表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する埴輪  作者: momo
6/6

和装の埴輪


 

「すみません。風呂だけじゃなくて着替えまで借りちゃって」


 風呂から上がり茶の間にやってきた埴輪を見て、弥代の母はにこりと笑みを刷いた。


「似合うじゃない。いい男は何着ても様になるね!」


 埴輪が浴衣を着て、照れたように頭部に左手を置いている。

 これぞ埴輪、というフォルムだ。

 服を着ているのが残念なほど完璧な埴輪だ。

 そんなザ・埴輪な存在を「いい男」と言い切ってしまう自分の母親に、弥代はめまいがしてきた。



 何だろうこのシュールさ……。もう突っ込む気も起きない。

 あ、でも…………埴輪も浴衣も古い日本文化の一部だし、学生服よりは正しい姿なのかも?

 …………落ち着け自分。埴輪の正しい姿ってなんだ。



 無性にイラっとした弥代は、とりあえず先ほど固めた決心を実行すべく。

 埴輪の後頭部を叩いた。


「って!何だよ!?」

「問答無用」

「はあ?」

「あんたが全部悪いの。謝って」

「え?……ごめん?」

「あと、あんたが入ったお風呂、掃除したの私だから」

「お、おう?……ありがとう?」


 弥代はうむ、と偉そうにうなずいた。


 彼女としては、疑問形での謝罪や感謝など満足できるものではないのだが、寛大な心で受け取ることにした。

 ただその心も「どうしたの?何でそんなにイライラしてんの?」と聞いてくる隣の埴輪に答えるほどの広さはないようで、ガン無視しているが。



 どうせ何言ったって分かってくれるわけない……。



 弥代の心の闇を大人は誰も気付かない。

 それどころか、仕事から戻ってきた弥代の父が席についたことで、子どもそっちのけで乾杯し盛り上がっている。


「急に押しかけただけでなく、御夕飯までごちそうになっちゃってすみません」

 と、おねえさんが頭を下げれば、

「いやいや、久しぶりだから嬉しいよ。美人さんになったなあ」

 と父が眦を下げ、

「お父さん、それセクハラですよ?」

 それを見た母が柳眉を逆立てたものだから

「いいじゃないか。近所の女の子が素敵な美人さんになったら褒めなきゃダメだろう?心配しなくても母さんが一番だから」

 父が慰めることになって生ぬるい空気が二人の間に流れる。


 おねえさんは我関せずと焼き椎茸を肴に日本酒を飲んでいる。幸せそうだ。


 カオスだ。



 いやだ。

 何がいやって、隣に座る埴輪が肩身狭そうにこっちを見ている。

 俺と同じだよな。と仲間を見るような眼でこっちを見てる。

 やめろ。

 私は人だ。埴輪じゃない。

 あんたと私の間には、どう頑張っても越えられない川があるって早く気付け。

 というか。





 早く人に戻れ。




ここまでお読みいただきありがとうございます。


弥代がつっこむ気も起きないとか言っていますが、むしろ今までツッコミ役をはたしたことがあったのかと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ