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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS時代センゴク編
42/45

主導戦争

「井野沢。見事な投球でしたね。7球、連続フォークに痺れました」

「ベンチの指示からだった。センゴクの押せ押せムードが上手い具合に崩れた。一軍半の選手も、ここぞという場面でよく投球したものだ」



なかなか良いフォークだった。手が出たのも仕方がない。獲れる追加点を逃したセンゴクにとっては痛い。このチャンスを見逃すシールバックではない。

千野がセカンドフライに倒れるも、新藤が四球を選んで2打席連続出塁と止まらない。

そして、4番の河合が進塁打で新藤を進めて2アウトながら初の得点圏。



豪快なスイングがキレのあるカーブを見事に捉えてみせた。シールバック、この試合初の長打。



「嵐出琉!タイムリーツーベース!!すぐさま、同点にしました!!」

「さすがシールバック。打球がもう少し浮いていたらホームランだったぞ」



嵐出琉の一発で逆転とはならなかったが同点にした。

しかし、それでもダイアーは大崩せず。次の尾波をキッチリセンターフライに打ち取った。

井野沢は続投し、4回裏のマウンドに昇った。



さっきは上手い具合に孜幡と前田を打ち取れたが、向こうの準備不足もあった。

フォークを全球続けたことで様子を見てくる。



「ボール!」


フォークのキレ、コントロール。この変化球だけは一軍に通じるレベルがある。

しかし、それ以外は恐れることはない。



「ボール、フォアボール!」


先頭の大伴を歩かせてしまった井野沢。明らかに攻め方を変えてきたセンゴク。

フォークを捨てて、他を待っている。フォークは見逃せば8割方、ボール。ストライクに投げてくる球でもない。

これをやられると今の井野沢では突破できない。



「やばいな」


しかし、続くダイアーが送りバント失敗で1アウトはいただいた。

1番か2番に出塁を許せば、徳川と小田に回る。なんとしても後続を断ち切りたいところ。それを理解している井野沢だが、同点となったことで自分の投球がどれだけ重要かをより考え、プレッシャーに変えてしまった。




ギイィンッ



「これはピッチャーゴロ!併殺になるか!?」



橋場のミスショット。井野沢がこれを捕球し、すぐさまセカンドへ送球したが



「高いーー!日向、捕れない!大伴は3塁へ向かった!!井野沢の悪送球!」



1アウトをとっているが、痛恨のエラーを絡めて再び3塁1塁。


「準備はできてるな?」


阪東はここで井野沢を諦めた。よくあの場面を抑えてくれたが、同点にした次の回でやってくれた。やはりこーいった甘さが、一軍に居られない理由。

ケントの肩を作らせていたことが幸いだった。

4回にして、早くも3人目を投入するシールバック。



「ピッチャー、井野沢に代わりまして、ケント」


「早い継投ですね、水嶋」

「優勝を賭ける勝負です。後手後手の継投は悔いが残るものですよ。元々、井野沢投手は敗戦処理かビハインドでの投手。妥当な交代」



ケントを投入し、狙いたいのはゲッツーにして徳川の前で切ること。しかし、1塁走者の橋場は足が速い。盗塁もあるだろう。


「ホームで殺せ。勝ち越し点は与えるな」


3回と違うことは打者にある。ほぼ確実に徳川と小田に回るこの回、リードを許した状況で迎えればかかるプレッシャーも減り、追加点なんて浴びれば終わってしまう。

仮に2番の庭でアウトがとれず、四球などで満塁となっても併殺の目がある状況では徳川も慎重になるだろう。



「上がったーーー!レフトだーー!」



だが、いかに得点を与えないようにしていても打たれるときはある。庭がケントのストレートを力で弾き飛ばし、犠牲フライには十分な飛距離を作った。


「再び、センゴク勝ち越し!庭の犠牲フライ!1-2!」


2アウト1塁となった。


「見事な打撃だが、橋場の盗塁を待った方が良かったろう。徳川、小田で試合を決めるならするべき場面だった」


水嶋は今のセンゴクの攻め方にらしさを感じた。打ちまくりの攻撃だからこそ、想定外のアウトを謙譲したくない。成功する確率は高いはずなのにしなかったことはセンゴクの隙。



「踏ん張れーー!ケント!」



ランナーは1塁で足もあるが、あの場面でもう盗塁をしてこないことは分かっていた。打者勝負でケントは挑み、重要な打者である徳川をライトフライにうちとってこの難関を1失点で凌いだ。

ヒット0で失点を許したが、1失点しか与えなかったのは大きい。



昨日の打撃戦が嘘のような拮抗した試合。どちらも流れを掴み掛けそうで掴めない試合。

5回表。下位打線から始まるシールバックだったが、こーいった重要な場面で結果を出すベテラン。アウトローの難しいストレートを綺麗に流し、グングンと打球が伸びていった。



「行くかーー!」



走りながら、スタンドに打球が入る前に拳を振り上げる打者。静かな一発が場内を沸かした。



「今日8番の林!同点ソロホームラン!!レフト方向に流してスタンドイン!!」


重要な場面でこの一発を打つ。ベテランの中で一番、活きの良い仕事をする。



「打撃はそこまで良いとは言えないのに、こーいった場面に強いですね!さすが、林!」

「牧から一発を放ってるし、エースキラーでもついているのかな」



僅差の場面で働ける選手はこの土壇場では心強い。調子の波がこーいった場面で出てくれれば、試合の流れを掴める。次のセンゴクの攻撃は4番の小田から。

一発さえなければ十分。

このイニング。小田にはケントが、孫一になれば吉沢にスイッチをさせた阪東。中継ぎをフル活用し、三者凡退で切り抜けた。同点になったこの回だからこそ、0点に抑えたい采配だった。

それに6回表は2番の千野からの攻撃。



「代打、地花」



ここで攻めの姿勢を見せ、代打を送った阪東。この回で勝ち越す気だ。


「勝負あった」

「え?」

「センゴクの負けだ。やはり、あの場面で欲を張らなかったツケがきた」



水嶋はうっかり未来を言ってしまった。

この場面で代打を使えるシールバックの選手としての個性。先に打線が爆発したのはシールバックだった。

地花がライト前ヒットで出塁した。何かを仕掛けるノーアウトで打席には新藤。

当然打ってくる。新藤ほどの打者だから、慎重になるのは仕方がない。

それを見越して阪東が仕掛けたのは地花の盗塁だった。完全な無警戒からの盗塁に、やってしまったミス。



「主導権はやってくるものじゃない。掴みとるものだ」

「今の盗塁のことですね」

「いや、全ては井野沢からケントへの継投から始まっている。シールバックは川北の降板で負ける場面だった。しかし、運も絡んで抑えた。ピンチを乗り切ったチャンスを力技で取りに来た。それがあの継投と代打の地花。嵐出琉のタイムリー、林の一発もそう」



全てが空回りすれば監督の責任。そのプレッシャーを物ともせず、流れを呼び込むための積極的な采配。攻めるべき場面で攻められる、度胸。

シールバックが勝てる要員はやっぱり監督か。



「ノーアウト2塁で新藤、河合、嵐出琉。さて、何点で凌げるか?」



水嶋の質問に対し、シールバック打線とセンゴク守備陣が出した答え。

新藤、河合、嵐出琉、続く尾波も。この好機を逃さず、一気に攻める。ダイアーから連打を重ねる。



「この回、一気に5連打!!3点目!!尾波のタイムリーヒットで、なおもノーアウト、3塁1塁のチャンス!」



ビッグイニング。そして、ダイアーが降板してもビハインドの傷を保てる投手が、センゴクにはいないこと。

阪東は攻め続けた。動揺し、いかにセンゴク側が作戦を立ててもかき回して得点を挙げていく。

7番、日向の打席。その3球目、さらに得点を重ねようと動いた。


「尾波、走ったーーー!」



盗塁は上手くないが、より得点を挙げるための盗塁を敢行。これがセーフの判定となり、ゲッツーはまずなくなった。前進守備のバックホーム体制をとるところに



コンッ


「日向スクイズ!」


下位打線では打力が落ちる。強行で返せればいいが、今は確実にリードを広げることが優先。警戒して外せなかったセンゴクバッテリーは見事にスクイズを決められ、その差が4点となった。

そして、先ほどホームランの林の打席。阪東は強行を選んだが、林がそれに少しを首を横に降った。打たせてあげようと思ったが、勝つ事が大事だとベテランは言いたいのだろう。


「口で言え」


これ以上の得点は必要ないだろうと、安心するのはよくない事。確かにこっちの方が確実かもしれない。



コンッ



「林も初球スクイズ!?」


尾波の盗塁が活きたスクイズ。さらに広がって5点差。上位打線がキッチリ打って打点を挙げ、下位打線は残ったランナーをしっかりとホームへ返した。



「走者がいなくなってしまいましたが……」

「別にいいんだよ。これだけリードがとれれば十分な上に、7回表は友田から始まる。アウトを上げてもいいから点をとるべき場面だ」



勝負を決めた6回表だった。何が何でも点を与えてはならない場面で、簡単に出塁され、その後は押し切られた。


センゴクに打てる手はない。この状況になれば神頼みの如く、打線の覚醒に期待するしかないが……。

それも無理。



なにせ、阪東が許さない。中継ぎ陣を全て投入して完全に勝ちに来た。安藤が孜幡に一発を喰らうも、センゴクの反撃はここまで。


「試合終了!!9-4!シールバックが逆王手を掛けました!!」




センゴクの敗因はやはり2回のチャンスを物にしなかったこと。

川北降板直後のあの回で点をとれなかったこと。ただ、それは強行の失敗によるものだ。あそこでスクイズや犠牲フライなどでの得点であれば結局はカラのような結果だ。

問題は井野沢が乱れた4回。完全にシールバック側が離しかけた流れで、止まってしまったこと。攻めのレパートリーの少なさが、結果、1得点というオチに終わった。完全に攻めなければいけない場面だ。


2つの好機で結果が出ていればこのような敗北はなかっただろう。



いよいよ最終戦。シールバックと戦う、ペナントレース最後の相手にして最大のエース。牧の登板であった。




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