新藤紹介
「阪東監督!」
そう呼ぶのは選手会長の新藤であった。別のグラウンドで選手達とノックを受けている。
セカンドがメインだというのに新藤はサードを守っていた。
「新藤はセカンドじゃなかったのか?」
「……あと守れて今年一杯。内野を一通り守れればスタメンとしての道も続くと思っているもので」
「だが、俺はお前をセカンドでしか使わないつもりだ」
新藤以外のセカンドの強打者なんてそういない。自分自身、セカンドを守れる守備ができないのは自覚しているようだ。河合と友田と違ってまともだ。
阪東は少しの間、新藤をグラウンドから離れてもらってここにいる選手達を教えてもらうことにした。
「守備、かったりぃー。新藤さんいいなぁー。練習サボれてー」
センターを守る友田は阪東と新藤の話し合いを、サボりと思いながら見ている。そこへ打球を飛ばす非情なノッカー。
「友田ー!打球がいったぞー!」
「めんどくせぇー。俺もサボるわ」
打球はセンターを越える。しかし、友田はグラウンドで寝転ぶ始末。打球を追わない。これを本当の試合でもやりやがるから、投手からしたらたまったもんじゃない。守備走塁コーチもオカンムリである。
「地花、あと全部守ってくれよ。俺、寝る」
「はぁ!?テメェ、新人王だからっていい気になってー!」
文句を言いながら友田に代わって打球を捕りにいく地花。強肩強打を売りとした、2年目、左投左打の外野手。4年間ほど投手として在籍していたが、度重なった大補強によって投手から追い出された形であった。
投手として入団したからこそ、その強肩は野手としてならば河合と並べられるほどだ。
「良い肩してるでしょ?」
「ああ。生真面目なところも良いな(友田が不真面目過ぎるか)」
新藤は外野から紹介してくれる。センターにはある意味でも不動の友田がおり、ライトには尾波がいる。残ったレフトを争っている外野手はなんと6人もいるのである。
「地花、木野内さんと本城、マルセドは左打ちの外野手。右打ちは千野」
打撃では一発のある地花とマルセド。守備ではお互いに強肩を魅せてくれる。
木野内と本城は確実性のある打撃で塁に出塁する。守備は突出こそしていないが、安定している守備がある。
右打ちの千野は友田ほどではないが、快足を活かした守備と小技に長ける打者。
「地花以外は内野も守れる」
木野内は37歳のベテラン。入団時はショートであり、内野のコンバートを経験した後に外野へ転向。ちなみにここにきたのは一昨年で、戦力外通告を受けたところを拾われた形であった。渋いプレーを魅せる。
本城は社会人からの即戦力として入団。新藤の後釜として期待されている。外野での出場をメインとして経験を積んでいる状況だ。
マルセドは昨年加入した大型外国人……のはずが、扇風機のような打撃だった。一方、当時は評価されていなかった堅実かつ強肩、マルチな守備能力がこのチームに必要だと判断され、残留が決まった。嵐出琉とは仲が良い。
千野は入団当時は和製大砲とも言われていたが、プロの壁は厚かった。若さもあって、足を活かすために外野にコンバート。小技は高校時代から上手かった。
「あと、ついこないだ投手から外野にコンバートされた久慈がいますね」
「投手からのコンバートだと?」
久慈 光雄。左投左打。6年目の投手。
ストレートも変化球も平凡。際立つ制球力もあるわけではない。泣かず飛ばずのまま、外野手にコンバートされた。
「彼、打撃だけなら地花より上。尾波より下ってところ。豪快なスイングでした」
「……なにやってんだ。よりによって、左投げの投手をなぜ野手にするんだ」
投手が不足しているのに激戦区の外野にコンバートなんて馬鹿なのか、前監督は……。
あとで声を掛けてその投球と新藤も認める打撃を見てみるか。
「今はランナーをやってますけど、滝さんも外野ですよ。主に代走(俺の代わり)ですけど」
「ほぉー。守備も上手そうだな」
「滝さんの守備は旗野上並の安心感ですよ」
滝。木野内と同じくベテラン。未だに足を武器としており、代走の切り札である。昨シーズンの代走での盗塁は10。
パァンッ
「!良い動きだな。あの難しいライン際の強い打球を処理するなんて」
「サードの林さんです。昨年のゴールデングラブ賞の人ですよ。サードの守備だけなら旗野上より上ですね」
林 誠。
前選手会長かつキャプテン。33歳。右投左打。4年ほど前はチームの4番を務めたほどの打力の持ち主であったが、河合達の台頭したことと年の波によって打力は低下。一方で守備は熟練さを増しており、守備は鉄壁を誇る。ショートも守れるが、守備範囲は広くない。
現在はチームから一歩引いた状態で見守っている。結構、無口。
「新藤の代わりをやっているあのセカンドは?」
「岡島くんですね。今年の子ですよ」
セカンドの即戦力とも言われる岡島。右投右打。高卒。新藤でもまだ計りきれてない選手。守備範囲は新藤よりやや広いが、平均以下。まだ高校生か。
「ファーストのあの外人は?奴も今年来たばかりか?」
「コールドバークも今年の冬に加入した選手ですね。右の大砲と評判だそうですよ。パワーは河合と並ぶかと」
「しかし、嵐出琉がいるのにどう扱うつもりだったんだ?うちのフロントは何を考えていたんだ……」
コールドバーク。右投右打。嵐出琉のライバルとなるのか、ファーストを守る大型の外国人。
「最後にショートか」
「ショートは日向、東海林、……それに旗野上も加わって三つ巴状態でしょうね」
「しかし、内野の華とも言えるショートなのに3人共、パッとしないな」
日向。右投右打。守備範囲は普通。打撃は意外性のある一撃があるものの、打率は低い。
東海林。右投右打。守備範囲は普通。巧打と俊足をみせるが、肩は並以下でパワー不足故、長打が少ない。
旗野上 護。右投左打。投手以外の全ポジションを守れて、どのポジションでも広域かつ高い捕球技術で役割を真っ当する最高の守備職人。一方で打撃はクソ。攻撃力はほぼ0。
「ありがとう。大体分かったよ」
「今ので良かったのですか?」
「新藤の分析力は高く買っている。間違いはない。あるとすれば、選手達が上手くいく間違いくらいだ」
一通り選手達の動きと情報を間近で確認した阪東はこの、主力を支える脇役達の良さを引き出し始める。
1つ、左打ちが多いこと。
2つ、選手の守れるポジションが比較的、多いこと。(守備範囲は狭いが)
3つ、特別に穴となるポジションがないこと。良い意味でも悪い意味でも。
絶対的な安定感がある選手なんていない。長いペナントで疲弊することは当然起こる。打線の主力は5人であるが、野手としてならばみんな劣らない。
あとは監督である阪東が上手く組み合わせて機能させること。
このチームはまたあとからでも十分に計れる。
「あとは敵チームの情報と新戦力だけかな」
敵を倒すにはまず敵を知る事。
阪東は昨シーズンのデータに全て目を通し、敵のキャンプ地の様子にも逐一探りを入れていた。