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打撃高騰チーム、シールズ・シールバック!  作者: 孤独
VS十文字カイン編
10/45

本戦開幕

調子は?


「絶好調」



調整練習も、調整試合も……友田には不要だった。


「よーやく!開幕だーーーーー!!」

「待ちに待ったな」



野球選手がもっとも待ち望んでいる時。ペナントレースの開幕。本当の戦いの始まりがようやくやってきた。沸き立つファンはさらに倍増、スタンドに色が付けられるほど華やかになる。全員がこの時の野球を楽しみにしていた。

3月27日。その時からの試合が本当に問われる時。いかにオープン戦で活躍してもこの時が不振では意味がない。本気の対価が出てくる瞬間だから、友田は躍動できる。バットを上手に振り回し、ヘルメットも被って打席に向かう。



「さー、攻撃だ」

「友田。やる気になっているところ悪いが、今日は後攻だぞ。本拠地だろ?」

「……えーっ!?新藤さんの権限で先攻にしてください!」

「無理言うなよ」



新藤からグラブを手渡される友田はブータれる。守備はボールが飛んでこなければ退屈でしょうがないからだ。



「開幕戦ハ、"十文字カイン"デスカ」

「こりゃ乱打線必死だな。しくじるなよ、嵐出琉」



調整不足際立つ嵐出琉にとってはここで少しでもきっかけを作りたいところ。オープン戦の不甲斐なさをなんとか払拭したい。一方で河合はあれから阪東と一度も話さなかった。



「今日のオーダーはどうなんですか、阪東さん」

「初戦だぞ?現時点で最良のオーダーを出すに決まってるだろ」



1番.センター、友田

2番.レフト、本城

3番.セカンド、新藤

4番.キャッチャー、河合

5番.ファースト、嵐出琉

6番.ライト、尾波

7番.ショート、東海林

8番.サード、林

9番.ピッチャー、川北



注目される、"本当の"阪東の初陣。ファンを驚かせたのは開幕戦に選んだのはエースの神里ではなく、大ベテランの川北だった。開幕投手に選ばれたのは5年ぶりという古株だ。


「河合と相性がいいし。何より対戦相手を考えれば、長いイニングを喰って欲しい川北がベストさ」


不振の嵐出琉も5番。2番から9番まで、左、右、左、右、左、右、左、右となるように。ジグザグに打線を組みたかった。

一方で開幕戦の相手、"十文字カイン"というチームは……



「友田ーーーー!!!」


なにやら、相手のベンチ側から怒声がこちらに向けて放たれた。しかも、友田を指名している。



「今年は絶対にお前に負けねぇからなーー!!俊足スイッチヒッターはお前だけじゃねぇからな!!忘れるんじゃないぞ!この杉上俊杜すぎかみ しゅんとをな!!」

「去年、新人王を獲れないからって騒ぐなよ。杉上……」



一方で呼ばれている友田であったが、


「いきなり守備かよー。やる気でねぇー。俺、一回裏から代打で出場でいいですか?」

「よくねぇよ!!なにとんでもない事言ってるんだ!?」


まったく、杉上の言葉を聞いていない。相手はライバルと感じているようだが、友田からすれば他の選手の成績など、興味がなかった。あまりの反応に杉上はさらに燃え上がる。


「くああぁぁ!!あいつが最多二塁打なんかしなければ、俺がリーグ一の韋駄天と言われるべきなんだ!!あいつさえいなければ……」

「盗塁王と最多安打になったんだから、欲張るなよ」

「でも、悔しいんだよーー!新人王は一度きりだろ!」


杉上俊杜。センター。右投両打。

昨年の盗塁王、最多安打保持者であり、友田と双璧をなすリーグを代表する1番打者。足の速さと走塁技術は友田よりも上とされる。しかし、長打率が友田より劣り、わずかながら新人王争いに敗れた。友田より6つ以上、年上である。



「燃えてこそ勝負になる。新潟は謙虚すぎるぞ」



曽我部そがべ 衛士えいし

ファースト。右投左打。

昨年のファーストのベストナイン。打撃、走塁、守備、どれをとっても優れており、カインの四番も務めている。実力はどれをとっても、同じファーストの嵐出琉以上である。



「私、タイトルに興味がないですし。魚住さんもそうでしょ?」


新潟にいがた 芳樹よしき

ライト。左投左打。

昨年のゴールデングラブ賞を受賞。曽我部と同じく、全てに優れており、どんな状況にも対応する選手。3番打者を務め、尾波と似ている打撃でチームを盛り立てる。盗塁も上手で、守備も一流なのが尾波と違う。



「ああ、腹減って寿司食いてぇーよ」


魚住うおずみ はがね

サード。右投両打。

5番を務める超巨漢スラッガー。好物は寿司を丸呑みすること。河合と張り合える長距離砲であり、新藤のようなクラッチヒッターでもある。昨年は怪我の影響で出場数が少なかったが、存在感は今も健在である。

スラッガーでスイッチヒッターという異色な選手でもある。



「こらこら、すぐに試合になるっていうのに緊張感のない選手達ね!!私の渇が欲しいのかしら!?」



渥美あつみ 亜衣莉あいり

監督。現役時代はセカンド。右投左打。なんと、女性監督。

女子プロリーグで活躍していた選手。引退後、監督業をし、とある女子プロチームを2連覇させてから、本部とも言えるこのプロ野球リーグの監督として登用された。現在の年齢は……


「あら?何かしら?まだ若くてプレイだってキレがあるんだから。20代って思ってくれていいのよ。うふふふ」



十文字カイン。

打線はシールズ・シールバックに並ぶ攻撃力がある。

特に野手は西リーグ内、最強の布陣である。打撃でも、走塁でも、守備でも、強烈な存在感があるチームだ。

監督である渥美監督は選手の育成が上手く、現在の主力達は渥美監督の指導によって耀いている。昨年はリーグ4位。



「初戦から嫌なチームですね、阪東さん」

「確かにいきなり打ち合いは好きじゃないな」


十文字カインのオーダー。


1番.センター、杉上

2番.ショート、野尻

3番.ライト、新潟

4番.ファースト、曽我部

5番.サード、魚住

6番.レフト、パトリック

7番.キャッチャー、ニール

8番.セカンド、高崎

9番.ピッチャー、井ノ口



捕手を外人にしているところも含め、これだけの打線と守備陣がいても、負けているのは決定的なほど、投手陣の脆さにあった。

先発は井ノ口と上滋の2人が、頑張っている状態。リリーフ陣は抑えのトニーだけが孤軍奮闘。投手の層はあまりにも薄かった。



「あのチーム。バッテリーの育成は苦手みたいで大変だな」

「渥美監督の現役時代は内野手でしたよ」

「そこじゃない。向こうの監督も大変だってことをな。不足部分を補えるコーチを雇えればいいんだけど」


こっちと事情が似ているな。しかし、これだけの野手を鍛え上げてきた女監督か。カインの指揮を務めて○年。その間にリーグ優勝を1回。この優勝時も攻撃的な野球で優勝させた。

今年も、杉上と曽我部を中心に攻撃的な野球を仕掛けてきそうだな。



「一番、センター、杉上」



そして、ついに始まった開幕戦。

シールズ・シールバック VS 十文字カイン。

双方、攻撃的な野球のぶつかり合いだ。


「友田。よく見とけよ。リーグ一の俊足は俺だってことをな」



コンッ



一番、杉上。いきなり、奇襲のセーフティバント!完全に意表を突いたと思われたが、サードを守る林のチャージが早い。



「アウト!」

「くそー!コンマで遅れたかー!?」


結果はアウトであったが、セーフにもなりえた驚異的な走力。昨年のセーフティバントを含め、杉上の内野安打は50を超える。

山場といえる初回を0で乗り切ったシールバック。川北の調子は良い。そして、一回裏。杉上のことなど気にせず、自分の打撃でまずはチャンスを作り出す。



「友田!いきなり、左中間へのツーベースだ!」



カインのエース。井ノ口であるが、こちらの神里や川北と比べれば格が落ちている。そんな投手に苦戦をする打線ではない。

友田のチャンスメイクから一気に仕掛けていき、初回で2得点を挙げる。



「いいじゃないですか!幸先が良いですよ!」

「ああ、このまま押せればいいな」



カインの打線で警戒すべきは、1番の杉上とクリーンナップ。

特に初回を0で凌げば得点力は大幅に減る。ノーアウトでの杉上はやはり怖い。


開幕戦は打線の仕上がりが勝敗を決めようとしていた。

川北は7回を4失点で乗り切る。投手としては満足していいか分からない微妙なライン。一方で、友田と新藤を中心とした繫がっていく打線は5回までに7得点を挙げる快打の連発。


8回には井梁、9回には安藤。この2人でカイン打線を封殺し、初戦を見事に勝ち取ったシールバック。


「うーん。なるほど、これは去年より手強いかな」

「随分と簡単に初戦をくれたな」



両監督ともに焦りも、喜びも少なかった。

まだ始まったばかりと捉えている渥美。まずは一勝できた阪東であった。



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