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アスランの風  作者: 梨香
9/12

9 イルバニア王国の小麦

 メーリングに帰った時には日が暮れかけていた。


「アスラン王子!!」祖父に抱きつかれて泣かれ、アスランはうんざりしたが、どうやら領事館に駆け込む前だったらしいと安堵する。


「どこに行かれていたのですか?」と涙ながらに尋ねる祖父に「腹が減った。それと風呂に入りたい」と全く反省の色も見せないアスランだ。


「二度と勝手な真似はなさらないように!」と釘を刺しながらも、パンパンと手を叩き、用意させていた香辛料控え目の料理を召使い達に運ばせる。


 アスランが帰って来るまで食べる気にならなかったトールキンも満足した頃、気になっていたことを質問する。


「イルバニア王国の小麦は主にローラン王国へ運ばれているのか?」


 トールキンは幼い孫に何処まで話して良いものかと悩む。


「イルバニア王国の小麦はローラン王国だけでなく、カザリア王国、ゴルチェ大陸、そして東南諸島連合王国にも輸出されていますよ。今年はローラン王国やガサリア王国の北部は冷夏だったそうですから、輸出がないと飢える人がでそうです」


 無難な答えにアスランはフン! と鼻を鳴らす。


「私がアルフォンス王なら、ローラン王国へ小麦など輸出させないけどな」


 アスランがローラン王国がイルバニア王国に侵攻する計画を何処で知ったのかと、トールキンは驚く。


「まさか、王宮に忍び込んで……」


 祖父の心配そうな顔など無視して、アスランは質問を投げ付ける。


「ローラン王国のゲオルク王はアルフォンス王のいとこなんだよな。確か、数年前にゲオルク王が即位する際に内乱になり、王弟のマルクスはイルバニアに亡命したと聞いたが、第二王子のヘンドリックス王子はどうなったのだ? そちらが内乱の本命だったのだろ?」


 ローラン王国の内乱なんてアスランが4歳ごろの話だろうにとトールキンは驚く。


「ヘンドリックス王子がゲオルク王に捕らえられたのは確かですが、亡くなったとは聞いていませんね。マルガレータ王太后が命乞いをなさったと思います。それに絆されるゲオルク王とは思えませんが……」


 アスランはフォークをデザートに突き刺して、口にぽんと入れると、暫くは黙っていた。


「ふん、どこの王族も絡でもないな。王座とは弟より大事な物なのか? あんなの絶対にいらないけどな」


 世継ぎの話はタブーだ。王の世継ぎは、ヒューゴ王が決める。何人も口出しはできない。孫のアスラン王子をトールキンは厳しく咎めようとした。


「アスラン王子、世継ぎについては……」


 ちゃいちゃいと手を振って「そんなのわかっている」と祖父を黙らせる。その傲慢な態度にトールキンは呆れるが、ヒューゴ王に似ているとも驚く。


「イルバニア王国も何か手を打つのではないか?」


 イルバニア王国の最大の輸出品に興味を持った孫が、それで不利益を被るのを心配しているのだとトールキンは内心で微笑む。


「イルバニア王国がローラン王国に小麦を輸出させないようにするなら、先ずは陸路からとじます。アスラン王子が小麦を買ったとしても大丈夫ですよ」


 子どもをあやすように説明するトールキンの余裕な笑顔に、アスランは苛立つ。


「トールキンは小麦をローラン王国に運ばないのか?」


 アスランの質問にトールキンは笑いながら首を振った。


「私は香辛料を主に扱っています。勿論、荷が余ったら小麦も乗せますが、ローラン王国には運びませんね」


 祖父の余裕な言葉に高価な商品を扱っている誇りを感じた。それと同時にローラン王国相手に小麦を運んでいる船主達への侮蔑を微かに感じ取る。


「ふん、海上封鎖が怖いのか?」


 アスランは自分がイルバニア王国の国王なら、陸路は勿論のこと、軍艦で海上を封鎖して、敵国に小麦を運ぶ船を拿捕すると考えた。祖父が危険を犯すのを怖がっているのだと馬鹿にする。


「まさか、イルバニア王国の海軍など恐れる東南諸島連合王国の船乗りは一人もいませんよ」


「軍艦が商船を止められないのか?」


 アスランはレイテ港に停泊しているスマートで脚の速そうな軍艦が、荷物を沢山載せる為にずんぐりとした商船などを逃す訳が無いのにと驚く。


「イルバニア王国の竜騎士隊は立派ですし、陸軍もまあ強いですね。でも、海軍は海賊船を追い払うこともできませんよ。だからイルバニア王国の船は海賊に襲われるのです」


「海賊!!」アスランは自国の一部の民が海賊になりさがっているのを腹に据えかねていた。


「糞爺は腐った官僚と海賊達を始末するべきだ! あんな奴らがいるから、北の大陸から馬鹿にされるのだ」


「これこれ、アスラン王子。ヒューゴ王のことをそんな呼び方をしてはいけませんよ」


 孫の言葉を制しながらも、トールキンは子どもらしい正義感だと笑っていた。アスランが将来流す大量の血を想像もしていなかった。

 




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