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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS十文字カイン編
17/45

一塁徒歩

悪夢。

考えたくもないことは現実に起きる。負の、負の連鎖。

あのカイン戦から悪夢の11連敗。一度は1位にいたチームがこれほどの連敗を重ねた。だが、前の試合でようやく解放された負の連鎖からの、試合。




「始まったのはこいつ等からだ」




中継ぎ大炎上。打線は氷河期。

打てない。守れない。投げられない。阪東の采配も空振り。誰もが自信を失いかけた大連敗を経験した。



「連勝、久々にとろう!」



連敗脱出のきっかけはやはりこの男の復帰。

選手会長、新藤だった。連敗を重ねたチームのため、怪我が完治していない状態でもベンチに入った。代打での出場のみであるが、やはり彼の打撃はチームを救った。



「おう!」

「11連敗したら、11連勝はしないとな!」



とはいえ、全員の疲労は抜けていない。心の整理こそできても、身体はまだついていっていない。



1番.センター、友田

2番.ライト、尾波

3番.ファースト、嵐出琉

4番.キャッチャー、河合

5番.ピッチャー、久慈

6番.レフト、マルセド

7番.サード、林

8番.セカンド、岡島

9番.ショート、東海林



オーダーは攻撃的だが、守備的な部分もある。久慈から上と下で役割が違っている。

そして、試合は喰らい付くようにシールバック打線が押していく。



「東海林!タイムリーヒット!三度、同点!!」



先攻であるため、サヨナラの危険がある。早々に引き離さなければこの打線の目覚めが水泡する。カインに喰らいつくように1点、1点。線にならなくても点を返していった。


5-5のまま。延長戦へと突入。


代打に、中継ぎに、守備固め。阪東はやや空回りでも、全員を使い切って戦おうとしていた。1点あれば良い。あとはなんとか、その裏。手段は問わずに3アウトをとる。ヤケクソであるが、理では勝ち越せない。勝ち越せない負けは痛い。



「ファースト、嵐出琉に代わりまして、代打、新藤」



11回表、2アウトであるが、ランナー1塁。

最後の控え野手である新藤をこの場面で投入する阪東。チャンスとは言い切れないが、裏になればどうなるか分からない。走者一塁とはいえ、この機会での代打、新藤に託す。

こちらの残り投手は敗戦処理をいつも任せている吉沢のみ。



1塁ランナーは足のある千野。2アウトだから、打てばGO。迷いなく、走ってくれる。新藤の役目は2塁打以上、放つこと。



「ここで決めよう」


次の河合はこの試合ノーヒット。今日1安打1打点をあげた嵐出琉を下げてまで、代打を送ったのには理由がある。



「嵐出琉じゃねぇなら、勝負で良いよな?」

「そうだな。新藤とはいえ、まだ怪我から上がったばっかだ」

「調子を取り戻しかけてる嵐出琉が下がってくれて助かるぜ」



嵐出琉や新藤の敬遠を避けること。おそらく、河合では打てない。かといって、河合に代打を出せば河合のスランプは続くだろう。

相手方は新藤との勝負を選択した。打たれても後ろには今日打ててない河合がいる。得点は与えない。そー判断した。


「新藤さーーん!打ってくれーー!」

「決めろーー!ツーランホームランでーー!」



煽るな。


「やれやれ」


そー難しいことは河合に言ってくれ。




新藤 VS トニー。



トニー・マックス。カインの守護神であり、ここまで15セーブ、2敗。10回から登板し、ここまで引っ張るのは異例だ。


「Fu~~、新藤KA」


変化球が決まらないとあっちゃ、投手も捕手もキツイ。疲労がある。それでも渥美監督が、この場で間をとっただけにしたのは勝つためだ。次は9番のトニーから。そこで代打を出し、杉上達上位打線で得点を挙げてサヨナラ。

トニーを信頼しているからの続行。




まずは様子見。緩いカーブ。ストライクからボールになる球からはいる。



初球から狙ってくる。そして、球も絞っている事だろう。新藤は河合と違って理を作ってから打席に立っている。リードをするニールはその情報を知っており、慎重にいった。

狙っているのは長打であるのも読んでいる。



パスッ



「ボール!」



変化球の制球面の不安が残るが、キレは健在だ。逆に荒れている方が新藤の理を回避しやすいかもしれない。

大きなカーブとスクリューボール。それに150キロを越すストレートがトニーの武器。また、制球力も良く。回跨ぎもやってくれる。抑えとしては確かな腕だ。

ここから。ニールのリードと、それに応えるトニーの投球が冴え渡る。

ストレート、ストレート。2球とも低めの厳しいところを突き、新藤に一度も振らせずに2ストライク。今日の審判の目もしっかり把握している投球。



「あれをストライクにされるんだよな。ボールでも良いだろ」



ネクストバッターボックスで待つ河合はこのコースに苦戦していた。手を出さないのが正解だ。

四球目、変化球を絞っただろう新藤の裏をかこうとするストレート。わずかに外へ行くボールだ。



「ボール!」

「……?」



ここでニールは疑問に思った。追い込まれたというのに、新藤の打ち気が感じられなかったことだ。狙い球じゃなかったかもしれないが、コースはギリギリだった。狙い球に関わらず、手が出るはず。普通の心理なら見逃し三振なんてできるはずがない。

とてつもなく、落ち着いている。



一体、何を待っている?



ニールのリードは打者の裏を突いてくる。打者のミスショットを堅守な守備の網に絡め捕らせる。


5球目、スクリューをインコースへ要求する。新藤に向かってくる変化であり、ヒットにしにくい球だった。新藤はそれをカットする。



「ファール!」



続く6球目、見逃したストレートとほぼ同じコースの球もカットする。新藤が粘っている。狙っているように思える。遅いのも、速いのも見られて、当てられている。

新藤の狙いを掴んだり、予測できなければニールのリードは優位に働かない。



「ボール!」



ここでインハイへのストレート。新藤の上体を起こすボールだ。フルカウントとなり、ランナーである千野は自動的に走り出すだろう。

キツイ内角から、遠い外角へ。基本だ。


ニールはトニーに球を、新藤が見逃しているコースに要求する。新藤も狙っているだろうし、想像しているだろう。それも直球で……。だが、そこへ来る球は緩いカーブ。無理に合わせて内野ゴロ。それで、新藤は打ちとれる。見逃して、四球になっても不調の河合で潰せば良い。



これなら両天秤だ。



勝負を決する7球目。勝ち越すか、凌ぐか。今この時の一球。ニールは驚愕した。一方、新藤は目の前の出来事に対しても、心音を響かせない。力みなどなかった。



「!なっ!?」



理。

理由があるから、起きる結果。ニールのリードならきっと新藤を打ちとっていただろう。トニーがそれだけの投手であるのをしっかりと認めている。

だが、回跨ぎという苦労。今にも崩れそうな身体であるのは、怪我をおして出ている新藤だから理解できる。

予想外ともとれるが、必然の結末でもあった。新藤が待っていたのはストレートでも、カーブでも、スクリューでもない。



トニーの、失投であった。



終止符を打つ快音を響かせ、打球はファースト、曽我部の跳躍の上へ行く強烈な打球。



「いったーーー!!」

「回れーー!千野ーー!!」



新藤がさらに失投待ちを選んだのは長打を打つため、もっともやりやすい球。同時に粘る事でフルカウントになる事も望んでいた。千野のスタートをよりきりやすくするためだ。


長打コースと知り、全速力の千野。一方で、まるでホームランを打ったかのようなゆっくりとした足取りで一塁へ向かう新藤。小さなガッツポーズを作っていた。


ライト、新潟のレーザービームがホームに放たれる。中継いらずの素晴らしい送球であったが、わずか数秒の差で千野がホームを踏んでいた。



「値千金のタイムリーヒット!!ついにシールバックが勝ち越したーーー!!」

「2試合連続ヒーローだ!!救世主だ!!」

「新藤ーー!ナイスバッティング!!」



盛り上がるファンとチームメイト。ようやく、光の道を歩めるか。



「うふふふ。甘いんじゃない?」



トニー。ここで降板。どうやら、失投にしては深刻な顔を作っており、肩を痛めているようだった。しかし、渥美監督は今この時の試合に目を向けていた。

まだ裏の攻撃が残っている。終わってはいない。



「アウト!チェンジ!!」



向こうは吉沢。まぁまぁ、やり手の投手だけど。シールバックはベンチ入りメンバーを全部使った。

現在のシールバックの守備と打順は……



1番.センター、滝

2番.ライト、千野

3番.ファースト、新藤

4番.キャッチャー、河合

5番.レフト、木野内

6番.ピッチャー、吉沢

7番.サード、林

8番.セカンド、旗野上

9番.ショート(代打)、地花



形振り構わず、代打や守備固めを出したせいで正式なショートが不在。あの中には旗野上がいるけど、新藤が怪我をしているからセカンドにしなきゃダメ。しかも、こちらは9番から上位に繫がっていく。1人抜けた守備で上位打線なら1点差なんてないも同じ。

さー、どうやって抑えるつもりなのかしら?阪東さん。




「やりましたね!阪東さん!新藤が打ちましたよ!」

「慌てるな。まだ、3アウトをとる仕事が残っている」



破れかぶれになるなら負けても良いってのは、絶対ダメだ。流れを取り戻しつつあるこの状況でそれはダメだ。何が何でも勝つには何が何でも抑える。



正式なショートがいないのは分かっている。守備も酷くボロボロだ。これであのカインの打線を零封できるか。


「木野内さん、ショートできますか?」

「……おっ?マジ?」



ここで阪東が選んだショートは大ベテランの木野内。入団時はショートであり、その経験は豊富であるはず。


「経験者が望ましい。それも、一流選手であったものほど。この場面では好ましい」



守備として計算しづらいが、妥当なところか。林をショートにとも考えたが、足の速い打者が多いカイン打線。どちらでも内野安打の可能性はある。ショートはほぼ捨てる!打球に聞いてくれに頼んだような采配だ。



「守備代わりましてショート、木野内」



ショートにつくなんざ。ここに来て初めてであった。昔いたポジションであっても、少しアガっている木野内。3アウトにすればいい。それも自分の手じゃなくていい。


「落ち着けるっつーの」



異例な守備体制で迎える11回裏。この勝ち越しを守りきれるのか?




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