01-静かすぎる朝
目覚ましの音が鳴った。
けれど、俺は目を開けてから鳴るのを待っていた。
──今日も、同じ朝だ。
天井の模様、カーテンの揺れ方、部屋の空気の重さ。
それら全てが、昨日と完全に一致している気がした。
でも、たぶん誰もそんなことは気にしない。
それが“普通”だと、思ってる。
学校へ向かう道も、当然のように同じだった。
信号のタイミング、コンビニの立ち位置、すれ違う人の歩き方。
──いや、違う。
「まったく、同じ」なんだ。
昨日、見たはずの風景と。
一昨日、通った道と。
その前の、そのまた前の朝と。
最初は、“気のせい”だと思ってた。
でも、ある日ふと気づいた。
それは「似てる」んじゃない。
“再生されている”んだ。
教室に入ると、みんなの動きがスクリプトみたいに揃っていた。
「あー眠い」とあくびをする男子。
スマホの画面を見て笑う女子。
椅子を引く音。教科書を出す手。先生の入室。
──再生ボタンが押されたみたいに。
そんな中で、たった一人だけ、俺の“違和感”に気づいた奴がいた。
白石 拓海。
あいつの視線は、時々“世界の奥”を見ているように感じた。
でも、俺はまだ口を開かない。
なぜなら──
この世界が“作られている”ってことを、先に気づいてしまったのは、俺だからだ。
俺が今やってるのは、観察だ。
自分の知っている“普通”が、どこまで通用するか確かめてる。
それだけ。
だけど、もし、俺がこのまま黙っていたら──
たぶん、俺もこの世界に溶けていくんだろう。
それが怖くて、俺は違和感にしがみついてる。
毎日、ほんの少しずつ“音のずれ”を探して。
──その“ノイズ”の先に、出口があると信じて。