表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

遠い星を見上げて

作者: 稲神蘭

あらすじ


成瀬翔太は、孤独と虚無感に囚われた高校生だった。家では両親の不和に耐え、学校では居場所を見つけられない日々を送っていた。そんな中、彼は夜中にふと訪れたインターネット掲示板で、悩みを吐き出すように「生きる意味がわからない。」と書き込む。その書き込みに返信をくれたのが、凛音という名前の少女だった。


凛音は同じ年齢で、翔太とは違う地方に住んでいるという。彼女の言葉はどこか温かく、翔太にとっては救いのような存在だった。二人は掲示板を通じて会話を重ねるようになり、次第に個人的な連絡先を交換し、夜な夜なメッセージを送り合うようになる。


凛音は明るく前向きな性格でありながらも、どこか影を抱えていた。翔太は彼女の悩みに耳を傾け、同時に自分の不安や孤独も少しずつ打ち明けていった。互いに励まし合ううちに、翔太の中に初めて「誰かを好きになる」という感情が芽生えた。


ある日、凛音が言った。

「翔太くんと話すと、心が軽くなるんだよね。」


その言葉に翔太は胸をときめかせ、自分の気持ちを抑えきれなくなっていく。凛音と出会ったことで、翔太の生活には少しずつ色が戻り始めていた。彼女と交わす何気ない会話が、翔太にとっての生きる支えになっていた。


高校卒業が近づいたある日、翔太は凛音に思い切って「直接会いたい」と伝える。凛音は少し戸惑いながらも、「会って話したい」と答えた。そして、二人は初めて直接会う日を迎える。


その日、翔太は緊張しながらも、凛音に「好きだ」と告白した。凛音は驚きながらも涙を浮かべて微笑み、「私も翔太くんのことが好き」と答えた。その瞬間、翔太の世界は一変した。初めて手にした「幸せ」という感情が、彼を満たしたのだ。


二人は遠距離ながらも恋人としての関係を築いていくことになる。しかし、それは新たな試練の始まりだった――。

【夜明け前の孤独】

高校3年生の冬、雪が舞い降りる街角で、僕はいつもと同じように一人だった。名前を呼ぶ声もなく、手を差し伸べてくれる人もいない。両親は共働きで、家に帰っても温もりというものは感じられなかった。学校ではクラスメートと当たり障りのない会話を交わす程度で、深く心を許せる友人は誰もいなかった。


ただ生きるために生きる日々。それが僕、成瀬翔太のすべてだった。


そんな僕が変わるきっかけは、ある夜、インターネットの掲示板に投稿した何気ない書き込みだった。



【偶然の出会い】

「最近、生きる意味がわからない。」

そんな言葉を、ある深夜のチャット掲示板に書き込んだ。誰かに届いてほしいと思う反面、届かなくてもいいとも思っていた。画面越しに何かを求めるなんて、どれほど虚しいことか。


それから数分後、一つの返信があった。


「私も似たようなことを考えることがある。でも、それって当たり前のことじゃない?でも、どんなに辛いときでも、空を見上げたら少しだけ楽になるよ。」


送り主の名前は「凛音」。それはきっかけに過ぎなかった。そこから二人は少しずつ言葉を交わすようになり、毎晩のようにチャットを続けた。彼女は僕と同い年で、僕とは違う地方に住んでいると言った。


「翔太くんって、真面目な人なんだね。」

「そうかな。ただ、生きるのが下手なだけだよ。」


凛音との会話は不思議な感覚だった。誰にも話したことのない胸の奥の思いを、自然に吐き出せた。



【恋心の芽生え】

数ヶ月が過ぎ、僕は凛音に夢中になっていた。画面越しでしか知らない彼女の言葉や考え方、そして何よりもその優しさに惹かれていた。


「もし会えるとしたら、どんなふうに話す?」

ある夜、凛音がそう聞いてきた。

「そんなの、ちゃんと感謝を伝えるよ。君のおかげで少しだけ自分を好きになれたって。」

「…そんなこと言われたら、私のほうが照れちゃう。」


彼女に会いたい。直接声を聞きたい。そんな思いが日に日に募っていく。そして高校を卒業してから、僕は思い切って彼女に告白することを決めた。



【遠距離の試練】

告白は成功した。凛音は笑って「嬉しい」と言ってくれた。しかし、幸せの中にも遠距離恋愛の難しさがあった。会いたいと思っても簡単に会えない。彼女のことを知りたくても、見えない部分が多い。


「最近、何してるの?」と聞くたびに、少しずつ不安が募った。彼女が学校で他の誰かと笑い合っているのではないか、僕がいなくても平気なのではないか。そんな疑念が僕を蝕んでいった。


「翔太くん、私たち、もう続けるの難しいかも…」

凛音からの突然の言葉に、僕は何も言い返せなかった。



【再び闇の中へ】

彼女と別れた後、僕はまた以前のように孤独の中に戻った。しかし、今度はそれ以上に深い闇だった。毎日が空虚で、何をしても心が満たされることはなかった。


けれど、その痛みの中で、僕は少しずつ気づいていく。凛音に救われたように、今度は自分が誰かを救える存在になれるのではないかと。



【彼女の新しい恋】

別れから数ヶ月が過ぎても、凛音のことを忘れることはできなかった。彼女と過ごした夜の会話、笑い声、そして最後の涙。それらがすべて、僕の心の中で消えることはなかった。


ある日、共通の知人を通じて聞いた噂が僕を壊した。

「凛音、最近新しい彼氏ができたらしいよ。」


その言葉が耳に入った瞬間、全身から力が抜けるのを感じた。頭が真っ白になり、どうしていいかわからなくなった。彼女は新しい幸せを見つけた。でも僕は、あの場所に一人取り残されていた。



【深まる闇】

それからの日々は、さらに酷いものになった。学校に行く気力はなく、部屋に引きこもる時間が増えた。何をしても、どこにいても、凛音と彼女の新しい彼氏のことが頭を離れなかった。


「どうして僕じゃダメだったんだろう?」

自分を責め続ける日々が続いた。凛音に新しい彼氏がいるという事実は、僕の存在そのものを否定されたように感じられた。


食事を取ることさえ億劫になり、体はどんどん痩せ細っていった。夜になると、過去の思い出が鮮明に蘇る。楽しかったはずの記憶が、今では刃のように僕を傷つけるだけだった。



【偶然の再会】

ある日のことだった。街中をぼんやり歩いていると、遠くから凛音の姿が見えた。隣には、噂の彼氏がいた。二人は笑顔で話しながら歩いていた。彼女がこんなに幸せそうに笑っているのを見るのは初めてだった。


彼女の幸せそうな笑顔に、僕は胸が締め付けられた。どうしてこんなにも違うのだろう。彼女は僕と別れた後、前を向いて進んでいる。一方で、僕は過去に囚われている。


思わず後を追いかけたい衝動に駆られたが、足は動かなかった。代わりに、その場に立ち尽くし、涙がこぼれるのを抑えることができなかった。



【孤独の果てに】

それから数週間、僕の状態はさらに悪化した。誰とも話さず、ただベッドに横たわり続ける日々。頭の中では、凛音と新しい彼氏の姿がぐるぐると回り続けていた。


「もう、これ以上は無理だ。」

そう思った僕は、一つの決断を下した。全てを終わらせようと。


夜中、僕は公園のベンチに座り、空を見上げていた。何もかもを手放してしまおうという気持ちと、それでもどこかで助けを求めている気持ちが交錯していた。


そのとき、不意にスマートフォンが震えた。



【メッセージ】

画面には、久しぶりに凛音の名前が表示されていた。

「翔太くん、最近どうしてる?」

突然のメッセージに驚きながらも、僕は震える手で返信を打った。

「…別に。普通だよ。」


すると、すぐに返事が来た。

「そうなんだ。心配で連絡しちゃった。」


どうして今さら連絡してくるんだろう。その問いが頭を巡りながらも、僕は彼女との会話を止められなかった。


凛音は、自分が別れを告げたことをずっと後悔していると打ち明けた。けれど、新しい彼氏と過ごしているうちに、「自分にとって本当に大切な人は誰なのか」を考えたのだと言う。



【嘘の微笑み】

凛音からの連絡が増える中、僕は彼女と再び話す機会を作るようになった。しかし、そのたびに胸の中で苦しみが広がっていく。彼女が語る新しい恋人との話――楽しい日常、些細なケンカ、そしてお互いを想い合う言葉――それを聞くたび、僕は心を抉られるような痛みを感じていた。


でも、その痛みを隠す術だけは覚えていた。

「そうなんだ、いい彼氏だね。」

「凛音が幸せそうで良かったよ。」

自分がどれほど彼女を想っているか、そしてどれほど壊れているか、彼女には絶対に悟られたくなかった。


凛音は時折、「翔太くん、最近元気ないんじゃない?」と心配そうに言ってくることもあった。だが、そのたびに僕は笑って「そんなことないよ」と答えた。それが嘘だとバレないように。



【決意の夜】

ある夜、凛音からこんなメッセージが届いた。

「翔太くん、本当にありがとう。いつも話を聞いてくれて、すごく助かってる。翔太くんは、私にとって大切な友達だよ。」


その言葉を見た瞬間、僕はすべてを諦める決意をした。

「友達」――それが僕の位置だった。どれだけ彼女を想っていても、もう僕が彼女の隣に立つことは許されないのだと理解した。


その夜、僕は空を見上げて静かに誓った。

「これでいい。凛音が幸せなら、それでいいんだ。」


僕は彼女を諦めることを選んだ。そして、誰にも助けを求めず、これからは一人で生きていくと決めた。



【一人の世界】

それから僕は、少しずつ凛音との距離を置き始めた。返信を遅らせるようになり、彼女からの誘いを断ることも増えた。そしてある日、彼女からの「最近、どうしたの?」という問いに対して、僕はこう返した。

「少し忙しくてね。でも大丈夫だよ。君は気にしないで、彼氏と幸せにね。」


凛音はしばらく返事をしなかったが、最後に「わかった。またいつでも話そうね」とだけ送ってきた。その瞬間、僕の中で彼女との関係が完全に終わったのを感じた。



【孤独という選択】

一人になるというのは、思っていた以上に辛いものだった。誰にも頼らず、誰にも迷惑をかけず、ただ生きること。それが僕の選んだ道だった。


毎日を無理やり埋めるようにアルバイトや勉強に打ち込んだ。何かに集中しているときだけ、凛音のことを忘れられる気がしたからだ。


でも夜になると、あの頃の記憶がどうしても蘇る。彼女と話した日々、笑い合った時間、そして手の届かない場所へ行ってしまった彼女の背中。それらが心の中をかき乱した。


それでも僕は、誰にも頼らないと決めた。誰かに救われるのではなく、自分でこの痛みを抱えたまま進む。それが僕にとって唯一の「生き方」だった。



【それでも、生きる】

季節が巡り、僕は新しい環境に身を置くことになった。大学に進学し、少しずつ生活のリズムが変わっていく中で、凛音のことを思い出す時間も減っていった。完全に忘れたわけではない。ただ、それを抱えたまま前に進む力を身につけたのだ。


ある日の帰り道、ふと見上げた空には満天の星が輝いていた。その瞬間、凛音の言葉が頭に浮かんだ。

「どんなに辛いときでも、空を見上げたら少しだけ楽になるよ。」


僕は小さく笑いながら呟いた。

「そうだね、凛音。僕は大丈夫だよ。」


その言葉が風に消えていく頃、僕はまた一歩、前に進むことを決めた。

ここまで読んでくれてありがとうございます

今回は僕が実際に経験したことをもとに書いてみました

この物語を読んで共感してくれる人が1人でもいるのなら僕は嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ