【プロローグ1】私が忘れてしまった過去
警告タグ何もつけてないけど、プロローグ1だけはちょっと重いです。
プロローグ2から見ても何の問題もないので、
重い話が苦手な人はそちらからどうぞ。
「ねえ、お父さんは何でいつも怒っているの?」
「うるせぇな、お前には関係ねーよ」
父親は、家に帰ればいつも機嫌が悪く、酒を飲んではさらに荒れた
「お父さん、仕事はしないの?」
「いちいちうるせぇよ、お前はただ黙ってればいいんだよ」
父親は、ずいぶん前に仕事をすることを諦めていた
「お母さんは、いつ帰ってくるの?」
「知るかよ。なあ黙っててくれないか」
母親は、もう帰ってこない
「生き返って、合いに来てくれるの?」
そんな訳はない。分かってはいるけれど、それでも聞いてしまう。
しかし、聞いてはいけない言葉であった。
母親を殺したのは、父親だった
「いい加減にしろ!その口をいい加減に閉じないか!不愉快なんだよ!」
父親の拳が飛んでくる。
暴力にはもう慣れていた。痛みを感じることさえもう面倒くさかった。
普段なら、この一発で父親は退いて、また酒を飲みながら愚痴をこぼす。
しかし、この時だけは違った
「いつもいつも、俺が答えないからって似たような質問繰り返しやがって……
限界なんだよ……二度と口をきけないようにぶちのめしてやる!」
その日、家からは一日中物音が絶えなかったそうだ
私が次に目覚めたとき、私は病院のベッドに寝ていた
久しぶりに身体が痛い。そしてとにかく動きたくない
そこに現れたのは叔母だった
「ああ、起きたのね。玲奈ちゃん大丈夫?痛くない?」
私の目には、すこし慌てた様子の伯母が目に映る。
相変わらずの世話焼き、といったところか
「回覧板を回しに来た斎藤さんが止めに入ったとき、あなたは
気を失ってたけど、目を覚まして本当に良かった。
お医者さんも、見た目はひどいけど、けがはすぐに治るって。
とにもかくにも、無事で本当によかった……」
ベッドの近くで泣き崩れる伯母の肩を、私はそっと叩いてあげた。
こうでもしないと、この人はストレスで倒れてしまうかもしれない
声もかけたほうがいいのだが、今はなんとなく喋りたくない
少し落ち着くと、伯母はまた話し始める
「本当に大変だったわね。私も詳しい話は聞いてないけど、
あの人普段からあなたに手を上げていたのね。
暴力を振るったかどで今お巡りさんの所にいるけど、
もうあの人にあなたを任せてはおけないわ。
あんな人、誰があなたの父親と認めるのでしょうか」
あの人、暴力、父親……
その時、その言葉を聞いた私に現実感はなかった
「早く忘れましょ、あんなひどい父親のことは」
なんとなく言おうとしていることは理解した。
私は伯母へ言葉を返そうとする
『大丈夫、もう忘れてるから』
そう言って、伯母に微笑みかけるつもりだった。
しかし、声は出ていなかった。結局、微笑みかけるだけだった
「えっ?今、何て言ったの?」
口の動きに反応して、伯母は聞き返す。
聞こえていないのは当然。声が出ていなかったのだから
私は、次こそ言葉で返そうと一度思った。
しかし、やはり喋るのが面倒くさかった
そんなことを考えているうちに、私はまた眠りについていた
その日以来、私は一言も言葉を発していない。
もう言葉を話せなくなっていた
父親のことはもう完全に忘れていた。ついでに母親のことも。
それは、私が人生の中で忘れた、数少ない出来事の一つだった
私が中学一年のときの出来事だった