全部が連鎖している~居酒屋と最終バスと ~超個人的意見
先日、会社に来ているインターンの大学生と話をしていた時の事。
「金曜日、少しなら遅くなっても大丈夫です」
そう言われて、私は少し首を傾げた。
確か彼は居酒屋でアルバイトをしているはずだ。金曜の夜といえば飲食店にとっては書き入れ時。人手が欲しい日だろうし、無理をしているのではないかと思った。
「え、でも金曜日でしょう?」
私がそう言うと、彼は不思議そうな顔をした。
「はい」
「バイト、大丈夫なの?」
「大丈夫です」
あまりにも即答だったので、逆に気になった。
「店、忙しいんじゃないの?」
「いや、それが・・・」
彼は少し苦笑してから言った。
「予約が入ってないんで」
「え?」
思わず聞き返した。
「予約が入ってないんです」
「金曜日の夜に?」
「はい」
「一件も?」
「今のところ一件もないですね」
一瞬、聞き間違いかと思った。金曜の夜に予約が入っていない。そんな事があるのだろうか。
もちろん地方都市だし、景気が良いとは言えない。それでも金曜日の夜である。私の感覚では、多少流行っていない店であっても何組かは予約が入るものだと思っていた。
私が大学生だった頃は、合コンがまだまだ賑やかしかった。
金曜や土曜の夜になれば、誰かが呑み会を企画する。予約をしないと店に入れない事も珍しくなかった。呑んで、カラオケに行く。
何なら平日の夜だって大学の授業が終わった後に呑み会をして、そのままカラオケへ流れ、さらに二十四時間営業のファミレスへ移動する。
朝まで騒いで、そのまま大学へ向かう。
「一限から出席するぞ」等と言いながら、ほぼ徹夜で講義を受ける。
今思えば無茶苦茶だが、当時はそんな学生が周囲に何人もいた。私自身も、その中の一人だった。周囲からは体力おばけと囁かれたものだ。
勿論、途中でカラオケやファミレスの席で寝落ちする子達もいて、顔にハートマークを描いたり、仲の良さそうな別の誰かとわざとくっつけて寝かせたりといった、今なら少々怒られそうないたずらもしていた。
だから私は最初、「やっぱり不景気なんだなあ」くらいに考えていた。
ところが話はそれだけではなかった。
「そもそも帰るバスがないんですよ」
彼は苦笑しながらそう言った。
詳しく聞いてみると、私が思っていたより状況は深刻だった。
私の感覚では、地方の路線バスといっても、主要駅から各方面へ向かう最終バスはかなり遅い時間まで残っている。
21時台に1本か2本。
22時台に1本。
そして23時台、あるいは日付が変わった直後くらいに最終バスが一斉に各方面へ出発して終了。
そんなイメージだった。
ところが近年の度重なるダイヤ改正によって、今は違うらしい。
「22時前には、だいたい終わってます。まだ人が多い地域は22時台に1本あるかなぁ・・・」
そう聞いて驚いた。
「え、22時前? 最終が?」
「はい。方面によってはもっと早いです」
私は思わず聞き返した。
「じゃあ、呑み会なんて始めたらすぐ帰らなきゃいけないじゃない」
「そうなんですよ。だからみんなあんまり駅前で飲まないですね。大学近くに住んでいる子達で、その近くの居酒屋とか焼肉屋とか。近くのスーパーで買い出しして、誰かのアパートか・・・」
駅前の繁華街で呑み会をして、その後にカラオケへ行く。あるいは普通にちょっと呑み会が盛り上がる。
それだけで家に帰れなくなる。
彼は苦笑した。
「じゃあ駅前で呑んだら、歩いて帰るの?」
何しろ、駅前の繁華街が一番賑やかしい。チェーン店もまだ何店舗も残っている。彼がバイトしているのも、そのうち一店のはずだ。
「1時間とか1時間半ですね」
という返事が返ってきた。
同じ市内であっても、少し郊外に住んでいるだけで徒歩2時間コースになる事もあるらしい。
それは確かに厳しい。
呑み会を企画する側も躊躇するだろうし、参加する側も考えるだろう。最終バスの時間を気にしながら呑むくらいなら最初から行かない、という選択になる。
そうなると合コンも減るのは当然だ。違う大学の学生が集まるなら、どうしても駅前になる。しかし、そもそも帰れないって・・・。
昔のドラマのように、お持ち帰り前提にしても、お持ち帰りされる所まで帰れない事になる。ため息しか出てこないし、変な笑いさえこみ上げてきそうだ。
皆、草食系になるわけだ。
気の毒にさえ思えてくる。
呑み会も合コンもなくなれば、それは居酒屋も利用されなくなる。予約も入らなくなる。
最初は単純に不景気だから居酒屋に客が来ないのだと思っていた。しかし実際には、それだけではない。
若者が呑みに出ないから居酒屋が潰れるのではない。
呑みに出たくても帰れないのだ。
終バスは22時前に終わる。
呑み会をしたら帰れない。
カラオケへ行ったら帰れない。
少し話が盛り上がっただけで帰れない。
それでいて「最近の若者は呑まない」「恋愛しない」と分析される。
最終バスがそんなに早い街で、どうやって呑んで、出会って、人間関係を作れというのだろう。
バス会社は人手不足だから減便する。人口減少で誰も乗らないから減便する。
正しい。
誰も悪くない。
だから誰も責任を取らない。
気がつけば金曜の夜なのに駅前は暗く、居酒屋には空席が並ぶ。その光景を見ながら、若者が減っただの、地方が衰退しただのと騒いでいる。
最終バスを早める。
呑み会が一回なくなる。
その積み重ねの先にあるのが、今の地方なのだろう。
世の中は、全部が連鎖している。
人口減少も、商店街の衰退も、若者の流出も、出生率の低下も、こういう小さな不便や小さな諦めが積み重なった結果なのではないか。
だが、その「それだけ」が10年、20年と積み重なると、気がつけば街そのものの活気が消えている。
そして皆で首を傾げるのだ。
なぜ若者がいなくなったのだろう、と。
なぜ街が衰退したのだろう、と。
その答えは案外単純で、若者が楽しめる環境を一つずつ削り続けたからではないだろうか。
若者だけではない。
私も会社の呑み会は最近ほぼお断りだ。仕事帰りに車で行けば、確実に送迎係。勿論、ガソリン代なんてもらえない。
タクシーで帰る事になっても自腹だ。呑み会そのものより、帰宅の段取りを考える方が面倒になってしまった。
そうして人は少しずつ外へ出なくなる。若者も中年も、きっと同じだ。街の不都合は特定の世代だけを狙っているわけではない。
そんな事を考えさせられた出来事だった。
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