優の心配
新たな猫を抱いて、帰宅の途についた僕は、僕の家の前で、奇怪なモノに出会った。
「優、何してんの?」
我が家の玄関の前を右往左往したり、玄関前の雑草を抜いたり、周りをキョロキョロ見回したりしている優だ。
「あ!悠君帰ってきたんだ。おかえりなさい。」
「ただいま。で、何してたの?」
「何って、帰って来るの待ってたの。刀矢君と話し合いがどうなったか気になって。」
猫を抱えたまま、僕は鍵を開ける。
「別に。仲直りしてきたよ。で、上がってくの?」
猫をそっと地面に降ろすが、猫は僕の足にくっついて、頬をなすりつけていた。
その様子がまた、可愛らしかった。
家の主の帰宅に気付いたのだろう。
家の中から、もう一匹の猫が飛び出してくる。
「うん。上がらせて貰おうかな。」
僕はどうぞと、ドアを開ける。
どうもと優が中に入る。
僕はドアを閉め、鍵をガチャリと閉め…ってなんか変態チックじゃない?
「身体冷えたしょ?シャワー浴びてく?良かったら、風呂沸かすよ?」
やはり、コトの前みたいな会話だ。
「んー、貰おうかな。沸かして貰えると嬉しいかも。」
ピッピッと、機械を操作して、風呂の蛇口を開く。
それだけで、勝手にお湯が出て、勝手に止まってくれる。
「じゃあ、ココアでも作るから待ってて。」
それだけ言って、僕はキッチンに向かった。
「うん、お願い。」
ケトルのスイッチを入れて、ココアの粉を取り出し、コップに入れる。
カチッと音がして、お湯が沸く。
お湯を注いでから、少し牛乳を落とす。
砂糖をたっぷり入れて、優のココアが完成する。
「はい、お待たせ。」
優はココアを受け取ると、両手で包み込むように持って、口をつける。
「あったかい。甘い。美味しい。悠君、私の好み覚えてたんだね。」
その姿がまた、可愛らしい。
「うん。覚えてるよ。何回も入れたからね。さてと、猫の餌を取ってくる。」
階段を上がり、自分の部屋の机の上から、猫の餌を二つ手に取って、階下へと下りる。
ピーと高い音が聞こえた。
お風呂が沸いたようだ。
「優、お風呂沸いたから入って。タオルは何時ものとこ。シャツは僕のを使って、何時ものところに入ってる。下着はないから、そのまま着て貰えるかな?」
「わかったー。この子も入れちゃうね。」
連れてきたばかりの猫を抱いて、優が笑っていた。
「ごめん、お願い。多分暴れるから、脱いでから洗ってあげた方がいいよ。猫用のシャンプーは一番下の猫マークのやつ。」
「じゃあ、行くぞ!黒丸ー。」
黒丸とは、まさか猫の名前だろうか?
まぁ、黒丸でいいかと納得する。
ふと、優のカップを見れば、中には一口程度しか残っていなかった。
口をつけたくなる、よくわからない誘惑に勝って、僕は優のカップを片付けた。
いい加減、お腹が空いたのだろう。
猫が僕の足元に来ていた。
餌を皿の上に空けて、猫の前に差し出す。
「よし、食べろ。沢山食べて、大きくなるんだぞ?」
お風呂場の方から、優の猫に叱る声が聞こえる。
「なんか、優との会話が、夫婦みたいだ。」
呟いてはみたが、気のせいだと頭を振って、洗い物を始めた。