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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS徳島インディーズ編
31/45

投手地花

「欲しい選手ねぇー。私はセンゴクの小田くんと徳川くんか。AIDAの新田くんが欲しいわねぇー、シールバックの新藤くんや友田くんでも……え?なんで全員野手かだって?打ち合うのが楽しいからじゃない!」


十文字カイン、渥美監督の談話。


「俺は先発陣がもう少し欲しいかな。頼りが神里と川北だけだ。センゴクの牧や、インディーズの大鳥、北田……山田も悪くないな。AIDAの3本柱も1人くらいくれないものかな?どーなんだ、和光GM」

「そ、そんなのは無理です!」


シールズ・シールバック、阪東さんの談話。


もし、他球団で1人獲れるとしたらどんな選手を獲るか。監督達へのインタビューがあった。多くはジョークを言い合っていたが、結構マジな言葉を吐いたのが徳島インディーズの野際だった。


「十文字カインの高崎くんと、シールバックの千野くんだね。投手だったら、センゴクの牧じゃなくても、ひなくんでもいいよ」



割と実現しそうな手駒を言ってきた。高崎はセカンドのレギュラーだが、千野は控えの外野手。センゴクの雛は5番手の投手。



「まー。私のチームの選手と、トレードだったら決してしないけどね!私のところが一番だし!」



などと、最後はやっぱりジョークで締めた。とはいえ、上手く交渉すれば本当に起きそうな交渉だ。


「どうですかね!?阪東さん!千野とインディーズの投手陣とのトレードなんてのは!?」


その発言を真に受けた和光GMはウキウキしながら、阪東に尋ねてみたが。



「するわけないだろ」

「えっ?でも、千野ですよ!レフトには本城、地花、木野内、マルセドがいるんですよ!1人くらい減っても……」

「その4人はみんな左打者だ。足があって、小技も長ける、守備も良い千野をどーして、計算できるか分からない投手と交換するんだ?第一、向こうは選手のトレードはしないと言っている」


野際の発言。本当に性格が良く出ているものだ。十文字カインの高崎の名を挙げたのも、自軍の守備を堅くするだけに限らず、十文字カイン側にさらにちゃんとしたセカンドがいない事を見越しての発言。インディーズの大隣は外野もこなせるため、大してダメージはない。



「静かに弱体化させる気、満々だな。ホント、嫌な奴だ」



そんな嫌な奴と戦う、11回戦目。新藤が離脱し、打線がボロボロとなり、勝利から大きく遠ざかっている最中だ。カインから3連敗、センゴクに3タテを喰らって本拠地に戻ってのインディーズ戦。



「セカンドは誰が」

「岡島しかいないだろう。(本城もいるが)」


守備面はさほど問題ではない。打線がマズイ。

嵐出琉の入れ替えにコールドバークを使ってみるも、結局は空振り。友田と尾波のコンビをやってみるが、やはり新藤ほどの安定感が尾波にはなく、左投手にそこまで強くない尾波に、左のワンポイントを入れられると苦しい。

河合も豪打が目覚めずに、単打ばかりが目立つ。



新藤の怪我。やはりチームに与える影響は大きい。肉離れな以上、一ヶ月はベンチにも戻ってこられないという見方。

3番打者不在の中、阪東も必死に頭を回した。



「ふーっ」


今日の先発は井野沢。インディーズ打線を抑えられるかもしれないが、こちらがその分得点を挙げられるかどうか。


「吉沢も植木も、かなり投げているな」

「井梁と安藤以外はほとんどかと」

「2人は登録していないからな」


ここまで我慢強く、吉沢と植木が接戦を投げてくれている。

先発があまり長く持たずに中継ぎばかり、負担がいく。パリッシュ、清水、須見が抜けている安藤と井梁の代わりとなるわけでもない。

とはいえ、もし。安藤と井梁がベンチ内にいたら、敗戦が濃厚であっても投げさせなければいけなかった。2人は、リードをもらったら投げるタイプの投手。ここ5試合、7回までリードを保った試合がない。

打線が冷え冷えが一番の原因。


大量得点か、先発が長くイニングを喰って欲しい。




「3番の新藤はここ3試合、出場しない!!」


一方でミーティングを始めている野際の、徳島インディーズ。



「6連敗中とムードも悪い。ここで勝ちを逃すようじゃ、俺達は首位をとれない!センゴクにも勝てない!」



いつも通りの野球。キッチリ投げ、キッチリ抑え、得点を挙げる。それだけで十分。しかし、相手が不調であるのに現状維持ではまだ優勝には遠いだろう。


「大鳥!キッチリ頼むぞ!中継ぎを少しでも楽にさせてくれ!」

「うーっす!」




かたや、6番手投手。かたや、チームのエース。

試合開始前から勝負は決まっていた。観客も選手も。最初からそんな気持ちで戦うなんてダメだと、言われるかもしれない。

しかし、ここは形振り構わず、勝つ場面じゃない。突破口を見つけ、この連敗街道を止める手立てを見つけること。新藤がいないからって負けるわけにはいかない。


「次の先発、神里は行けるよな?」

「はい!しっかりと準備させてます!」


おそらく、次の試合は北田。その次は、レドモンドの可能性がある。

神里を一日遅らせて、確実に勝ちを得たいところだが。その前に打線。打線が問題だろう。



「少し弄るか」



シールズ・シールバック。

1番.センター、友田

2番.レフト、木野内

3番.ファースト、嵐出琉

4番.キャッチャー、河合

5番.ライト、尾波

6番.セカンド、岡島

7番.サード、林

8番.ショート、旗野上

9番.ピッチャー、井野沢



新藤が離脱してから、尾波が三番や四番を勤めていた。今日は三番を嵐出琉にし、五番を尾波に変えてみた。それから、ショートの旗野上、サードを林と、内野陣はかなり堅め。



「ショートに日向や東海林じゃなくていいんですか?」

「中途半端な打力と守備より、ここはキッチリと守れる男が良い」



下位打線が弱くなるのはしょうがない。東海林は二軍に落として、福岡を上げてきた。


「尾波!」

「な、なんですか!?」


新、3番を務めていた尾波を呼ぶ阪東。


「今日の5番だが、お前にはいつものように器用に動いてもらう」


打率は、新藤、友田に次ぐ。色々な打撃できるからこそ、3番や2番が理想。


「ランナーなしならフルスイングしていい。自分の後ろには期待するな!得点圏にランナーが置いた状況になれば、一点で良い。獲りにいけ!」



今日は向こうの土俵になってもいい。とにかく、打撃のきっかけ。尾波が打てるようになれば、嵐出琉も、河合も、思い切っていける。



そして、試合は始まった。

やはり両投手に差がありすぎる。初回、あの友田から空振り三振を奪った大鳥。波に乗って3回までパーフェクトピッチング。一方、井野沢は荒野こそ抑えたが、菊田にソロホームランを浴びた。


インディーズは1回に1点を獲りに行く攻撃が目立つ。それは仕方のないことかもしれない。



「アウト!」

「旗野上!ファインプレーで失点を防ぎます!」



菊田と荒野以外の好機をしっかりと潰せば得点源は大きく減る。特に、ランナー無しで菊田と荒野の打撃は長打狙いが目立っている。走者を出すなと、無理な指令を出すよりもインディーズと同じく、ホームを踏ませない守備に徹する。

旗野上と林は好守で井野沢を支える。下位打線の出塁を防げば、菊田と荒野の回る回数は減る上に、2人に代走も出しづらくなる。



「大鳥にここまで完璧に抑えられてるが」



井野沢は3回2失点。バナザードのタイムリーツーベースが余計だったが、打線次第では引っくり返せるはず。

重要な4回。友田からの攻撃。やられたらやり返すタイプの友田は大鳥のスライダーを叩いて、レフト前ヒット。続く木野内はセカンドフライに倒れるものの、



キーーーーンッ


「嵐出琉!痛烈な打球を放ち、三遊間を破ったーー!」



今日、3番に入った嵐出琉も続いた。2試合ぶりのヒット。



「ちっ。やるじゃん」

「大鳥。熱くなるな、冷静にやれば河合だって打ち取れる」

「分かってるよ。直球勝負は気をつけておく!」


少し間を取って、河合との勝負を確認する。クサイところを突いておけば、併殺打もありえる。このピンチを1失点で切り抜ければ上出来だろう。


「んなこったぁ!分かってるんだよ!」


分かってるなら手を出すなよ!河合!!そう叫びたいファンの心中!!

外に逃げるスライダーに合わせて、持ち前のパワーで飛ばそうとしている。



キィィンッ



「河合!セカンドフライ!!ランナー動けず!!」

「馬鹿野郎--!」

「せめて、進塁打にしろーー!ライトフライとかよー!」



5番、尾波に回ったチャンス。


「ここで決めないと、追いつけない」



友田は返す。そのためにはセンター前ヒットじゃダメだ。バナザードの守備でいつも友田が止められている。それなら引っ張って、一二塁間を抜く。


そう考えていることは捕手の名神も察している。尾波は河合と異なり器用であるが、新藤や友田ほどの怖さはない。打撃の平行線の上。何でもこなせるが、特化した部分がない。

技術では新藤が、走塁では友田が、パワーでは河合が、勝負強さでは嵐出琉が。4人の下につく、男。

引っ張ろうとする相手には、強く内へ入ってくるスライダーをファールにさせて追い込ませる。内を意識したところで外、



「ストライク!!バッターアウト!!」



大鳥が持つ制球力ならば、アウトロー一杯に決まるストレートで尾波を潰せる。



「くそっ」



5番は嵐出琉の方が怖い。一発、長打も有りえる。しかし尾波は、得点圏では正確に行こうとして積極性を欠く。当てる打撃に入ったり、セオリー通りの配球でかなり打ち取れる。打たれたとしても、ヒットだけなら怖くない男。大鳥クラスの投手なら抑えられる。

好機での凡退に落ち込む尾波。打てていれば流れも変わっただろう。インディーズは容赦なく、打撃に熱をいれて行く。


伊倉のヒットを皮切りに、河合のパスボールを挟んで、ノーアウト2塁。

バナザードのセカンドゴロによる進塁。大鳥へのデッドボールを経て、3塁1塁。1番、大隣に回った。



カーーーーンッ



「ライト、尾波!追いつけない!走者2人が返るタイムリースリーベース!!」



リードからの強行。この一発で井野沢の精神もブレる。

二番、ジョンソン。三番、菊田。外一辺倒の配球、逃げている球。


「ボール!フォアボール!!」


ストライクを一つしかとれないまま、2者連続の四球で満塁。


「おーいおい!俺まで敬遠したら、誰でアウトをとるつもりなんだ?」



最悪。4番、荒野を迎えてしまう。

今から投手を交代しても間に合わない。井野沢に回る次の回での代打……いや、できるなら……。



「地花」

「な、なんですか!阪東さん!俺が次の代打ですか?」

「……キツイことを頼んでも良いか?お前にしかできないことだ」



阪東は5回で試合と希望を捨てる。

そう決めた瞬間だった。



ドゴオォォッ



看板に直撃する特大アーチ。その価値分だけの得点。



「荒野!!満塁ホームラン!!看板直撃!!この回、一挙6点!!抜けたフォークを完璧に捉えた!!」



井野沢。肩を落とし、崩れる。インディーズ打線を抑えられない。それでも、井野沢はなんとか振り絞って、5番、塩野と6番、名神を抑えた。

フラフラの井野沢。阪東の口から降板を告げられる。頑張って欲しかったが、こーなることもある。


「次の投手はやはり吉沢ですか」

「いや、あいつに託す」

「え?」


もうこの試合を引っくり返すのは不可能だ。そして、相手の監督が野際だ。



「よーし!中継ぎも打ち込んで、疲れさせてやろうじゃないか!たまには得点を稼がないとな!」


シールバックの中継ぎを酷使している状況はお見通し。吉沢と植木の2人は休ませてやりたい。しかし、パリッシュと清水で9回までいけるかは厳しい。粘られたり、打ち込まれたら出さざるおえない二人。


「ピッチャー、井野沢に代わりまして、地花!」

「えっ?」

「ピッチャー、地花」


嫌らしい攻めをする野際に対し、阪東が打った手。奇手。

日本球界では非常に珍しい采配であるが、海外では可能性として挙げられること。中継ぎの酷使を防ぐため、敗戦処理を投手ではない誰かに一因すること。


元、投手として入団した男をマウンドに上げるしか、阪東にはできない。



「な、な、何をしているんですか!阪東さ~~ん!地花が投手って!?これじゃあ勝てませんよ!」

「馬鹿野郎。もう勝てないゲームだ」


今、必要なのはどーやって負けるかだ。

僅差で負ける必要はない。できるだけ、こちらのダメージがないように戦うこと。負け試合は中継ぎをどれだけ使わないかを考えて戦うしかない。



「案外、まだ良い球を投げるじゃねぇーか!地花よー!」

「2年ぶりのマウンドでも、肩は錆びちゃいないっすよ!」



よく考えれば、河合さんと初めて組むなー。俺はずーっと二軍にいて、河合さんはずーっと一軍にいたからな。

しょうがなかったよな。二軍でも満足な結果を出せなくて、もう捨てようと決断したんだ。



「やられる側からしたら、結構来るな!」


七番、伊倉。野手の登板にかなりムッとして打席に入る。

地花の投球が下位打線にどれだけ通じるかより、長くイニングを喰って欲しいと伝えた。

野手投げに近いフォームから投じるストレート。



「ストライク!」



インコースに決まったストレートの球速は140キロ。ノビもある。


「あれ?結構行けるんじゃね?」


本人も意外に来る投球。高校時代はエースであり、その血が蘇ったか?しかし、それは球速とノビのみ。インディーズ側は早々に見抜いている。



「ボール!3ボール!」



ストライクに上手く入らない!1球目は絶妙であったが、それ以降は河合のミットとは全然違うところにボールがいく。


「コントロールできていないな」

「落ち着いて投げろ!後ろには俺達がいる!」

「ストライクいれとけ!」

「四球だったら、俺達もベンチに下がるぞ!」


内野陣から野次られる。どーやら、ノーコンだと孤独なマウンドになることはないようだ。心配ばかりかけられる。しかし、何回か投げて地花も肩の調子を掴めてきた。厳しいコースには投げられないがストライクくらいはいけそうだ。



「おりゃ!」



とはいえ、棒球のストレート。完全に置きに行った甘い球!伊倉は逃さずに好球必打。



「センターに上がったーー!!デカイーーー!!」



内野陣も見上げるほどの飛球。しかも、最悪のセンター。


「うげぇっ!嫌なとこに行っちまった!」


地花も舌を出して、センター方向を見た。しかし、驚いた。あの守備にやる気のない友田がかなり頑張って走って、高く跳んだ。

フェンスにぶつかりながらも打球を最後まで追っていた。



「アウト!」

「友田!ファインプレイ!ジャンピングキャッチで地花を救います!」


湧き上がる歓声と、当たり前過ぎる要求が飛ばされる。


「すげー!あの当たりを捕っちまった!!」

「ちゃんとすれば良い守備をするじゃねぇか!」

「守備だって天才なんだろ!?友田ーー!」



地花登板の不安が消し飛んだ友田のファインプレイ。ショートの旗野上に返球しながら、何かを言っていた。それを旗野上が地花に口にした。


「地花、友田からの伝言だ」

「な、なんすか?」



しかし、意外。まさかの友田がファインプレイ。地花も凄く驚いている。その友田が一体何を言うのだろうか?まさか、俺だから守ってやるってか?お前、ホントにちゃんと守れよ。嬉しいけど、ちゃんと守ってから言えよ。

だが、返された言葉はとても辛酸なもの。


「俺の方が良い球を投げるだってよ。代わってあげようか?」

「!ふ、ふ、ふざけやがって!!俺はこー見えて、高校生ではエースだったんだぞ!!投手歴がまったくない友田に負けねぇよ!!」


焚きつけてくる。煽ってくる。俄然、左腕に力が入る。



「バナザード!ショートゴロに打ち取られる!」



完全な野手投げであり、これが一軍初のマウンド。それでも、地花が下位打線をキッチリ三者凡退に抑えられたのはインディーズの打線が特に弱いことと、球がほどよく荒れていたおかげ。

高校時代投げていたフォークは上手く決まらないが、ストレートのノビは井野沢よりも良い。データにまったくない投手を出されたものだから、バナザードも大鳥も見に回って、地花の投球のデータを集めていた。


「あの地花が0点で抑えましたよ」

「友田のおかげもあるが下位打線だったからな」



とりあえず、一回は誤魔化せた。

問題は上位打線だ。失点してでも3アウトをとれれば、中継ぎの負担は大幅減。


理想はあと6アウト。



「ふーっ、久々投げたが。まだ投手いけるのかな?久慈さんみたいな感じに」

「地花は久慈さんほど打てないし、良い球を投げられないだろ。だから俺が必死なプレイをしなきゃならない。ふざけんじゃないよ」

「ぐはぁっ!……いや、友田!テメェはちゃんとしろよ!この野郎ー!」


ムードは少しずつ良くなってきた。地花が抑えた後の攻撃は三者凡退であったが、徐々に大鳥の球を芯で捉えてきた。打線が蘇りそうな気配だ。



「分かっているな、大隣。相手は所詮、急造投手だぞ」

「はい!地花を狙えってことっすね!」



インディーズ、野際から助言をもらった1番、大隣からの攻撃。俊足で小技が効く打者は、いきなり地花を狙ってきた。



キィィンッ


「ファースト、嵐出琉!無理矢理引っ張ったゴロだ!!」



外に外れるボール球を無理矢理引っ張って、ファーストの嵐出琉に捕らされるよう仕向ける打球。彼にボールを捕らせることで空いた一塁ベースに入るのは投手である地花の仕事。


「カバーに入れ!地花!!」


いくらストレートが良くても、連携プレイはまだまだ。状況に対応できるほど器用に立ち回れる地花ではない。わずかに遅れたベースカバーと、持ち前の俊足を活かした大隣。偽りのないジャッジが下される。



「セーフ!!セーフ!!」

「なんと珍しい!一塁の内野安打が記録されました!地花のベースカバーが遅れました!」


ノーアウトからランナーを出してしまう。本来の投手なら、しっかりととれたアウトを逃してしまった。


「くっ」


俊足の大隣を出しちまった。牽制やクイックはあんまり得意じゃねぇーんだよな。どーすりゃいいんだよ!



左投げは一塁走者の足を封じるには持って来い。まず、視線を走者に向けられ、牽制も容易く、裏をかきやすい。そのため、走者のリードの幅も狭まる。

とはいえ、地花にそれだけの経験値はまだない。大隣も先ほどの内野安打でそれを把握でき、初球からでも行こうとしていた。足での揺さぶりをかければ、急造投手なんてすぐに崩れだす。アウトをとれずに地花を降板させる気だ。




地花は、地花なりにクイックと牽制をいれていた。にも関わらず、大隣に完璧にフォームを盗まれたスタートを切られる。


「走った!!」



明らかな経験の差。これはセーフになる。


「なめんなよ!」


しかし、投手以外の。特に盗塁を阻止するために付いている2人はまったく違う。年数だけ見ても、大隣よりも経験が違っている。

大隣の盗塁を読みきり、大きくボールを外していた河合。


「死ね!クソ野郎!!」


ボールを受け捕ってから投げるまでの動作が速かった。走者の動きが分かっていれば、こちらもその動きをするまでだ。

地花目掛けて放たれる、剛速球。


「うぉぉっ!殺される!」


しゃがんだというより、転がりながら河合の送球を避ける地花。送球のその先。ショートに入っていた旗野上。その、セカンドベースに入る仕方がとにかく上手かった。いくら速いとはいえ、かなり荒れた送球を河合はする。キッチリ、良いところに投げてはくれなかった。(してくれれば、高度な事はしなかった)

ベース上で半身になっておらず、それどころかまだセカンドベースへ走っている状態の旗野上。



バシィッ



ショート寄りに来た送球を受けとって、セカンドベースへ入る。ベース上で待ち構えていたら、逆シングルとなってタッチまでに時間が掛かっていた。

旗野上も走り、大隣も走りながら。セカンドベース上で繰り広げる予期せぬクロスプレーを展開。

旗野上はセカンドベース手前でグラブを置くように、大隣はそれを弾き飛ばそうと強いスライディング。



交錯はしなかった。それほど強い衝撃音は飛び出なかったが、旗野上は走っていた勢いで前方に転がり、一見ぶつかったのではないかと思われる飛び方。しかし、一回転もしながらもグラブから受け取ったボールは離していない。



「ふーっ。危ねぇ、危ねぇ」



二塁の塁審は旗野上の、グラブを確認していたことを知れば。旗野上には結果が分かっていた。グラブを突き上げ、大隣の事は視界にいれない。電光掲示板につけられている、アウトカウント。



「アウト!」

「ええっ!?嘘だろ!?ちゃんと見てくれよ!」


大隣も驚き。審判に質問するほどだった。観客もこの判定にはどっちが正しいのか分からず、セーフとアウトかの声が飛び交った。



「今のってアウトなのか!?完全にモーション盗んでたぞ!送球も荒れていた!審判の目がおかしいんじゃねぇのか!?」

「いや、旗野上の入り方が上手すぎるんだよ!ちゃんとタッチしてから転がったんだ!」



どっちがどっちだと、観客の多くはテレビで流れるスロー映像に注目していた。実況者も解説者も見ているだけでは分からなくて、その映像を急いで見たくてしょうがなかった。

騒然とする場内で、真実を映す映像。


スローとはいえ、旗野上は走りながらセカンドベースを超えようとしていた。丁度、大隣の足が届きそうなところに置かれる旗野上のグラブ。このタイミングが速ければタッチできず体がセカンドベースを超えており、遅ければ大隣が先にベースを触っていた。決して許されない誤差。

スロー映像にはスライディングしてきた大隣の足が、旗野上のグラブを確実に蹴り飛ばしていることを証明し、その後からベースを踏んでいた。



「おおぉぉっ!!完全にアウトじゃねぇか!!」

「グラブ蹴られて、転がってもなお離してねぇなんてすげぇっ!」

「審判もよく見たーー!!」



守備から来る特大の流れ。



「ははははっ!とはいえ、俺の強い送球があって成り立ったアウトなわけだ!」


ちゃんと送球すればアウトにできるっつーの。旗野上は河合を嫌そうに睨んでいた。二人の仲はかなり悪いものだった。


続く2番、ジョンソン。地花のストレートをカットしていき、ボールを確実に見極めてフォアボール狙い。カットのみに集中している。

2ストライク2ボールとなって、地花が投じた6球目。まさかのど真ん中。これをヒットにしようとジョンソンが手を出したのは必然。バットはストレートならば捉えていただろうが、その下に落ちて行くフォークに空振る。



「ストライク!バッターアウト!!」

「地花!この試合、初めての三振をとりました!フォークボールが決まった!」



フォークとはいえ、甘いコースに来ていた。



「普通ならホームランにされてたぞ!ほぼ真ん中じゃねぇか!」

「さ、三振なんですから!いいじゃねぇーっすか!」


これで2アウト。大隣、ジョンソンからまさかのアウトをもらった地花。俄然、調子付く。



「フォークのキレが良い。見事にやられた」

「OK。俺が仕留めてこよう」


左対左。菊田には若干ながら、左に弱い傾向がある。この勢いのまま潰せれば相当なイニングを喰える。地花も河合も、菊田に対して強気の内角攻め。



「ストライク!」



大隣は連携を。ジョンソンはカットによる四球狙い。いずれも、凌がれた。シールバックの妙な底力がこのアウトをとっている。菊田は次に繋げるよりも、大きいのを狙っている。



「良いストレートだ」



思ったよりノビてくる。その上、荒れている。ボールを見極めてカットし、甘い球を待った方が良い。厳しいコースはパスだ。



「ボール!フルカウント!」



8球目。地花のストレートが外れてのフルカウント。フォークも見せたが、菊田に上手くカットされている。並の打者ではない。



「この!」



地花に早くも疲れが見えてきた。経験があるとはいえ、一軍では初めて。こうして、粘られてもうすぐ40球に達しようとしていた球数。四球は嫌だと、体が反応して投じたフォークはまたしても真ん中に寄った。それを逃さない菊田。



カーーーーーンッ



セカンド、岡島がまったく反応できずに強く抜けるゴロ。そのまま右中間を貫く強烈な打球。



「菊田!ツーベース!!2アウトながら、チャンスを作ります!」


頑張って、アウトをとってきたが。もうここまで。


「まったく、打者一巡なんかさせてたまるかよ」


4番、荒野。

本塁打よりここはヒットが良い。走者を置いた状態は地花には荷が重い。疲れも見えてきている。甘くなる球は多くなるだろう。

菊田と同じく、好球必打で今度はストレートを狙い打った。真芯で、荒野のパワーが乗った強烈な打球。



「三塁線!!」



打球に飛び込むのはサードの守備が上手い男。体が勝手に動いたと後で語った。



パァァンッ



「と、捕ったーー!凄い反応をした!!」

「林さん!!」


グラブが弾き飛ばされそうな痛烈な打球。それでもしっかりと掴んで止め、すぐに一塁へ投げる。一連の動きはまさにベテランの技。



「アウト!!」

「シールバック!良い守備を魅せました!この回、2つのファインプレイにより無失点で切り抜けました!!」



この後、打線は大鳥を捉え始めた。投手として打席に立った地花にツーベースも生まれ、2点を返した。すると、インディーズのブルペンでマイケルや肝須和、泉が準備を始める。大鳥の完投を諦めさせた。

さらに7回。疲れが見えてきているとはいえ、地花をマウンドに上げる阪東。6回が荒野で終わったことが功を奏した。


疲れがあっても、打線は弱くなってくるインディーズ。7番、伊倉にタイムリーヒットを浴びるも、要所要所で好守を魅せて3アウトをとった。


「よく投げてくれた地花!」


地花に労いと、感謝の言葉を発する阪東。


3回を70球、1失点、4安打、1四球。勝利も敗北もないが、これが地花の投球結果であった。




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