#080a 思わぬ大混雑
こんにちは。中村ミコトです。
さあさあ、いよいよ第七章に突入しました!
振り返り第六章はひたすら準備の積み重ねでしたね~。
最近はどうやらパパッと結果を出す作品に人気が集まりやすいみたいなので、その真逆を行くことについて皆さんついて来てくれるのかすごく心配しながら執筆している日々でした。
特に岡崎の風の魔法のあたりは延々とすみません(;・ω・)
飽きず、ここまでお付き合いくださいましてありがとうございます。
チャージ完了! 爆発寸前!
溜めに溜め込んだ色々な要素がこれから一気に花咲いて行きますよ!
ぜひ楽しみにしててくださいっ。
そういえば第六章では3000~4000文字ぐらいのサクッと読める分量での『毎日更新』ってやつをトライしてみました。
結果的にはどの話も軽くその二倍、三倍のボリュームとなってしまい、自分の首を絞めまくりでした!(笑)
どうやら私の作風って、6000~1万文字ぐらいが良いみたい。
なので六章の終わりぐらいからすでに実行しつつありますが、毎日更新に拘らず『ほどほど良い感じ』のボリュームを基準に進めて行きたいと思います。
つまり実際のところ、2~3日に一度の更新になるかなーと。
ちょっと変則的なペースかもしれませんが、良いモノを書けるよう頑張っていきますんで、どうぞ引き続きよろしくお願いします。
ではお待たせしました。これより第七章『Run』スタートです。
まずは予選の観戦からですが、すぐに本戦に突入してバトルラッシュの熱い展開が始まることでしょう。
さあ、いよいよ決闘大会の開幕です……!
宜しければ第八章の冒頭でまたお会いしましょう。
「ああ、なるほど。ここだったのか」
最果てのダンジョンへの入り口付近――石畳の広場全体が普段とまったく違う様子となっていて、俺はすぐにその疑問への結論を得ていた。
まだ太陽が昇ったばかりの早朝だというのに、数えきれないほどのプレイヤーがすでに集まっていたのだ。
見ればキャンプをしてここで夜を明かした者もいるようで、まるでシーズンのキャンプ場か、はたまた連日行われるロックフェスティバルの会場みたいな活気がみなぎっていた。
「コーダぁ、『ここ』ってぇ?」
「ん? ああ、ここが大会の予選会場なんだと思うよ」
「おおーっ!」
言われて理解した岡崎が声を上げ、改めて周囲を見回していた。
街中で大人数が集まって、バトルまでやれる場所なんて当然限られている。
だから一見して『なるほど』と合点がいったわけだ。
用事の後に会場に行こうと思っていたので、意図せず探す手間が省けたとも言えそうだ。
「ふぁ……さ。俺たちはとりあえずダンジョンに潜ろうか」
「もうっ!」
さっきからぷーっとほおを膨らませたまま、おかんむり状態の深山が不満の声を出しながらも先頭を歩く俺についてくる。
未お手製のあの大きな帽子を被ってても不満の具合がハッキリわかるぐらいだ。
「だから深山……悪かったって。許してくれ」
「あやまらなくて結構ですっ。香田君を置いてスヤスヤとひとりで気持ち良さそうに寝ていた薄情なわたしのことなんて、別に気にしないでくださいっ」
「参ったなぁ」
結局、明け方まで続けていた追加の創作魔法は記述がまとまらなく、皆が起き出す時間まで粘ってしまったものでつい完徹になってしまったわけだ。
『これが終わったら』という俺の言葉を信じて休んでくれた深山からすると軽く騙された気分なのだろう。
……もしかしたらこんなに俺に怒ってるの、初めてのことかもしれない。
「さ。行きましょう!」
「あ、おいっ」
「へいへい」
見るからに寝不足でフラフラな俺とお祭りでも眺めているみたいに周囲をキョロキョロしている岡崎を引き連れ、深山が先頭に立って広場中央にある真四角な白い建物――ダンジョンの入り口へと真っ直ぐに向かった。
◇
ダンジョンの中も、まるで昨日までとは全然違う光景が広がっていた。
「何これぇ!? 満員じゃ~ん!」
特に出入り口付近だからだろうが、まるで通勤時の駅構内のような密集度だ。
予選が始まるまでのちょっとした暇潰しとか準備運動、あるいは最終調整のようなものだろう。
上の広場のワイワイとした雰囲気とは違い、こちらはどこかピリピリとしている空気が漂っていた。
「深山」
「あ、はいっ」
下手すればはぐれそうな勢いを感じてか、さっきまでの不満そうな顔も忘れた深山が素直に俺の手を握ってくれる。振り向けば岡崎もすでに俺の背中のあたりのシャツを掴んでいた。
「と、とりあえず少し外れようっ」
「はい」「おっけー!」
今度は俺が先頭になって、混雑している出入り口からかき分けるようにダンジョン地下一階の奥へと向った。
◇
「はぁ……何か、ドッと疲れたぞ」
「香田君、大丈夫……?」
「いや、平気平気っ!」
地下一階の奥に進むと劇的に混雑は緩和されていた。
遠くで何かの爆発音などが散発的に耳に届く他は、ほぼいつも通りの落ち着いた空間になってきている。
「さて。さっそくだけど、ちょっと凛子とチャットしてくるよ」
「はい」「どぞーん」
念のためふたりに了解を取ってからソフトウェアキーボードを展開した。
……もうこれでかれこれ三日間以上幽閉されてしまっていることになるのか。
凛子と未は、いまだダンジョンの地下56階にいる。
毎日この地下一階からメッセージを交わしているのだが、そこから聞かせてもらった話によるとあれからも少しずつモンスターを倒しては戻って回復して、というヒット&アウェイを何度も何度も繰り返しているらしい。
それで多少はモンスターを減らして動範囲も広くなったようで、地下56階のマップも半分以上把握できているとのこと。あとは残り半分のマップを把握し、二階へ続く扉の前のように、地上へ脱出する石像を見つけさえすれば無事に生還となる……はずだ。
「――凛子、無事か?」
『りんこ>あっ、香田!Σ(・ω・)』
「無事みたいで良かった」
『りんこ>おはよーっ☆(ゝω・)』
「おはよう。どう、状況は? 脱出の石像は見つけられそう?」
さてさて。もう本戦の前日となったわけだが、あれから何か進展はあったのだろうか?
『りんこ>うんっ、石像見つけた!』
「おっ! じゃあもう脱出するその直前だったりする?」
『りんこ>……それが、その……』
「ん?」
『りんこ>めっちゃ強いモンスターが石像守ってる(ヽ´ω`)』
「あー……番人か」
『りんこ>うん、そんな感じ』
『りんこ>そのモンスター、ずーっと竜巻の中に居るの(ヽ´ω`)』
風の魔法を使うモンスターか……俺が過去にフィールド上で出会ったどのモンスターより遥かに上位な存在なのがその説明だけで明確に判断できる気がした。
『りんこ>風で矢が狙いからズレちゃうし……未ちゃん近づけないし……』
「ヤバイな、それ」
『りんこ>……はい(ヽ;ω;)』
どう伝えるべきか、その先のアドバイスに悩んでしまう。
たぶん俺が考えていることには……きっと凛子も当然気が付いている。
『いざとなったら死ぬべきだ』って。
しかしこの三日間で稼いだ経験値は相当な量になっているはずだ。その努力を無駄にしたくないだろうし、何より痛覚がリアルの半分は残っている通常戦闘の中で、誰も死にたいとは思わないだろう。
いくらPKじゃないからグロテスクなエフェクトは発生しないとはいえ……自分の腹に穴なんて開くのを体験したいわけがない。
だから俺から安易に『死んだら?』とは言えなかった。
それを見越してか――
『りんこ>香田……何をしても明日には間に合わせるから』
――『何をしても』。そう凛子から言及してくれる。
ならば俺から言えることはもう、たったひとつだけだった。
「地上で凛子と未の帰りを待ってるよ」
『りんこ>うんっ! にゃはは……名残惜しいけど、じゃあこれぐらいで』
「……そうだね。頑張って」
『りんこ>うんっ、頑張ってきま――すっ!!!』
最後に元気な声が聞けて良かった。
未練を断ち切るようにそれで凛子側からチャットは終了となった。
「凛子ちゃん……どうでした?」
すかさず心配そうな深山が寄って来て、そんな質問をして来る。
「脱出する石像の前に、強いモンスターが陣取ってるんだって」
「うわっちゃ~!」
それには岡崎のほうが頭を抱えて大げさなリアクションを返していた。
「何とかできそうでした……?」
「どうだろう。相性の問題で正直厳しいかもしれない」
俺の返事に、深山は自然と視線を地面へと落とす。
話を聞いた限りだと、竜巻の中にずっと居るというそのモンスター……おそらく深山なら何も問題がなさそうだった。
停止している相手になら、四門円陣火竜がある。
出力を絞った今のバージョンならほど良くそのモンスターは竜巻の中で焼け焦げになるに違いないわけだ。
「まあふたりを信じて上で待ってよう」
「……そうですね」
「なんとかなるなるぅ!」
こういう時、軽いノリの岡崎は地味に助かるなぁ。
月並みだけどムードメーカーってヤツか。
その調子の良い声を聞いていたら本当になんとかなりそうな気がしてきた。
「そういや深山。予選って何時からスタートだった?」
「え? ちょっと待って……えっと……」
少し慌てて深山はメール箱を開いて運営から届いてきた文章の内容を確認してくれているようだった。こちらからすると何もない空中へと視線を右に左に動かしている。
「――はい。午前八時開始、です」
「それって……」
入る直前の太陽の位置と。
あとこのダンジョンに入ってから経過した体感の時間とを足して現在の時刻をざっと想像つけてみた……あれ?
「もしかして、もう、始まってる??」
「……かも」
「うぇえっ!? マジでぇ!?」
どうりでダンジョンに入る時だけ混雑してないと思ったよ!
もう間もなく始まるというのにこのタイミングでダンジョンに入るのは予選免除の俺たちぐらいなものだったわけだ。
「急いで出よう!」
「はいっ!」
そう同意を取ると俺はむしろダンジョンの奥へと迷わず小走りに駆け出した。
◇
もう何度もこの地下一階に出入りしてる俺は、すでに頭の中にマップが完成していた。だから決して迷わない。
その記憶を頼りに地下二階へと降りるあの扉へと最短距離で向かっていた。
おそらく出入り口付近はあの調子だったから、ダンジョンの外へと出るにもひと苦労だろう。下手すれば長い行列ができているかもしれない。
なので地下二階の扉前にある石像を目指したわけだ。あそこの宝石からでもダンジョンからの脱出は可能――
「――うわっ」
まあ、考えることは同じってことか。
地下二階へと降りるために存在している扉へと到着した俺は思わず声を上げていた。
「おいコラ、さっさと出ろよ!」
「無理だってわかってんだから吠えんな! うぜぇ!!」
「んだとコラ!?」
……まあそんな感じで見知らぬ男たちがすでにその扉の片隅にある石像の前で列を作りながら、胸倉を互いに掴んでいがみ合っているその最中であった。
「もうやめなよぉ。そんなの意味ないよぉ」
列の先頭に立つ男の仲間なんだろう。緑色のローブを着た魔法使いがふたりの仲裁に入ってなだめていた。
「……こっちまで混んでるのか……」
そういやダンジョンから脱出する時、体力などがすべて全回復するわけだが……その効果を受けるのに数分ほど真っ白な世界で待たされることを思い出した。
つまり順番待ちの後続は先に脱出したその人たちの回復を待ち続けなきゃいけないって理屈なのだろう。
ざっと見た感じ、ここでは5~6チームが並んでいるように見える。
仮に一回5分程度の待機時間が必要だとして……。
「マジか」
おそらく軽く見積もっても30分は必要だという計算になってしまう。
もしソロで潜っている人があの中に複数居たら、それ以上だ。最悪一時間ぐらいここで待ちぼうけ状態を覚悟しなきゃいけない。
「香田君、とりあえず並びましょう!」
「……だな」
同じように深山も察したのだろう。慌てて俺をそう促してきた。
そして気が付く。
どうして予選開始直前だったというのに、ダンジョンの入り口付近であんなに多くの人たちがピリピリしながらたむろっていたのか、の理由。
……あれはたぶん、単純に順番を待っていたのだ。
おそらくあまりにも人が多過ぎるからチームのリーダーとかが代表して並び、順番が来るまで他のメンバーが周囲をぶらぶらしている……そんな感じなんだろう。
ダンジョンは一度入ると、石像が抱える宝石に手をかざすまで出られない。
そしてダンジョンの中がこんなに混雑していることは、外観から察することができない。
故にプレイヤーが溜まる一方なわけだ。
……まるで害虫駆除用の罠のような構図である。
「ああ、アンタ!!」
「え? 俺っ?」
最後尾に並んだ直後、先頭でもめていたその男からそう突然声を掛けられて内心かなり驚いてしまった。気が付けば列に並ぶほぼ全員が振り返り、俺を見ていた。
「なあなあ、<アンスタック>持ってないかっ!?」
「え」
持っているけど……一瞬、それを正直に答えるべきか悩み、口を閉じる。
でもそれはほぼ肯定と同じ意味のようだった。
「いっしょに連れてここから出ないかっ? もちろんタダとは言わない! アンスタックの相場価格の半額を出す!」
「ちょっ、待てやコラ!! じゃあオレは全額出すぜ!?」
「ふざけんな!! 先頭はおれだ!!!」
まーた言い争いが再開する。
……とりあえず俺は事実を整理した。
「アンスタックを使うと、石像に関係なくダンジョンから脱出できるんですか?」
「ああ、レベル1の初心者さんでしたか……いえいえ、ちょっと違いますよぉ」
さっき仲裁に入った緑のローブを纏った緩い三つ編みの女の子が一歩前に歩み寄って解説してくれた。
「アンスタックは、遊園地の優先パスみたいな感じなのです」
「ああ……こうやって並んで待たなくても外に出られるって感じか」
「ええ。もうちょっと付け足しますと、ホーム設定している自分のアジトまで飛びます」
「有り難いような、有り難くないような……」
ダンジョンの出口付近で予選をやっている現状、また宿屋まで戻ると――あ。
「俺が使うと始まりの丘まで戻ってしまうぞ?」
「うげっ!?」
「チッ……ホーム設定変えてないとかマジかよ。これだから初心者は……」
すみませんね。色々事情あって変えられないんですよ、俺は。
「深山はホーム設定、直している?」
「え……わたしは……その」
あ。ログアウトできないから、そもそもアンスタックを渡してなかった。
だから必要に迫られてなくてホーム設定もデフォルトのままか。
なら岡崎が――
「あの」
「え? はい?」
さっきの緑色のローブの子が、おそるおそる手を上げる。
「昨日あそこでキャンプしたのでホーム設定……会場にしてますよぉ」
「そこのねぇちゃんナイス!」
「決まりだ!」
「ネネリ、よくやった!!」
『ネネリ』というのがこの子の名前か。
先頭の男がそう泣きそうな顔で褒めると内気そうな彼女はうつむいて照れたように口元を緩めていた。
「よし、じゃあビジネスと行きましょうか」
「……香田君?」
俺がそう切り出したのがよほど驚きだったのだろう。びっくりしながら振り返りこちらを見つめる深山だった。
構わず話を進めることにする。
「皆さん、<プロトコル>という誓約の結び方はご存知ですか?」





