まず1種類目は効果が範囲全体に及ぼすタイプのアイテム。
移動方法として重宝していてる『アンスタック』なんかがこれに該当する。
『誰か』ではなく、使用者から半径3m以内という範囲に居るあらゆるプレイヤーを無差別に転送するこのアイテムは、『アンスタック』と宣言しなければ使用することができない。
恐らくそれが範囲を対象とするアイテムへの使用ルール。強力ゆえのひとつの制限と解釈することができる。
そして2種類目は、効果対象が所有者本人――あるいは指定した対象ひとつだけに効果を及ぼすタイプのアイテム。
例えばアイテムを増殖する『フェイク・メーカー』なんかがこれに該当する。
……いや、普段から何気なく使っている武器のほうが解りやすいだろうか?
アイテム欄から選び出して手の上にポップさせたそれらアイテムは、手に持つことで具現化と同時に特に宣言もなくそのまま『攻撃力が増加する』という効果が得られる。
つまり特に宣言らしいものが聞き取れなかった以上、ジャックの持つユニークアイテムは1つの対象のみの姿を消す効果なのだと推察することが可能なわけだ。
「やべーって!? それマジでやべぇっしょ!!」
忽然と姿を消したジャックの存在を知って岡崎が叫んでる。
軽くパニック状態と言っていい。
観戦しているだけの俺たちでこの衝撃だ。今、あそこの舞台に立つ対戦相手、『らばうと』の面々はそれどころの話ではないだろう。
事態に気が付いたのか……それともすでに有名人のユニークアイテムだから周知の事実だったのか、『らばうと』の5人は互いの背を守るように外向きの円陣を組み、それぞれが狂ったように闇雲に武器を振り回していた。
「ずいぶんな余裕だな……」
もちろんそれは『らばうと』の面々に向けての言葉ではない。姿を消した『ジャック』に対してだ。
彼は開幕早々、いきなり姿を消した。
それはつまり効果の持続の長さがかなりのものだと暗に証明していた。
もし数秒しか効果が持たないのなら、当然ながら開幕直後の互いのチームの間合いが離れているこの状態で使用するはずがない。衝突する直前で使用するだろう。
そして付け加えるなら、驚くべきことに恐らくこの姿を消すというユニークアイテムは出し惜しみするレベルの『奥の手』ではないってことだ。
「デモンストレーションとしては文句ないインパクトだな」
実際のところ、単にプレイヤーのひとりが姿を消しただけの話である。
まだ誰も攻撃を受けてすらいないというのに……対戦相手側の精神的なプレッシャーは計り知れない。
――いや、影響はそれだけではないようだ。
「うあああっ……!!!」
互いの背を守るように外向きの円陣を組んでいる、というのはつまり『一ヵ所に集まってしまっている』という愚劣な陣形を強いられていることを意味していた。
その寄り集まって固まってしまっている者たちに対して今、強力な『ファイアブレス』という上級の呪文が唱えられ、5人全員が等しく大ダメージを食らってしまっていた。
さすが予選を通過するほどの高レベルプレイヤーだからか『らばうと』側に今の攻撃によって即死した者は誰もいない。
しかし同時に、このままだとじり貧なのは誰の目にも明らかだった。
ジャックを擁するチーム『スミス』のメンバー構成はリーダーの彼を除けば戦士タイプが2に魔法使いタイプが3と、やや戦力が魔法使いに偏った内容。
その三者がそれぞれ三方から取り囲むように中間距離から呪文を唱えている。
戦士タイプに特化している『らばうと』にはこれは厳しい。
あまりにも一方的な嬲り殺し状態の様相を呈していた。
「くそぉ!! お前ら、南に突っ込むぞ……!!!」
開始直前のインタビューに応えていた『らばうと』のリーダー『とらもの』が吠えた。瞬時にその意図を理解したチームのメンバー全員が、一斉に――
「――させねえって」
「は……?」
俺は不覚にも声を出して我が目を疑った。
それはあまりにも悪意に満ちた……しかしこれ以上ない効果絶大な不意打ち。
突如としてジャックは姿を表した。
『らばうと』が互いの背を守るために組んでいた円陣の、その真ん中に。
まるでそれは相手の愚策をあざ笑うかのような出現場所だった。
「そぉれ……!!!」
長い手足と同様、人外と思えるほど長い舌をだらしなく伸ばしながら、ジャックはその場で華麗にターンした――否。刃渡り50cmほどのショートソードを周囲360°に走らせ、薙ぎ払った。
それがまた、悪質。
かすり傷と言えるほどに浅くはないが、しかしどれも致命傷には至っていない。
本当に勝つことを優先するならばそんな華麗なターンなんて決めず、今ここで1~2名でも確実に刺し殺すべきだろう。
そこからは『簡単には殺さない』という勝利以外の意図がはっきりと見て取れた気がした。
「ぐっ、こ、このっ……!!!」
当然のように5人の『らばうと』のメンバーたちは慌てて振り返り、背後に現れたその不快な男へと逃すまいと取り囲んでから一斉に切りつける。
「ハッ……!!」
ジャックが三白眼のその細い目を限界まで見開いて吠える。あるいはそれは笑い声だったのかもしれない。
次の瞬間、何の前触れも無く黒い霧となって彼の姿が四散した。
その微かに残る黒い霧へといくつもの大剣が襲い掛かるが、当然ながら何かを捕えたような様子もなくすべて素通りしていく。
「うぎゃあああぁぁ!?!?」
ふと、小さい頃に遊んだレトロな格闘ゲームを思い出した。
画面の中の自機が敵からの強烈な膝をカウンターで食らった瞬間、俺も似たような声を上げて叫んだ。
――それは画面の中のキャラクターのダメージであって、別に俺自身は何も痛くなんかないのに。
たぶんそれと同じような感じなのだろう。
がら空きになっていた背中に魔法を食らい、痛覚最低の設定にも関わらず条件反射的に、まるで死にそうな声を出して『らばうと』のメンバーひとりが叫んでいた。
自分たちの円陣の中心へと振り返ったのだから、外側から攻撃されるのは必然。
「散れっ……散れぇ!!!」
だから決して間違った判断とは言えない。
ただ単に全部、後手後手なだけ。
リーダーの『とらもの』がそう叫んで、良くも悪くも完璧に統制の取れていたメンバーたちはようやく散り散りに別れ、それぞれに標的へと向かう。
恐らくは最終的に、こういう展開に仕立てたかったのだろう。
なぜならばジャックは楽のヤツと同じ『盗賊』かそれに近い職業で、実はさほど近接が強い訳ではなさそうだからだ。
そして推察するまでもなく、姿を消すあのユニークアイテムの使用回数は何らかの上限があるに違いない。
つまり使用回数が尽き、数的な優位で押し切られ、回避不可能なハメ状態に追い込まれるのがジャック側の最悪のパターン。
だからこその、この誘導。
内側から不意を突いて相手を混乱させ、チームを散り散りにさせた。
「ヒャッ、ハァ……!!」
ジャックはまず北へと向かった男の背後で姿を現し、そのまま死角からダガーで胴体を突き刺した。
死亡――いや、体力が0になって気絶するのを確認することもなく、姿を現したそのままの状態で東へと一直線に疾走する。
散り散りの状態となった今、満を持してレベルと移動速度に勝るジャックが対戦相手を個別に仕留めるという締めの作業に入ったのだ。
見る見る間に2体・3体と気絶状態になっていく『らばうと』の面々。
数秒の間を置いて崩れ落ちたその身体は場外へと順次、転送されて行く。
「はい、お疲れサン、っと!」
「ひいっ……!!!」
最後に残ったリーダーの『とらもの』は背後から首を半分ぐらい切り裂かれ、派手に赤い霧を四散させて顔面から崩れ落ちた。
――ビイィィ……!!
「はいっ、それまでです!」
人工的なブザー音が鳴り響き、追って司会役のえりりんさんが良く通る声でそう叫んだ。
同時に六角形の舞台を取り囲むように存在していた、薄らと輝く結界のような光の壁も瞬時に消えて無くなる。
「本戦第一試合の勝者は、チーム『スミス』の皆さんでした~!」
煽られ、ワッと爆発的に膨れる歓声。
長い手を伸ばし、それに応えるジャックたちの上へと降り注ぐ擬似的な紙吹雪。
そして舞台の頭上――俺たちの目の前の空間にはホログラムのように勝者たちが大写しで現れていた。
「リーダーのジャックさん! 素晴らしい完勝でしたね!」
「あ……? 何これ? ヒーローインタビュー的なヤツ?」
「はい、そんな感じですね! さっそくですが今のお気持ちは?」
「――おい、3位」
司会の質問なんてお構いなしという感じで、ジャックは頭上の平台に立つ俺へと真っ直ぐに見上げてそう呼んだ。
「え」
このコロシアムに居るほぼすべての者からの視線が、俺へと一斉に集まる。
その圧倒的な視線による圧力に不意を突かれ、脚が勝手にガクガクと震えた。
3位って……俺? 何で、ここで俺っ!?
「レベル1のお前サンが3位ってこと、心から感謝するぞ? 次を勝てば実質ベスト4確定とか、ここのブロックってばもう最高……!!」
爬虫類を彷彿とさせるような長い舌を出して口を歪ませるジャック。
「あっ……! ここの『NoName』って香田君なのっ!?」
深山は誓約紙裏に書かれているトーナメント表の、右上を指さして俺へと見せてくれた。
さっきはじっくり確認する暇も無かったが……確かに右上のシード枠には【3】とランキングを表す数字が書かれていた。
「お礼がわりに丁寧に三枚に捌いてやるから、首を洗って待っててくれや?」
「……っ!!」
この決闘大会は設定として、ダメージによる痛みはほぼ無い。
しかし痛覚がほぼ無いからと言って、何をされても平気というわけじゃないだろう。
それについてはさっき、条件反射的に叫んでいた『らばうと』のメンバーがそれを間接的に教えてくれている。
自分の身体がゆっくり三枚に捌かれるのを眺めているなんて、どんな精神的な苦痛を受けるのか上手く想像することすら困難だった。
下手すれば一生モノのトラウマを心に植え付けられそうだ。
「やれやれ……参ったな……」
一万人以上の視線が集まる中、俺は精いっぱいの苦笑いをするしかなかった。





