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アスランの風  作者: 梨香
2/12

2 早く独立したい!

 王子達が暮らす離宮の生活にアスランはうんざりしていた。月に一度、母上に会いに後宮へ行くことが許されているが、その度にアスランは父王への怒りを強くした。


 ヒューゴ王の第二夫人に表立っては意地悪や悪口は言えないが、こそこそと昔のスキャンダルを掘り起こして聞こえよがしに言う馬鹿者が多いのだ。


「あのラベンナの血筋だから、リアンナ妃を第二夫人にされたのよ」


「まぁ、ヒューゴ王がまだ王太子だった頃に寵愛されていたラベンナ妃のように悲惨な最期を遂げなければ良いけどねぇ」


「先王と不義密通した女の血筋の女なんかを第二夫人によくされたものね」


 アスランが後宮にいた頃は、そんな妃や女官達を許さず、果物を投げつけたり、水をぶっかけていた。アスラン王子の姿を見ると、色とりどりの花が咲いた花壇の周りで噂話をしていた妃や女官達は、そそくさと消えていく。


 アスランは、チッと舌打ちして、母上の部屋へと急ぐ。リアンナは、一月ぶりに息子の顔を見て、嬉しそうに微笑むが、その顔色は月夜に咲く花のように青白い。


「母上、実家に宿下りされてはどうですか?」


「まぁ、後宮に嫁いだら、そうそう実家には帰られないものなのですよ。それより、アスランは離宮の生活に慣れましたか? 兄上達と仲良くしていますか?」


 後宮一の美貌を持つリアンナ妃だが、第二夫人には心が優しく、向いていない。そんなことは承知しているはずなのに、母上を第二夫人にした父王に、アスランは腹を立てているのだ。


『噂を鵜呑みにする訳ではないが、母上はラベンナ妃の姪になる。若い頃に愛したラベンナ妃の姪だから、父上は第二夫人にしたのか? 第二夫人でなければ、離婚して実家に帰ることもできたのに! 心の優しい母上には魑魅魍魎が住む後宮などは、相応しくない』


 後宮の入り口にある第一夫人の部屋に寄り、アスランは母上の顔色が良くなかったと告げる。


「母上に実家に宿下りを勧めたが、断られた。しかし、離宮で静養とかさせるべきだと思う」


 第一夫人にこんなに文句を堂々と言う人物などいない。まして、五歳児が! スーリヤ夫人は驚いたが、そこはヒューゴ王の第一夫人として、優雅に微笑んでいなす。


「アスランは、離宮の暮らしに慣れましたか?」


「あんな所、さっさと出て行ってやる!」


 そう言い捨てて出て行ったアスランに、スーリヤは「まだまだ修行が足りないわね」と呟いた。




 アスランにとって離宮で暮らし始めて唯一の利点は、外の世界に出て行けるようになったことだ。リアンナの実家は、東南諸島連合王国でも有数の大商人であり、貿易船も多く所有していた。


「トールキン、母上を宿下りさせてくれるように糞爺に申し出てはどうだ!」


 祖父にも偉そうな口をきくが、母上を心配しているのはわかっているので腹は立たない。ヒューゴ王の若き頃の寵妃ラベンナの姉である祖母は、娘リアンナの後宮入りを最後まで反対していたので、心配そうだが、祖父は相手にしない。後宮に入ったら、そうそう外には出られないものなのだ。


「第二夫人は里帰りなど許されませんよ」


 アスランは、祖父の言葉にムッとする。


「そんなことは分かりきっているが、親が危篤だとか嘘をつけば許されるかもしれないだろう!」


「そんな嘘がバレたら大変ですよ」


「リアンナの様子は如何でした? 宿下りが必要なほど具合が悪いのですか?」


 祖母が心配そうに尋ねるので、アスランは「元気にしていた」と嘘をつく。


「それより、今度、船に乗りたい!」


 自分でも下手な嘘だと思うので、アスランは話を変える。


「それは、ヒューゴ王の第一夫人に許可を貰わないといけませんよ」


「ケチ! やはり自分の船を持たないと自由にならないな」


 ケチで言っているのではなく、まだ幼い王子は第一夫人の保護下にあるからですと、祖父があれこれ注意を与えているが、アスランは聞いてはいない。


「第一夫人に会いに行く!」


 折角、孫の王子が訪ねて来たのに、第一夫人のマリーネの所ばかりだと、祖母は溜息をついた。


「リアンナは大丈夫なのかしら? もう少しアスラン王子に聞きたかったのに……まさかラベンナと同じようなことになるのでは?」


「ヒューゴ王の第二夫人に誰も手を出したりはできないさ。それに、リアンナは優しい娘ですが、芯は強いから大丈夫だよ」


 それより、孫のアスラン王子が自分の第一夫人と何を話しているのか気になるとトールキンは、お尻が落ち着かない。大商人として、どうも嫌な予感がしていた。




「では、船を手に入れただけでは航海には出られないのだな。船長に、乗組員、そして荷物も必要となると……」


 レイテの大商人トールキンの第一夫人であるマリーネは、幼い王子に海に出るのは早いと諭すつもりで、細かく教えてやったのだ。しかし、アスランはとっとと離宮を出て行く為の作戦を始めるのだった。


「トールキンは当てにはならない。母上を自由にするには、自分が力を得なくてはいけないのだ!」


 まだ幼いアスランだが、父王の保護下から早く独立したいと考えていた。

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