遠い星を見上げて
あらすじ
成瀬翔太は、孤独と虚無感に囚われた高校生だった。家では両親の不和に耐え、学校では居場所を見つけられない日々を送っていた。そんな中、彼は夜中にふと訪れたインターネット掲示板で、悩みを吐き出すように「生きる意味がわからない。」と書き込む。その書き込みに返信をくれたのが、凛音という名前の少女だった。
凛音は同じ年齢で、翔太とは違う地方に住んでいるという。彼女の言葉はどこか温かく、翔太にとっては救いのような存在だった。二人は掲示板を通じて会話を重ねるようになり、次第に個人的な連絡先を交換し、夜な夜なメッセージを送り合うようになる。
凛音は明るく前向きな性格でありながらも、どこか影を抱えていた。翔太は彼女の悩みに耳を傾け、同時に自分の不安や孤独も少しずつ打ち明けていった。互いに励まし合ううちに、翔太の中に初めて「誰かを好きになる」という感情が芽生えた。
ある日、凛音が言った。
「翔太くんと話すと、心が軽くなるんだよね。」
その言葉に翔太は胸をときめかせ、自分の気持ちを抑えきれなくなっていく。凛音と出会ったことで、翔太の生活には少しずつ色が戻り始めていた。彼女と交わす何気ない会話が、翔太にとっての生きる支えになっていた。
高校卒業が近づいたある日、翔太は凛音に思い切って「直接会いたい」と伝える。凛音は少し戸惑いながらも、「会って話したい」と答えた。そして、二人は初めて直接会う日を迎える。
その日、翔太は緊張しながらも、凛音に「好きだ」と告白した。凛音は驚きながらも涙を浮かべて微笑み、「私も翔太くんのことが好き」と答えた。その瞬間、翔太の世界は一変した。初めて手にした「幸せ」という感情が、彼を満たしたのだ。
二人は遠距離ながらも恋人としての関係を築いていくことになる。しかし、それは新たな試練の始まりだった――。
【夜明け前の孤独】
高校3年生の冬、雪が舞い降りる街角で、僕はいつもと同じように一人だった。名前を呼ぶ声もなく、手を差し伸べてくれる人もいない。両親は共働きで、家に帰っても温もりというものは感じられなかった。学校ではクラスメートと当たり障りのない会話を交わす程度で、深く心を許せる友人は誰もいなかった。
ただ生きるために生きる日々。それが僕、成瀬翔太のすべてだった。
そんな僕が変わるきっかけは、ある夜、インターネットの掲示板に投稿した何気ない書き込みだった。
【偶然の出会い】
「最近、生きる意味がわからない。」
そんな言葉を、ある深夜のチャット掲示板に書き込んだ。誰かに届いてほしいと思う反面、届かなくてもいいとも思っていた。画面越しに何かを求めるなんて、どれほど虚しいことか。
それから数分後、一つの返信があった。
「私も似たようなことを考えることがある。でも、それって当たり前のことじゃない?でも、どんなに辛いときでも、空を見上げたら少しだけ楽になるよ。」
送り主の名前は「凛音」。それはきっかけに過ぎなかった。そこから二人は少しずつ言葉を交わすようになり、毎晩のようにチャットを続けた。彼女は僕と同い年で、僕とは違う地方に住んでいると言った。
「翔太くんって、真面目な人なんだね。」
「そうかな。ただ、生きるのが下手なだけだよ。」
凛音との会話は不思議な感覚だった。誰にも話したことのない胸の奥の思いを、自然に吐き出せた。
【恋心の芽生え】
数ヶ月が過ぎ、僕は凛音に夢中になっていた。画面越しでしか知らない彼女の言葉や考え方、そして何よりもその優しさに惹かれていた。
「もし会えるとしたら、どんなふうに話す?」
ある夜、凛音がそう聞いてきた。
「そんなの、ちゃんと感謝を伝えるよ。君のおかげで少しだけ自分を好きになれたって。」
「…そんなこと言われたら、私のほうが照れちゃう。」
彼女に会いたい。直接声を聞きたい。そんな思いが日に日に募っていく。そして高校を卒業してから、僕は思い切って彼女に告白することを決めた。
【遠距離の試練】
告白は成功した。凛音は笑って「嬉しい」と言ってくれた。しかし、幸せの中にも遠距離恋愛の難しさがあった。会いたいと思っても簡単に会えない。彼女のことを知りたくても、見えない部分が多い。
「最近、何してるの?」と聞くたびに、少しずつ不安が募った。彼女が学校で他の誰かと笑い合っているのではないか、僕がいなくても平気なのではないか。そんな疑念が僕を蝕んでいった。
「翔太くん、私たち、もう続けるの難しいかも…」
凛音からの突然の言葉に、僕は何も言い返せなかった。
【再び闇の中へ】
彼女と別れた後、僕はまた以前のように孤独の中に戻った。しかし、今度はそれ以上に深い闇だった。毎日が空虚で、何をしても心が満たされることはなかった。
けれど、その痛みの中で、僕は少しずつ気づいていく。凛音に救われたように、今度は自分が誰かを救える存在になれるのではないかと。
【彼女の新しい恋】
別れから数ヶ月が過ぎても、凛音のことを忘れることはできなかった。彼女と過ごした夜の会話、笑い声、そして最後の涙。それらがすべて、僕の心の中で消えることはなかった。
ある日、共通の知人を通じて聞いた噂が僕を壊した。
「凛音、最近新しい彼氏ができたらしいよ。」
その言葉が耳に入った瞬間、全身から力が抜けるのを感じた。頭が真っ白になり、どうしていいかわからなくなった。彼女は新しい幸せを見つけた。でも僕は、あの場所に一人取り残されていた。
【深まる闇】
それからの日々は、さらに酷いものになった。学校に行く気力はなく、部屋に引きこもる時間が増えた。何をしても、どこにいても、凛音と彼女の新しい彼氏のことが頭を離れなかった。
「どうして僕じゃダメだったんだろう?」
自分を責め続ける日々が続いた。凛音に新しい彼氏がいるという事実は、僕の存在そのものを否定されたように感じられた。
食事を取ることさえ億劫になり、体はどんどん痩せ細っていった。夜になると、過去の思い出が鮮明に蘇る。楽しかったはずの記憶が、今では刃のように僕を傷つけるだけだった。
【偶然の再会】
ある日のことだった。街中をぼんやり歩いていると、遠くから凛音の姿が見えた。隣には、噂の彼氏がいた。二人は笑顔で話しながら歩いていた。彼女がこんなに幸せそうに笑っているのを見るのは初めてだった。
彼女の幸せそうな笑顔に、僕は胸が締め付けられた。どうしてこんなにも違うのだろう。彼女は僕と別れた後、前を向いて進んでいる。一方で、僕は過去に囚われている。
思わず後を追いかけたい衝動に駆られたが、足は動かなかった。代わりに、その場に立ち尽くし、涙がこぼれるのを抑えることができなかった。
【孤独の果てに】
それから数週間、僕の状態はさらに悪化した。誰とも話さず、ただベッドに横たわり続ける日々。頭の中では、凛音と新しい彼氏の姿がぐるぐると回り続けていた。
「もう、これ以上は無理だ。」
そう思った僕は、一つの決断を下した。全てを終わらせようと。
夜中、僕は公園のベンチに座り、空を見上げていた。何もかもを手放してしまおうという気持ちと、それでもどこかで助けを求めている気持ちが交錯していた。
そのとき、不意にスマートフォンが震えた。
【メッセージ】
画面には、久しぶりに凛音の名前が表示されていた。
「翔太くん、最近どうしてる?」
突然のメッセージに驚きながらも、僕は震える手で返信を打った。
「…別に。普通だよ。」
すると、すぐに返事が来た。
「そうなんだ。心配で連絡しちゃった。」
どうして今さら連絡してくるんだろう。その問いが頭を巡りながらも、僕は彼女との会話を止められなかった。
凛音は、自分が別れを告げたことをずっと後悔していると打ち明けた。けれど、新しい彼氏と過ごしているうちに、「自分にとって本当に大切な人は誰なのか」を考えたのだと言う。
【嘘の微笑み】
凛音からの連絡が増える中、僕は彼女と再び話す機会を作るようになった。しかし、そのたびに胸の中で苦しみが広がっていく。彼女が語る新しい恋人との話――楽しい日常、些細なケンカ、そしてお互いを想い合う言葉――それを聞くたび、僕は心を抉られるような痛みを感じていた。
でも、その痛みを隠す術だけは覚えていた。
「そうなんだ、いい彼氏だね。」
「凛音が幸せそうで良かったよ。」
自分がどれほど彼女を想っているか、そしてどれほど壊れているか、彼女には絶対に悟られたくなかった。
凛音は時折、「翔太くん、最近元気ないんじゃない?」と心配そうに言ってくることもあった。だが、そのたびに僕は笑って「そんなことないよ」と答えた。それが嘘だとバレないように。
【決意の夜】
ある夜、凛音からこんなメッセージが届いた。
「翔太くん、本当にありがとう。いつも話を聞いてくれて、すごく助かってる。翔太くんは、私にとって大切な友達だよ。」
その言葉を見た瞬間、僕はすべてを諦める決意をした。
「友達」――それが僕の位置だった。どれだけ彼女を想っていても、もう僕が彼女の隣に立つことは許されないのだと理解した。
その夜、僕は空を見上げて静かに誓った。
「これでいい。凛音が幸せなら、それでいいんだ。」
僕は彼女を諦めることを選んだ。そして、誰にも助けを求めず、これからは一人で生きていくと決めた。
【一人の世界】
それから僕は、少しずつ凛音との距離を置き始めた。返信を遅らせるようになり、彼女からの誘いを断ることも増えた。そしてある日、彼女からの「最近、どうしたの?」という問いに対して、僕はこう返した。
「少し忙しくてね。でも大丈夫だよ。君は気にしないで、彼氏と幸せにね。」
凛音はしばらく返事をしなかったが、最後に「わかった。またいつでも話そうね」とだけ送ってきた。その瞬間、僕の中で彼女との関係が完全に終わったのを感じた。
【孤独という選択】
一人になるというのは、思っていた以上に辛いものだった。誰にも頼らず、誰にも迷惑をかけず、ただ生きること。それが僕の選んだ道だった。
毎日を無理やり埋めるようにアルバイトや勉強に打ち込んだ。何かに集中しているときだけ、凛音のことを忘れられる気がしたからだ。
でも夜になると、あの頃の記憶がどうしても蘇る。彼女と話した日々、笑い合った時間、そして手の届かない場所へ行ってしまった彼女の背中。それらが心の中をかき乱した。
それでも僕は、誰にも頼らないと決めた。誰かに救われるのではなく、自分でこの痛みを抱えたまま進む。それが僕にとって唯一の「生き方」だった。
【それでも、生きる】
季節が巡り、僕は新しい環境に身を置くことになった。大学に進学し、少しずつ生活のリズムが変わっていく中で、凛音のことを思い出す時間も減っていった。完全に忘れたわけではない。ただ、それを抱えたまま前に進む力を身につけたのだ。
ある日の帰り道、ふと見上げた空には満天の星が輝いていた。その瞬間、凛音の言葉が頭に浮かんだ。
「どんなに辛いときでも、空を見上げたら少しだけ楽になるよ。」
僕は小さく笑いながら呟いた。
「そうだね、凛音。僕は大丈夫だよ。」
その言葉が風に消えていく頃、僕はまた一歩、前に進むことを決めた。
ここまで読んでくれてありがとうございます
今回は僕が実際に経験したことをもとに書いてみました
この物語を読んで共感してくれる人が1人でもいるのなら僕は嬉しいです