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Trust And Combat

Trust And Combat

作者: 夢見月

複数話の予定ですが、基本的に一話完結なのと、投稿間隔が非常に長くなる可能性があることを考慮し、短編扱いとさせていただきました。

20xx年

 冷戦が終結し、合衆国大統領が対テロ戦争を宣言してからわずか数十年。

 黒海に面した半島をめぐり、露国と欧州連盟の対立の最中、突如として大規模な戦闘が勃発した。

 世界各国は露国の大規模な工作部隊が戦闘を始めたとして批判するも、露国は関与を否定。

 さらに、露国は戦闘部隊を鎮圧するとして軍を派遣、これを皮切りに欧州連盟、米国も部隊を派遣した。

 これにより、戦闘は激化。

 その後、敵部隊は露国ではなく、世界各国より集結した多国籍テロ部隊だと判明。

 米国をはじめ、各国がテロ部隊に宣戦を布告。

 直後、敵、別動部隊群が世界中でゲリラ的戦闘を開始。

 その被害は極東にまで及び、集団的自衛権の行使容認を決定した極東国家までもが、戦闘に参加。

 世界情勢は大きく揺らぎ、直ちにこれを治めることが求められ、国連を中心に各国は互いに手を取り、多国籍対テロ部隊を編成、そして今に至る。


「小隊長! 司令部北部より敵部隊接近! およそ2個分隊です!」

「味方の索敵を潜り抜けたか……よし、対地迎撃戦闘用意! 各員配置につけ!」

 ここは激戦区から外れた、西の地域の司令部だ。

 そこに敵部隊が迫っている。

「撃ち方初め!」

 合図で、周りにいる全員が各々手に持った銃を撃つ。

 自分も愛銃を構え、安全装置を解除し、引き金を引く。

 反動を一歩後ろに引いた右足から地面に流す。

「目標後方よりガントラック接近! 数2、もとい3両!」

 軽トラックに機関銃を積んだゲリラが良く使う戦闘車両を確認し、その運転席に向けて銃弾を撃ち込み、無力化する。

 機関銃手は他の隊員が無力化したらしい。

 それ以上の攻撃はなく、目標を全て鎮圧することに成功する。

 こちらの被害は軽微。

被害報告を聞いてから、司令部テントに戻り、弾薬を補給し、椅子に座りこむ。

 それからしばらくして、通信士から報告が入った。

「偵察部隊より入電! 敵、少数部隊が西へ侵攻を開始した模様、おそらく精鋭部隊だと思われます!」

 仮設指令部テントに報告が響き渡る。

 司令部、といっても安全な場所にあるわけではなく、断続的に銃声や爆音が聞こえてくるような所にある。

「我が軍本隊は南下作戦を、別動隊は南西地域迎撃作戦を遂行中のため、敵精鋭部隊の迎撃に裂ける戦力がありません!」

「敵は欧州進出を狙っているのか?」

 つぶやくが、返事は無い。

 そもそも返事は求めていないが、求めた所でだれも答えないだろう。

 なにしろ自分は司令部守備を命じられた小隊の小隊長で、司令部長は現在後方の統合本部に赴いているため、実質的に一番上の立場だからだ。

「司令官が戻り次第、我が小隊で迎撃戦を行う」

 小隊に指示を出す。

 この第8小隊は4個の分隊からなり、一分隊およそ10人で編成されている。

「新垣二等兵はいるか?」

「はい! 第8小隊所属、新垣二等兵、入ります!」

 呼ぶと、テントの外から威勢の良い声とともに、一人の男が入ってきた。

 この男は、階級こそ二等兵だが、観測手としての技能はなかなかのもので、自ら司令部長に進言し、第8小隊に招き入れた。

「お前は今回、観測手として同行してもらう。いいな?」

「了解!」

 拒否をするとは思えないが、聞かないわけにもいかない。

と、面倒な作業を済ませ、統合本部に出撃の旨を伝えると、すぐさま出撃許可が下りた。

 司令部長の帰還を待ち、作戦ブリーフィングを始める。

 「今回の作戦の目標は、現在西方向へ侵攻を開始した精鋭部隊を迎撃することだ。部隊は、これまで通りの4つの分隊及び、私が抜選する先行部隊で編成する。先行部隊の構成はブリーフィングの後に発表する。4分隊はそれぞれ目標正面に展開、先行部隊は北より回り込み、目標の側面をたたく。詳しくは各分隊長に渡した指令書を読んでくれ。なお、作戦開始時刻は1300(ヒトサンマルマル)時とする。それまでに各員、昼食と装備チェックを済ませ、この司令部に集合せよ。以上!」


 某日日曜日午後0時20分

 「trust and combat」

 通称、「T・A・C」この名を知らぬ者はいないだろう。

 …………ネットゲーマーの中だけの話だが。

 このゲームは、半年に及ぶクローズド及びオープンβテストを経て、世に送り出されたMMOFPSである。

βテストを終えた直後としては異例のプレイヤー人数150万人を記録した。

 これはアメリカ軍の規模と同程度である。

 その150万人の兵士達が日夜一つの世界に集い、激しい戦闘を繰り広げている。

 このゲームで稼働しているサーバーはかなり大規模なもので、多額の維持費が掛かるため月額課金制を取っている。

 ちなみに、βテスト時にバグを報告しまくった功績を評価され、月額課金を永久免除されているというのはちょっとした誇りである。

 さて、オープンβの時に結成した第8小隊の隊員との約束まであと40分弱。

 装備の点検もしたいので少々急いで昼食を作る。

 今日は余った冷ごはんでチャーハンを作った。

 さっさとそれを食べ、パソコンへ向き直る。

 と、自分と同じように早めにネットにつないでいるメンバーが一人いた。

 プレイヤーネーム「aragaki」当て字だが、脳内では新垣、と呼んでいる。

ヘッドセットを装着し、ボイスチャットを繋ぐ。

「おう新垣、早かったな」

『そっちこそ「小隊長」殿』

 ゲーム内ではアレだが、外では上下関係なんてない。

「今回の作戦だが、初めのころを思い出すな」

 初めの頃というのは、オープンβのことだ。

「あの頃は統率を取るのが難しかったからな。敵のゲリラ攻撃は脅威だった」

 このゲームでは、プレイ開始時に「テロリスト」か、「対テロ部隊」かを選ぶ。

 今現在、バランスはテロリストに傾いている。

 対テロ部隊は、統率を取り、戦略的に動くことが求められ、逆にテロリストは個人の戦力と、待ち伏せや奇襲を主とした戦術を求められた。

 これにより、初めの、対テロ部隊が統率を取れていなかった頃は悪戦苦闘したものだ。

『でも今は違う。そうだろ? 初めは分隊単位で部隊を編成して、そこから小隊、中隊、大隊、連隊。今では最高単位は旅団までなったんだから。今度師団を編成するって話だぜ。なによりアンタは第8小隊、1桁台の小隊長なんだしよ』

 第8小隊、つまり自分が小隊長を務める隊だが、第1~9小隊は「1桁小隊」等と呼ばれ、中隊以上の隊に属さず、独自に動く特殊部隊のような位置付けにある。

 主な任務は激戦区に近い陣地の防衛、奇襲、待ち伏せ作戦、最前線で孤立してしまった部隊の救出作戦などである。

「同じ1桁台の小隊長でも、第1小隊の小隊長とは大違いだ」

 第1小隊。

 全部隊の中でも最高錬度を誇る。

 そこの小隊長は、旅団長を越える、実質対テロ部隊最強のプレイヤーだ。

『まぁあの人と比べると、な』

「さて、「二等兵」無駄話は終わりだ。そろそろ入るぞ」

『了解、「小隊長」』


仮設司令部内待機室


 立て掛けてあったアサルトライフル、愛銃である「sig SG550」を手に取り、机に置く。

 まだ時間があったので、フィールドストリッピングを始める。

機関部以外を分解し、銃身に付着したカーボンを念入りに落とす。

 ライフリングが少し摩耗していたが、あいにく後送している時間的余裕は無い。

 他に消耗している部品がないかをチェックし、組み立てる。

 そうしているうちに徐々に隊員も集まり出し、時間になった。

「よし、これより作戦を開始する。以後、各員は分隊長に従い作戦を遂行せよ。以上だ。何か質問はあるか?」

「あの……」

 分隊長の一人が手を挙げた。

「発言を許可する。何だ?」

「別動の抜選部隊というのは、三人だけですか?」

「そうだ」

 結局、自分が選んだのは、観測手の新垣二等兵と軽機関銃手の桜兵長の二名だけだった。

「別動隊の目的は側面から攻撃し、敵を撹乱することだ。あまり大部隊になってしまっては元も子もないからな」

「そんなこと言って~、ただ女の子と組みたかっただけなんじゃないですか? 小隊長」

 隊員の一人が言う。

 確かに、桜兵長は1桁小隊の中では唯一の女性兵士で、外見、内面ともに可愛らしい。

 が、戦場でパニックに陥ることも無く、常にマイペースで冷静なため、こういった戦闘にはもってこいな人材だった。

「ま、否定はしないが、能力を見込んでのことだ。分隊長、異論はないな?」

「はい、小隊長。桜、しっかりやってこいよ。グッドラック」

「はい、分隊長! 小隊長、よろしくお願いしますね!」

 ちなみに、詮索はしないが、分隊長と桜は多国籍対テロ部隊編成前からの知り合いらしい。

「出た、分隊長の「グッドラック」。皆は本当に幸運を授かったとか言ってるけど、俺はいい思い出ないんだよな~。まぁ頑張ってこいよ」

 他の部隊員達からも応援の声が続く。

「出撃するぞ。各員最終チェックを済ませ、割り当てられた車両に乗り込め」

 声のトーンを落とし、空気を変える。

「「「了解」」」

 返事とともに、皆それぞれの車両に乗り込んで行く。

「兵長、二等兵、こっちはバイクを使う。乗れ」

 機動性と隠密性を考え、普段は偵察等に使われるバイクを使う。

 車両は真っすぐ東へ、バイクは回り込むために北北東を目指して走り出した。


北北東、非戦闘地帯

 昔は激戦区だったここも、対テロ部隊が侵攻、制圧したので、今ではその傷跡が残るだけの場所だ。

 今身を隠している土嚢が積まれた浅い塹壕もその時の名残だ。

「新垣二等兵、敵の編成はどうだ?」

 前方に見えるのは砂煙。

 双眼鏡を覗くと、それが車両のものであると分かる。

 隣では新垣がより高倍率に設定された単眼鏡を覗いている。

「装甲車メインの主力がおよそ1個小隊、その後方に軽装甲車に先導された輸送車一両。輸送車の周囲には護衛と思しきオートバイが展開。数5」

「よし、主力は主力に任せよう。こちらは後方の輸送を叩く」

「輸送車までの距離3千5百、時速70にて進行中。小隊長の有効射程距離まで残り2千9百。接触予測、およそ3分」

「よし、桜、ここから徒歩でさらに進行して敵の裏を取れ。ミニミの火力で敵の意表をついたら射撃場所を特定される前に移動しろ。撃ったら移動することを忘れるな」

「了解です、小隊長」

 桜が持つ軽機関銃、「ミニミ軽機関銃」は分隊支援火器等とも呼ばれ、分隊の火力不足を補うために配備される。

 口径はsig550と同じ5,56ミリだが、装弾数は圧倒的に多い。

 ちなみに、口径は同じだが、sigで使われるのが命中精度を重視した専用弾なのに対し、ミニミに使用されるのは旧西側陣営、現NATOに広く普及している小口径高速弾、5.56ミリNATO弾である。

 桜はそんなミニミを担ぎ、慎重に塹壕から出て行く。

『小隊長、射撃ポイントにつきました』

 桜が塹壕を出てからおよそ3分、目標は既に射程圏内に入った。

「狙撃を開始したら撃ち始めてくれ」

『了解です』

「新垣二等兵、目標、輸送車右前車輪」

「了解。……距離5百、風速微風。修正の要無し。相対速度およそ80キロ」

「了解。狙撃を開始する」

 バイポッドを立て、土嚢に乗せる。

 地面に寝そべり、反動を地面に流すため両足を肩幅よりも開き、伏射姿勢を取る。

スコープのカバーを開き、目標である運転席下のタイヤを狙う。

 そこから着弾までに目標が移動することを見越し、やや前方に照準をずらす。

 セレクターレバーをセーフティからセミオートへ。

息を止め、銃身を保持している左手とグリップを握る右手に力を入れる。

 ブレが無くなり、一番安定したその瞬間に右手人差し指をトリガ―に掛け、引く。

 マズルフラッシュと同時に乾いた破裂音、それに全身を駆け巡る反動。

 音速で飛翔した弾丸は狙い通り、目標に着弾した。

 タイヤがパンクしたことにより、制御がきかなくなった輸送車は蛇行し、停車した。

 周囲を走っていたオートバイ及び軽装甲車から新たな「目標」が下りてくる。

 伏射姿勢を崩さず、あわてて出てきたAKS-74を持った運転手を狙撃する。

 これで輸送車を足止めすることが出来た。

 さらにそこへ軽機関銃の弾幕攻撃が加わる。

 敵が混乱しているうちに移動する。

 バイポッドを畳み、立ち上がる。

 軽装甲車から出てきた内の何人かがこちらへ接近、さらに自分達を見つけた数人が銃弾を撃ち込んでくる。

 これには新垣二等兵が背中に掛けていたサブマシンガン、「MP5J」で応戦する。

サブマシンガンは主に拳銃弾を使用する銃である。

 このMP5Jは、5,56ミリNATO弾と同じく、西側諸国に普及する拳銃弾、9ミリパラべラム弾を使用する。

 ちなみに、MP5Jというのは正式名称ではなく、MP5Fにフラッシュハイダー等を装着したものがこう呼ばれている。

 走りながらセレクターを操作し、セミオートから3点バーストに切り替え、時折振り返り射撃する。

 走りながらなので命中精度は落ちるが、なんとかバーストの弾数でカバーする。

 追ってを振り切り、次の塹壕に飛び込む。

『こちらエイト・ワン。現在敵前衛部隊と交戦中』

『こちらエイト・ツー同じく敵前衛部隊と交戦中』

 塹壕に飛び込んだと同時に無線から次々と接敵の報告が入る。

「こちらエイトリーダー、現在敵後方輸送部隊と交戦中」

 小隊に報告を入れる。

 目標本隊が接触したらしい。

しかし補給は断ったので、長期戦に持ち込めば楽に勝てるはずだ。

 さて、その補給だが、一撃離脱の狙撃と常に移動する軽機関銃の弾幕という見えない攻撃で足止めをしているが、何しろ敵は精鋭部隊、それも補給の護衛ともなればさすがになかなかのもので、手強い。

 軽機関銃の弾幕は即座に弾道を読まれ、遮蔽物に隠れられてしまう。

 狙撃はと言えば、元々長から超長距離専門のスナイパーではなく、中、長距離のミドルスナイパーなので使用している銃が狙撃銃ではなく、あくまでアサルトライフルでの精密射撃なので、アウトレンジ戦法というわけにもいかず、どうしても敵の射程圏内に入ってしまう。

 結果敵の弾幕攻撃を受け、有効弾を撃ち込めずにいる。

「残弾報告!」

「新垣、SMG残り30。ラストマグです。HG(ハンドガン)は消費無し」

『えーと、こちら桜。ミニミ残弾およそ50。ベレッタは消費無しです』

制圧に手間取ったため、こちらの残弾が怪しくなってきている。

今手に握っているsig550の残弾はあと20、サブで持っている拳銃は、メインと同じくスイス、sig社製のP220、9ミリパラベラム弾仕様だ。

ちなみに、新垣二等兵の持つ拳銃はアメリカ、ヘッケラーアンドコッホ社製の、H&K USPだ。

使用弾薬は9ミリパラベラム弾よりもストッピングパワーの強力な45ACP弾だ。

「よし、後退し、味方本体と合流する。桜、戻ってこい」

『了解です、小隊長。ですが弾がもう無いので、戦闘を回避するために大周りで移動します』

「よし、新垣。後退するぞ」

「小隊長…………」

「どうした?」

 新垣二等兵の指さす先を見る。

 と、そこには……

「ティーガ―Ⅱ……だと……!」

 第二次世界大戦時にドイツが開発した重戦車、ティーガ―Ⅱ。

 その重装甲はあらゆる攻撃をはじき、主砲は万物を破壊する。

 第二期世界大戦中にドイツで生産された重戦車。

 設計思想が古く、重装甲重武装で、現代では必須である機動力が限りなく低い。

 しかし対戦車兵器が無ければいくら旧式といえども歩兵数人でどうにかなる相手ではない。

 本部に増援を要請しようにも長距離無線を持っておらず、通信兵もいないため通信兵のいる隊経由で要請しなければならない。

 すぐに短距離無線に手を伸ばすが、その前にティーガ―の機銃掃射が飛んできた。

「伏せろ!」

 声と同時にものすごい量の弾丸が降ってくる。

 塹壕の土嚢が削られ、中の土が身体に掛かる。

「大丈夫か!?」

 隣にいた新垣に確認するが返事がない。

 見ると、破片が右腕に刺さっていた。

「新垣二等兵負傷! 至急後送を求める!」

『こちらエイト・メディック。治療の準備は整っている。が、迎えを送る余裕はない。自力でメディカルポイントまで後退されたし』

「こっちにはティーガ―が来ているんだ! すぐに応援をよこせ‼」

『……通信状態が良くない。もう一度繰り返しを求める』

「敵の重戦車だ! 応援をよこしてくれ!」

『…………こちらエイト・メディック。応答せよ』

「くそっ‼」

 どうやら持っていた通信機の送信部が故障したらしい。

「とにかくここはダメだ! もうひとつ後ろまで下がるぞ!」

 負傷した新垣二等兵を連れ、塹壕を飛び出す。

 新垣は左腕で残ったMP5の弾をすべてばら撒く。

 後ろの遮蔽物に隠れると、轟音とともに遮蔽物が吹きとんだ。

 ティーガ―Ⅱの71口径の主砲が火を噴いた。

転がるようにして塹壕に飛び込む。

「おい、なにやってる!」

「え、あ、あの……」

 飛び込んだ塹壕の中に見るからに初期装備の通信機器を背負い、アメリカ、コルト・ファイヤーアームズ社製のM4カービンを持った新兵がいた。

「前線に行こうと思って、でも奇襲とか怖いから回り込もうと思ったら戦闘が始まって、それでここに隠れていたんです」

「お前、前線に出るのは初めてか? あのなぁ、補給路を通れば接敵する可能性は限りなく低いんだから、こんなとこまで回り込む必要は無いんだよ」

「そうなんですか。初めてではないんですけど、前は友達と一緒だったし……」

「だれか先輩によく教えてもらう事だな。その分じゃ補給の受け方も知らないだろ」

「はい……」

「それよりもそれ、長距離無線だな?」

「はい! 友達の部隊に入れてくれると言うので、選びました!」

「ちょっと貸してくれないか」

「ええ、いいですよ」

 初期の通信機では中継器無しで通信できる距離が限られるが、幸いここは前線よりも本部に近く、ギリギリだが届く。

「エイト・リーダーより本部へ、至急応答されたし」

『こちら本部、エイト・リーダーへ、どうぞ』

「現在敵重戦車の攻撃にあっている。こちらに対戦車兵器は無い。至急、対戦車兵器を携行した応援か、航空支援を要請する」

『こちら本部、了解した。航空支援を行う。座標を伝えられたし』

「w2087地点だ」

『了解。爆撃機による爆撃を行う。直ちに当該地域から離脱せよ』

「ダメだ。釘付けにされている。離脱できない。ピンポイント爆撃を要請する」

『現在ピンポイント爆撃ができる錬度を持つパイロットをすぐにそちらに派遣できない。あと20分持ちこたえてくれ』

「そんなに持たない! もっと早く出来ないのか!?」

『ほとんどの航空機が出払っている。あとはヘリしかない』

「……了解した。戦闘を継続する」

 ヘリではさらに時間を要してしまうため、期待できない。

「くそっ。おい、弾薬を貸してくれ。あと……短距離無線機があればいいんだが……」

「銃もですか?」

「いや、弾だけでいい」

 新兵から5,56ミリNATO弾と、手榴弾2発を受け取る。

「あと、無線機ですね?」

「なんで通信兵が持ってるのかはもうこの際いいとして、助かる。あと、こいつを後送してほしい」

「分かりました。それで、無線機はいつ返してもらえますか?」

「本部でもらってくれ。第8小隊の小隊長って言えばもう少しいいのを支給してもらえるはずだ」

「小隊長!? しかも第8の……すげぇ初めて見た……あ、し、失礼しました!」

「じゃあ頼んだぞ。弾幕は止める。3・2・1・GO!」

塹壕から体を出し、手榴弾を投げる。

さらに受け取ったSTANAGマガジンを、改造された愛銃の差し込み口に叩きこみ、フルオートで撃つ。

 機銃手を抑え、後退の時間を稼ぐ。

 二人が射程外まで下がったことを確認し、射撃を止め、塹壕に潜り込む。

 するとすぐに主砲が放たれ、塹壕付近に着弾し、土嚢を吹き飛ばした。

 頭を上げないように注意しながら狭い塹壕の中を移動する。

 航空支援まであと15分、どうにか持ちこたえなければならない。

 それまでに。

「出来る事なら機銃手を無力化したいな」

 対空射撃をされると厄介なうえに、機銃手さえなんとかすれば自力での離脱も可能になる。

 精密狙撃に使える弾はあと20発、5,56ミリNATO弾はあと90発。

 弾幕攻撃をすると機銃手が引っ込んでしまい、かといって後退出来るだけの弾数も無い。

 ならば身を乗り出し機銃手をおびき出した後に狙撃するしかない。

 それに、どうやら向こうはこちらを逃がしてはくれないようだ。

 とにかく後ろまで回り込まないことにはどうにもならない。

「行くか」

 愛銃のセレクターを3点バーストにし、左手に手榴弾を握る。

 機銃手にバーストで弾を浴びせ、牽制しながらティーガ―に突っ込む。

 ティーガ―の履帯にピンを抜いた手榴弾を転がし、そのまま横を走り抜けて反対側の遮蔽物に隠れる。

 数瞬後、手榴弾が爆発し、戦車が傾く。

 すぐにマガジンを交換し、コッキングレバーを引いて専用弾をチェンバーに送り込む。

 あわてて周囲を見渡す機銃手に向けて1発の銃弾を放つ。

 銃弾は胸部に着弾し、機銃手を無力化する。

 想定外だったのはさらに別の敵が機銃を握ったことだ。

 だが、向こうはこちらの位置を把握できていないようで、周囲に向けて乱射しているだけだ。

 すぐに落ち着き取り戻し、新たな機銃手を撃つ。

 機銃手は無力化出来たが、こちらの位置がバレ、主砲塔がこちらに向けて回転する。

 先程の攻撃で故障したのか、砲塔の回転速度は遅いが、こちらにはもう逃げられる場所がない。

 最後の悪あがきとして残った弾をばら撒こうかと思った時、上空から特徴的なエンジン音が聞こえた。

 あと10分は来ないと思っていた航空機だ。

 まさか自分ごと爆撃するつもりかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。

 機体は上昇し、ほぼ90度で急降下した。

 そのままガトリング砲、A‐10の30ミリ徹甲弾を装甲の薄い、戦車の直上に浴びせかけた。

 ティーガ―は大破、戦闘不能状態だ。

 「A‐10」

 対地攻撃を専門にする、フェアチャイルド・リパブリック社が開発した航空機だ。

『こちらサンダーボルト。大丈夫かい? 小隊長さん』

 無線からパイロットの声が聞こえてきた。

「こちらエイト・リーダー。協力、感謝する。まさか急降下爆撃ならぬ、急降下機銃掃射を見せられるとはな」

『実戦でやったのは初めてさ』

「それにしてもよくこんなに早く来られたな。あと10分は掛かると思ったぞ」

『前線からの帰投中に通信が入って、急遽空中給油をすませてこっちにきたのさ。あれが最後の弾だった』

「それはすまなかったな。今度お礼をさせてくれ」

『楽しみにしてるよ』

 通信を終え、空を見上げる。

 薄く雲がかかっており、きれいな空は見えない。

 この世界はいまだ戦乱に包まれている。

『こちらエイト・ワン。敵部隊の殲滅を確認』

『こちらエイト・ツー。敵部隊の殲滅、及び捕虜を1名確保』

『こちらエイト・スリー。敵部隊の殲滅に失敗。撤退を許しました。すいません』

『こちらエイト・フォー。敵部隊の殲滅に失敗。ただし航空支援により敵部隊の全滅を確認』

 物思いにふける暇も無く次々と無線に報告が入る。

「こちらエイトリーダー。敵後方輸送部隊の殲滅に成功。これを以て作戦の成功、及び終了を宣言する。御苦労だった」

 ともあれ、これで今回の迎撃作戦は成功だ。

 捕虜もいる、ということなら尚良いだろう。

 敵を捕虜としてとらえた場合は、部隊を移籍し、味方につけるか、相手に身代金を要求するか、だ。

 捕虜となった側とすれば、味方を裏切って敵に肩入れするか、身代金を要求されるぐらいなら隙をついて脱出、または自決するか、だ。

「ところで、新垣二等兵は無事後送されたか?」

『新垣二等兵以下10名が治療中です。ただし戦死者はいません』

「よし。その程度の被害なら大成功といえるだろう。桜兵長はどうだ?」

『……仮設司令部にて桜兵長の姿は見えておりません』

「各分隊長へ、桜兵長と合流した分隊あるいは班はあるか、確認せよ」

『第一分隊、該当なし』

『第二、第三分隊ともに該当ありません』

『第四分隊も該当ないです』

「分かった。至急、司令部に戻れ」


『拝啓 多国籍対テロ部隊、第8小隊殿へ。貴殿らの兵長を一人、丁重にもてなしている』

 司令部に届いた1通の平文。

 そこには米ドルで4万6千ドルを「もてなし」の費用として請求する、と続けられた。












明朝夜明け前


「これより、桜兵長救出作戦のブリーフィングを始める」


             『to be continued』



次話は「Trust And Combat2」という題名で投稿します。



2016年6月7日

続編を投稿しました。

Trust And Combat 2

http://ncode.syosetu.com/n1693dj/

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