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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
キャンプ+オープン戦編
2/45

実力主義

「ああぁ?新入りだと?」

「そうだ。津甲斐監督が連れて来た選手がこのキャンプ中に来るそうだ。いきなり一軍だなんてビックリだな」

「はっ!津甲斐のクソ野郎の目と声なんて、俺は信用なんざしてねぇよ」



年は新しくなった。本格的なキャンプが今年も始まった。シールバックのメンバー達も温かい場所にやってきてのキャンプインだ。

選手会長の新藤暁しんどう あきらと、捕手である河合正幸かわい まさゆきはチームの顔とも言える逸材である。新藤には新入りの入団の話が来ていたが、河合達にはこの時が初めてであった。

ドラフトや育成テストのような形で上がって来たわけでもない者がいきなり一軍だなんて考えられないことだ。



ざわついているのも当然。騒然としながら、この時。選手達は阪東孝介と対面するのであった。



「よろしく」


若いのかと思えば自分達中堅と同じくらい。聞いた事もない名前だ。

こんな奴がいきなり一軍?


「おい、テメェ。特例だがなんだが知らねぇけど、ちゃんと野球ができるのか?ここはプロだぞ、草野球と違ぇんだぞ」



突っかけるのは河合。新藤とは違って、実力でも言葉でもチームを掌握したいという気持ちが強い奴だ。一目で阪東が只者ではないのは分かっているが、通用するかは見えていない。

アマで活躍した程度にしか分かっていないのだろう。



「プロ野球の差を見せてやる。テメェはすぐに草野球に戻ってろ」

「いきなり対決か?いいだろう。好きな勝負を仕掛けてこい」



キャンプ初日。

チーム同士、仲良く練習するということはなかった。元々、生え抜き選手が少なく、トレードやFAなどといった選手達による構成であり、実力主義をとっている。阪東は挨拶の場だけでこのチームの重たい現状を察していた。

ともかく、優勝を目指すというのなら阪東は自分の器を選手達に見せなければならないのは必然だ。

この程度の対決には乗っていく。



「井野沢、打撃投手やれ!いいか!勝負は20球、何本柵越えをするかの勝負だからな!!」

「いいだろう。順番は……そうだな、ここのプロのレベルとやらを見たいから河合からやってくれないか?」

「舐めたこと言いやがって、後悔するぜ」



河合正幸。

昨シーズンの打点王と本塁打王である。

圧倒的な長打力を持ち、その飛距離は球界ナンバーワンとも言われるスラッガー。シールズ・シールバックの不動の四番。

河合にとっては勝ちゲームだ。




カキーーーーーンッ



打球は柵越えどころか、場外へと消えていく。見守っている選手達はこの河合の強打に圧倒され、賞賛も送った。


「すげー。さすが、本塁打王」

「この時期でこの打撃。仕上がりが早いな」


20スイング中、12本の柵越え。内場外が4本。半分以上が本塁打というのは大砲と言われるべきパワーだ。


「どうだ!これがプロだ!テメェに超えられるか!?」


打撃投手から打ったとはいえ、13本の本塁打は厳しい。河合以外、チーム内に出来る奴はいないだろう。だが、阪東は不敵に打席(右)に入った。河合の挑発、威圧、それらに感じさせない冷静さ。



「それで捕手か?」


阪東は河合など見ていなかった。


「ルールを確認していいか?"柵越え"がお前より多ければ良いのだろう?」

「あ?当たり前だろ!ビビッたか!?」

「なら、俺の勝ちだな」


阪東は始まる前から河合に勝利宣言をした。単純なホームラン競争ならば、ただ柵越えだけを考えれば良い。それができるのが、阪東。奴は河合の打撃フォームよりも、井野沢の投球に視線を送っていた。



カーーーーーーンッ



パワーで叩きだす打撃が河合なら、強振しながらも正確にボールを真芯で捉えるのが阪東の打撃だ。明らかに技術が見えるバッティングが打球を柵越えに導いていく。


「良い投球だ。打者に対してこれほど打ちやすい球を投げられるのは、お互いに練習になる」

「あ、ありがとうございます!」


5スイング中、5本の柵越え。

井野沢の丁寧な投球に褒めながら、次々と阪東の打球は柵越えしていく。本当の飛距離勝負ならば河合が勝っていた。阪東の打球はどれもギリギリでホームランになっている当たりだ。



「ば、馬鹿な!?」

「13スイング中、13の柵越え!?」

「ここまで100%って、凄すぎだろ!!こいつは神か!?」


しかも、河合に勝つ事が決まった瞬間。阪東はなんと右打席から左打席へと変わった。自身がスイッチヒッターであることを打撃で魅せつける。

長打を打つなら右の方が得意であるが、左も井野沢の投球を完全に把握した上での転換。

巧打でも柵越えを放ってしまう阪東孝介の打撃。



「こ、この野郎……」

「飛距離勝負なら負けていたかもな。河合、この勝負は俺の勝ちで文句ないな」



20スイング中、17本の柵越え。右打席は100%の本塁打率。

河合は得意分野での敗北を知り、少し肩を落としていた。自分よりも打てる奴がいるとは思っていなかった。精神的に来た。

一方で阪東の打撃に触発されたのか、1人の男がまた阪東に食いかかった。


「ちょっと待ってよ。なんで、途中から左打ちをしたの?」

「勝った時点でどうしてもいいだろう?」

「俺もスイッチヒッター(両打ちの意味)なんだよ。こだわりはないんだけど、俺の心に火が点くことをさせるねー」

「……若いな、お前」

「バリバリの19歳。プロ野球選手。友田旦治ともだ だんじ


昨年の新人王!

普段はやる気のない男であり、持って生まれた野球に対する才能だけでプロで活躍している。このプロ野球界きっての天才だ。

友田はバットを握り、阪東に宣戦布告。



「今度は俺と勝負だ」


この天才が戦う。つまりは本気だ。本気の友田は誰にも止められない。もっとも才能があるということは限界を超えられるという意味だ。


「いいが、何がいい?飛距離勝負か?柵越えか?友田が選んで良い」

「へぇー……いいんだ」


友田の才能を見て知れるとしたら間違っている選択だ。絶対に勝てない勝負があることを選手達は知っている。友田は河合と同じく、単純な勝負を阪東に仕掛けた。バットをグラウンドに転がせ、



「ベーラン勝負。どっちが速くこのダイヤモンドを駆け抜けるかの勝負なら、簡単な力勝負になるだろ?」

「……ふっ、若いなりの答えだな。良いだろう」


無理な勝負だ。

チーム一、才能がある選手というのは持って生まれた肉体を供えているものだ。友田の一番の武器は驚異的な俊足。盗塁成功率は10割。普段、やる気がないから仕掛けることは稀であるが、決める時は確実に決める。技術も光る走塁がある。



「勝負を決めたのは友田だ。なら、順番は俺からやらせてもらおうか」

「構わないぜ」


先攻、阪東。後攻、友田。ストップウォッチは井野沢。

スタートする方法はスイングを一度してからのゴー。この時、阪東は当然のように左打ちを選択した。



ダァンッ



阪東、スタート。その加速はあまりに速かった。とても河合達よりも年上とは思えない速さだ。内野安打のコツが分かっている加速力にも技術がある。



ダァンッ


一塁を踏み、二塁へ。周り方に無駄がない。最短距離と最小の動きで行なうベーランだ。細かい動きを理想的にこなす。一切のスピードを落とす事無く、周っていく。



ダァンッ



二塁から三塁へ、ただ全速力で走っているという動きではなく、この全速力を維持するランニング。ついに三塁を蹴ってホームへ突入していく。一度得たスピードはそのままでホームをも駆け抜けた。



「ふーっ、ふーっ。全力疾走は疲れるな」


阪東はゆっくりとスピードを落としながら、友田達の方へ向かっていく。阪東は息を切らせていたが、選手一同。


「は、速い!」


ストップウォッチを見なくても、自分よりも速いことは分かった。あれだけの走塁は誰もできないと分かった。それでも、友田は不敵にこの勝負に挑む。


「速いが、俺なら超えられるさ」

「そうか。そうだとしたら、完敗だな」


友田の出番。阪東と同じく、左打席からのスタート。

自他共に認める天才。単純な足の速さも、走塁技術も、超一流だ。



ダァンッ


「もう一塁を蹴った!」

「あれくらい友田には造作もねぇ!まだ加速するぞ!」



最高速度は間違いなく、阪東よりも上。それは彼に若さがあるからだろう。明らかに2塁までの時点では友田の方が速いと分かっていた。


「良い足だな」


阪東も認める友田の足。短距離走であれば河合同様に確実に負けていた。しかし、野球での勝負。ベーランというルールでも、阪東に負けはなかった。



ダァンッ


友田がホームを駆け抜け、この勝負に判定が下る。


「は、速ぇっ!」

「これは友田が勝ったか!?」

「わかんねぇぞ!井野沢!どうなんだ!」


ストップウォッチ係になっていた井野沢。その数字に震えながらメンバーに見せ付けた。



「0.8秒差。勝ったのは阪東さんです」

「なにーー!?嘘だろ!?」

「チーム一の俊足の友田が負けるわけねぇだろ!!」


本気の友田を久しぶりに見た。間違いなく速く感じたのは友田の方であったが、友田自身からこんな言葉が出た。


「長っ……」


ベースランニング。その一周、約110m。直線であるならば近く思えるが、円を描くように走るため、その距離はやや増える上に曲がりながらスピードを維持するのは難しい。

最高速度こそ友田が上回った形であるが、そのトップスピードを維持できた時間は阪東の方が圧倒的に長く、阪東の方がさらに最短を走っていた。ベースランニングとは最速を走ることではなく、最速を維持することが強く求められる。


「疲れたー。もう、俺は帰るわー。俺の負けでいいや」

「っておい!友田、テメェ!帰るのかよ!?キャンプ初日だぞ!」



天才といえど、まだ19歳。

練習量も極めて薄い。薄いながらも、阪東とほぼ互角に渡り合える技術力と基礎能力は将来の可能性を高く示していた。

キャンプ初日でこんなイザコザが起き、友田も周りの言葉を無視して帰る始末。とてもボロボロなチームの状況。



「さて、息も整った。次。俺と勝負したい奴はいるか?」


阪東の息も整って、不服のある者を尋ねる。

しかし、この時点で河合と友田から完勝した阪東に勝負を挑める奴はいない。いるわけがない。そもそも、これ以上する意味もないと分かっている。

それなのに、



「いないなら、俺が最後でいいか?」

「新藤!!テメェ、何する気だ!?」

「河合と友田の仇をとってやる。これでシールズ・シールバック、最後の勝負にしてやる」



選手会長、新藤が最後として阪東に挑んだ。

いくら実力があるとはいえ、新藤が阪東と戦える勝負はあるのだろうか?




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