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最高のわび
小刀が千利休の前に置かれた。
何故このような事態になったのか。
それは千利休が秀吉にお茶をこぼしてしまったからだ。千利休の粗相が秀吉の逆鱗に触れてしまったのだ。
「秀吉様、申し訳ございませんでした」
「利休よ。謝って済むならわびは必要ないのだぞ」
「それはつまり、謝って済まないから私にわびろということでしょうか」
「そうだ。お前の最高のわびを見せてほしい」
最高のわび。それが何を意味しているのか千利休は瞬時に理解した。
「秀吉様、それはできません」
「何故だ。お前はわびを完成させたのだろう。その完成したわびを私に見せるだけでいいのだぞ」
「秀吉様が言うわびは、私のわびとは違います」
「何が違うのか私にはわからんが。具体的に言ってみよ」
「切腹して死んでわびろということでしょう。私は死ぬ訳にはいきません。弟子がおりますので」
「弟子がおるからなんだというのだ。私にも弟子くらいおるぞ」
千利休が何を発言しても秀吉が言いくるめてくる。それからもこのようなやり取りが延々と続いた。そして次第に千利休の額には汗が浮かんでいた。
これが千利休の最期。
千利休は万事休すだったのである。