5 初航海
アスランは、大商人の祖父から商才を譲り受けていた。初めはレイテの商人に離宮から持ち出した備品を買い叩かれたりもしたが、段々と高値で売り飛ばすコツを身につけた。
「これだけの金があれば、小さな船ぐらいは買えるだろう。先ずは近海で商売しよう!」とは言うものの、アスランは航海したことがない。
祖父の船で航海して、経験を積む必要性を感じるが、父王の第一夫人の許可を得ないと乗せてくれそうに無いのが問題だ。
「スーリア、祖父の商船でメーリングまで行くぞ!」
相変わらず離宮に居着かないアスランが自ら部屋に訪ねてきたと思ったら、高飛車な態度で要求を突きつける。
「まぁ、まだ貴方は外国まで航海するのは早いと思いますよ。まだ、8歳ではないですか。それより、王子として勉強や武術の訓練をするべきです」
アスランは王子としての立場を延々と説教し始めたスーリアに対して苛立ちをぶつける。
「なら、許可などいらない! 島伝いにメリルで飛んでいく。それなら、スーリアでも止められないだろう!」
クルリと踵を返して部屋から出て行こうとしているアスランを、スーリアは慌てて止める。
「お待ちなさい! 竜でメーリングまで行くだなんて危険すぎます。そんなの絶対に駄目です!」
竜騎士は旧帝国三国と東南諸島連合王国の首都レイテとを竜で行き来しているが、まだ幼いアスランが真似できるものではない。不貞腐れるアスランに、渋々スーリアは祖父の商船でメーリングへ行く許可を与えた。
「始めから黙って書いてくれたら時間の無駄にならなかったのだ」
ふん! と紙を引っ手繰るように出て行くアスランの後ろ姿にスーリアは大きな溜息をついた。
……あれで後継者になれるのかしら? 私はアスランの第一夫人に同情するわ。その前に、第一夫人のなり手など無さそうだけど……
ヒューゴ王の第一夫人として後宮を支配しているスーリアだが、アスランだけはお手上げ状態だった。
アスランは祖父のトールキンと共に旧帝国三国のうちのイルバニア王国の貿易港メーリングを目指す商船隊に参加した。竜のメリルも連れて行きたかったが、東南諸島の人達は竜が好きでは無い。今回は祖父の商船なので諦めた。
航海の間、トールキンは肝を何度も潰しそうになった。
「アスラン様! 危険だから物見台から降りて下さい」
孫とはいえヒューゴ王の王子がマストの上の物見台まで登らなくてもと、トールキンは甲板で騒ぐが、当のアスランは身で風を受ける爽快感にカラカラと笑う。
「海は良いなぁ〜! 私は王宮より海の方が好きだ! それに此処には糞爺や糞兄どもがいないしな!」
ネチネチと嫌味を言うラズローや、無口で武芸馬鹿のメルトとの離宮での生活から解き放されたアスランは、早く自分の船を手に入れようと決意も新たにする。
甲板で騒ぐ祖父を暫くは放置していたが、アスランとしては素直に降りる。何故なら、資金を稼ぐには大商人であるトールキンには習わなくてはいけない事が山ほどあるからだ。