6 交易港メーリング!
トールキンの商船隊は、海賊にも嵐にも遭わずイルバニア王国のメーリング港に着いた。
「メーリングには沢山の商船が寄航しているでしょ。イルバニア王国は農業王国なので、小麦やワインなどを輸出しているのですよ」
トールキンは孫のアスラン王子が、繁栄しているメーリング港を目を輝やかして見ているのを微笑ましく思い、あれこれと説明する。
「なぁ、船の荷物を降ろす順番はどうやって決めるのだ?」
メーリングに寄航した商船からは、小さな小船で荷物が次々と降ろされている。アスランは早く降ろした方が得なのではと質問する。
「メーリング港の港湾管理人が寄航した順番に荷下ろしする順番を決めます。私達のような商船隊の場合は、先ずは旗船から、そして私の持ち船、最後に参加した他の商人の船になりますね」
チッと祖父が自分の質問の意味を取り違えていると、アスランは苛立つ。我慢強さなど少しも持ち合わせていない。
「そんなのを聞いているのでは無い! その港湾管理人にとやらに鼻薬をどうやって嗅がせるのか? その遣り方と相場を尋ねているのだ」
自分がメーリング港で交易する時の為に、賄賂の渡し方を質問しているのだとトールキンは呆れた。
「イルバニア王国の官吏は我が国より融通が利きません。それでも、まぁ急ぐ場合は心づけが有効ですがね。でも、あからさまに賄賂を求めてはきませんし、巡回の竜騎士が目を光らせていますからねぇ」
商売が遣り難いとこぼすトールキンとは違い、アスランはイルバニア王国の方が官吏システムがしっかりしていると唇を噛み締める。商売熱心な国民性の東南諸島連合王国では、官吏も儲け話に目がない。賄賂を渡さないと何も進まない。
若いアスランには腐った官吏を放置している父王が理解できない。
「ふん! 糞爺に聞かせてやりたい!」
「アスラン様、そんな風にヒューゴ王のことを……」
また祖父の長い説教が始まるのかとうんざりしていたアスランは、トールキンが口を閉ざしたのを不思議に思った。
「アスラン王子、私はメーリングの領事を勤めておりますルビエルと申します。長い航海でお疲れでしょう。さぁ、領事館までご案内致します」
ヒョビ髭を生やした領事が、恭しくヒューゴ王の第四王子を出迎えに来た。トルーキンが説教を止めたのは、此奴のせいか? とアスランは、ほんの少しだけルビエルに感謝する。
「ルビエル、出迎えご苦労だった。だが、領事館には行かない。祖父のトルーキンは、メーリングに商館を構えているから、そこに逗留するつもりだ」
未だ幼さの残る可愛い王子の戯言などルビエル領事は、冗談だろうと笑い飛ばす。
「王子が商館に? 警備が行き届きません。さぁ、参りましょう」
キリキリとアスランの整った眉が上がる。
「ルビエル! そなたに命令される謂れはない!」
傲慢なアスラン王子に、ルビエル領事は平謝りするが、それでも領事館へお泊り下さいと引かない。
「私はトールキンの商館へ泊まる。これ以上逆らうな!」
腰の半月刀に手を掛けたアスランを祖父が必死で止める。
「アスラン様! ルビエル領事はヒューゴ王が任命されたメーリングの領事なのですよ。どうか……」
ルビエル領事は、こんな恐ろしい王子の世話は真っ平御免だ! とそそくさと船から降りた。
「おい、まさか本当にルビエルを斬るとでも思ったのか? 私を馬鹿だと思っているのか? さぁ、これでゆっくりとメーリングを見学できる! 警備の者やお供をゾロゾロ引き連れて歩けるか!」
カラカラと笑うアスランに、トルーキンは肝を冷やしましたと苦情を言った。