京、推参
さて、勉強でも始めようかと立ち上がったところで、優の携帯が鳴った。
「もしもし。どうしたの?うん。うん。いや、悠君の家。うん、わかった。」
優が話終わったのだろう、パタンと携帯を閉じる。
今時珍しい、ガラパゴス携帯に笑いがこみ上げる。
「誰からだったの?」
「お母さん。ねぇ、悠君。この後、時間ある?お母さんが、一緒にご飯食べたいって言ってるんだけど…。」
僕は逡巡する。
「構わないよ。どうせ、僕一人だしね。で、優の家に行けばいいのかな?」
「いや、迎えに来るって。ご飯食べに行くみたい。今日はお父さんも一緒だって。」
いかに優の幼馴染の僕ですら、優の父親と顔を合わせたのは数回きりだ。
それ位、優の父親は、忙しいのだ。
「わかった。何時頃?」
「すぐ行くって。」
「はぁ?じゃあもぅ…」
ピンポーンと家のチャイムが鳴る。
僕はドタドタと玄関へとかける。
「はい、今開けます。」
ドアを開けた先にいたのは、優の母親京と父親恭弥だった。
「久し振りねぇ。悠君。さ、ご飯食べに行きましょ。あら、目が赤いわよ?優に泣かされたの?そういえば、喋っててもややこしいわね。優に悠なんて。どっちがどっちかわからないわ。あらあら、掃除もキチンとしているのね。優なんかとは全然違うわね。優ったら部屋も散らかしっぱなしであの頃から全然変わってないのよ?ほら、パパも挨拶してあげないと。久し振りなんだから、忘れられてるかもしれないわよ?そういえば、まさか私の名前は忘れてないわよね?京よ。覚えてるかしら。そうそう、パパ、昇進したのよ。また給料も上がっちゃって。あら、そういえば、何しに来たのかしら。そうそう、ご飯食べに行こうって誘いに来たのよ。嫌だって言っても連れて行くわよ。なんてったって、久し振りなんですから。それより、悠君ったらイケメンになっちゃって。パパを捨てて悠君に乗り換えちゃおうかしら。優、パパが悠君なんてどうかしら。あらいやだ、冗談よ。世界で一番、パパを愛してるわ。それに、悠君は優のだもんね?うふふ。」
気付いただろうか、
この女性、優の母親であるところの京さんは一気に喋るのだ。
返事をする余裕もないくらいに一気に喋るために、僕も少し苦手だ。
だが、暖かい人で、ある時バシッと決めて来るのだ。
だから、嫌えない。
「京さん、お久しぶりです。母の件ではお世話になりました。」
「いいえ、私がしたかった事だもの。気にしないの。それより、お腹が空いたわ。食べに行きましょ。パパがいいお寿司屋さんを予約してくれたの。さっき電話したら、一人増えても大丈夫だって。だから、早く行きましょ。」
お気付きだろうか?
今までの間に、恭弥さんは一言も発していないのだ。
元々、無口な人らしい。
「え、お寿司屋さんですか?手持ちが足りないかもしれません。途中でコンビニに寄っていただけますか?」
「もぅ、遠慮しないの!勿論、私達が払うわよ。」
「いえ、そういう訳には。僕はもう親元を離れた身ですから。自分で自分の責任を持って…」
「離れさせられたの間違いでしょう?雪音達が悪いのよ。それに、私達が払うって言ってるのだから、私達を立てなさいな。」
「すいません。ありがとうございます。」
「うふふ。それでいいの。貴方はもう私達の息子も同然なんだから。じゃあ、話も終わったところで、行きましょ?外に車も停めてあるのよ?」
僕達は、僕の家を後にした。




