温もり
人のベッドで寝るとはどういう了見なのだろう。
しかも、今日仲直りしたばかりの友人の家で無防備に寝ているのだ。
これは、僕を誘っているとしか考えられない。
据え膳食わぬは男の恥と言うが、この状況はそれに当てはまるのだろうか?
さすがの僕も、この状況で、優に手を出す勇気はなかった。
少しばかり寝顔を見ても良いだろうと、僕は布団を捲った。
起きている可能性を考慮していたが、本当に寝てるのは予想外だった。
本気で誘っているのだろうか?
僕は携帯を取り出して優の寝顔をパシャリと撮った。
優は学校でも人気者だ。
欲しがるバカもいるかもしれない。
絶対にあげないけれど。
僕はゆさゆさと優の身体を揺する。
「優、起きろ。勉強するんじゃないのか?起きないと、イタズラするぞ?」
優が薄目を開けた。
起きたのかと思ったが、すぐに目を閉じる。
何がしたいのだろう。
「優、寝たフリをするな。いい加減起きろ。起き上がれ。」
「イタズラ、してもいいよ。」
優は目を閉じたままだった。
しかし、イタズラをしてもいいとはどういうコトだろうか。
何度も言うが…、誘っているのか?
そのまま2.3秒待つ。
ガバッと優が起き上がり、そのまま僕に抱きついてきた。
「優、何をしている。」
「ふふふ、悠君の温もりを久し振りに感じています。」
そうだ、優に抱き締められたのも、久し振りだ。
「それにね。悠君、イタズラしてもいいって言ってるのに、何にもしようとしないんだもん。私って、そんなに魅力ない?」
優の甘い匂いが、柔らかさが女の子なのだというコトを感じさせる。
僕は言葉の代わりに、優の身体を強く抱き締め返すコトで答える。
暖かい、暖かいのだ。
酷く懐かしい温もり。
「ダメだ、しばらくこのままでもいいかな…。」
僕は目頭が熱くなった。
唇を噛み締め声が出ないように耐える。
ポタポタと流れ出す涙は、決して止まってはくれない。
「いいよ。」
優の優しい言葉が、僕の涙を止めてくれないのだ。
そのまま僕は、優の身体を抱き締め続けた。
部屋の隅で鳴く、猫の鳴き声が僕を慰めているように感じた。