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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS十文字カイン編
16/45

左打殺死

「左対左って古くない?」



左打者に左投手をぶつける。それは昔からある優位性であった。統計上、多くのデータがそうなっているのだが、例外な選手もいる。



「近年じゃ左投げも増えてきたわけだ。特別、左が貴重ってわけじゃないし」



右打者には右投手を。

しかし、それは在り来たりなシチュエーション。ある程度の慣れもあるのだろう。打者によっては得意であったり、苦手であったりするだろうが、汎用の例としてするのは難しいか。

利き腕に関わらず、投手が各々ガッチリと固めたフォームからボールが投げられるわけで、本当に左対左が有利だということは決められない。苦手とする投手、得意とする投手というのがいてもおかしくないだろう。



「俺は別に左に苦手意識はないな」



とはいえ、その例に対してものの見事に嵌る打者がここにいた。先ほどから古臭いと主張している選手に対して、同じチームである野尻が現実を突きつけた。


「高崎。今シーズンはまだ左投手から一安打も打ててないよな」

「う、う、五月蝿い!俺には左に対する苦手意識はない!」

「昨シーズンは、左投手から2安打だけだな。内野安打2本」

「それでも苦手意識はない!」

「意識を自覚してないだけなんだな」


十文字カイン。セカンドのレギュラーを勝ち取っている、高崎栄太たかさき えいた。昨年のゴールデングラブ賞であり、守備範囲と守備センスはシールバックの旗野上と互角以上。強肩、俊足、抜群の運動能力。

反面、打撃センスはそこまで高くなく、常に8番や9番といった。運良く出られればいいな程度の扱い。チームが負けている時はよく代打を出される。



「少し打撃が上手くないだけだ!今日は打つ!」

「と言っているが、今日は右の海槻らしいぞ」



カインは現在3位。4位、シールバックとは1ゲーム差。今日の直接対決で敗れれば入れ替えとなる。



小雨が降っている中での試合は拮抗。しかし、乱打線とも投手戦とも言えない状況。



やはり、新藤を欠いているシールバックが不利か?河合が再び四番に座るも、今日はノーヒット。ついでに友田もアクビをしながら、今のところ無安打であった。

一方で、カインは新潟が怪我から復帰し、ベンチで待機している。


「今日はあいつ等が注意ね」



3番、尾波。5番、嵐出琉がそれぞれ1安打ずつ。間にいる河合が凡退してくれているため、こいつ等から許した得点は1失点のみである。

計算外だったのは今日、レフトを守っているマルセドのソロホームランとショート、日向のタイムリーツーベース。


7回裏、

4-3。カインが一点負けている状況。先頭は7番、キャッチャー、ニールからであった。一方で阪東はここで左のサイドスロー、沼田を投入。8回、井梁、9回、安藤といって逃げ切ろうという狙いだろう。



「うーん。これはどーしよ」


渥美監督はここで少し迷った。

得点差はわずかに1点。向こうの主砲4つの内、2つは沈黙状態。上手い事、繫がる感じもしない。

自身の中継ぎに不安があるものの、簡単にアウトをくれても良いかな?



この回を三者凡退で終われば、1番の杉上から。今日は1安打と1四球。2盗塁。悪くないし、代打に新潟がいる。チャンスで曽我部と魚住に回れば8回で逆転もある。



「井梁と安藤って3連投目?スコアラーさん」

「はっ!その通りです!最近は四球も目立ちますね!」

「そっ。ありがとね」



荒れる剛速球とも言われる井梁。杉上との相性は悪くない。安藤も連投が続いてこの前のようにボロが出ようとしている。

代打はなるべく温存したいのと、ここまで堅く守りたいことを考えれば。



「好きに打ちなさい!そーゆう指示で行くよ!」



ニールと高崎には代打を送らない。2人は守備で貢献できている。

逆転の仕事は杉上達に託す。

ニールはその意図を察したか、あっさりとセンターフライで終わってしまう。どうせ沼田はこの回だけのリリーフだろう。



「打っていいんだな」


そして、自分で自分に言い聞かせながら打席に入る。



「8番、セカンド、高崎」


周りが期待しているのは打つ事ではなく、あっさりと凡退すること。2アウト1塁で杉上が回ったら目も当てられない。それならノーアウトで回したいのだ。


「ホントによ、打っちゃうぜ」


しかし、それは見ない。ここで長打が出れば、出塁してから盗塁すればチャンスになる。そうやってプラス思考にしていい。

とはいえ、左の沼田から高崎が打てるという根拠は誰も思っていないだろう。



パァァンッ



「ストライク!」



チーム一の制球力。キレ抜群のシュートと、球の軌道が良く似ていて球速差で打者を惑わせるシンカー、チェンジアップ、ツーシーム。さらにはスライダーまで投げてくる。

そして、サイドスロー。左打者の死角から投げるような投球フォームで、左打者の多くが苦戦する左サイドの典型的な投手。



「こいつには」


高崎は知っている。一方で沼田は知らない。

何度か対戦したことがあるのだが、今まで一度も高崎が沼田から打ったことはない。左投手に苦手意識はないが、沼田は苦手だった。それは心の中でよく自覚していた。たぶん。


「まだ打ててないんだよ」


それって左投手が苦手じゃねぇーか。って、万人が思う事だ。


高崎は闘争心を現す目を打席で見せているが、投手である沼田はとてもクレバーであった。

熱くなったりして、指のかかりが悪ければ変化球をコントロールできない。井梁やパリッシュのような剛速球のない沼田の生命線はコントロールだけ。



「ボール!」



河合のリードに満足はしないが、正確に際どく投球していく。サイドスローという投げ方の利点の一つに、ストライクゾーンを広く扱えることにある。

外角、内角への使い分けはサイドスローの中では相当なもの。



「見逃し三振はしない」



沼田には三球三振で仕留められる、強力な球はない。コントロールの良さはあくまで打ち取らせるために必要な力。クサイところの見極めさえすれば打てる。ヒットにできなくても、ファールで粘れる。

そうやって沼田を追い込んでいく内に、甘くなった球を強打する。




パシイッ



「アウト!」


しかし、高崎。ツーツーから少し粘るも、結局内野フライ。


「おっし!ショートフライ!」

「かーっ!また打てない!どーしてだ!?」



理想的な攻略手段はあったとしても、それを実行できる能力は本人次第である。力量がまだ足りていない。また、これからそれが身につけられるかというと努力以上のものが必要なのだ。

なぜなら、沼田も同じように成長し、経験もする。



「ナイスリリーフ!」

「次、岡島。沼田の代打だ」


他人の一喜一憂に釣られては成長には程遠い。まだ、これから。

特に選手達の疲労がピークに達する終盤にどれだけの器量を発揮できるか。

下位打線と3番手候補の抑え投手の結果など、まだ見るべきところではない。山場となった8回裏、



井梁と強力なカインの上位打線。一点差という緊迫状態。

ノーアウト、杉上との勝負。お互い、違う意味での最速を武器に戦った。球の最速、足の最速。勝負の決着は、足を一切使わせない、



「杉上、163キロの剛速球に空振り三振!先頭をキッチリ封じました!!」


井梁は杉上を理想的な仕留め方で抑える。彼さえ乗り切ればいけると判断したのだろう。

ただ、誤算だったのは彼を含めた打線の怖さ。



「代打、新潟」



怪我が復帰した新潟がここで代打として登場。渥美監督のなんとしても、曽我部と魚住にチャンスを作りたいという気持ちが乗った代打。

新潟の粘りもあって、四球によりランナーを出す井梁。


新潟の代わりに三番を勤めていた、ショートの野尻。打撃力は確かであるが、ここでは堅実に



「送りバント!野尻、今シーズン17個目の犠打です!」



2アウトとなっても、得点圏にランナーを置く采配。一点で良い。曽我部が井梁を打ち砕く。逆転のランナーも置きたくないだろうし、敬遠なんて逃げの采配は阪東がしないだろう。投手と打者の、見ごたえある勝負。



「燃えるな」


こーゆう展開が四番にあって楽しい。そーゆう目を見せて打席に立つ曽我部。


変化球から入ってくるわけがない。直球だ。相手投手は井梁、受ける捕手は河合。お互い、強気にウイニングボールを選んでくる。曽我部の読みは当たっている。コースは間違いなく、ボールに聞いてくれと言わんばかりの荒れ球ぶりであるが、球種さえ分かっていれば対応が違ってくる。



全力投球に応える、フルスイング。バットがへし折れる力比べの結末、



「打球は右中間!痛烈な打球だ!その間に新潟がホームイン!!」

「追いついた!!曽我部のタイムリーツーベースだ!!」


これが再び、シールバックに流れ込む暗雲。その一歩目であった。

この試合は続く魚住がしぶとくセンター前に打球を運び、その間に曽我部がホームを踏んで逆転。逆襲することができないまま、敗れ去ったシールバック。


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