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天と空  作者: 東京澪音
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the end of the sky 天side-4

バスで再び大磯駅に戻ってきた。今度は一人じゃない。バスを降りると姉はごく自然に、かつ当たり前の様に私の手を握る。


その優しさに、嬉しくって姉を見上げてみると、姉もまた嬉しそうに微笑んでくれる。


待ち合わせにはまだ少しだけ時間があったので、私は先程訪れた交番に姉を連れてゆき、親切に対応してくれたお巡りさんを見つけると、無事に会えた旨とお礼を伝えた。


「よかったね、無事に会えて」

そう優しく返してくれるお巡りさん。


この街はとても優しい人達が多い。

港町だからだろうか?


そんな事を考えていると、駅に電車が滑り込んでくる。私と姉はもう一度お巡りさんに一礼すると、駅の改札へ移動する。


吐き出す人波に紛れて、こちらに向かって手を挙げる一人の男性。


この人にも私は見覚えがある。あの時丸塚公園で姉と一緒に私と遊んでくれたお兄さんだ。


あまり沢山お話はしなかったけど、とても優しくて、ちょっとだけこんなお兄ちゃんが欲しいな、なんて思ったりもした。


「ごめん、お待たせしちゃったね。」

時間はまだ約束の10分前なので遅刻という訳ではない。


「こっちこそ突然呼び出しちゃってごめんね。どうしても会わせたい人がいたから。ほら、先日一緒に伊東に行った時に一緒に遊んだそらちゃん。まぁ、その、私の妹よ。」


少し照れながら私を紹介してくれる姉。


「やぁ、そらちゃん。この前は一緒に遊んでくれてありがとう!僕はお姉さんとお付き合いさせて貰ってる、藍井遥あおいはるかです。よろしくね!」


そう言うと目線を私と同じまで下げ、右手を差し出してくる。


姉が好きになったのも頷ける。この人は間違いなくいい人だ。


私は自分の右手を差し出すと、優しく包み込む様に握手してくれた。


「じゃ面子も揃ったし、お買い物にレッツゴーよ!あ、遥君は勿論荷物持ちよろしくね!」


姉にそう言われると、苦笑いしながらもどこかたのしそうな遥さん。


「荷物持ちでもさ、こうやって空に会えるって凄く嬉しいね!誘ってくれてありがとね。」


この人は間違いなく天然だ。そして発する言葉に計算高いそれは無い。これだと大抵の女性を時と場合によっては勘違いさせかねないんじゃ無いかと若干心配になる。


「お姉ちゃん、大変だね。」

私の言葉に姉は苦笑い。


「もうだいぶ慣れたけどね」

姉も苦労しているみたいだ。


「ところで空。これからどこへ買い物に行くの?」


私も姉も不意に声をかけられて同時に振り向く。


その姿を見て何が可笑しかったのか、突然遥さんは笑い出した。


「あ、ごめんゴメン!二人とも名前がそらだったよね。同時に振り向いたから、ちょっとおかしくってね。えっと、そらちゃんて漢字でどう書くの?やっぱ二人とも空って書くのかな?」


その質問に姉もつられて笑った。


「それもそうよね!私達は別に気にならないけど、私達以外の人は呼び方に困るわよね!」


確かに。二人一緒の時に名前呼ばれたら、そりゃ〜同時に振り向いちゃうよね。


だから私は二人に自分の名前の漢字を教える。


「結構珍しい読み方なんだけど、"天"て書いて、そらって読むの。天叢雲剣あまのむらくものつるぎの天。もしくは韋駄天いだてんの天。もっとわかりやすく言うと意気昇天いきしょうてんの天です。」


私の答えに固まる二人。


「そらちゃんて本当に小学生?その例えはとってもわかりにくいと思うのね。あ〜あれだ、天使の天でいいんだよね?そらちゃんは可愛いんだから、これからはさ、どういう字を書くの?って聞かれたらそう答えた方が絶対に素敵だし、好感持たれると思うよ!」


あ、私この人好きだ!

直感でそう思った。


今私を遠回しに天使みたいに可愛いって褒めてくれたってことよね?


両手で顔を覆い隠しながらモジモジしていると、姉のゲキが飛ぶ。


「ちょっと遥くん!なに可愛いとか言ってるの?そう言うの誰彼構わず言わないの!ほら見なさいよ!妹が勘違いしちゃってるじゃないの!なんで遥君はいつもそうなの?もう少し考えてから発言してよ!」


突然不機嫌になる姉を横目に悪びれるわけでもなくニコニコとゴメンと謝る遥さん。


「でもさ、空の妹なんだから、可愛いくて当たり前でしょ?だって空はこんなにも美人なんだから。」


天然もここまでくると恐ろしいものがある。

その言葉に急にご機嫌になる姉。


藍井遥、恐ろしい人だ!


「じゃあ、僕はこれからそらちゃんの事はてんちゃんて呼ぶよ。その方がわかりやすいし、なんだかとっても可愛い響きで僕は好きだな!いいかな、天ちゃん?」


あ、私やっぱこの人大好きだ!

「うん、いいよ!」


取り敢えずこれで呼ばれても二人同時に振り返る事はなさそうだ。


「さ、じゃあ取り敢えず某ファッションセンターみたいな名前のスーパーへレッツゴー!」


ニコニコと優しく微笑む遥さんと姉に挟まれて、私達は大磯駅を後にした。

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