the end of the sky 天side-13
家に着くと、姉は買い物した物を袋から出して冷蔵庫にしまっていく。
私はお米を研いで炊飯器のスイッチをオンにする。
この家に馴染めた様でなんだか嬉しい。
しばらくするとチャイムが鳴って姉が玄関まで遥さんを出迎えにでる。
「夫を出迎える新妻さんみたいだね!」
そう言うと姉は少し恥ずかしそうに照れ笑いする。
居間に遥さんを通すと、姉が紅茶を入れてくれる。さっきお土産に貰ったラスクを箱から取り出して、3人でしばしティータイム。
ラスクに紅茶。
たったそれだけの事なのだが、私の目にはなんだかとても素敵に映る。
実家じゃいいとこ煎餅に緑茶だ。
そのお洒落な組み合わせに私は溜息を一つ漏らす。
「どうしたの天ちゃん?」
遥さんが心配そうに尋ねてくるので私は答える。
「なんかね、神奈川県に姉を訪ねてきた日からずっと思ってたんだけど、見るもの全てがお洒落で素敵に見えてね。私もこの街に住んだら素敵な女性になれるかな…なんてちょっと考えたら溜息が出ちゃった。」
姉はそんな私に優しく微笑む。
「そうね、確かにこの街はとても素敵だし、私も大好きな街よ。でもね、素敵な環境にいるから必ずしも素敵な人になれるかって尋ねられたらそれは違うわ。多感な年頃だからね、そう感じてしまうかもしれないけど、最終的には自分次第だと思うの。どうありたいか。目指すビジョンがその胸の中に常にあるのなら、あなたはきっと大丈夫。素敵な人になれるわ。」
そう教えてくれた姉は間違いなく素敵な女性なんだと思う。
そんな事を考えていると、遥さんが優しく私の頭を撫でてくれる。
「大丈夫だよ天ちゃん。色々なものを素直に素敵だと思えるのなら、君は間違いなく素敵な人になれるよ。」
私もこの2人の様にありたい。
この2人の様に素敵な人になりたいと素直に思えた。
「ちょっと遥君!なんで天ちゃんの髪の毛をそんなに愛しそうに撫でてるの⁉︎」
あー、一瞬姉の事を凄く大人で素敵な女性だと思ったばかりなのに…。残念だ。
「あ、ごめん!可愛いなーって思ったらつい、ね。」
遥さんは遥さんで天然だ。
結局いつもの如く姉と遥さんのやり取りがあって、最終的に遥さんが姉の頭を優しく撫でる事で、事なきを得た。
その後姉の得意料理であるハンバーグを一緒に作って、3人でご飯を食べる。
しばらくすると咲さんが帰ってきた。
「ただいま。あ、遥君昨日は突然電話で空のお守りお願いしちゃってゴメンね。今度お礼に美味しいケーキ屋さん連れてってあげるから一緒にいきましょうね!」
是非〜とか答えてしまう遥さんに、怒り出す姉。
「ちょっと母さん‼︎なんでお礼に託けて遥君をデートに誘ってるのよ!私の遥君!遥君もなに承諾してるねよ⁉︎是非〜じゃないわよ!もう、なんなの?遥君はやっぱり熟女が好きなの?」
初めてこのやり取りを見た時は少し戸惑ったりもしたけど、今はこの光景を温かく見守る事が出来る自分がいる。
そう言えば先日咲さんが言ってたな。私の事を家族として、娘として接するって。
そしたら私も遠巻きに見ているだけじゃなくって、その中に入って行くべきなんだと思う。
「遥さん、今日はデートしてくれてありがとう。少し恥ずかしかったから出来なかったけど、今度は手を繋いでデートして下さいね。」
私は思い切ってそんな事を言ってみる。
「そしたらさ、今度は一緒に箱根の美術館に行こうか。モネの睡蓮が見れるんだ。あ、素敵なランチも食べようね!」
遥さんはとてもいい人だ。
いい人だけどとても天然だ。
そんなやり取りを姉が黙っている筈がない。
「遥君!なんで彼女の目の前でデートの提案なんかしてるの⁉︎おかしいでしょ⁉︎天ちゃんも天ちゃんよ!これ私の彼氏だからね!」
口では姉と言いながらも、姉妹になりきれていなかった。どこかまだ手探りで遠慮していた気がするが、今こうして思い切って中に入ってみる事により、より距離が縮まってより関係が深まった様な気がする。
こんな時間がいつまでずっと続きます様にと、心で思った夜だった。