家族組織
昔から野球に限らず、運動ができる者はチヤホヤされたものだ。目立つ快感が止められず、当たり前のような黄色い声援が送られていた。
『家靖くーーん!頑張ってーー!』
……正妻のセナとは、小学生からの幼馴染。
愛というより恋に黄昏ていたお年頃。この頃から不倫は3度ほどしていた。男という生き物は女を選ぶより、独占したいのだ。だって、女の可愛さと美しさは幾千の通りがあるものだろう?
その女関係が高校、大学、そしてプロ野球と続いて来た。付き合い始めた頃は恋だったが、一瞬だけ愛になったら金に飢え始めた女性達。まったくなんてことだ。見返りがよりによって、キツイのに代わるとは。
「家靖!頑張りなさーーい!」
女って生き物と長く多く付き合うと苦労する。応援が力になっていたのはプロに入る前まで。今はプレッシャーしか感じない。関係を支える大黒柱であり続けなきゃいけない。
寺岡はまだ5回しか投げていないが、相当消耗していた。
それだけシールバック打線が脅威だったことを示す。スライダーの精度が落ちてきたところを友田が逃すわけがない。
弾丸ライナーでバックスクリーンへと一直線。
「入れーーー!」
フェンス直撃は確実の当たり。
東海林もスタートを切って、本塁への突入を目指した。
センターの徳川は懸命に走り、打球を追いかけた。この当たりを止めればシールバックの勢いを完全に削げる。グラブを伸ばして、数歩でも多く走った。
懸命の全力プレー。
才能では友田や小田に劣っていたが、努力や我慢においてはチーム一。さらに常に向けられているプレッシャーの重さはリーグ一だ。夢のようなハーレムプロ野球生活を抱えていて、活躍できませんでしたになれば花びらのように散るハーレム。そんなの絶対嫌だ。
「好きだからな」
野球も好きだが、やっぱり女ってサイコーだ!セナの3人目を作りたい。
捕球するその時まで、不純な精神。しかし、その現実を支えるためには活躍しなければいけない。この当たりを捕らなければシールバックは決して折れない。
捕球と同時に徳川はその勢いのまま、フェンスに直撃して弾き飛びながらグラウンドに倒れた。すんごい衝撃に観客は唖然とした。
「家靖!」
セナを初め、家靖の愛人方も女性らしく心配の声と手の動きをみせた。この時、誰も家靖が怪我して働けなくなったらどうしようかなんて、金勘定する女はいなかった。純粋に家靖を心配していた恋っぽいものだ。
「っつ~~」
ボールはグラブに収まっていた。
「徳川ファインプレイ!!友田の痛烈な当たりを捕ったーーー!」
飛び出していた東海林を刺すことはできなかったが、このファインプレイが完全に分かれ目だった。
守備の差。打線の性質の差が試合を決定付ける。
「気をつける打者が並ぶだけなら、その前後をちゃんと抑えれば大量失点は少ない。しかし、センゴクにはこれといった穴がなく、投手としてはキツイ」
「センゴク打線の方が、シールバック打線より上ということですか。水嶋さん」
「今日はそーだな。徳川のファインプレイもあるし」
小田の先頭打者ホームランから始まり、連打で1点以上の得点を確実に重ねた。
一見、怪しい打線の並びだったが。結果的には嵌った。
不安要素であった2番、橋場がノーヒットながらも2四球としっかり繋ぎの打撃をしていた。さらに今日初めて四番に座った孫一に3ランが飛び出すなど、警戒すべき小田と徳川以外の打者がしっかりと結果を残した。
打線の実力差でセンゴクを折ろうとした阪東の作戦は見事に返された。
後半、中継ぎの小岩を攻めて3得点を挙げるも反撃には届かないレベル。
11-16という。優勝争いを繰り広げているにしては壮絶な打撃戦で、1試合目が終了した。
打線においては互角。
残りある2戦。センゴクは1勝、シールバックはかわらずの2勝が必要になった。
「すまない」
自分の緊張以前の問題で試合をぶち壊した久慈は深く反省していた。
自分が投手として、センゴクを抑えてくれるなんて考えてないだろうが。5回9失点。打席の方でも3打数無安打と、役割を果たせなかった。
せっかく、打線が自分を抜きに11点という大量得点を奪ってくれたというのに。
「もう負けられなくなったが、今日は小田と徳川につきる。いつまでもウジウジしてるな」
なんのかんので、久慈は今シーズン、11勝も挙げている。防御率は悪いが、勝利にはしっかりと貢献している。
「河合の言うとおりだ。ここから負けなければいい」
打線は両チーム絶好調。
「守備のミスの絡みがあっても、追いつけるだけの打撃がシールバックにはちゃんとある」
「勝てなきゃ意味ないけどな」
1戦目は守備力と投手力の差でセンゴクが勝った。もう負けられないシールバック。新藤と河合、林などの中堅からベテランまではやはり分かっている。
「無理する事はなかったな」
阪東は流れが変わったきっかけである本城の記録されないエラーについて、彼だけでなく、地花や友田、尾波など若手層を集めてミニ会議を開いていた。
「確かに1点でも縮めた方が良いのは分かるが、俺達の野球はセオリー通りじゃないだろ?148試合目で忘れたのか?なー、本城」
終わってしまった事はしょうがない。次が負けられない以上、賭けるプレーは守備ではしないことだ。
「2番、尾波にしても。打たなきゃダメだからって、ボール球や内に切れ込んで来るスライダーに手を出してどうする?左なんだから、右投手からのスライダーはよく見えただろう?甘く来たところを狙って行けよ」
積極的な打撃だからって、内野ゴロを打てとは言っていない。
「どっしり構えて、打てる球だけ弾き飛ばせ。ヒットや四球で繋げば新藤と河合が決めてくれる。雰囲気もあったろう」
今日は勝ちたかったと思っていた。牧を相手に勝てるかといったら、急ピッチに仕上げてくるという隙を突けるかどうか。それに明日も勝たないといけない。
「明日も普通通り。打って打って勝つ。打線じゃこっちが勝ってるんだ。相手ピッチャーなんていつでも打てると思って、堂々と打席に立て。向こうの小田や徳川みたいな派手な守備も要らない。捕れるアウトを確実に捕り、捕れない打球は傷口を大きくさせずにしっかりと守る」
守備範囲の狭さと、失策の多さがこーゆうところで露呈するんだよな。
ここまで優勝争いに参加できたのはとにかく良いところを伸ばすしかなかった。キャンプ時に伝えた目標、今シーズン900得点にはまだあと50点足りないが、リーグ一の得点を挙げている。
いざって時の爆発力はある。
相手がダイアー、牧。センゴクの2枚看板相手にこの打撃で勝つしかない。
「明日の先発は川北だ。今日みたいなエラーなんかしたら怒鳴られるからな。成功と失敗があるプレーはするな」
「うっ……」
「無理せず、1アウトだからな!」
打線の調子。今日は尾波のノーヒットが響いていた。
友田はプレッシャーとは無縁のような男だから期待通りだ。尾波の場合、スイングやフォームには問題はないが、難しい球に手を出してやられている。
良くなるよう伝えれば明日の打席は、ちゃんと球を見極めるだろう。普通にやれば新藤並の打撃力はちゃんとあるのだ。
「あーあ、せっかくの胴上げ投手がなくなるとはよー」
今日の敗戦で胴上げ投手の可能性が0になった川北。ホテルで家族と電話のやり取りをし、応援に駆けつけるとかなんとか。
「シーズン最後だから来てくれよ!なー!頼むぜ!ガキ連れてきてくれよ!」
川北がチームの最多勝、15勝をマークしている。大ベテランがここまで活躍してくれたのはありがたい。特に完投を4回もやっており、中継ぎの負担を大幅に減らしてくれた。
今シーズンは投手陣の大黒柱だ。
「井野沢ー!河合を見なかったかー?明日の配球で言いたいことがあってよー」
「河合さんなら温泉に行ったらしいですよ」
「温泉か!?あの野郎、先にリラックスするとは!」
そして、今シーズンは先発をやったり、中継ぎもこなして、あまり目立った成績を挙げていない井野沢。1軍に行ったり、2軍に行ったりと。慌しい中、この終盤で一軍合流を許された、2軍の選手と言っていい。
「入れ込み過ぎてないだろうな。あの大ベテラン……」
「調子は安定してますよ。きっと、川北なら7回2失点ぐらいには纏めてくれるんじゃないんですか?」
川北の一部始終を聞いた阪東。普段は河合と投手が話しをするなんて滅多にない。川北は自分の投げたい球を投げる投手だ。河合の考えと川北の考えが同じだから、上手く嵌ってここまで、大きな炎上はなかった。
となると、明日が大炎上するという危険もあった。
「気合十分ですよね!これならきっと、優勝だって夢じゃないですよ!」
「津甲斐監督。……気合が空回りしてミスしたらどーするんだ。今日の本城や尾波みたいに。燃える必要はあるが、普段の行動ができていないようじゃ、野球でできるわけないだろう」
阪東の選手チェックは普段の行動を観察するところからだった。
見えない怪我も見えてくるし、不調の原因も突き止めやすい。本人達の口答では、正しいことを言う奴もいれば間違ったことも言う奴もいる。
間違っていることをちゃんと伝えられて修正できるかどうかが、選手ではないコーチや監督、トレーナー、スコアラー達の仕事だ。阪東もこーゆう時期だからこそ、神経質に選手を気にしてしまう。仕方のないことだ。
「ともかく、先制点。初回からダイアーを攻略しないとな。センゴク打線が爆発されたら、追いかけるのは至難だ」
明日が最後の試合になるかもしれない中、阪東はいつも通りの時間に眠った。
緊張して眠れないということはなかった。大した男だ。
いつも通りに目が覚めて選手達を確認し、これまで戦ってきた相手の情報を大まかに確認。大丈夫だと言い聞かせる。
シールバック。
1番.センター、友田
2番.レフト、千野
3番.セカンド、新藤
4番.キャッチャー、河合
5番.ファースト、嵐出琉
6番.ライト、尾波
7番.ショート、日向
8番.サード、林
9番.ピッチャー、川北
時代センゴク。
1番.キャッチャー、橋場
2番.セカンド。庭
3番.センター、徳川
4番.ショート、小田
5番.ライト、孫一
6番.ファースト、孜幡
7番.サード、前田
8番.レフト、大伴
9番.ピッチャー、ダイアー
「センゴクVSシールバック!優勝を決める大事な2戦目のスタートです!水嶋さん、今日のオーダーは両チーム共、シーズンでもよく見かけたオーダーとなっていますね」
「昨日のシールバックの先発が久慈投手でしたから、双方仕掛けて来ました。しかし、今日は川北とダイアーで投手戦もありえる。奇策よりも正攻法で行くべきでしょうな。調子を落とした作間をベンチに下げたのは良い」
逆にシールバックは昨日ノーヒットで大ブレーキの尾波を重要なところに組み込んでいる。一方、守備でミスを犯した本城はベンチか。
ちゃんと見極めて、敗戦後のケアもしたってことかな?
「今日の見どころはどーいったところでしょうか?」
「先発投手はもちろん。今日はどっちが先に投手を攻略していくか。打者はしっかりと情報を頭に入れているはず。そして、指揮官も同じです。どのような点の取り方ができるかどうか。チームの戦い方がやはり決めるでしょう」
先発の出来というより、昨日は両チームとも二桁安打に二桁得点。打線の強弱が優勝を決めそうだ。
「昨日は解説が少し外れましたけど、今日は大丈夫なんですね」
「君。凄い失礼だね。名前、覚えておくよ」
1回表。確実に先頭の友田から始まるこの機会を活かしたいシールバックであったが、ダイアーの気迫の投球の前に新藤の1安打のみで終わってしまった。
まず、シールバック打線が挫かれた形であった。
一方で時代センゴク。いつも通り、徳川と小田をくっつけた打線で川北の攻略を図ったが、2アウト満塁というビッグチャンスを作るものの、川北のゴリ押しで得点にはならず。
立ち上がりが抜群に良かったのはダイアーの方だ。2回、嵐出琉、尾波を打ち取ってギアが一つ上がっただろう。今日のダイアーの気迫はしっかりとしたものだ。一方で川北、
「ボール!フォアボール!」
制球難。1回の満塁は徳川にヒットを浴びるも、庭と孫一に四球という形での満塁だった。ここぞという場面で決まるカットボールとストレートであるが、ムラの激しさは不幸な予感。
「川北!ストレートが思った以上にきてねぇぞ!」
「分かってる!修正してやるからよ!」
河合の配球にイライラしているのか?それとも自分の制球難にイライラしているのか。観客からしたらハラハラするだろう。
「こんなものだろう。川北のストレートは……」
川北はイニングイーター。ストレートの走りは普通くらいだ。だが、やっぱり入れ込み過ぎて制球が安定していない。ピッチングはコントロールが必要事項だ。
向こうのベンチもそれに気付いているっぽい。
2回も走者を2人許すも、なんとか凌ぐ川北。ただ、次は徳川からの攻撃だ。乱調気味の投手を二度見逃してくれるわけがない。
やっぱり、早いところ先制点が欲しい……
「友田!カーブをひっかけて、ファーストゴロに倒れます!」
とはいえ、厳しいか。まだダイアーからヒットが一本しか出てない。あっさりと終わってしまった3回表。
そして、3回裏。川北の乱調に気付いている徳川と小田。慎重にボールを選び、甘く入ってくるストレートを狙い打つ。
「小田、徳川を返すタイムリースリーベース!!センゴクがまず先制!!」
「川北が乱調気味だからな。さすが、センゴクの3,4番は他と違うな」
ノーアウト3塁で打席には孫一。
このまま、ズルズル行くか?川北の気持ちの整理が落ち着いていない中で投じたその初球。
「うおぉっ!?」
懸命に孫一も避けようとしたが、避け切れずにぶつかった。ボールが強く跳ね返って、ヘルメットを吹っ飛ばした。
「デッドボール!!」
「と、頭部直撃!!孫一が倒れました!危険球!!痛すぎる、シールバック!そして、センゴク!!」
ざわつくスタジアム。川北のストレートがすっぽ抜けて、運悪く頭部に当たった。これによりシールバックは川北の退場が決められてしまった。
「うわ~~なんてことだ~~!まさか、こんな形で川北が降板しちゃうなんて!まだ3回な上に、ノーアウト3塁1塁の大ピンチ!!」
「落ち着け、津甲斐監督」
危険球退場もあって準備している投手なんて誰もいない。
しかも、間が悪いことに3回表で川北の打席が過ぎたことにより、この大ピンチを抑える投手に対して続投も視野に入れなければならない。
「さすがに調整してないまま、井梁や安藤、沼田を上げるわけにはいかないな」
自分に対して怒りながらベンチに戻ってくる川北。家族が来ているというのに不甲斐ない投球。そして、敵地から浴びせられる罵声。昨日、3ランを放った孫一に対しての頭部デッドボールなだけに強烈なものだった。
「ふざけんな川北ー!」
「試合をぶっ壊しやがってーー!」
「負けちまえ、シールバック!」
この雰囲気。キツいアウェーだ。阪東もさすがに悩んだ。この大ピンチを無失点で切り抜けようとすればミスも出てくるかもしれない。
負けられない一戦で、危険球退場をどう対処すればいいか。
「井野沢」
「は、はい!」
「お前、少しだけ投げてこい」
言われた本人もビックリ。まさか、自分が……いや
「ゆ、優勝が掛かった場面でですか!?」
「気楽に投げろ。打たれても責任にはならん」
肩も作れない状況。いきなし、吉沢やケントを投げさせて、失敗した時は目も当てられない。
井野沢が粘っている間に急ピッチで、吉沢とケントの肩を作らせる。想定外に対して、阪東は冷静に処置する。
「ピッチャー、川北に代わりまして、井野沢」
もう一つ彼をマウンドに上げた理由に、井野沢は2軍と1軍を行ったり来たりの選手であること。登録していたのは須見の代役に過ぎず、大量のデータをセンゴクが持っているわけではない。
「河合!ちょっと来い」
「?なんだよ」
阪東は河合を呼んで打ち合わせをする。この場面を上手くやり過ごしたいため、ここは河合に一つの助言をした。バッテリーを組むとは思えなかったし、河合も何からやれば分かっていなかっただろう。
「ああ!?なんで!?」
「良いから!俺の言うとおり、井野沢にそう投げさせろ」
「3塁にランナーがいるんだぞ」
「しっかり頼む。向こうも、井野沢も、想定しないだろうしな」
河合も上手く川北をリードできなかったことに責を感じたのか。阪東のやり方に仕方なくではあるが、縦に首を振った。ストレート中心の配球で行けばセンゴクは狙ってくるだろう。
「プレイ!」
孫一はなんとか復帰。その際に大きな拍手が上がった。
『満塁になってもいい、フォークを全球続けろ』
井野沢の一番の武器は河合があまり好まない変化球、フォークであった。打ちにくいが、ボールになりやすい球。
失点したくない場面で捕手として捕逸も多い河合がフォークを選択するとは考えられない。さらに、緊急登板した井野沢に調子の有無が分かるわけでもないボールだ。
センゴク打線は甘く入ってくるストレートのみを狙っていた。
「ストライク!バッターアウト!!孜幡、三振に倒れました!5球連続、フォーク!」
「河合らしくないリードだが。大きい三振だな」
フォークは見極められるとボールになりやすく、後ろに逸れる危険もある。
しかし、センゴクは積極的な打撃が持ち味としており、フォークでの空振りが他のチームよりも多い事は明らか。
「案外、上手くいったな」
阪東自身も、孜幡を空振り三振に抑えられたことに驚いていた。この回で一気に攻めようとストレートを待っているところにフォークの全球。
打者もなんで急にリードが変わったのか、理解不能だった。この大ピンチでフォークを上手く投げる井野沢。
キィィンッ
「またフォーク!ひっかけた、ショート!ゲッツーになるか!?」
7番、前田をショートの併殺打で打ち取った。
ノーアウト3塁1塁をぬるっと抑えた井野沢!流れがセンゴクにいきかけた場面で、思わぬ好リリーフ!
緊急登板させられた投手にとってはたまったものではないが、緊急に投手が入れ替われば捕手も、相手打線もどう攻略するかの作戦なんてない。
大チャンスに浮き足が立ったセンゴクが、思わぬ石に躓いた。
試合は中盤戦へ。




