阪東孝介
『シールズ・シールバック!!今年も優勝ならず!!惜しくもここで、ペナントレースから敗退しました!!』
あれだけの大補強。あれだけの育成期間をもらった。成功が多かったドラフト。色々な国で見て来た外国人選手のスカウト。
『何してんだテメェ等ー!』
『今年こそ優勝するんじゃねぇーのか!?』
『ファンがどれだけ期待していたと思っているの!?』
それでも、勝てない。
それがペナントレースの重み。ファンは今年こそ、この大補強と大戦力による優勝を望んでいた。それなのにこのチームはまた裏切った。
『首位打者!打点王!本塁打王!新人王!それらが揃った最強の打撃陣がいるのになんてザマだ!!』
『ベストナインも4人選出されていて、なんで優勝できねぇーんだ!』
笑いものだろうな。勝てなければおかしいという、そーゆう戦力でありながら負けてしまうという失態。優勝を逃したにも関わらず、活躍した選手は大勢いた。選手達は野球が生活源であると理解しており、それに見合うだけの今年の実績をフロントに伝える。当たり前のことだ。
「ぜ、前年度よりも4億近い損失だ」
「あ、あれだけのタイトルホルダーが揃っているからな」
「トレードやFAによる大補強、外国人の採用もしたのだからな」
ストーブリーグ。野球をしていない時期だとしても、野球関連の仕事はいくつもある。フロント達は選手達のマネーマネジメントを始め、それらが昨年を大幅に上回る損失が確定したことに頭を痛めていた。
「これでも厳しくしたのか?」
「っ……はい!私共、精一杯でございます」
「おかしくはないか?」
球団を買っている社長。布宮社長はこの現状に怒りを威圧として、フロント陣に浴びせた。元々、会社を有名にさせるための球団の買収。それが不利益だけを吐き出しているなら、困った場所だ。
「私は君達が、"今年こそは"、"今年こそは"……と、泣きながら、私に補強を懇願していた。にも関わらず、また優勝ができなかったと?」
「大変申し訳ございません」
「スポーツ選手は謝って済むのかね?この赤字は、我々に来ているのだ。君達の負けが、我々に浴びせられている?」
フロント陣。ここで言うならつまり、監督、コーチ、スカウト、GMである。
「貴様等なぁぁ!!野球してれば金がもらえると思っているのか!!?指示や指導でもらえてると思ってるのかぁぁ!?ああぁっ!?金はな!勝って勝ち取る物だろうが!?」
社長の怒号は必然。
「選手のデータなど金にならん!!活躍した選手だからといって、負けたら価値にもならねぇんだよ!!分かってんのか、野球馬鹿共!!!私はな、野球を知らないんだよ!!首位打者だ、本塁打王の価値など知るか!!」
なんでこいつ、野球の球団を買い取ったの?
そう思えるのかもしれない。だが、企業の名を売るにはとても良いのが、こういった振興スポーツへのスポンサーである。布宮社長が知らずとも、買収したのは上級の経営者としては当然のことだ。
「来年!!このチームでリーグ優勝……否、全国優勝をしなければ、私はこの球団を手放す!つまり君達はクビ、選手達も路頭に迷う。それを肝に銘じて、1年間プレイをしたまえ。私からは以上だ」
リーグ優勝ができるとされる球団であっても、この手の脅しには胸が突き刺さるだろう。ましてや、ペナントレースでのリーグ一位はもちろん、東リーグの優勝チームとの対決にも制しての、全国優勝まで決め付ける社長。
監督やコーチ陣、スカウト等は萎縮。
シーズンが終わったというのに、とぼとぼと負け犬面で布宮社長と別れる。
「終わった」
監督:津甲斐 矢御音
「リーグ優勝だけじゃなく、全国優勝だって?とても無理だ。東リーグは9連覇中の怪物チームがいるんだぞ」
GM:和光 ユン
これだけの戦力が揃いながら、ペナントレースを制せなかった。
運が悪かったのか?
神様はこのチームを見放すというのか?
監督、GM、ならびにコーチ達はこの苦境の前に祈りを行なった。その行為をすれば助かると思っているのだろうか?祈れば成長できるのだろうか?
まぁ、この時。野球の神様というのは気まぐれなくせして、野球好きなものだから。野球をさせたいのだろう。
【御神託を感謝】
彼等は謎の声を聞いた。
【バッティングセンターに向かえ】
金がなくなるから野球をするな?経営者の発想だ。野球は何も悪くない。神様はそう言う。現実はそうは言ってくれない。
津甲斐監督達はフラフラと最寄のバッティングセンターに入っていった。何かが聞こえたという理由でしかなかった。だが、そこで出会ったのは紛れもなく、本物の野球選手であった。
カキーーーーンッ
「まったく。どーゆうことだか」
津甲斐監督等は見た事がない。まだ選手をやれそうな、中年の男が木製のバットを握り、150キロの球を軽々と打ち返している様子。何か物々と言いながら、奴は打ち込んでいた。
「し、知っているか?この男を」
「い、いや。見た事もない。だ、だが……」
動揺していたのは一目で、誰よりもこいつが一番。野球ができるということを理解したからだ。
打撃が終わると奴は後ろにいる津甲斐監督達に気付いて、声を掛けてきた。
「あんた達か?俺を捜しているというのは」
「!……なに?」
「俺は野球をしに来ただけだが。見れば分かる、あんた達も野球の関係者」
中年の野球好きにしては一瞬での物分りが良すぎる。
「神様か、何か知らないが、困ったものだ。お前等を優勝させないと俺を地球に返してくれないなんてな」
「……な、名前を聞いて良いかな?」
バットを置いて、差し出してきた右手には沢山の血豆が。こいつは相当バットを振ってきた証拠。握った時、力はいれてなくとも厚みがあり、とても堅い皮膚。どんなボールも掴み、とても遠くへ投げそうな手。
「阪東孝介」
優勝ができなかったチームにやってきたのは、とんでもない野球人だった。




