噓つき恋愛観測
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彼氏と別れた。
酷い彼氏だった。
私はさんざ殴られ、我慢の限界。
自分と彼の親兄弟、そして友人を巻き込んで泥沼模様の人間関係破壊の末に別れた。
私は彼に出会う前の生活に戻れたが、元彼のほうは、そうはいかなかった様だ。
私の前に再び元カレがあらわれたのだ。
「頼むよ、やりなおしてほしい」
久しぶりに会った元彼から言われた。
「え? なぜ?」
「あの時は、どうにかしていた」
(その発想は正しい)
確かに彼はおかしかった。
私はそれをよく知っていた。
どうかしていた彼に、私はさんざ殴られたのだから。
「親友人から、あの時の事を叱られた。今でも責められている」
「そう」
(良い気味だ)
と人の悪い事をつい考えてしまう。
「もう一度、やりなおしてくれ。あの一件以来、周りに自分の味方は一人もいなくなって、辛いんだ」
「私には……もう関係ない」
(彼に殴られるのは、もう嫌だ)
「頼むよ。オマエと、やり直せれば周囲も許してくれるはずなんだ」
「無理だよ……それは……そうであって欲しいと言う希望で不安を消したいだけだよね」
周囲に私とつきあっていた事がバレた。
さらにDV野郎だと周知された彼の名誉。
それは私とよりを戻しても決してもどらない事だ。
(呆れた。何処までも私の事を全く考えていない。元彼は自分の都合しか考えていない)
でも……
必死に私に頭を下げて復縁を頼み込む元彼
その姿には、紳士さは感じられる。
つきあう前の誠実さ。
私を殴る前の、何というか初々しさみたいなものがあった。
ちょっと困る。
好きだった頃の面影が強く見えたから。
でも……もう戻れない。
「ゴメンナサイ。私はアナタとやりなおせない。アナタとの嫌な記憶が消えないから」
「そんな事を言わずに頼むよ。一緒に行こう」
必死に私に頼み込む元彼。
このまま拒否し続ければ、また殴られるのかとしれない。
でもお断りだ。
とっくに気持ちは冷めている。
「アナタが誤ってくれたのは受け入れる。ありがとう。デモ、もう私の気持ちがアナタに無い。好きでも無い人と一緒にいられない」
「……」
私の言葉に元彼はうつむく。
妙に今日の元彼は素直で、力が無い。
代わりに透明感みたいなものがあった。
私がキッパリと元彼を拒否する。
すると……
いつもと違い、私を殴ることもせずに、元彼は力無く私の前から消えて行った。
私は優柔不断。
もしかすると、もっと早く私は元彼にイロイロきっぱり嫌な事は嫌と言うべきだったのかも知れない。
そうすれば元彼は、あんなにも横暴な性格にならなかったのかもしれない。
私が元彼を変えてしまったのかもしれない。
そして
その後すぐに……
私は元彼が自殺したと知らされた。
ーーーー
「だから、それ以来。私は異性と付き合う事はありません。」
私達は、そんな話を会社の屋上でする。
私の最も暗い過去話。
「私があの時……
元彼は死ななかったかも知れない。」
私が後悔を口にすると、私の話を聞いてくれた人が、屋上で座り込んで頭を抱えた。
(重い話をしてしまったかな?)
私は口を滑らせた事を少し後悔。
でも、異性から言い寄られる度に、この話をすると、大抵諦めてくれる。
穏便に告白を断る事が出来る。
私は異性と付き合う事は。無いだろう。
たまにそれでも諦めない人もいるが……
そういう諦めない人の地雷率、もしくはお人好し率は、かなり高い。
両方、深く付き合うとリスクのある相手。
それを見抜けるだけで良かった。
(今回もこれで済む)
そう思った。
甘かった。
会社の屋上で……
今回私に告白してきた人。
その人は屋上に座り込んだまま……、私に手招きをする
(ん? なんだろう?)
私が疑問に思うと
その人は言う。
「君に責任は無いよ」っと
(そういう言葉は聞き飽きた)
私を口説く人は皆そう言う。
なので……
「そう」
っと、私もそっけ無くかえすだけ。
手招きされても近づかない。
近づいたら抱きしめられるのを経験上知っていた。
(恋人でも無い人に抱きしめられたくは無い)
それでは、こんな噓話をした意味が無い。
今回、私に告白してきた人は言う。
「思うに、君の元恋人が死んだのは君のせいじゃ無い」
「うん」
(それは、もう聞いた。何なら今まで私を口説こうとした人達からも聞いた)
その慰め方は退屈だった。
そのパターンは、もう飽きた。
(帰っても良いかな?)
そう思っていたら
「思うに、君の元恋人は君に会いに来た時点で死んでいたと思うよ」
「ん??? どういう事?」
気になるひとこと。
今までに無いパターンだ。
退屈だ。帰ろうかと考えていたのに。
そしたら、爆弾発言を落とされた。
「君の元恋人は、きっと……自殺した後に、君を道連れにしようと幽霊になって誘いにきてたよ。君が会ったのは、きっと元恋人の幽霊さ」
「……」
私は少し頭に手をやって考えた。
(その発想は無かった)
私が考えこんでいると、続けて
「元恋人の復縁要請を断って正解だったね」
「なんで???」
と私は聞き返す。
「だって断ってなければ、きっと今頃あの世に連れて行かれてた。元恋人と、あの世で元サヤだったよ。」
「……お、おう」
力強く断言する目の前の人。
それに困惑する私は、酷く戸惑った。
ちょっと予想外の発言に頭が回らない。
この返事と反応は予想してなかった。
私の頭は心霊的な事を考える様には出来ていない。
(霊とか言われても……わからない)
頭はキャパオーバーで熱暴走状態。
だから……顔が熱くなってるのだ。
その日から……私に告白してきた目の前の異性に興味を惹かれた。
ーーーー
実は私の過去話は全部嘘。
異性と付き合う気の無い私が、告白を断る為に作った常套句。
そもそも私は同性しか愛せない。
男しか愛せない男。
それが私。
なのに私は顔が良いために、良く女にも言い寄られる。
異性からの告白とか興味がない。
だから作り話で告白をかわしてきた。
でも……
今日私に告白してきた【女性】には興味を惹かれた。
なので……
彼女の手招きに誘われるままに、
男の私。
今まで男としか付き合ったことの無い私
同性愛者の私は、生まれて初めて女性の胸の中に飛び込んだ。
(案外……悪く無い)
思ってたよりも暖かく
自分はただ……食わず嫌いしていただけなのかも知れない。
何より、愛情を感じていた。
どうやらこの女性。
私の嘘話に凄く同情してる様だ。
同情と愛情を感じる。
嘘をついた事に、少し罪悪感もあったけど
それもスパイスになって……燃えた。
顔が熱い。
そのまま生まれて初めて女性とつきあって、そのまま結婚。
私のパートナーは……
未だに私の嘘話を信じている。
そして私が同性愛者である事も知らない。
いや、もう私は二刀流か。
「人生わからないものだな」
同性愛者だったハズの私は嘘がきっかけでで結婚。
普通の家庭を手に入れた。
少し罪悪感はある。
しかし……
私達が幸せならば、わざわざ今更真実を告げて、波風を立てる必要も無いだろう。
それに……
私が選んだ彼女なら、真実を話した所で、私の予想外の答えで切り替えしてくるに違いないんだ。
そんな賢い彼女だからこそ、元同性愛者の私は異性の彼女を人生のパートナーに選んだのだから。
ーーー
ある日、私は家で酒に酔っ払った。
ベロベロに酔っ払った時。
うっかり口を滑らせて秘密が全部バレた。
しかし……
「知っていたよぁ」
と妻は平気な顔で言う。
「嘘!」
「本当だよ。君の事はつきあう前に探偵雇って全部調べたから。知っていた」
「……」
(探偵? マジカ、コヤツ……
じゃあ全部バレていたのか?
というか付き合う前ってなんでだ?
普通、身辺調査は結婚前にするものじゃないだろうか?)
私は妻となった彼女の……
異常な行動と……
その異常な言葉に言葉が出ない。
妻は続けて
「君は嘘つきは正直者より強いって勘違いしている所があるよね」
「いや、それは……」
(たしかにそうかも知れない。
同性愛者だった私。
嘘つきになるしかトラブルを少なくする方法が無かったし……)
「世の中ってさ。嘘つきが欲しい物を手に入れるんじゃないよね。賢い者が勝つんだよ」
「……」
「嘘つきの貴方に賢いわたしが勝った。ただそれだけ」
「……」
すました顔で言う彼女。
私は何も言えなかった。
「男と浮気をしたら、すぐわかるからね。切り落とすからね」
「……」
怖い事を言われた。
(何を? 切り落とすのだろう?
そして……女と浮気をしたら、どうなるのだろう?)
疑問は残った。
が……
嘘つきの私は、嘘を見破られた私は、黙って言う事を聞くしかないのである。
気がつくと私のついた嘘
恐怖の復縁要請話は、賢い彼女によって利用されていた。
私は自分の噓を逆手に取られた。
彼女に捕まった。
いつの間にか更に私を脅す恐怖の材料に作り変えられた。
のみならす……
わりと私の結婚生活自体。
ホラーな展開になっている。
(切り落とすってなんだよ?)
もしも……
もしも同性愛者だった私に……
今更過去の元カレから復縁要請が来たら、とか考えていた。
そしたら……
本当に既に過去に私と別れた男達。
過去の元彼達から復縁要請が今頃続々やってきた……
そのたびに復縁をせまる相手に
「ど、どどどどど、どうしたの?」
と。
僕は盛大にうろたえてしまう。
既に結婚している私。
当然に現状を元彼に説明して、復縁要請を丁重に断っていた。
それを今の私の嫁に知られたら……
見られたら……
私にはやましい所はない。
それでも怒られるのではないか?
そう思うだけで、私は恐怖する。
下手にバレると切り落とされかねない。
大丈夫、浮気はしない。
と思う。
全ての復縁要請は断った。
だから大丈夫のはずだ。
だが……
浮気してなくても復縁要請がきた。
それだけで怖いぞ。不味いぞ。
切り落とされるかも知れないぞ。
彼女はどう思うだろう?
恐怖で心臓バクバクだ。
ついに耐えきれずに嫁に聞いてみた。
「前に切り落とすって話したのを覚えてる」
「うん? ああ。浮気したんだ?」
アッサリと妻が言う。
「してない。してないよ。ただ……前の切り落とす発言が気になって」
「ふ〜ん」
妻はまたアッサリと興味なさそうだ。
だから私は妻に聞いてみた。
「考えたんだけどさぁ。あの話さぁ。私が嘘で君を怖がらせようと、嘘をついた様に……
アナタも私を嘘で怖がらせてるだけだよね
浮気防止の為のハッタリだよね
切り落とすとか……」
と私は妻に聞く。
「さぁ……どうだろう? どう思う?
でも……浮気をしたら切り落とすから。切り落とされたかったら、今度復縁要請がきた時には……。次は絶対に浮気してくれよな! 切り落とすから!」
と男の様な口調でノリノリの彼女は嗤う。
怖い事を妻に言われた。
完全に私の行動を把握されていた。
そして今、脅された。
(なんだコレ?
あぁ、そうか!
コレは元カレから私に復縁要請が来てたのもバレてたか……断ったのも……)
凄く危なかった。
復縁要請を断ってなかったらと思うとゾッとする。
浮気はしないって思うけども、
確信はない。
私は自分の貞操観念に自信を持てない。
同性愛者だった自分は、そこに至るまでに色んなものを犠牲にしてきた。
元同性愛者の私のモラルも、一般的なモラルとは大きくかけ離れている。
だから……
元彼達から更に復縁要請が来たら、どうなるのか?
かつて貞操観念ぶっ壊れた同性愛者だった私は、それを拒絶出来るだろうか?
と言うか、そもそも普通の結婚をした私は、今はノーマルなのか?
同性愛者なのか?
それとも二刀流なのか?
自分で自分がよくわからない。
かつて同性愛者だと自覚した後に、一時期フラフラと、ぶっ壊れていた倫理感が今はまともになっているのか?
それとも……
自分の貞操観念に信頼をもてない。
その時になってみないとわからない。
更に確信はない。
アルコール依存症患者がアルコールを飲むのをやめたからと言って、今後ずっと飲まない確証など無いのと同じ。
答えは自分でもわからない。
だから……
ちょっと怖いぞ。
私の嫁の『浮気ダメしたら絶対切り落とす』宣言は。
(あ、そうかもしかしたら……
ソレもコレも全部含めての切り落とす発言なのかもしれない。
アレは浮気防止の為の噓発言なのかな?)
そうに違い無い。
あんな嘘をつけば私が浮気をしなくなると、そんな嘘に違いない。
そうであって欲しいと私は希望で不安を押し殺した。
ーーー
後日、
やっぱり私の元カレからの復縁要請が来た
ソレも、あっさり妻にバレた。
浮気はしてないが強く拒絶もしなかった。 煮えきらない私の態度……
それに気がついていて怒った妻が
「切り落とすって言ったよね」
と怖い顔して迫ってきた。
理不尽だ。
「浮気はしてないのに……」
「会ってなくても定期的に連絡をとりあって元カレを拒絶してないよね。心は浮気していたよね。約束だし切り落とすよ。」
「理不尽だ」
「約束だし……」
理不尽極まる。
追い詰められた私は……
「切り落とされたら……私の男としての人生、キャリアは完全に終わってしまう」
「それがなに?」
「そうすると、私は男として生きていけなくなる」
私は必死に説明する。
「だからなに?」
「だから切り落とされると、私は君と別れて同性愛者に戻って生きていくしか手が無くなってしまう」
「!!!」
「君は、それで……良いの???」
と
私は、おいつめられた末に口ばしる。
自分でも何が何だか、何を言っているのやらわからない?
ただ命乞いと言うかジタバタあがいた。
そんなテンパった私に妻は……
「!!! ……言い訳あるか!」
いつも冷静な妻が逆上して叫んだ!
どんなに頭が良く冷静な人間でも、恋したり逆上すると頭が悪くなるものだ。
少し考えれば、私のモノを斬り落とせば状況が悪化すると気がつくはずなのに……
あの賢い妻が、そんな簡単な事にも気がついて無かった。
恋や怒りは人をアホにするのだ。
恋する人はアホになる。
かつて嘘つきの私は賢い妻に負けた。
が……
今や賢い妻はもういない。
私に恋してアホになった妻は盛大に自爆している。
私もテンパっ手わけのわからない事を言ったが、妻は元々あほになって訳のわからないことを言っていたのだ。
妻は私に恋をしている。
そのせいでアホになっている。
この様子だと私が浮気をしたとしても、たぶん切り落とされる事もあるまいよ。
だから浮気をすると言う訳でもないが、浮気をすれば私を愛してアホになってる妻が心を痛めるから、私は浮気をしないだろう
が……
そんな事は関係なく、
私はいつのまにか私と妻との駆け引き、パワーバランスにおいて、主導権を取り戻した事を知った。
結婚前は私に主導権があった。
いつのまにか妻に主導権を奪われていた。
その主導権を今取り返している。
つまり今……私が妻を想うよりも強く、妻のほうが私に恋してる。
所詮恋愛は惚れた方の負けである。
つまり……
少し前までは私のほうが妻に惚れていて
今は妻のほうが私に首ったけなのだ。
アホになった賢い妻を見ていて……
それがわかった
ので……
嘘つきな私は妻に愛されている現状に深い満足感を感じるとともに……
自分は浮気しない。
とようやく確信できたのだった。
私は自分自身が男を愛しているのか?
女を愛しているのか?
自分の心は男なのか?
女なのかよくわからなかった私は……
ようやく自分自身が何者なのかを理解した
私は、この妻のものなのだ。
そして……
この妻は私のものなのだ。
それがわかった。
その瞬間に私はとても満たされた。
だから私は今後もう浮気をしないだろう。
ーーー
それが……
私が浮気したと誤解して……包丁を持った妻に追いかけ回される3日前の話である。
浮気はもちろん誤解だ。
私は浮気しないと誓ったのだから。
なのにどうして?
なぜあの賢かった妻が?
少し考えれば誤解だとわかる範囲の浮気を疑ってくる。
いつの間に、ここまで愚かな誤解する程、妻はアホになったのだろうか???
私は……
そんなにも愛されているのだろうか???
私を愛しすぎるあまり、妻はアホアホのアホになってしまったのだろうか?
ようやく自分自身の心を理解した私は……
それでも妻の心が……
女心が理解できなかった。
変わりやすいのは……
女心となんとやら……
それでも観測し続ければ、いつかは……
妻の心を理解できる日が来るのだろうか?
「まぁ……そのうちの理解できたらいいか? 今際の際までに理解出来れば良いや」
まだまだ私達の結婚生活は続くのだから
おしまい




