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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS”AIDA”編
23/45

主砲発見

AIDA戦。第8回戦。前の試合で、根岸に完封負けを喫したシールバック。


AIDAの先発は3本柱の1人、石田が登板。一方でシールバックの先発は戸田。打線は重い状況であり、先発戸田も今シーズン、波に乗り切れていない状態だ。


「須見とパリッシュの昇格は早めた方がいいかもしれないな」


悪い空気を変えるには人の入れ替えが良い。

即戦力というわけではないが、流れを変えるだけのきっかけが欲しいのだ。



そして、試合は始まった。

AIDAの先発、石田であるが、先頭の友田にヒットを許すも、新藤と河合を封殺し、無失点で切り抜ける。

一方で、シールバックの戸田。フォークのキレは良くなかったが、カーブが思った以上にブレーキが掛かっていた。2回、6番内山にソロホームランを浴びるものの、4回まで被安打3、1失点という悪くない投球内容。



「あ、案外。良い試合ができてますね」

「そうだな」


打線は湿っている。だが、ツキはシールバックにあったのだ。

そのことを察している阪東はどうにか打線が奮起するきっかけを網羅していた。戸田の出来はやはりイマイチだが、運が良い。強い打球が守備の正面に飛んでいる。投手に勝てと言っているような、試合の流れだ。



だが、打線が石田を崩せない。



「あー!また、三者凡退。初回、友田のヒットを活かせれば~~」

「そう上手く行く作戦でもない」


石田は5回まで被安打2。友田と新藤に安打を打たれたが、それぞれを分断したおかげで無失点であった。

このまま、ズルズルと行くと2試合連続完封負けの予感。せめて、長打が出ないかと願っているようじゃ、監督としてそこまでだ。6回裏に差し掛かり、ヒットと四球で走者を2人置く戸田の投球を見て、阪東はケントを投入した。


「な、7回は戸田に周りますよ!2アウトなんですし、それからでも」

「打たれたらおしまいだ。戸田はよく投げてくれたよ」


まだ1点差。

阪東のこの継投は功を奏した。ケントが代打、若林をセカンドゴロに打ちとってピンチから切り抜ける。



「代打、地花」



1アウト、9番のケントに代打の地花を送る阪東。友田の前にランナーを置きたい。また、地花もその意気が高かったのだろう。石田から粘って、



「ボール、フォアボール」



石田、この試合初の四球。危険な打者である友田の前にランナーを置いてしまった。AIDAはタイムをとって間をおいた。長打が出れば同点もありえる展開だ。友田も、それを狙っている。流れを作るための一打。


だが、



バシイィッ



「ショート!弓削!ファインプレイ!地花、飛び出している!!」


友田は石田のストレートを真芯で捉えたが、ショートの弓削がこれを超反応し、なんと捕球してしまう。地花も当たりを見た瞬間に飛び出してしまい、急いで戻ろうとするも、弓削の送球がわずかに早くまさかのダブルプレー!



「つ、ツイてないーー!今の打球、もう少し高ければ長打コースだったのにー!!そーですよねー!」

「……まだ終わっていない。落ち着いてくれ、津甲斐監督」



確かにツイてない。

今日の友田には運がない。また、こーした接戦で友田という爆弾を守備につかせるのは危険だ。7回が終わり、友田に打席が回ることはおそらくない。


「地花、センターだ。あと、沼田に出番を伝えてくれ」


阪東。石田から1安打を放った友田をベンチに退く采配。これは単純であるが、勇気ある決断だ。友田を残せば、多少の失点でも取り返せるかもしれない。だが、このまま1点差のままなら友田を下げても追いつける。

大量得点と失点を天秤に掛けての判断だ。


運に嘆かず、ドンと腰を置いて実力勝負に持ち込む。



「センター!大きな当たりだーー!」



2アウト1塁。

三番、村田の打球はセンターの後方へ行く痛烈な打球。友田であったら捕れなかっただろう。まぁ、捕る気がないだろう。



パァンッ



「地花!間に合いました!事前に外野は長打を警戒していたのでしょう!」


地花をセンターに置いたことで失点は防いだ。お互い、打線が湿っているがその質は違っている。明らかに攻め切れていないのはAIDAだ。シールバックは完全に石田に抑えられ、運にも見放されている。

勝つべく投手はシールバック、勝つべく打線はAIDA。そーいった試合展開。


8回表、シールバックの攻撃はこの試合最後となるクリーンナップへと回る2番からだ。先頭の千野、石田から粘るもファーストゴロに終わる。続く、新藤。石田はここが山場と見て、アドレナリンを出しながら全力投球だった。



「152キロのストレート!8回でもこの球威です!さすが、石田だ!」



AIDAの先発陣は完投が多い。ましてや、こーいった接戦では中継ぎなど出すわけがない。それだけ投手の構成に差があるのだ。

新藤と石田の対決は8球。それもフルカウントまで縺れた戦いとなり、最後に力で決めたのは……



「打球が上がった!!大きいか!?レフト下がる……が、上がりすぎか!?レフト、菅原!構えています!」



新藤、レフトフライに打ち取られる。2アウトランナーなしと、チャンスを作れない。ましてや、次はこの男だ。



「4番、キャッチャー、河合」

「おらーー!来いよ!ホームランにしてやらぁ!」



気合十分だが、ここまでノーヒット。2試合完封負けなんかされたくないと、意気込み過ぎてスイングが空回りしている。阪東は河合のマグレでもいいから一発を期待している。

3球目、ストレートを打つかのようなスイングで河合が打ったのは、石田のスライダーだった。


「おらーー!超えろーー!」



気合のある雄叫びと共に飛んで行く打球、超えて欲しいところまでなんとか届く。


「河合!レフト前にポトリと落ちるヒット!!2アウトながらランナーが出ました!」


おっしゃーっと、一塁上でドヤ顔のガッツポーズをしている河合。そこへ、代走の栗田が送られる。しかし、河合以外は感じているだろう。むしろ、三者凡退の方が良かったかもしれないと。

決して、石田が崩れる兆候が出たわけではない。河合が持つパワーのおかげでヒットになっただけ。正直、嵐出琉と尾波の2人で、栗田を返せるとは思えない。むしろ、ピンチになれば逃げられる可能性もある。



「今日の石田も昨日の根岸のように良いからな」



それなら、ノーアウトでランナーを置きたい。2アウトでは仕掛けられる作戦がほぼない。盗塁狙いで滝を河合の代走に送りたいが、そうなると相手にモロバレな上に失敗すれば9回でのチャンスがほぼ終わる。

阪東の采配はここで終わってしまった。

一方でAIDA陣は杞憂であった。

河合に一発さえなければ、どーということはない。

仮に嵐出琉と尾波に連打が生まれても、阪東が友田を下げてしまったことで警戒すべき1番打者がいない。また、新藤に周ることもまずありえない。

むしろ、ここで嵐出琉を抑えれば勝ったも同然。9回で、たとえ好調の尾波がいても本塁打さえ打たれなければ負けはない。また、7番に好調の本城もいるが、そこまで怖くはない。



「打者勝負で終わらせてやる」



AIDAは何も動じない。投げる石田も代走の栗田を意識しない。5番の嵐出琉との勝負。それだけに意識すれば良い。


「んー……」


エンドランが上手く決まって栗田がホームイン。なんてことは起きないよな。

嵐出琉はそこそこ調子を戻しているようだが、まだ尾波や新藤と比べたら、本調子とは良い難い。せめて、二塁なら当たり次第で同点もありえるが……。

2,3塁で尾波になったら、向こうは敬遠策をとるよな。


阪東は悩むだけで静観。一方、打者の嵐出琉。



河合サン、珍シイ、チャンスメイク、デス!



消去法の四番である河合だけに、一発も多いがチャンスを台無しにする機会も少なくない。嵐出琉の打点の伸びが悪いのは大抵、河合のせいであった。

まだ、自慢の豪打が蘇ってはない。去年の自分を思い出しながら、打席に臨む嵐出琉。


「狙ッテミマス」



嵐出琉にとっては気持ちが引き締まる状況だ。一発出たら、逆転。

そーゆう機会は河合が前にいると早々起きない。まだ、今シーズンはヒーローになっていない。年俸を下げられないためにではなく、さらに上げるためにもここで打つ。

勝負強さを全てに見せつける。



嵐出琉からそれほどの決意が現われていることを知るのは本人以外いなかった。なぜなら、シールバックが土俵際まで追い詰められている。またAIDAは1点差とはいえ、調子を落としている嵐出琉が打者だと、わずかながら緩みをみせていた。

バッター勝負で良いという言葉は、まさに言葉通りだ。打者でアウトをとればいいというだけの気持ち。その打者とちゃんと向き合っていない。



石田も新田も、ここでやられるとは思っていなかった。

いや、AIDAというチームの本質が浮かび上がったとも言える。

選手、コーチ、監督、それらを支える企業達の能力は西リーグの中で傑出している。だが、能力が全ての結果を決めるわけではない。



カーーーーーーーンッ



「は?」


目が覚めた時には遅かった。石田のストレートは長打が生まれやすい高めのコース。油断から現れたコントロールミスであり、150キロを計測したところでそんな打ちごろにボールが来たら打たれる。

おそらく、石田は嵐出琉が振り遅れるだろうと考えていたのだろう。



「GOOD!」



采配が決して試合を決めるものではない。また、選手達の能力が必ずしも試合を決めるわけでもない。

調子を落としていた。だけど、打っちゃうよ。そりゃあね、打者としてちゃんと打席に入っているわけだし。



「入ったーー!!バックスクリーンに放り込んだ、逆転ツーランホームラン!!ストレートを狙い打ち!!石田、完封を逃し、さらには敗戦投手の権利までもらってしまったーーー!!」



嵐出琉、高めの打ち頃ストレートをスタンドに叩き込む。

場内全員が驚き、そして思い出される。圧倒的な豪打の気配。4番の後ろは頼りになる勝負師の助っ人だ。

この一発が試合を決めた。



2-1。シールバック、逆転勝ち。もちろん、ヒーローは嵐出琉であった。今年、初めてのお立ち台。



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