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第二十一話 迫る土人形

「くそったれが!」

 向かってきたクレイドールをボルシチは、手に持つハンマーで叩き潰した。だが、砕け散った破片から手足が生え、複数体に分裂する。ピロシキとペリメニも必死で撃退しているが、数が増えていくばかりで、状況は悪化する一方だった。

「ちくしょう! これじゃキリがねぇ! 一体どうすりゃいいんだ?」

「兄貴! バッツが言っていた通り、こいつらを操っているリーゲルを狙うでヤンス! なぁピロシキ?」

「へい!」

 ボルシチたちは、クレイドールに囲まれ指揮を執っているリーゲルに向かって、一斉に飛び掛った。

「最初からてめぇは気に入らなかったんだ! 毎度毎度、クソ詰まらない話を延々としやがって! 俺様の、この『ビッグハンマー・グレート・スペシャル』で、そのうるさい口を今すぐ塞いでやらぁ!」

「フン。私の演奏の邪魔をするとは、無粋な連中ですねぇ」

 リーゲルは落ち着き払った様子で指揮棒を構えると、あざやかに振った。すると、彼を取り囲んでいたクレイドールが合体し、巨大な土人形となって目の前に立ちはだかった。

「な、なんだと?」

 巨大な土人形は、その大きな手で攻撃を跳ね返すと、そのままボルシチたちをガッシリと掴んだ。

「先程、私は楽に殺して差し上げると言いましたが、気が変わりました。あなた方は惨たらしく、このクレイゴーレムで握り潰してさしあげます」

 ボルシチたちを掴む、クレイゴーレムの手に力が込められる。

「うぎゃあああああっ!」

 ボルシチたちの叫び声が部屋中に響き渡る。

 その声を聞いたリーゲルは、歓喜の表情を浮かべた。

 とその時、ボルシチたちを掴むクレイゴーレムの手が突然砕け散った。

「おや、あなたですか」

「今のうちに逃げて!」

 魔砲具を構えたトライが叫んだ。

 身動きが取れるようになったボルシチたちは、慌ててその場から逃げ出す。

 砕け散った破片は、また無数のクレイドールへと変化した。

「本当、やっかいな敵ね。バッツ! またさっきみたいに、一気にやっつけちゃってよ!」

「わかっとるって!」

 トライに言われるより早く、バッツはバンッと地面に手を当てた。

 だが、その手が突如凍りついた。

「な、なんや?」

「申し訳ございませんが、あなたは少し厄介ですので、ご退場願えますか」

 先端から冷気が立ちのぼるレイピアを構え、コルダが呟く。

「でかしましたよ、コルダ! さぁ、残りはザコです! 一気に掃討してしまいなさい!」

「ザコだなんて、ひどい言われようだな」

 突然、リーゲルの背後からスクエアの声が聞こえた。

「ひっ?」

 驚いたリーゲルは、転がりながらその場から離れる。だが、見上げた先にはスクエアの見下ろす姿があった。

「ひゃっ?」

 スクエアは、スッと音も無くリーゲルに剣を向けた。

「大人しく降参してくれないかなリーゲル。僕は手荒な真似は嫌いなんだ」

「コ、コルダ! 何をしているのです、私を助けなさい!」

 無言で頷いたコルダは、スクエアに向かってレイピアを振りかざした。

 その先端から無数の氷の散弾が飛び出し、一斉にスクエアに注がれる。だが、スクエアは素早く翻ると、その攻撃をかわし距離を取った。

 その隙に、慌ててその場から逃げ出したリーゲルは、近くにいたダイアを発見しニヤリと不敵な笑みを浮かべた。そして、逃げようとしたダイアを素早く捕まえ羽交い絞めにすると、懐から取り出したナイフを彼女の首筋に突きつけた。

「な、何するのです! 離しなさい、この無礼者!」

「そこまでですよ、王子! ダイア王女の命が欲しければ、その剣を手放すのです!」

 ガタガタと手を震わせながら、リーゲルは言った。

「駄目です、お兄様! このような者の言うことなど、聞いてはいけませんわ!」

 だがスクエアは、すぐに手に持つ魔封剣をポイと投げ捨てた。

「お兄様……」

「フフフ、よろしい。では、まず一つ目の任務をこなすとしますか。コルダ!」

 そうリーゲルが叫ぶと、コルダがスクエアに近寄り、首からぶら下げているペンダントを引きちぎった。そして、そのままスタスタとダイアに近寄ると、彼女のペンダントもむしりとった。

「そして、二つ目……」

 そう言うと、リーゲルは指揮棒を振った。すると、場に居たクレイドールが合体し再び巨大なクレイゴーレムとなった。

 クレイゴーレムは、その巨大な足で魔宝陣を取り囲んでいる結界魔宝具を踏み砕いた。

「アーッハッハッハ! これで任務完了です。後は、あなた方を皆殺しにすれば、この国は私の物だ!」

 高笑いをしながら、リーゲルはスクエアに向かって指揮棒を向けた。

 クレイゴーレムがスクエアに向き直り、穴が空いただけの窪んだ目でジッと見つめる。

「こ、この!」

 トライは、魔砲具を構えるとクレイゴーレムに向けた。

 だが、スクエアは手をあげると、それを制した。

「すまないが、トライさん。悪いけど手を出さないでくれるかい?」

「ス、スクエア様……」

 ダイアの身を案じたその行動に、リーゲルはニィと口元を歪ませた。

「フフフ、いい心がけですね王子。ですがその態度、いつまで保てますかね。さぁ、クレイゴーレム。その男を叩きのめしてしまいなさい!」

 命令されるがままに、クレイゴーレムは、その巨大な拳をスクエアに向かって思いっきり振りぬいた。

 吹き飛ばされたスクエアは、勢い良く壁に叩きつけられ、口から鮮血を撒き散らす。自ら吐いた血の池に倒れ、彼の白銀の鎧が真っ赤に染まった。

「いやあああ! お兄様ああああああ!」

「アーッハッハッハ! 気分がいいですねぇ。どうです、スクエア様? あなたのように、生まれながらにして全てを与えられている人間は、このような屈辱など味わったことが無いでしょう? それに比べ、私の人生は、劣等感と屈辱に塗れていました。生まれが違うと言うだけで、何故私がこんな思いをしなくてはならないのか! わかりますか? これは革命なんですよ。あなた方みたいな無能な王家を皆殺しにし、この私がこの国の新しい王となることは、天の意思なんですよ!」

「何が革命やねん。このコソ泥が」

 リーゲルの言葉に、手を地面に凍りつかせたままのバッツが呟いた。

「さっきから黙って聞いてりゃ、勝手なことばかりほざきおってからに。生まれが違うからなんや? お前の言ってることは単なるヤッカミやないか。生まれや育ちが違っても、一生懸命生きればええやんか。見てみぃ、ここにいる連中を。みんな、生まれも育ちも違うけど、一生懸命自分の使命に立ち向かって頑張っとる。スクエアのあんちゃんかて、自分の妹のために体張って耐えとる。お前みたいに、他人を僻んで歪んだ考え方などしとる奴なんて、一人もおらんわ」

「バッツ……」

 バッツの言葉に感動したトライは、潤んだ瞳でバッツを見つめた。

「フン、今更何を言っても負け犬の遠吠えですよ。私は手に入れるのです、巨万の富と栄誉を! クレイゴーレム! その男にトドメを指しなさい!」

 そう言ってリーゲルは、倒れるスクエアにトドメをさすべく、指揮棒を振り下ろそうとした。が、その腕にダイアが思いっきり噛み付いた。

「うぎゃあああああ!」

 思わず指揮棒を手放したリーゲルは、怒りに打ち震えながらダイアを殴り飛ばした。

 勢い良くふっとんだダイアは、ゴロゴロと床を転がり倒れる。だが、頬を腫らしながら泥だらけの格好で起き上がった彼女は、リーゲルに向かって不敵な笑みを見せた。

「ふん、悔しいですけどバッツの言うとおりですわ! あなたみたいな小悪党に、思い通りになんてさせません! お兄様も、この国も私が守ってみせます!」

「おのれ、小娘が!」

 リーゲルは地面に落とした指揮棒を拾い上げると、ダイアに向かって振りかざした。だが、何も起こらない。リーゲルは「?」を浮かべ自分の杖を見た。

「な、なんですか、この猫は?」

 良く見ると、それは杖では無く、杖を咥えたペケの尻尾だった。

「何するニャ!」

 ペケはリーゲルの顔面を鋭い爪で引っかいた。

「ぎゃあ!」

 顔を押さえながら、リーゲルはその場に倒れこむ。

 その隙に、ペケは杖を咥えたままバッツの元へと駆け戻ってきた。

「良くやったでペケ」

「こんなの朝飯前ニャ」

 ペケは、バッツに杖を渡すとリュックサックの上に飛び乗った。

「リーゲル。僕はね、キミのことを馬鹿にしたことも無いし、自分が優れている人間だなんて思ったことも無いよ」

「お、お兄様!」

 剣を杖代わりに、立ち上がろうとするスクエアに、ダイアは駆け寄ると肩を貸した。

「現に僕は、お前を守ると誓ったはずなのに、また危険な目に合わせてしまった。僕は駄目な兄さ……」

 ダイアは瞳に涙をため、首を振った。

「そんなことないわ、お兄様はいつも私を守ってくれていました。この傷だって、私を守るために受けたもの……。自分を責めるような言い方はやめて……」

 ダイアは泣きながらスクエアにしがみついた。

 スクエアは、優しくダイアの頭を撫でると、目の前に突っ立っているクレイゴーレムに向かってスッと剣を振り下ろした。すると、クレイゴーレムに一筋の線が入り、次の瞬間それは真っ二つに割れ、音も無く崩れ落ちた。

「さてと、形勢逆転やな」

 バッツは自分の手を固定する氷を叩き割ると、スクッと立ち上がり、リーゲルに向かって指揮棒を突きつけた。

「わ、私の魔宝具を返せ!」

「魔宝具? おっちゃん、それ本気で言うとるのか?」

 バッツは、怪訝な表情で指揮棒を見つめた。

「これは、魔宝具やない、魔導具や。魔宝具にやられた地底人が、復讐のために作り出した魔宝具のまがいもんや。どうやらコモン魔導具のようやけど、魔導具は遥か昔に地底人と共に地底界に封印されたハズや。それが何故こんな所にあるんや?」

 キッとリーゲルを睨みつけるバッツ。その妙な迫力に、思わずリーゲルは後ずさった。

「おい、おっちゃん。これ、誰から受け取ったんや。あの方って一体、誰やねん」

「だ、だれが教えるものか!」

「さよか。なら、その体に聞くしかあらへんなぁ」

 そう言ってニヤリと笑ったバッツは、おもむろにその杖を振りかざした。

 すると、リーゲルの目の前の土が突然盛り上がリ始め、瞬く間に巨大な怪物を形成した。

「な、な、な……」

 目の前に現れた怪物に、リーゲルは腰が抜けたようにその場にしりもちをつく。それは、土で出来た巨大なドラゴンだった。

「どや、ワイの芸術作品クレイドラゴンは。格好ええやろ?」

「ひいいっ! コ、コルダ! コルダはどこです! 私を守りなさい! コルダアアッ!」

 だがコルダは、何も答えない。ただ黙って微動だにせず、リーゲルを見つめている。

 何度呼んでも反応の無いコルダに、呼ぶのを諦めたリーゲルは、あたふたとゴキブリのように地面をはいずりながらその場から逃げようとした。だが、腰が抜けているためか、思うように動けない。

 そんな情けない姿のリーゲルを見ながら、バッツは意地悪そうにニヤリと笑うと、指揮棒を振り下ろした。

 その合図を受け、クレイドラゴンは胸を大きく膨らまし口から巨大な泥の塊を吐き出した。巨大なその泥の玉は、放物線を描いてリーゲルへと向かっていく。

「うぎゃあああああっ!」

 モロに泥爆撃を受けたリーゲルは、泥ごときりもみ回転しながら吹き飛んでいく。そして、その勢いのまま壁に頭からめり込んだ。

「ちなみに、この魔導具の正式名称は『泥んこ棒』。略して『泥棒』や。小ざかしい手で国を掠め取ろうとしたおっちゃんには、ぴったりの道具かもしれへんな。って、聞こえてへんか」

 そう言いながら、バッツはクルクルと指揮棒をバトンのように回転させ、リュックの中にしまいこんだ。

「く、くそっ……こんなハズでは……」

 クレイドラゴンの攻撃を受け、傷つき横たわるリーゲル。

 スクエアはゆっくりと歩み寄り、彼の首筋に剣を構えた。

「さて、リーゲル。話してもらおうか、キミを操る黒幕の正体を」

「そ、それは……」

 その時、突然の風の刃がスクエアを襲った。

 スクエアは、その攻撃を素早く魔封剣で迎撃すると、後方へ飛びずさる。

「アハハッ! さすがにこんな攻撃はキミには通用しないか」

 暗闇から現れたその声の主は、横たわるリーゲルの前に立ちはだかる。

 リーゲルは、恐る恐る顔を見上げた。

「ク、クライム殿……」

 灰色の髪、灰色の瞳、灰色のローブ。

 そこにいたのは、灰色の魔宝使いクライムだった。

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