07-選択の形式
俺は、何を選んできた?
進路希望票の「第一希望」。
コンビニの「昼飯」。
誰と話すか、何を聞くか、どこに座るか。
そのひとつひとつを、
「自分の意志で選んだ」と、思っていた。
けれどそれは、最初から“提示された選択肢”の中から、
どれかを“選ばされた”だけだったんじゃないか。
ここに来てから、やっとわかった。
この空白の街では、
“選択肢”が用意されていない。
だからこそ、選べない。
だけど、選ばされることもない。
歩く方向も。
見るべき対象も。
俺が今どっちの足を先に出すかすら、
この空間では“俺が決めていい”。
それが、こんなにも恐ろしいとは思わなかった。
今までの世界は、確かに不自由だった。
でも、「正解っぽい選択肢」がいつも用意されていた。
その中から選べば、大きく間違うことはなかった。
進路も、バイトも、友人関係も、全部そうだった。
だけどここには、ガイドがない。
俺は、何を選ぶ?
黒パーカーは、建物の奥に立っていた。
足音はしない。
気配もない。
ただ、そこに存在しているだけ。
それでも、何かを待っているように見えた。
俺が、この場所で“何をするか”。
それを見ている。
この空間に、ドアがあった。
仮設の非常口のような、簡素なドア。
そこだけが不自然に“現実味”を持っていた。
触れようとした瞬間、
脳の奥で警告のような感覚が走る。
──この先は、戻れない
誰かが言ったわけじゃない。
でも、確かに聞こえた気がした。
それでも、俺は手を伸ばす。
選ばされることに、慣れすぎていた。
だからこそ、今──
“自分の意志で選びたい”と思った。
ドアノブに手が触れる。
冷たい。
触感がある。
つまり、この世界の中で、
ここだけが“現実と接続されている”。
黒パーカーがうなずいた。
ほんのわずか。
ほんの一瞬。
それだけで、
ここが“進むための場所”だと、わかった。
俺は、ドアを開けた。