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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS時代センゴク編
40/45

打撃偏重

縺れに縺れたペナントレース。

1位、シールズ・シールバック。

2位、時代センゴク。



「最低でも2勝だと?」


敵地であるが、やってきたのはシールバックの社長。布宮。


「じゃあなに?今日、シールバックが勝っても優勝じゃないの?」

「はっ!そのとおりでございます」

「なんだよ~~優勝したら呼んでよー。仕事が忙しいんだよ」


何しに来たんだよ。お前、本当に。

メディアは布宮社長が来ていることを知り、カメラに映すのであった。それだけの有名人でもあるからだ。

一方で野球ファン達。今シーズンのデキから言って、シールバックが勝ち上がると予想していたが。祭のみを楽しんでいる連中はセンゴクに賭けていた。



「予告先発見た?」

「最終戦に牧が間に合うみたいだな」

「この時期に、カインを完封するなんてすげーよな」


ど素人でもプロ野球ニュースを見れば、牧の偉大さが分かる。20勝投手なんて、西リーグでは久々すぎる。投げれば絶対勝つ男だと分かる。

センゴクからすれば1勝でもすれば、あとは牧がやってくれると信じている。


しかし、苦しいだろう。シールバックは秋から打撃が復活した河合によって、連勝かつ爆勝街道。8月はセンゴクに1位を譲っていたが、一気に目覚めた打線で追い抜いたのだ。

加えて、無敗だったインディーズの守護神。泉を崩しての敵地乗り込み。

勢いが全然違う。



「第一試合は久慈VS寺岡。第二試合は川北VSダイアー。第三試合は神里VS牧……だそうだな」



最終戦に相応しく。ここまでペナントレースで活躍してきた先発陣が揃って並んで戦う試合。


「久慈は自援護しなきゃ、並の投手だしな。川北で勝てればいいな」

「神里はエースって言っても、今シーズンは不調な方だ。相手が牧ってのは相当なプレッシャーだぜ」

「やはり先発はセンゴクだ。奴等が強力シールバック打線をどう抑えるか。同時に、シールバック打線がどう攻略するかな?」




大方の予想は期待となっていた。


「では、今日のゲストは野球狂でお馴染み、水嶋さんです。水嶋さん、ついに優勝を決める3連戦となりましたね!」

「私はAIDA戦以外は興味ない!どっちも負けろ!息子を投げさせろ!」


誰だよ、この人を解説にした奴……。実はこのお方がこの3連戦での解説役である。


「水嶋さんはどちらが優勝すると踏んでいますか?」

「7割、シールバック。3割、センゴク」



妥当なところ。さっきの発言はあくまでオフみたいな気持ちで出ただけか。


「打線だけでなく、点をとれる手段が多彩なシールバックが有利だ」

「なるほど。確かに新藤、河合、嵐出琉、尾波。それから友田の5人が絶好調ですからね」

「分かってねぇじゃねぇか!!」



層が厚いのはセンゴクである。しかし、様々な場面で適応できる選手がいるのはシールバックの方。打者だけ見れば5人しかマークする選手しかいないが、ここぞという場面で脇役達が耀く。


「乱打戦はシールバックの土俵。センゴクはロースコア以外の勝利はない。だが、センゴクは苦手というわけではないが、得意ではない戦略だ。先発の出来次第が8割」



ワンサイドになった方が即終了。勢いを手にしたものが、短期決戦では有利。


「両陣営、誰がどれだけ好調を維持しているか見極めているはずだ。この場でよもや、不調の奴を託すような采配はせんだろうな。くくくっ」


なんやかんやで、水嶋も楽しんでいるような口調だ。優勝を決める試合というのは勝利以上に熱いものが届いてくる。優勝争いをしたことがあるチームと、優勝を初めて感じるチーム。

プレッシャーは各々違っているだろう。



「勝つぞ。最初から勝って、すぐにでも優勝しよう」



牧が出てくる前に勝てるのが理想だ。それに打力偏重のシールバックが後手に回れば、勢いが落ちる。阪東はチーム状況をよく把握している。ここまで優勝争いができるのは、阪東の起用の仕方とチームの核を万全とさせたおかげ。



シールバック。

1番.センター、友田

2番.サード、尾波

3番.セカンド、新藤

4番.キャッチャー、河合

5番.ファースト、嵐出琉

6番.ピッチャー、久慈

7番.ライト、地花

8番.レフト、本城

9番.ショート、東海林




「こ、これはとんでもない攻撃力重視のオーダー!旗野上がスタメンから外れています」

「悪くないでしょう。シールバックからすれば、この攻撃重視のオーダーで攻めて、攻めて、攻めまくって勝つ。それが今年の象徴です」



チームの戦い方をよく熟知している。そして、相手チームの隙。

シールバック打線を抑えられる先発は多いが、中継ぎはそうはいかない。犬飼と屑川くらいしかいない。2人いれば十分であるが、短期決戦では少ない。

自軍の中継ぎの層を活かし、乱打戦に持ち込む。短期戦を長く見ている。



「それではセンゴクのオーダーはどうでしょうか?」


時代センゴク。

1番.ショート、小田

2番.キャッチャー、橋場

3番.センター、徳川

4番.ライト、孫一

5番.セカンド、庭

6番.レフト、大伴

7番.サード、前田

8番.ファースト、作間

9番.ピッチャー、寺岡



今シーズン初めて見るオーダー。小田、徳川を常に3番、4番で並べていた打線が、今日に限って1番に小田を置くという異質な打順。



「これはどうでしょうか?水嶋さん」

「アホが考えたオーダーだ」


素晴らしい酷評。


「小田が1番なのは分かる。奴は足もあり、その気があればトリプルスリーに一番近い選手だ。しかし、徳川と離しては打線が分断される恐れがある」

「水嶋さんでしたらどのように?」

「1番、小田。2番、徳川。3番、孫一で並べる。……ま、意図は察している。だが、もっと徹底的にやるべきだ」



守備はあまり弄っていない。

打順を大幅に入れ替えてきたセンゴク。水嶋が感じる意図、それは阪東も分かっていることだ。こっちが先攻だったのは大きい。



「1番、センター、友田」


センゴクの並びは明らかに先制狙い。小田をなんとしても塁に出し、徳川と孫一で獲る。勢いを強引に掴もうとするハラだ。だが、先攻がこっちである以上。こちらが先に点を獲れれば相手の打線を簡単に崩せる。


シールバック打線は絶好調。阪東のオーダー通り、理想的な攻撃の数々。


友田のツーベース、新藤のタイムリーヒット。さらに河合の2ランホームランで、今シーズンでもっとも多く見た得点パターンで一気に3点を奪ったシールバック。

やはり、勢いが違う。こいつ等をまともに止められる投手は牧しかいない。



一方的になりかけたところだ。



「ふーっ……。丁度良いかな」


今シーズン、初の先頭打者。左の久慈との対決であった。

久慈も河合も慎重だった。軽々と先制を奪った以上、ここは三者凡退で切り抜けたい。出塁狙いの小田を殺す。



「良いハンデだ。ゲームらしい」



しかし、センゴクの狙いは先制点欲しさではなかった。

もう覚悟を決めた捨て身。身につけたマシンガンのみで、火の海に挑むようなものだった。久慈が決して優れた投手ではないことを見抜いての好球必打。

欲しかったのは何よりも1点。1人での1点。



「小田!先頭打者ホームラン!!久慈のスライダーを完璧に捉えた!!」



テレビゲームと違うんだぞ!?

本気で狙って打ちやがった!


「見事!4番の仕事だな」


解説の水嶋も、拍手をしながら小田の素晴らしい打撃を讃えた。点差的には勝っていたが、この意表かつ唐突な結末に久慈も含めて、シールバックの守備陣が動揺したのは当然だった。


センゴク打線の狙い。シールバックと同じく、打撃戦に持ち込み。先発を長く投げさせることだった。寺岡が初回に3失点という大きな失点を許したが、友田が先頭となって、打線の核である河合と新藤にやられるのは仕方のないこと。

久慈という3流投手ならば打撃戦に持ち込める。



「面白い。センゴクの戦略は勇気がある」


久慈に抑えられたら終わってしまう。センゴクは久慈が投げている間に、大量の得点を狙っていた。矛と矛のど突き合い。

中継ぎを消耗させたい阪東の狙いを、馬鹿馬鹿しい続投でもみ消す。寺岡は何失点しようと、行けるところまでイニングを喰うつもりだった。


「打て!打ち勝つんだぞー!」



シールバック打線 VS センゴク打線。

今日のシールバック打線は出来が良い。特に、友田、新藤、河合の3人のラインが強力であり、3人共3打数3安打という快打をみせつける。

一方で、センゴク打線は猛打賞こそまだないが、確実に安打と出塁を重ねていく。マシンガン打線の名に恥じない打撃でシールバックにしがみ付く。



爆発力ある打線と、安定して得点を重ねる打線。

徐々にその"性質"によって差が開いてきた。阪東と水嶋がスタジアム内でいち早く気付いただろう。センゴク側は意図して狙ったわけではないが、結果として思わぬ僥倖が現れた。



「守備の差が出てきたな」

「ど、どーゆうことでしょうか?水嶋さん」

「1試合だけ、センゴクのミスで負けた試合があるが。守備ではセンゴクの方が上手い。守備走塁にスランプはない、そのままの実力が出るものだ」



5回にして、6対7。センゴク打線がついにシールバック打線を上回ったのだ。


「大ブレーキなのは2番、尾波。6番、久慈。ツキに恵まれない嵐出琉もその1人か。ゲッツーや、凡打がシールバック打線を止めてしまっている」



堅実な守備でゲッツーをこの5回までに2つとっているセンゴクの内野陣。

乱打戦という厳しい状況の中でいかにミスをなくしていくか。センゴクは未だにエラー0。


「一方でシールバックはすでに2つのエラー。尾波の悪送球、新藤のファンブル。……河合の下手なリードと久慈の失投も含めればまだまだあるな」



打撃偏重のオーダーが仇となった。阪東の狙いは勝てるだけの大量点をとり、林と旗野上、強力中継ぎ陣の守りで逃げ切る考えだったが。

逆に相手がリードする展開となっては旗野上達はマイナスに過ぎない。



「代打も使い辛いだろう。木野内と岡島がいるが、使えるところとしたら東海林のところか、久慈のところのみ」

「監督のやれることはないということでしょうか?」

「選手起用では何もできない。最高に、打撃力のみを重視した打線なのだ」



水嶋の解説は8割ほど当たっている。

阪東が選手交代で流れを変える手段はなかった。打撃でセンゴク打線を上回る必要がある。



キーーーーーンッ



「庭!痛烈なライナー性の打球を放ったーー!」



緊迫した状況下での守備を初めて経験する者が多い。2アウト2塁の状況で、庭の放ったレフトライナー。これを懸命に少しでも点差を無くすため、レフトの本城が打球に飛び込んだのだ。その差を縮めないための積極守備。



「捕れーー!本城ーー!」


ファンや、シールバックの選手達は懸命にそのガッツを讃える声を挙げた。

しかし、無理だ。本城の気持ちは冷静ではなく、焦りによるダイブ。決して間に合わない、無謀な守備。



「後逸だーー!打球は強く転がってフェンスに当たったーー!」


センターの友田も打球を追いかけるが、全力で走って投げてもきっと結末は変わらなかっただろう。


「庭!ランニング2ランホームラン!!とても大きな追加点!6-9!!」



打力で敗れたというより、守備の荒さが出てきた。



「仕方ないが、痛い失点ばっかだな」


シールバックはここ数年、こーいった優勝争いに絡んだ試合をしたことはない。ほとんどが初めての試合だ。打撃の方はやはり全員に素質があるためか、十分に機能しているが守備に緊張を感じている。

いつもの試合ならもう少し、エラーを抑えられたはずだ。

一方でセンゴクの選手構成はベテラン重視だし、昨年はAIDAと優勝を争っていた。強い気持ちを見せながら、普段通りのプレイを心がけている。

守備に穴はなさそうだ。



「ペナントレースのような試合では攻撃的なオーダーで勝つのも手なんですがね。いかんせん、ギャンブルに近く短期決戦にはあまり向いていない。こうして点差が開けば、シールバック打線に掛かる重圧は掛かってきますからね」

「ではシールバックのオーダーはミスと?」

「結果論でしょうな。先発の3番手が自援護する久慈が務めるようでは、守備は捨てるしかない。そうして彼に勝ち星をとってあげたのですから」



久慈に代打か、中継ぎ投手を置けば4番が1人減るようなことになる。

負けている場面でやれば無駄に終わるかもしれない。さらに、攻めでも精彩を欠きかねない。


阪東は久慈の仕事に満足できなかったが、これ以上の失点は危険であることと。

5回表が、下位へ向かう6番の久慈からであることを気に諦めた。

自分のバットが火を吹かなければ勝ち目が薄くなるのは当然。



「ピッチャー、久慈に代わりまして、吉沢」



この3点差はシールバックの間合い。幸い、次は9番の東海林からであり、友田と新藤、河合の3人が打席に立てる可能性は高い。そこで1点差、良くて同点に持ち込みたい。

寺岡のスライダーのキレは徐々に悪くなっている。継投しないなら、寺岡を攻略するしかない。




この回上がった吉沢が初めて、センゴク打線に得点を与えない好リリーフをしてからだ。ここで得点ができるかどうか、



「ボール、フォアボール!」


東海林が寺岡から粘って、四球で出塁する。友田の前にランナーを置けたのはデカイ!センゴクはタイムをとって内野陣を集めるが、投手交代はなかった。

まだ6回だ。



「ここを決めろよ、友田!」


センゴクに傾いたその流れを、再び呼び込める一打が生まれるか。



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