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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS”AIDA”編
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我天才也

野球を始めたのはいつ頃ですか?



『1週間前………いや、正式には6日前か。ルールはざっと聞きました』



どうして、野球部に?


『先週、体育の時間でエースを怪我させちゃったから。その謝罪のつもりで出たんです。最後の年を怪我で終わらせるのは悪いじゃない?3回戦から投げられるみたいでよかったです。9回まで投げるのは大変ですね』



あの名門校を1失点で完投し、さらにはプロ注目のAさんから4安打、1本塁打、2打点というご活躍ですが?



『え?相手はそんなところだったんですか?俺、野球の事情を知らなくて。そのー……結構、良い球を投げてましたね。でも、4打席目の敬遠は勘弁してください。あの後、3塁まで走るのが辛かったです』




友田 旦治。

当時17歳。つまり、なんと2年前のことである。とある夏の県大会、それも2回戦というつまらないところで起きた大事件。全国の新聞社がその事を本格的に取り上げたのは、秋のドラフトになる。

当時、シールバックのスカウト担当者は友田ではなく、相手チームの選手を見ていた。それもそのはず、友田が戦った相手チームは全国の常連。選りすぐりのエリート達。リトルからシニア、そして今に至るまでとてつもない努力を重ねてきた、秀才達。プロ野球との繫がりだってあったのだ。



『和光GM!今すぐ、この選手を獲得するんだ!!とてつもない天才が現れた!調査する金を用意してくれ!』



しかし、彼等は所詮凡人が努力して辿り着いたに過ぎない。

いわば二流の連中。耀きを感じられない。覚悟と謳い、努力を積み重ね、環境を得ていて、ようやく選手となった人。そして、友田1人に抑えられ、打たれ、走られ、敗北していった。

勝負弱いとか、出会い頭の事故とか、そーゆう以前の問題。彼等が凡人共だから悪いのだ。



友田旦治があまりにも、野球をしている者達とは持って生まれた才能が違う。

それは身体能力がずば抜けているということも評価されるが、スカウト達は友田を調査することで彼にしか持っていない物を発掘した。



『"五感の鋭敏"さ。センスをこうも簡単に示すには最良の素材』



スカウトの調査結果から友田の異常な才能の根本は彼の五感にあるそうだ。

まず、肝心要の視力は誰よりもずば抜けていた。動体視力は一流アスリート達を軽く上回っており、そのデータを鮮明に解析する創造力と分析力を持っている脳も供えていた。聴覚も、通り過ぎるボールの回転する音をリアルに聞き取る。バットやボールを握って感じる触覚も、通常よりも強くリアルに感じ取れる。皮膚の内側にある筋肉や骨、血管などの状態すら友田は感じ取れている。

技術面においても、どのように肉体を動かせばいいのか本能で悟っており、肉体もまた技術に耐えうる体であった。

生きているリアルを誰よりも強く感じ取れる感性の持ち主。


こうした情報量の豊富さが、友田の野球に影響を与えている。



『肉体も心も鍛える事はできるが、人間の感性は早々鍛えられる事はできない』



人間の形状をしているが、中身は人間を超越している。

血や環境では決して生まれないのが、才能。努力や運でも覆ったりはしない。




「何をやっとるんじゃ」


AIDAが優勝できるかどうかの境目。それがシールバックとの直接対決だった。新田の不在とはいえ、先発の三本柱ならまだ見込みはあると思っていただろう。しかし、違う。



「しっかりせんか!!お前は私の子だぞ!?」


野球狂、水嶋の観戦。

血を分けてもらった大恩人が見に来ているというのに、AIDAに勝利の予感はなかった。それだけ打線が死んでいたことと、それと反するシールバック打線の繫がり方。



2日目は根岸の登板であり、かつて完封を喰らった。

シールバック打線は汚名返上とばかり、打ちまくった。とにかく打った。

絶対的な一番打者、友田が確実に出塁してから千野が送り、新藤と河合で粉砕する。シールバックの攻撃パターン1だ。



「2回にして根岸から3得点!幸先の良い攻撃です!」



根岸の投球にキレはなかった。

英才教育、絶対的投手の矜持。このペナントでは彼等がフルに戦っていた。


「さすがに体が限界みたいだな」


先発投手は早ければ中5日、もしくは6日ほどで登板する。

完投型の石田、根岸、白石の三人はここまで多くの完投数、ならびにイニングを喰ってきた。二軍に落ちることなく、休まず戦い続けた代償は天才すら凡夫以下にする疲労を持っていた。

その疲労を考慮して、手加減してくれるシールバック打線ではない。




打つ、打つ、打つ。



「ついに根岸、降板!!5回、5失点でマウンドを降りました!!」



名球会に名を連ねても、今は爺。水嶋はファンと並んで息子に怒号を飛ばした。


「何をやっとるか!?投手から崩れてどーするんじゃ!!」


血を与えた息子に厳しい檄。勝利せねば何も価値はない。

最強投手が敗北するなど、この眼で見たくはなかった。水嶋は根岸の降板後にすぐにスタジアムから出て行ってしまったそうだ。


「最強投手だからといって、必ず勝てるわけじゃないんだよな」


阪東はエースという重みをよく知っている。エースと呼ばれることは相手投手だってエースであることが多い。また、そう簡単には降ろせないチーム事情もあること。むしろ、リフレッシュな投手を出されたら敗北していたかもしれない。3本柱に縋ったあまりに疲労が噴出し、敗北していった。新田不在も大きい。AIDAは強さに拘るあまり、勝利を見失っていた。

阪東が選手としてこのシールバックを動かしていたら、起こっていた事態かもしれない。だから、阪東は監督を選んで裏方としてチームを支えて勝たせていった。そうして、追い出される感じになった前監督は……



「今の、水嶋さんか?相変わらず、デカイ声を出す爺さんだなー」

「津甲斐の知り合いなのか?」



阪東は謎の爺を不思議に思っていたが、津甲斐はどうやら違うようだ。よく思えば、津甲斐もなんやかんやで元プロ野球選手である。



「私の大先輩です。私が入団した時、三冠王を獲ってました」

「ふーん、なるほど」

「でも、私が翌年の三冠王になりましたけどね!超えてやりましたよ!」



…………?


「え?」

「な、なんですか!?その戸惑っている顔!私だって、大打者の1人なんですよ。名球会入りは確実です!」

「嘘だろ」

「嘘じゃないです!こー見えて、本塁打王を4回獲った実力者です!」



水嶋という異端の来訪より、シールバックがAIDAの3本柱を相手に3連勝をしたことより、まさか津甲斐が三冠王を獲得していたほどの大打者であったことに、阪東は唖然としてしまった。


対AIDA。ペナントレース、18勝12敗。昨年の優勝チームを相手に、弱点を突きつつその打力で突き放していった勝利数。根岸達、3本柱の登板が疲労が出てくる後半に集中したこと、その時期に新田が離脱してしまったこと。他のチームよりもAIDAと戦いやすくなっていたおかげとも言える。


AIDAは今年のペナントレースで5位の結果となって終わってしまった。




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