和解?
「水戸部、何でここに来た?お前だってここに来ればタダでは済まないことを理解していたんじゃなかったのか?」
少し離れたところで見ている刀矢と優が見ているのを横目で確認しながら、僕は水戸部に問いかけた。
ギーコギーコと音の鳴るブランコに体重を預けながら、水戸部は地面へと目を向けていた。
「今ならまだギリギリ間に合うと思ったんだけどな。今なら、現実から目をそらしながら私を抱いて…、いや、抱かれてくれるかなって思ったんだけど。」
俯いていた顔が徐々に上がり、水戸部の目が僕を捉えた。
水戸部と目があった瞬間、暗い海の底を見るような感覚に襲われた。
「今日なら、確実にできると思う。だから、思い出でいい、一回だけ抱いて?そしたら、私はその子と一緒に思い出を背負って生きていくから。」
水戸部がそっとお腹に手をやる。
その行動は、まるで我が子を思いやる母のようで、その行動は僕に恐怖を植え付ける。
「って、子供もいないのにお腹に手を当ててもおかしいよね。でもね悠くん、私はあなたを忘れる事はできないわ。」
「別に、忘れて欲しいとは思っていない。君の言う通り、母を殺したのは君じゃない。でも、僕はもう自分の気持ちをキチンと自覚してしまった。だから、僕はもう、君の隣にはいられない。」
僕の周りには、水戸部を恨んでる者も多くいる。しかし、少し前までの僕ならまだしも、今の僕は水戸部を恨むことなどできない。
「あーぁ、そっかぁー。ねぇ悠くん、一つ聞いてもいい?」
水戸部が天を仰ぎ見た。
そして、僕の目を見た瞳には、確かに小さな光が輝いているような気がした。
「なんだよ。」
「悠くんを変えたキッカケって、何?」
そういえばこの半年の間、僕にも色々な出来事が起きた。些細な事もあれば、大きな事もあった。
でも、それでもただ一つあげるとすれば。
「猫に、僕みたいに一人きりの猫に出会ったんだ。可愛い子猫でね。寒い中体を震わせながら、ミィーミィーと泣いていた。その子が僕の家族になった。多分、それがキッカケだと思う。」
そう、猫と出会った事で僕の人生の歯車の錆びが落ち、やっと動き出す事ができた。
水戸部は、急に立ち上がった。
そして、僕の正面に立つと、ハッキリと告げた。
「悠くん、また会おうね。」
それだけ言うと、水戸部はシッカリとした足取りで、公園を後にした。
ポツリと残された僕は、刀矢と優に声をかける。
「さて、帰るか。ウチに、寄って行くか?」
優は大きく頷き、刀矢は仕方がないとでも言うように歩き出した。
僕と優も、刀矢を追いかけて歩き出す。
三人の道が未だ分かれ道で無い事が、僕にとって幸せな事なのだと気付かないままに。
すっごく久しぶりに書きました。
とはいえ、この作品を読んで下さっている方も少ないので、待っていた方などほぼいないのでしょうが…。