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薬指

作者: 木村乃村
掲載日:2026/05/08

参列者は皆、黒い布で全身を覆っている。

顔も、声も、仕草さえも、誰のものか分からない。

誰が決めたのかも、知らない。


冷たい風が吹き付ける。

フードが外れないよう、端を押さえた。


白い花が配られる。

名前は知らない。


甘い香りがした。


順番に棺へと向かう。

足音だけが、湿った土に沈む。


番が来る。

棺の中に視線を落とす。


細い薬指に、光が残っている。


─いつもそこになかった光。


一度、目を逸らす。

それでも、また戻る。


喉の奥で、名前がほどける。

呼んではいけない名前だ。


花を置く。

少しだけ、指先が近づく。

 

─指先が止まる。

 

それでも、震える指先が、一瞬だけ触れた。


フードを、深く被り直す。


決まりの通り、振り返る。

深く頭を下げて、列に戻る。


─顔を上げる。


震えたまま、列に戻った。

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