#081a 予選・乱戦・観戦・唖然
それは想像より遥かに乱戦だった。
前衛が戦士。それに守られた魔法使いが後方より迎撃……のような陣形を想像していたし、実際そういう意図を見せていたチームも存在していたが、そんなものは力技により一瞬で瓦解した。
狂ったように戦士たちが敵となるチームの中へと迷いなく突っ込んで行く。
「酷いな……」
第二試合を観戦していた俺は、思わず独り言を口にしていた。
もはや目を覆いたくなるほどの一方的な内容。
結果としては、近接攻撃を主とする戦士タイプの無双状態だった。
確かに呪文は安全な距離から一方的かつ広範囲に攻撃できるが、一撃による瞬殺がほぼできない決定力の不足さがこの大会では致命的な欠点となった。
なぜなら呪文による初撃さえ耐え切れれば、二の撃を放つより先に戦士が魔法使いを切り捨ててしまうからだ。
そう、これが決定力の差。
戦士による直接攻撃は、防御力に劣る魔法使いを一撃によって屠ることができる。
いや……例え一撃で殺せなくても身体能力で遥かに勝るのだから、一度剣の届く間合いに入ってさえしまえばもう魔法使いはほぼ逃げられない。その瞬間から必殺の態勢となる。
予選会場となっているこの広場に逃げ隠れできる遮蔽物もない以上、理屈で考えて魔法使いに分が悪いのは歴然とした事実だった。
もうひとつ明確な欠点がある。
敵味方が入り乱れているこの乱戦状態では、むやみやたらと呪文を放つことができないのだ。
なぜなら呪文は敵味方関係なく範囲内のすべての対象に対し、等しく攻撃が当たってしまうからにほかならない。
そしてその同士討ちは極めて問題に見えた。
相対している敵側への攻撃は警戒している中で正面から受け止められてしまうため大したダメージを与えられないのに対し、味方への誤射は背後から予期せぬタイミングで無防備に食らうことになり、致命傷になりかねない一撃になっていた。
よって、乱戦に突入すると魔法使いは思うように攻撃すら行えない。
もし魔法使いを守ろうと仲間の戦士が止めに入っても、守られている魔法使いはその戦いにただ指を咥えて眺めていることしかできない。
これがもうひとつの欠点。乱戦の優劣を決める決定的な要素となった。
結論。
呪文を適切なタイミングで自由に唱えられない魔法使いなんてものは、楽にポイントが稼げる愉快な標的でしかない。
よってまずは大多数を占める魔法使い狩りが行われた。
逃げ惑う魔法使いを潰す戦士たちの画は、ほとんど虐殺の現場かと思う惨劇。
良く見れば違うチームの戦士たちが共闘しているところも多かった。
『まずは魔法使いを潰してから剣で決着をつけよう』……そんな感じだろうか?
そこからは日頃、地味な役どころに徹している戦士たちのフラストレーションが爆発しているようにも見えた。
『俺たちが守らないとお前たちはこんなにも弱い存在なのだ』。
そう叫んでいるかのようだ。
『――はいっ、第二試合の勝者は<マキシマム>チームでした~!』
実際に勝ち残ったのも、戦士タイプが4人に魔法使いが1人、回復系の……恐らく薬師が1人、という布陣だった。
80mほどの何も遮蔽物のない閉鎖された空間で6チームほどが入り乱れて戦うというバトルロイヤル形式ではおそらくこれがほぼ最適解と感じた。
明日の本戦は1チーム対1チームの対戦だから今日の予選とは勝手が違う。こんなぐちゃぐちゃの乱戦模様には決してならないだろうと思う。
でもそういうことではなくて――
「――……まずいな」
やはり予選を観戦して大正解だった。
想定する第一回戦の相手について傾向が掴めそうだ。
「ふふふ、どうマズイのかしら?」
「KANAさんには関係ないことです」
「あら、つれないの~」
ふー……って耳元に息を吹きかけながらそんなことを言う神奈枝姉さん。
となりの深山をチラリと見ると、うつろな目で会場を見下ろしたまま微動だにせず、逆に恐ろしい限りだ。
「深山」
「え……はい」
手をぎゅっと握ると、ようやくこっちを向いてくれた。
「もう一試合観たら、宿屋に戻っても良い?」
「はい。香田君のやりたいようにしてください」
「ありがとう。岡崎はどうする?」
「んー……コーダを下に降ろしたら、アタシは残って観てようかなぁ?」
『はーい、続いて第三試合開始しますよーっ!』
すぐに司会から次の声が掛かる。
びっくりするほどハイペースな進行だ。
30分に一試合ぐらいだとして……一試合に6チーム。
日中の10時間で消化するなら120チーム。
同時に四つの街で開催しているから……えーと。480チームか。
1チーム6人が普通だろうから、最大で3000弱ほどのプレイヤーがこの予選に参加していることまでは想像できた。
全プレイヤーの何割ぐらいがこの決闘大会に参加しているかは定かではないが、大盛況なのは間違いがない。
「香田君、あの人……!」
「ん? あ!」
深山が指さしたその先には、どこかで見かけた緑色のローブ姿があった。
そう。ダンジョンで出会った緩い三つ編みの魔法使い――確か『ネネリ』と呼ばれていた彼女だった。
その隣には、少しガラの悪そうな彼女のチームメンバーのあの男も立っている。ダンジョンから出るための待機列で先頭に立っていたアイツだ。
「そりゃ焦るわけだ」
予選の第三試合に登録されていたのか。気が気じゃなかっただろうな。
そりゃ代金を払ってでも一刻も早く脱出したいわけだ。
「あら。お知り合い?」
相変わらず俺の右腕を抱きしめたまま離さないKANAさん。
阻止するはずの凛子が今日はそばに居ないものだから、さっきから好き勝手されっ放しである。
「……いや。さっきちょっと軽く話しただけ」
「そう。ねえ考人くん、彼女を良~く観ておくといいと思うわ。今回はちょっと面白くなるかもしれないわよ?」
「ちょっと面白くなる……?」
「ええ、きっとね」
もしかしてKANAさんこそ知り合いなのだろうか?
「ねねりーん、がんばぁ~!」
「はあ?」
背後からの岡崎の掛け声にびっくりしてしまう。
というか呼ばれたほうもびっくりしたみたいでキョロキョロしてる。残念ながらこちらを見つけられないみたいだ。
「何だよ岡崎。いつの間にそんな仲になったんだ?」
「ううん、全然?」
つまりあれか。まったく一言も会話交わしてない相手にいきなりそうあだ名で呼んだのか、お前は……。
正直俺には理解できない。できるはずもない。
その性格、ある意味でうらやましい限りだ。
『では第三試合、開始しまーすっ! 5……4……3……2……1――』
司会のカウントダウンに合わせて周囲の観客も声を揃えて叫ぶ。
そして。
『――デュエル・スタート……!!』
ビーッ、という機械音と共に掛け声が響き、第三試合の決闘が開始された。
「えっ」
開幕からさっそく驚かされた。
いきなり彼女――ネネリが呪文を唱えたのだ。
このバトルロイヤル形式は六角形になっている結界内の六つのコーナー端にそれぞれのチームが集まっている状況からスタートする。
つまり、まだ40m近くは離れているだろうその状況で、だ。
「……届くのか?」
届くとすると、深山の二倍は射程が長いことになる。
もちろん岡崎の創作魔法なら最大射程は60mだが、ネネリと呼ばれた彼女がそれを持ち得ているはずもない。
「あ、彼女も風だったか」
プロトコルによる誓約を交わす時、ブックマークついでに全員の詳細ステータスを確認していたその記憶を呼び戻す。
ネネリの正式な職業名は『緑魔法使い』。
深山の炎属性が『赤』であることを考えれば、それが風属性を尖らせて得られる名称なのは軽く想像がついた。
ついでに言えば、彼女のレベルは目を見張るほど高かった。
たしか、120ほど。
攻撃性能に劣る風の魔法使いということを考慮すれば、これはかなりの高レベルと言って良いだろう。
だから俺は彼女の印象だけ強く、今もこうして職業名を憶えていたその理由でもある。
「ブラストツイスター……!」
観戦していて数秒の間、その唱えた呪文の効果先がどこかわからなかった。
それこそ風の魔法の強みのひとつだろう。無色透明な風は、とにかく効果を発揮している明確な範囲が断定できない。
その呪文は、実はどこの敵チームに向けてのものでもなかった。
六角形のフィールド上の、こちらから見て一番手前にある一辺の中央辺りに竜巻が発生していた。
そこはネネリたちの右隣の、敵チームとのちょうど中間地点。
なるほど、ああやって風の壁を作って側面からの挟み撃ちを未然に防いだのか――と早合点して勝手に納得していたところに、再びネネリが同じ呪文を唱えた。
「……そこ?」
驚くことに今度は最も遠い六角形の辺の、同じく中間地点。手前のネネリたちの居るのが下辺だとするなら上辺の、やはり誰もいないところに同様な竜巻が発生した。
「うっしゃあ!!」
気合の掛け声と共に、ネネリを残した他の五人のメンバーが一斉に左の角で陣形を整えていた敵チームへと雪崩のように突入する。
そして俺はようやくネネリの意図を理解した。
「挟み撃ちの誘導か」
「ふふっ、ネネリちゃんらしい♪」
隣のKANAさんが愉快そうに声を弾ませてつぶやいている。
否定しないところから察するに、俺のその解釈は間違いではないってことだろう。
ネネリは竜巻を用いて、導線を引いたのだ。
六角形の上辺と下辺の中間地点に侵入が難しい障害物を発生させる。
つまりネネリにとって右側面からの攻撃を未然に防いだ形となるのだが、それは相対する他の敵チームにとっても同じことである。
例えば右隣のチーム(c)からすれば、逆に左隣りのネネリチームから戦士たちが襲ってくることはまずないと考える。
何か攻撃があったとしても、たかが風の呪文だ。度外視して構わないと考えるのは普通の判断だろう。
せいぜいこの竜巻のように移動を妨害される程度のことだ。
正面の敵(b)もまた同様。
それぞれサイドからの攻撃の選択肢が現状でないとすると、残るは六角形の左コーナーに位置するチーム(a)へと自然と攻撃の対象は絞られる。
するとどうなるか?
結果としてその左コーナーに位置していたチーム(a)は、上下からの挟み撃ちを必然的に受けてしまう形となるわけだ。
「ブラストツイスター……ッ!」
絶えず切らすことなくネネリは、ただひたすらその二点に竜巻を発生させ続けている。
たったそれだけのことで、乱戦必至と思われていたこのバトルロイヤルはベクトルのはっきりとした戦略的な戦場へと変化していた。
挟み撃ちを受けて手いっぱいな左のチーム(a)以外に不利益は何も発生しない以上、ソロで孤立しているネネリをわざわざ攻撃して潰そうという敵も現状では存在しない。
ネネリが何も直接的な危害を与えない中間地点にわざわざ魔法を発生させた、もうひとつの隠れた意図がそこにある気がした。
「うっしゃ! 一丁アガリッ!!」
当初からの戦略として、一糸乱れぬ行動をしていたことの差は大きい。
具体的にはわざと初動を遅らせて期を伺い、ネネリを除く全員で一気に攻め込んだのが非常に効果的だった。
左のコーナーに位置しているネネリチームの標的(a)は、最初に向かって来た反対側のチーム(b)への迎撃に集中していた。
戦いである程度消耗してきたその背面から、満を持してネネリたちのチームが五人揃って襲ってきてはひとたまりもなかった。完全な挟み撃ちだ。
ほんの数分で敵(a)の陣形が崩壊し、あっという間に殲滅となる。
そして次もまた必然。
先に(a)と争わせていた分だけ残る敵チーム(b)もそれ相応の傷を負っているのだから、真正面から対峙した時の余力は明らかにネネリチーム側が優っていた。
むしろ相手チーム(b)は健闘したと言える。
実際に戦うとネネリチーム側も決して無傷ではおられず、敵(b)側の奮起により仲間を三人も倒されてしまったのだ。
ネネリたちのチームは、ダンジョンで列の先頭に立っていたおそらくリーダー格の戦士タイプのあの男と、あとは回復系のおそらくは薬師の男しか残っていない。どちらも今の敵(b)との闘いで深手を負っているように見えた。
対して右側で唯一生き残った敵(c)は、戦士タイプが三人ほぼ無傷で残っており、一直線にネネリチーム側の虫の息となっているふたりへと雄たけびを上げて突進している。
おそらくそれが一番の敗因だろう。
たかがと軽視していた風の魔法使いへと真っ先に詰め寄っていたら結果は違っていたのかもしれない。
三人が集まらず散り散りになってネネリに襲い掛かれば、もしかしたら勝てた可能性もあっただろう。
――しかし現実はそうではない。
虫の息となっているネネリチームの戦士と薬師のふたりへと敵チームの戦士三人は迷わず詰め寄った。
いや、より正確にはリーダー格の戦士ひとりを標的とする。
なぜならその戦士の彼は仲間の薬師の男を後ろに下がらせて、自ら三対一の状況を作り出したからだ。
敵(c)の三人は、横に広がりながら一気に間合いを詰める。
まず先頭の者からの、横へと払う初撃。これは後ろへと身を反らし寸前のところでかわす。
続けざまに右側から縦に剣が振り降ろされる。身を反らした無理な体勢ではそれ以上回避することも叶わず、自身の剣で受け止めるしかない。
そして残りの三人目の攻撃――左側からの突きにより、ネネリチームのリーダーと思われるその戦士のわき腹はえぐられる。
救おう……あるいは一矢報いようと薬師の男がその突き刺した三人目の戦士へと手に持つダガーで切り掛かるものの、決して深手とは言えない切り傷を与えただけだった。
これで勝敗は事実上決した、と思われた。
ネネリチームのリーダー格の男がわき腹をえぐられ片膝をついたその瞬間、彼を中心として半径3mほどの小さな竜巻が発生するまでは。
「バインドストーム……ッ!」
ネネリが叫んでいた。
――おそらくその魔法は、先ほどまでの『ブラストツイスター』と本質的には何も変わらない呪文に見受けられた。
ただの、移動が困難なだけの竜巻。
ただし効果範囲を極限までせばめ、かわりに風速を最大限まで高められた竜巻。
周囲から集まる空気が空へと渦を巻いて昇って行くのだから、その範囲から外に脱出することはかなり困難だろう。
おそらく立っているのもやっとの状態。
当然それは、術者の仲間にも同様――いや、それ以上だった。
まず筋力も装備の重量も軽い薬師はひとたまりもなく竜巻に呑み込まれ、そのまま天高くへと吹き飛ばされる。おそらく落下ダメージで即死はもはや免れないだろう。
そして残るリーダー格の戦士も文字通り風前の灯。
決闘モードである以上グロテスクな表現は一切なくただ赤い光の粉が舞い散っているだけだが、しかしそれは紛れもなく命の光。
言うなれば血や肉片が飛び散っている状態だった。
誰がどう見ても敵三人より先にそのわき腹をえぐられた彼がこのまま命を散らすだろうと予測ができた。
しかしそれでもネネリは決して呪文の効果を止めはしない。
むしろ効果が途切れるそのタイミングを見計らって再び同じ呪文を唱え、その敵味方混在の四人を取り巻くコンパクトな竜巻を維持していた。
「――……っっ……っ……!!!」
彼は、何と叫んだのだろう。
猛烈な風の壁に阻止されて声はまったく聞こえなかったが、ネネリチームのリーダー格のその戦士は最後、大きく口を開け何かを叫んでいた。
そしてその姿はすべて光の粉となって四散し、風に巻き取られて空高くへと消えて行った。
さて、それでこの戦いの結末。
敵三人を竜巻で拘束して……それでどうなるというのか?
そう疑問を抱いていた思慮の浅い俺は、その昔、我が身に降りかかった悪夢を否応なしに思い出すこととなった。
時計回りに旋風を巻く竜巻目がけ、ネネリは右から左へとその手に持っている長い杖を力いっぱいに振り払った。
先端に装飾として備え付けられている、拳大ほどの赤い宝石。
それが猛烈な風に押され、勢いに乗って竜巻の中で堪えているだけの無防備な男の頭部へと深くめり込んでいた。
「痛っ」
久保に後頭部から撲殺されたあの時を思い出さないわけがない。
遠くから眺めているだけでありもしない痛みを感じ身悶えしてしまう俺だった。
ちょうど空高く打ち上げられた薬師の男が真っ逆さまに落下してきて地面へと激突し、命の光の粉を散らすその瞬間――
「バインドストーム」
――淡々とまた告げられる呪文。
そして再び大きく振りかぶる長い杖。
そこから先は単純なルーチンワークとして繰り返される、ハラハラドキドキなど一切ないただの撲殺ショーだった。
なまじ攻撃力が低いだけに無駄に長く、うんざりしてしまう。
『――はいっ、第三試合の勝者はチーム<EEFT>でした~!』
さすがプロ。
どんな内容でも関係なく、気持ち良いほど高らかに勝利宣言する司会者。
たしか『えりりん』さんだっけ。見事である。
「やれやれ……やっと終わったか」
ザワつく観客。まばらな拍手。
周囲が唖然としているそんな微妙な空気が漂う中で。
「すみません、ありがとうございますっ。はい、本戦行けたら頑張りますよぉ」
ペコペコと頭を下げて退場する、腰の低いネネリ。
……いやはや。怖ろしい。
あんな人の良さそうな顔をして、眉ひとつ動かさず死ぬまで殴り続けるそのタフさもそうだが。
「最初からああするつもりだったんだろうなぁ」
何より勝利に対するあの徹底した姿勢に、ある種の感心をしてしまう。
たぶんネネリというあの女の子は仲間に対し一言も事前に知らせることなく、最初から仲間ごと殺す気だったに違いない。
そう確信するほどの、あまりによどみない事の運び方だった。
落下して潰れる薬師のことなんて一瞥すらしなかった。
「ね。孝人くん、今の試合どうだったかしら?」
右隣のKANAさんがそう聞いてくる。
俺は迷わず――
「――面白かった」
そう答えた。
第二試合よりずっと得るものがあった。
例えば、何も遮蔽するものがないフィールドだからこそ、遮蔽するものが現れた時それにすがりつくのが人の心理だと学んだ。
まるでそれは、暗闇の中で灯りを見つけてしまうと思わずそっちに寄ってしまう蛾のような、生命としての根源的な衝動である。
あるいは風の使い方。
竜巻の中は外からも干渉が難しいと思ったが、回転方向に合わせて攻撃すれば阻害されるどころかむしろ打撃のダメージが倍増されることを知った。
また、風の魔法の運用方法としても色々と良い参考になった。
なるほど、理屈としては簡単だ。
収縮するための回転運動であれば風があまり拡散しないため威力が減退しないのか。
「……深山」
「あ、はいっ」
どうやらKANAさんが苦手らしくずっと黙ったままの深山へと話し掛けると、パッと顔を上げて俺を真っすぐに見つめてくれる。
もうすっかりいつもの深山で嬉しい限りだ。
「ごめん。前言撤回して良い?」
色々と明日の本戦に向けて作戦の修正方向が見えて来たところなので一刻も早く宿に戻り、誓約紙への記述の調整をしたいところだったが。
「……もうちょっと観てたいかも」
「くすっ……はい!」
それを天秤に掛けてなお、そう決断する俺だった。





